これが筋肉魔法だ!
これまでのあらすじ
本人は自分が聖属性に強いことに気づいていない模様。
なお、ここからは頭の悪い文章になります、ご注意ください。
「【燃ゆる筋肉】! 【凍える筋肉】!!【放電する筋肉】!!!」
「熱ぅっ」
肉と肉がぶつかり合う音と、それらが焦げる匂いが部屋に充満する。
無数のスケルトンに襲撃されている、領主館の大広間。無機質な骨の相貌と、それらに抑えられた使用人たちが見守る輪の中心で、二人の巨漢が拳を交えていた。
この決闘の挑戦者は、クーデターの主犯格である男爵家のインテリ(?)筋肉長男:アーノルド・エデル・ローベン。
受けた経つのは、この地を治める肉体派 (?)領主:バルディアス・バルガ・フォン・アイゼンヴァルト辺境伯。
拮抗してるかのように見えるこの闘いだが、苦痛に顔を歪めているのはバルディアスの方だった。
というのも、アーノルドが打ち出す拳には炎や氷・電気など、さまざまな属性の魔力が付与されている。時に肌を焼き、凍てつかせ、痺れさせるその攻撃は、打撃だけではない痛み与えつつ彼に襲いかかっていた。
「【吹き荒ぶ筋肉】ゥ!!!!」
「武ぅううううん!!!」
風を纏い殴りつける拳に、バルディアスはうめき声をあげ円の際まで吹き飛ばされた。その様子を見てアーノルドは満足そうに鼻を鳴らす。
「見たか! 選ばれし者だけに与えられた、火・水・風・土・雷・氷、六つの属性の魔力!! 魔法が苦手な私だが、成人前に筋肉から魔力がほとばしるという特異体質を得たのだ! 以降、鍛えれば鍛えるほどこの力は強化されていく!! 正に私のためにある魔法だ!!!」
「よく喋るな、先ほどまでの貼り付けたような坊ちゃん喋りはどうした」
「ほざくな! 既に優劣は決している、私の筋肉の方が優れているのが_____」
「疾!!!」
「ぐっ!??」
脱力して膝を崩し、そこから生じた自重による位置エネルギーと自身の加速を合わせることで、溜めなしのトップスピードを得ることが出来る。
気づけば瞬時に間合いを詰められ、バルディアスの肘が油断したアーノルドの腹部にめり込む。突進力を活かした速く重く鋭い一撃に、青年は2、3歩後ずさりうずくまった。
「・・・・・貴様、筋肉を使うくせに『技』を」
「墳っ、使い方を極めてこその筋肉よ」
「黙れ! 技など筋肉を忘れた弱き者の戦い方だ! 臆したか老害!! 【撃ち放つ筋肉】!!!」
土属性の魔力により右腕を覆った岩石が、腕を振るモーションとともに弾けて飛んでいく。しかし、バルディアスは涼しい顔のリラックスポーズで飛礫を受け止める。
「愚かだな、筋肉より脆い岩など投げつけてどうする。属性に頼るから本質を見失うのだ」
「扱える属性の数は、そのまま魔術の才に直結する! 常識であろう!!」
「その常識に縛られるから、十全に扱えぬ。己の特性を見直してみよ」
そういうとバルディアスの体から、暴力的な魔力の渦が巻き起こる。不可視なはずのそれは周囲の空間を歪ませ、アーノルドの動きを一瞬だけ硬直させた。
「元々アイゼンヴァルトの血筋は保有魔力が多いが、魔法の扱いが不得手だ。繊細な魔力操作が出来ず、効率の悪い身体強化で持て余す。過去には貴様のように属性魔力を筋肉に近い形で扱い、イメージを補填する者も輩出していたがな」
「何が言いたい!」
「まだ若いから知らんのだろう? 我がなぜ冒険者時代に、『筋肉魔導士』の二つ名で呼ばれたのか」
冒険者としてAランクにまで上り詰めその上で得た二つ名は、世間が彼を“魔導士”であると認めた証であった。
リラックスポーズから後ろを向きラットスプレッド。「我こそが追うべき背中だ」と言わんばかりに広がる広背筋に、アーノルドは思わず息を飲む。まるで翼が生えているようだ、と。
「・・・・・あれ? 物理的に羽が生えてる?」
「否、これは羽ではない」
バルディアスの肩甲骨から伸びる半透明な魔力の塊は、やがての全身を覆い尽くし、光とともに人型の体を作り上げる。その背丈は5m超、発動者の2.5倍である。
「筋肉の、巨人だとぉ!? そんな非常識な!!」
「覚えておけ若僧! 魔力とはもう一つの筋肉なりぃ!!!!」
バルディアスのイメージする魔力が具現化し、物理的な力場の“腹筋”を展開する。その造形はまさに『肉のシャッター』。実に写実的であり、「この形以外のものは作れない」と筋肉で語っているかのようだ。一流の彫刻家も唸る逸品かもしれない。
あと、魔力は魔力です。筋肉ではありません。
「おのれこの程度っ! 究極奥義【虹色の筋肉】ゥウ!!!!」
全ての属性の魔力を自分の分身に変え突進させる、アーノルドの渾身の固有魔法。六人六色のアーノルドたちが、その肉体でもって相手を討ち滅ぼさんと迫ってくる。お前も十分非常識だよ。
しかし、白く巨大なバルディアスが軽く手を振っただけで、アーノルドの分身たちは吹き飛ばされ霧散していく。
「馬鹿な、こんな事が」
「そして筋肉とは、愛の形。己を愛し、家族を愛し、領民を愛し、それら全てを守るために鍛え上げた至高の筋肉。
貴様の筋肉には『孤独』しかない」
「っ!! 黙れ黙れ黙れぇええええええっ!!!! 」
何かの琴線に触れたのか、図星を突かれたかのか。アーノルドは明らかに動揺し怯んでいた。
そんな臆病風を振り払うように叫ぶ様は、駄々をこねて泣き喚く幼い少年のようにも見えた。
「私のために使って何が悪い! 欲しいもののために使って何が悪い!!
私の心の楔、“マリィ”を手に入れるために鍛えて、何が悪いのだ!!!!」
「アーノルド、まさか貴様……」
「_____そう、全てはそのためだ。私にも『守りたかったもの』は存在する」
全てを話してはいないが、それ以上は必要なかった。アーノルドは荒ぶる熱を呼気と共に吐き出し、徐々に冷静さを取り戻していく。
既に不遜な態度は一切ない。傲慢さも、建前も、己の動きを鈍らせるだけだ。
己の核心を吐露した青年は意識を研ぎ澄まし、挑戦者としての強みを遺憾無く発揮しようとしていた。
無意味にのけぞらない。決して見下さず、上目で相手を睨みつけ、引き絞るように右の拳を構える。
「アーノルド・エデル・ローベン_____ 押し通る」
「バルディアス・バルガ・フォン・アイゼンヴァルト。迎え撃とう」
再びの名乗りと仕切り直し。
互いの最後の一撃のために、燃ゆる青年の腕と光の巨人が、輝きを増していく。
決着の時は近い。
・リラックスポーズ
自然体の筋肉の仕上がりを見せるポージング。
実際は脱力など一切なく、佇まいだけで肉体を大きく見せるのが目的となっている。




