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襲撃・対等・危機・筋肉

前回までのあらすじ


クソをドブで煮詰めた性格だと、自ら思い知らされた主人公。頑張れネガティブ! 負けるなネガティブ!


 バルディアス・バルガ・フォン・アイゼンヴァルト辺境伯は、まず失踪した使用人マリィの捜索と、領内外および国境沿いの警備兵への伝令として、邸内の僅かな兵士のうち十数名を送り出した。彼の体重を支えられる(スタボロス)が不在なので、他の兵士達とは出遅れる形になってしまうようだ。


 ただし、今回に至ってはその遅れが幸いした。



「なに!? 襲撃だと!!??」



 いざ出陣とばかりに全身甲冑(フルプレート)に身を包んだが、()()()()()()()という異常事態に領主は困惑を隠せない。執事クリストフからの報告に思わず大声で聞き返したが、普段優秀であるはずの彼ですらなぜか苦々しい顔をして俯いている。



「何をしておるか! 使用人や娘たちの安全を確保せねば! そもそもどこのどいつがどうやって屋敷に侵入した!!」


「相手が魔物であったり魔法などの痕跡があれば、設置された魔道具で即座に感知されるはずです。しかし……」


「しかし、なんだ? お主ともあろうものがすぐに動けず、こうして我の目の前におることにも関係があるのか?」



 鍛え上げられた肉体派執事であり、特に早駆けと蹴り足に定評のあるクリストフ。すぐにでも使用人や令嬢の救出に駆けつける事だって出来たはずだ。

 それが出来ない理由。すなわち、事態の解決が困難である事は、彼の口から伝えられる事になる。




「現在、刃物を手にしたスケルトンの群れが屋敷の全てを埋め尽くしています。地から湧いたかと思えば略奪・攻撃・蹂躙も一切なく、ただ並んで立ち尽くし屋敷を占拠。

 旦那様、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

















「 ……私としたこと、が」


「先生! ルシル先生っ!!!」


「待ってルイねーちゃん!」



 ルシルが背後から何者かに斬りつけられ、鮮血がほとばしる。

 自身の主治医が倒れるのを見て、ルイは身を起こし駆け寄ろうとするも、すぐにバランスを崩してしまう。

 守るべき少女がベッドから落ちそうになるところを、フニランは咄嗟に空いてる手で支える。


 そのままゆっくりとルイを床に下ろして、フニランは斬りつけてきた相手の前に立ちふさがった。


 白磁色のボディを光らせ、カタカタと頭を揺らす襲撃者。

 それはひと目で“人体骨格”の形をしているのがわかった。


 大ぶりのナイフを手にこちらを見つめる敵。その虚ろな目や(たたず)まいに「意思」と言ったものはおおよそ感じられない。むしろ明確な殺意なき凶刃であった事が、ルシルの反応の遅れに繋がったのだろう。


 すなわち、目の前のスケルトンらしき何かはただの傀儡(かいらい)。裏で糸を引いているのは________







「大人しく投降していただけませんかねぇ? ケロック・クロムハーツとそれを支援するアイゼンヴァルト辺境伯家ゆかりの者は、我々教会が『神敵』と見なし既に包囲しています。逃げ場などありませんよ」


「・・・・・ウェルムート神官長」



 青を基調とした高位の神官服を身に纏う、その裾をズルズルと引きずるほど背の低い小太りの男。部屋の扉をゆっくりと、それでいて大仰に開け放ち、白いスケルトンの集団を率いて悠然と歩み寄ってくる。


 三神教太陽信仰教会、東第二神殿神官長・ウェルムート。

 彼を先頭にした一団は10歩ほど手前で立ち止まり、太陽を象徴する黄金の杖で2回床を叩いた後、その上に両手を置き話しかけてくる。



「さて、ルイジアナ嬢。交渉をしましょう」


「交渉、ですか。この状況で……」


「ええ交渉です。今回は神罰だけでなく、貴女の救出も任務の内に入っておりますゆえ。貴女が従ってくれさえすれば、屋敷にいる者たちの身の安全を保障しましょう。そこの下賤なゾンビ以外は、ね」


「下賤なゾンビとは何のことでしょう? そう言う貴方の方こそ、禁忌である死霊術まで使って屋敷を襲撃だなんて、聖職者の風上にも置けないのでは?」



 ルイは気丈に振る舞おうと声を絞り出すが、目の前の男が怖くてたまらない。

 仮にも神職に就く者が、明らかにスケルトンに見える集団を引き連れている。そんななりふり構わない愚行を不敵な笑みで犯してくる存在が、今の無力なルイには恐ろしく見える。


 しかし、そんな彼女の指摘を遮ったのは、傷ついて倒れたルシルだった。



「待て、ルイ。それは、違う」


「ルシル先生! あまり喋らない方が」


「死霊術は闇属性……その魔力を持つ者は、そもそも神官には、なれない……うっ」


「ほほう、それで?」



 ルシルは背中を浅く斬られただけのようだが、呼吸をする度に傷に響いているようで、身を起こす事も出来ない。

 その様子が愉快で仕方がないのか、ウェルムートはニヤニヤと彼女を見下ろし続きを促す。



「っはぁ、最初のスケルトンは、この男が入るっ前に、私を襲撃した。魔力反応も無く、背後に突然現れたんだ。

 床の大理石が、一部抉れている。考えられるとしたら、死霊術や召喚術ではなく、【人形生成(ゴーレムクリエイト)】。それも、魔法ではなく、“加護(スキル)”。いずれにせよ、人間業じゃない・・・・・」


「素晴らしい、伊達に長生きはしてないようですねぇ。『時の囚人』チェルーシル・リシル殿?」


「ったく……禁忌とまでは、言わない、が、()()()()()()()()()()、はぁ、飛んだ破戒僧だな」


「やれやれ、全てお見通しですか。魔王とはいえ、我らが神の兄弟が生んだ眷属ですからねぇ。『神敵滅殺』の意志を伝えたら快諾してくれましたよ」


「それをさっき、伝えたにしちゃ、早すぎる、な。多分、元々この辺境伯家を、『神敵』と偽って襲うつもりで、準備してた……」


「良〜いじゃないですかぁ。結果的にこうして本物の『神敵』を、(にっく)き不浄の存在を滅せるのですからぁ。


 さーて、時間稼ぎは終わりにしませんか?」



 こうして話している間にもウェルムートの目には、対象(ケロック)の背に展開される魔方陣は更に複雑さを増しているのがわかる。

 ルシルも上手く魔力を隠蔽しているが、何かしらの魔法で形成逆転を狙っていることも、経験則からくる読心術で読めている。


 ウェルムートは腐っても神官長。若い頃から魔法の発動速度に定評があり、特に聖属性の簡単な防御魔法なら無詠唱で繰り出せるほどだ。

 それに比べ自分より遥かに経験豊富な、目の前の魔術師はどうだろうか。奇襲に成功し、その激痛で精神的にも安定しない状態。無詠唱で魔力の隠蔽までしようものなら、どんな魔法や魔術であろうとも大した威力にはならないはずだ。



(全く問題ない。いかに老獪な魔術師とて、魔力量に大きな差がなければ、私の防御魔法を貫くなどあり得ん。

 いや、魔力操作に長けたこの女なら可能だっただろうが、ルイジアナ嬢の治療で疲弊し、背中の傷のせいで呼吸も整えられない。これだけハンデがあって負けるわけがない!)



 そもそもウェルムートにとってルシルは、目の上のコブだったのだ。

 神代から存在するとされる長命種エルフーン族の末裔。教会から勝手に神具を物色するなど、神をも恐れぬ暴挙を繰り返す亜人でありながら、出自だけで王侯貴族からも一目置かれる老害。

 教会にとってその存在は到底許されるものではない、少なくとも彼はそう感じていた。


 浅い呼吸を繰り返すルシルが、ゆっくりと手を上げる。その手に杖はなく、魔力反応も無いが、何かをしようとしているのは明白だ。

 だからといって焦ってはいけない。先に防御を展開してしまっては、あの老獪で狡猾な魔術師に即座に対応されてしまう。ここは先に撃たせるのが定石だ。

 自分は優位なのだ。長年誅するべきだった相手が、足元に這いつくばっているのだ。この機を決して逃してはならない。完膚なきまで叩きのめさねば。


 魔術戦の駆け引きにおいて、相手のプライドをへし折るのは確かに有効である。

 しかし、ウェルムートは気づいていない。油断しないと自らに言い聞かせてはいるが、『負けを認めさせる』という目的のリソースが、自身の劣等感に偏っていることを。



 そしてついに、ルシルの手が振り下ろされ、()()()()()()()()()()()()()






「・・・・・・・・・・は?」


「いけフニランっ」


「いっせーのぉ、せいぃっ!!!!!」




 全身にひねりを加えた、全力の投擲。

 対飛竜撃墜武技【撃竜槍】。


 この2日間、ガルド・ローエン・アイゼンヴァルトに指導された、今の彼女の年齢で繰り出せる最高のパフォーマンス。

 それが、【身体強化(フィジカルブースト)】と【突風付与(ブラストエンチャント)】の二重付与を得て、ここに完成した。



「なっ、【二連聖櫃(アーク)】【聖絶(セイクリッド)】!!!!」



 一瞬呆気にとられていたウェルムートも即座に魔法を発動。ドーム型の簡易障壁である【聖櫃(アーク)】の二重展開と、聖属性では最高硬度を誇る板状の障壁【聖絶(セイクリッド)】をもって迎え撃つ。無詠唱に不安があったのか、魔法名のみの短縮詠唱となった。

 しかし瞬時に、二枚の【聖櫃(アーク)】が薄氷のように砕け散り、槍の穂先が【聖絶(セイクリッド)】に届き食い込んだところでせめぎ合う形となる。



(なんですかっ!! この馬鹿げた威力はっ!!!)



 フニラン・クロムハーツ。木製の槍を振り回すだけの11才の少女を、ウェルムートは「警戒に値しない」と全く意識していなかった。ルシルへの劣等感が、権力闘争で磨いてきたはずの彼の目を曇らせていたのだ。


 木製の穂先は砕け散り、中の鉄芯の先端のみが男を貫かんと暴れ回る。

 止めてるのに止められない。推進力が衰える様子もない。突き立った所から高速回転をし、徐々にねじ込まれていく。

 


 脅威ではなかったはずの少女の槍は、じわじわと確実に、ウェルムートの命に近づいてくる。



「ひ、ヒィイいいいいいい!!!??? 助けてぇっ!!!!!」

 

 




 バキィン   と。



 金属の割れるような音が響く。















「・・・・・・・・・・・・・・・あれ? ひっ」



 心が折れ、覚悟していた自らの死が一向に来ないのを、ウェルムートは訝しげに思った。

 いつの間にか閉じていた目をゆっくりと開ければ、穂先の先端は目と鼻の先まで来て止まっていた。



 というか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「あ、『助けて』・・・そうか命令・・・・・」



 放心した顔でつぶやいた直後、ガシャアッ重々しく崩れ落ちたスケルトン達は、槍を下敷きにその場で骨の山を作った。中には両腕をもがれた姿のスケルトンもおり、先ほどの技の凄まじさを物語っている。


 彼がこの事実を理解し感情が追いつくのに、そう時間はかからなかった。



「ひ、ヒヒヒ、ヒーッヒッヒッヒぃ!!!!

 流石は旧神の眷属が作った無限兵団! 命令に忠実な機械兵!!『その小娘を取り押さえろ』ぉ!!!」


「むぎゅぅっ! う、動けないぃ……」



 高笑いを放ったウェルムートが拘束を命じると、3体のスケルトンがフニランを抑えつける。限界以上の力を引き出した反動か、彼女に争う力は残されていない。

 ウェルムートは息を整えながらフニランの横を通理、虫の息となったルシルの元に歩み寄る。



「はぁ、はぁ、驚きましたよ…… 魔力の隠蔽すらもブラフだったんですねぇ……。

 目線や手の動きから『小細工をしている』雰囲気を漂わせ、威力の低い攻撃しか出来ないように見せかけた。私を油断させ、この小娘の凄絶な一撃を確実に決めるために。

 本当にぃ、本っ当に死にかけましたよ。しかし、その見事な策も全て無駄になったっ!!!」


「があっ!?」


「やめろっ!!」



 一度立ち止まり悪態をついたかと思った瞬間、その短い脚でルシルの腹を踏みつけるウェルムート。

 既に戦闘不能になった相手へのあまりの仕打ちを見て、ルイは気力を振り絞り立ち上がった。



「おーやおやぁ、ルイジアナ嬢ぉ。その豪腕で私を止めようというのなら、やってごらんなさいなぁ。

 しかし、良いのですか? 今貴女が力を解放すれば、周囲の者が必死に回復させたお身体がまた爆ぜますよ?」


「たとえこの命尽きようとも、みんなが傷つくぐらいなら!!」


「実に勇敢。実に剛毅。結構なことです。

 しかし、『みんな』ねえ・・・・・それら全て、()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……っ!!!」


「治療師としての一面を持つ神職、伊達に名乗ってはいませんよ。その力は一度か二度まで、それ以上は身体が持ちますまい。

 その命がけの悪足掻きで、貴女はいったい何人を救うおつもりで?『私が攻撃されたらそれを防ぎ、屋敷内にいる者全員を攻撃しろ』」



 ウェルムートの命令に、周囲の骨がカタカタと頷く。その光景を見たルイは、握りしめた拳を震わせる事しかできない。

 再び優位を確信したウェルムートは、満足そうな笑みを浮かべた。



「そう落ち込むことはありませんよ、ルイジアナ嬢。以前の死人同然だったあなたなら、おのれの未熟さと向き合い葛藤する事すらできなかったでしょう。まさしく成長の証であり、おそらくここ数日で手に入れた得難い感情です。

 そしてあなたの判断、私は尊重しますとも。守る者が増えれば当然、取捨選択の機会が訪れます。これは王侯貴族の宿命であり、権威ある者の責務です。


 先刻も申した通り、貴女が大人しく従ってくれさえすれば、屋敷の中にいる者の身の安全は保障しましょう……このゾンビ以外はねぇ!!!


 光は闇を照らし、悪しき者を挫く神罰と知れ!【聖光(ホーリーライト)】ォ!!!!」





 ウェルムートは今この瞬間が決着である事を示すように、聖属性の基本呪文をあえて高らかに詠唱した。

 彼の杖から打ち上がった魔術は天井で折り返し、聖なる光のカーテンとして室内に優しく広がり降り注ぐ。


 何もかもを包み込むその暖かさを裏切るかのように。

 無色透明な灼熱の炎に触れたかのように。


 光に触れたケロックの肌は、瞬時に泡立ち燃焼を始める。




「だめぇえええええええええええええ!!!!!」




 ケロックが、命の恩人が、自身が(かたわ)らに居続けると誓った存在が、白い炎と蒸気に包まれていく。

 


 その光景を、彼女たちはただ見ている事しか出来ない。

























 天から降ったか地から湧いたか、見渡す限りの骨、ほね、ホネ。


 屋敷の中をスケルトンの集団が占拠するという異常事態。

 しかし、廷内を埋め尽くす侵略者達は、何故か領主であるバルディアスの進行を妨げようとはしない。むしろ、どこかに誘導するかのように道を空けていく。


 男は黙って闊歩する。いつも我が家でそうしているように。

 しかしその体からは無言の武威が迸り、周囲の景色を蜃気楼のように歪めていた。



 必然、敵の大将は大広間で待ち構えていた。



「貴様か」


「お待ちしておりました、伯父上」



 バルディアスからすれば、日に二度も顔を合わせるなら、かける言葉も少ない。

 しかし相手の男は違う。自らに酔いしれ多弁になるのを堪えて、舞踏会のように優雅な礼を見せる。


 小さな眼鏡に七三分け。口をへの字に曲げ、その金属製の胸当てから溢れんばかりの大胸筋を張りその場に佇む青年。

 男爵家長男、アーノルド・エデル・ローベン。このクーデターの主犯である。



「使用人は」


「ご安心を、みな無事です。彼らには歴史の目撃者になっていただかねば」



 バルディアスの短い問いに、アーノルドが太い指をパチンと弾く。すると、2人を中心に広く周りを囲んでいた骨の中から、一つの山が波打ち盛り上がり、やがて十数人の男女が首から上を覗かせた。


「お前達……」


「ぶはっ! 旦那様、お逃げください!」


「これは罠ですっ!!」


「罠とは心外ですな。私の条件を飲んでさえくれれば、この者達は然るべき時に解放しましょう」



 その目に主人の姿を捉えると、忠義に厚い侍従達は必死に逃げるよう訴えかけてくる。

 我が身が主人を縛る鎖になるくらいならと、無駄だとわかっていても諦めようとはしない。


 そんな使用人たちの様子を見て、アーノルドはビシィッと人差し指を突きつけた。



「バルディアス・バルガ・フォン・アイゼンヴァルト辺境伯! 私と爵位を賭けて決闘していただきたい! 誰にも邪魔をされない一対一の決闘だ!」


「そのような事のために、こんな回りくどい事をしたのか」


「否! この決闘はクーデター下であるからこそ意味が生まれる!! 圧倒的優位に立った上での公正な決闘であれば、国にはこのクーデターの正当性をより高い精度で主張出来る!!!」



 彼の発言にも一理ある。

 中央集権国家である王国にとって、辺境の大部分の統治を任された豪族。辺境伯領への反逆は、王国への反逆と同義であるとされている。

 だからこそ、この下克上には正当性が求められる。領主の統治や本人の性格に問題があれば良いが、これはあくまでアーノルド個人の野心によるもの。それを自覚しているからこそ、下手な嘘で難癖をつけるより、正々堂々を貫いた実績を国に差し出す方が良いと、彼は判断したのである。



「旦那様! 私どものことは構わずお逃げください!」


「お嬢様の無事の確認がまだ取れてません! どうか、どうかお二人の安全を!!」



 しかし、使用人たちからすればそんなことは知ったこっちゃない。圧倒的優位なら、口約束など後でいくらでも反故できるに決まっている。

 とにかく自分達の主人の安全を一刻も早く確保せねばならないと、必死に訴え続けた。


 しかし、この説得がよろしくなかった。



「・・・・・()? つまり何だ。武芸百般で名を馳せた誇り高きアイゼンヴァルト家の者が、決闘を挑まれておきながらおめおめ引き下がれとでも言うのかね?」


「えっ違、そうじゃなくて、勝っても負けても形勢は不利ですから、勝ち目がないんですって!」


「おいバカっ」


()!? ()()()()()()()()()()()()()()()!!! そう言うのかね!!??」


「旦那様落ち着いて・・・・・」


「クリストォオオフッ!!!!!!」


「旦那様、私はここに」


「この決闘、お前が見届けよ!! 決着がつき次第、即刻早駆けでルイを迎えに行け!!!」


「御意っ」



 いつのまにか背後に控えていた執事に、大音声で決闘の受諾を報せる領主。

 煽り耐性ゼロの我らが領主様は、使用人の忠告すらも被害妄想に変換、怒りのエネルギーに変える生粋の喧嘩野郎であった。



「お受けくださるのですね、感謝します」


「ひとつ聞きたい。ウチのマリィの行方が分からん」


「あぁ、ご安心を。私達もまだ把握してませんし、知ってたとしても身の安全は保証しますよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()


「・・・・・? どういう意味だ?」



 意味深なことを呟き遠い目をするアーノルドをバルディアスが訝しげに睨むが、青年はすぐに表情を戻し血統の相手に向き直った。



「これ以上言葉は無用、ここからは肉体(カラダ)で語らいましょうぞ! ォ()ァッ!!(ババツーン)」


「貴様ごとき若造が、我と張り合うだけのモノを持っておるのか? (フン)ッ!(ドババーン)」



 2メートル越えの大男二人がポージングを見せ合う。互いのアーマーやベルト、更に服までが弾け飛び、アーノルドは上裸、バルディアスは赤ふんどし一丁と、眩いばかりの肉体美をさらしていく。



「出た! アイゼンヴァルト家一子相伝【赤ふんモード】!!!!」


「本気だ……旦那様はああ言っているが、アーノルド様の筋肉をお認めになっているんだ!」



 先祖代々伝わるアイゼンヴァルト家の戦闘形態に、使用人達は戦慄した。ああなっては鎧も帯剣も何の意味があったのかと疑問に思う。

 ちなみにこのモード、直系の男子のみ受け継ぐのだとか。ルイが女の子で本当に良かった。




「既に男爵家嫡男の座は弟に譲った! 我が名はアーノルド・エデル・ローベン! いざ、尋常に勝負っ!!!」


「その覚悟、実に見事! バルディアス・バルガ・フォン・アイゼンヴァルト! 辺境伯家当主として、受けて立つ!!!」




 肉と肉が打ち合う音が鳴り響き、史上稀に見る暑苦しい戦いが、今始まったのだった。




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