変態独奏曲
前回までのあらすじ
下ネタ回を書くのは抵抗があります、むっつりすけべなので
「お嬢様の貞操はぁああ、アタシが守る!!!」
『警告、警告。新規ユーザーの強制的なログインにより、サーバーに深刻な意識侵食が発生。速やかな対策が求められます』
さて、ここは主人公の夢の中であり、許可なく入れないはずの世界。何故かこうして現れた変態マリィさんだが、明らかに様子がおかしいようだ(言動とかではない、それは元々おかしい)。
基本的に何もない真っ白な空間のはずが、彼女の周りだけドギツいピンク色に染まっている。
そして彼女の背中には、肩甲骨から腰にかけてタコのような無数の触腕が生えていた。
「お嬢様ぁ!! 力が、チカラが溢れてくる!! これならヤれますよ!!」
「・・・・・ねえケロック、あれって本当にマリィなの?」
「ヘイ天さん説明プリーズ」
『どうやら、あのメイドの夢が介入しているようです。管理者権限の一部を彼女が独占している状態ですね』
「どうやって侵入したんかな、『表』でルシル先生が見張っているはずなんだけど」
「あんなロリババァ! ちょっと殺気チラつかせて攻撃誘ったところを亀甲縛りにしてやりましたよ!! ザマァねーぜヒャッハぁ!!」
ルシルは医師でありながら、150年の研鑽を重ねた稀代の魔術師でもある。いくら相手が近接戦闘の使い手でも、一介の使用人ごときに個人戦で負けることはまずあり得ない。
実際にルシルは外の世界で、マリィのククリ刀に向けて無詠唱で電撃を放った。金属に追尾する特性があり、鉄製のククリ刀を通電して麻痺か失神を狙う事が出来る。ルシルの必勝パターンだ。
しかし、性欲がピークに達したマリィは獣のような直感を発揮し、両手のククリ刀を捨てたのだ。
結果、持ち主のいなくなった武器に雷撃が落ち、その隙を縫ってルシルに肉薄したマリィは、瞬時に懐から取り出したロープで亀甲縛りにし、熟練の魔術師を拘束せしめたのであった。
その後、瞑想状態のルイとケロックを引き剥がすために両の手で掴んだ瞬間、新たな条件である『並列した円環』が成立し、彼女は夢の世界に引きずり込まれたのである。
「久しぶりだねーマリィ」
「あぁ奥様! ご尊顔を拝することが出来て歓喜の極みにございますぅ!! 今すぐそこにいるクソゾンビを倒し、この世界に閉じ込められたあなたがたを救い出してご覧に入れましょう!!! その、その暁には・・・・・はあああぁっ!! ダメっ、昂って濡れてしまいますぅ!!!」
「相変わらずリスペクトと妄想癖がすごいねぇ」
それにしたって明らかにおかしい。亡くなったはずの奥方様が目の前に現れたら、驚愕や猜疑と言った反応を見せるのが普通だし、仮に信じてもこんな無礼な振る舞いをするだろうか?
『夢とは本来こういうものです。意識レベルが下がり、正常な判断が出来なくなりますからね。私のようなサポートスキルがあれば話は別ですが』
「そう考えると、意味のある言葉を話せるだけでまともな方かな」
『ただし、あのどピンク色の空間はあなたの夢ではないので、管理者権限が通用しません。このまま侵食が進めば意識を乗っ取られますよ』
「えっ? ということは、こいつを倒せばアタシがお嬢様の婚約者に!?」
「敵に塩を送っちゃったよ…」
雰囲気から戦闘力が二割増しぐらいになったマリィ。自らの興奮度合いを示すかのように、触腕が激しく振り回されていた。
彼女が辺境伯家に忠誠を誓い、令嬢に心酔するのには理由があった。
マリィは幼少期、王都で孤児と呼ばれる身分だった。
王都のスラムは当時の幼い彼女にとって、親の顔を覚えていられるほど余裕のある場所ではない。かつて親にしていたのと同じように、大人たちに媚を売り続けた少女が、男たちの欲の捌け口にされるのに時間はかからなかった。そんな幼少期を経験した彼女にとって、大人の男は恐怖の対象でしかなかったのだ。
成長していくにつれて、植え付けられたトラウマは歪んだ性癖へと変貌してしまう。14歳で冒険者として王都を出た彼女は、成人前の男性冒険者をターゲットに貞操を狙うようになっていた。
冒険者ギルドとは、民間や政府などから外注で依頼を受け、登録された冒険者を派遣する組織だ。仲介業者のようにも見えるが、依頼内容には荒事が多く、基本的に冒険者の自己責任になる傾向にある。
そのため新人冒険者達の信用はなく、悪質な詐欺や命の危険などを除き、私的なトラブルには対応してもらえない事も多い。そもそも相手の合意を誘っているので訴えられる事もなく、陰口はあっても表立って非難される事はなかったのだ。
初心な彼らは自分を傷つけない。しかし関係が長く続けば、少年たちは自分が忌み嫌う『男』に成り下がる。さらに、複数人の中で行動すると少年たちは争い、女たちは決して自分のした事を許さない。
そんな歪んだ認知から、誰とも組まずに依頼をこなし、一夜限りの関係を求めて彷徨うという、孤独な日々を繰り返していた。
そんな犯罪スレスレのグレーゾーンを渡り歩き、いつしか【初物狩り】という異名まで付くようになった頃、その日は突然やってきた。
彼女がかつて手をつけた、とある子爵家の嫡男。その父親が訴えを起こしたことにより、冒険者資格を剥奪され犯罪奴隷に落ちてしまったのだ。
しかも、指定された雇用先はその子爵の別荘。今にして思えば、彼は初めからマリィの身体が目的だった。
元々ヤケになって始めた事なので、ツケの精算だとばかりに大人しく従うマリィだったが、契約自体は難航した。奴隷の基本的人権を守る義務が法律で定められている上に、子爵の女癖の悪さが有名過ぎたため、安全が保証されるまでギルド側が認めなかったのだ。
「踏、そんなに受け入れ先に困っているのならば、我に仕えればよかろう! 子供も2歳になったが身体が弱く、妻も体調を崩していてな、世話係を探してたところだ!!」
その時、羽ばたく怪鳥のごとく立派なカイゼル髭の大男、アイゼンヴァルト辺境伯の鶴の一声が鳴り響いた。
人格者で知られる大貴族、バルディアス・バルガ・フォン・アイゼンヴァルト。元Aランク冒険者でもあった為、ギルドからの信頼も絶大。地方の木っ端貴族でしかない子爵も諦めざるをえなかった。
こうして辺境伯家に奴隷として仕えることになったマリィは、そこで様々な人と出会う事になる。
「お嬢さん、そのままでは寒いですぞ? 早く馬車に乗りなされ。なんなら今夜吾輩の上に乗ってくれてもギブギブギブッ!!!!!!」
突然とんでもないセクハラをかまし、飼い主にヘッドロックをかまされる巨馬スタボロス。
それまでの男たちと同じ邪な視線を向けられたはずなのに、紳士的な対応があったからか、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
「お館様、我々の姿は若い娘には目の毒にございます。早めに奥に連れて行った方がよろしいかと」
「お館様、兄は案外照れ屋なところもありますからこのように仰っているのでございます」
「こらサムスン、お前こそそんな前かがみでよく言えたな。彼女の目を見て言ってみろ」
「兄さんこそ失礼だなぁ、この角度はただの内臀筋のトレーニングであって他意はないさ」
なぜかブーメランパンツ一丁で出迎えた、黒光りする門番2人。
大人の男の身体は嫌悪の対象だったはずだが、その肉体美と少年のような性格とのギャップに、不思議と笑みが零れる。
「ふむふむ、委細承知致しました。侍従の教育は私にお任せください。早速着替えをご用意しましょう」
言葉少なに白い口髭を動かす初老の執事。袖にははち切れんばかりの上腕二頭筋が浮き出ていたが、その物腰の柔らかさは今までの男にはないものだった。
豪快に笑う凄腕の料理長。
庭師のフリした伝説の冒険者。
楽しそうに働く使用人たち。
そして病床に伏せながらも、花のように笑う可憐な奥方。
そこでは仕える者たちが心の底から忠誠を誓い、主人も従者たちの意志と能力に敬意を示していた。
彼らの信頼関係を支えるのは、由緒正しい辺境伯家の威光と、各々が守るべき者たち。
その中心には、献身的な夫婦愛と、欠陥を抱えた我が子への無償の愛。
自分にとっては絵空事のような価値観がそこにはあり、自分の知るものが歪んでいた事を思い知らされた瞬間でもあった。
彼らと共に過ごしていく内に、自分にもそれが向けられている事を知って、彼女は任期を全うし奴隷じゃなくなってからも、ここで働く事を選んだのだ。
しかし、彼女の色欲はとどまる事を知らない。常に彼女の胸の中にあり、10年以上良心とせめぎ合ってきた事を、彼女自身も知らなかった。
元ショタコンだった彼女にとって、中性的に育っていくルイの姿は(性的に)どストライクだったのである。
これまで欲望が抑えられていたのは、主人に対する忠誠とルイへの庇護感情があったからだ。
「私がお嬢様を守る! 醜い権益と性欲にまみれた、ケダモノどもの襲撃から!! 全ては全ては全てはワタシのウデの中にぃいいイイイイエエアアアアぁ!!!!」
しかし今、他者の夢に無理やり乱入したことで欲望があふれ出し、何故か理性ごと巻き込んで彼女を暴走させていた。
剥き出しの本能のまま触腕を揺らし雄叫びをあげるマリィの様子に、一同は顔をしかめる。
「どうする? どんどんクリーチャー化してるけど」
「あの子、フラストレーション溜まってたんだねー。変態的な言動とかは己を律するための枷みたいなものだったのかも」
「えっと、あの、ケロック?」
「ちょい待って、今撃退策を考え中」
「いやそうじゃなくて、穏便に済ます事は出来ないかな? 君を殺そうとしてるとは思うんだけど…」
『良いんですか? 彼女にとってはあなたも攻略対象みたいなものですよ?』
「理由がどうあれ、お母様が亡くなったあとボクの面倒を見てくれたのはマリィだから、なんとかしてやりたい」
「…よし、そしたらひとつだけ案がある」
ルイの願いに対しケロックは、荒ぶるマリィを指差して名案だとばかりにこう言った。
「あそこに突っ込んでらっしゃい。たぶん彼女も満足するから」
『・・・・・あなたから性悪なコピーが生まれた理由が分かる気がします』
「君って、本当にアイツのオリジナルなんだね……」
「娘をこの子に任せるのはマズかったかなぁ……」
「え? 今の『僕に出来る事があったらなんでもするよ!』って流れじゃないの?」
自らの保身の為なら他人の犠牲も厭わない。さすがは他力本願ゾンビ、妹だけでは足りなかったようだ。
『しょうがないですね、サポートスキルである私が仕事をするしかないようです』
「さっすが天さん男前」
『称号に【女の敵】を追加しますか?』
「すみませんでした」
サポートスキルに勝手な称号を付ける権利は無いのだが、わかっていても逆らえる気がしなかった。
ついでに言うと【天の声】は無性別でありながら、自身を女性として認識しているようだ。
そんな最中にも、マリィの触腕とピンクの空間は迫りつつある。その顔は世紀末のモヒカンのごとくぶっ飛んでいる。
「ひゃっはー!!! 男は犯す! 女も犯す! 痴祭りだぁ!!!!」
『私のサポートする領域でさせるわけないでしょう』
バタンと、空間が閉じた。
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
気付けばマリィの周囲には誰もおらず、彼女は薄暗い正六面体の部屋の中に佇んでいた。
『あなたの夢ごと閉じ込めさせていただきました。その中でならあなたは自由に想像し創造して構いません。まあ、出来るのならですが』
「・・・っ、こんなものすぐに」
『コントロール出来る理性もなく、意識のはっきりしない夢という空間で、あなたは完璧に理性を保った私とケロック・クロムハーツにかなうはずがない。
だってそうでしょう? あなたはその【腕】以外を想像できないし、それ以上自らの意思で動かせないのですから』
言われて初めて気がついた。本当なら今すぐにでも壁を破壊し、その向こうにいるであろう者たちに陵辱の限りを尽くすはずだったのに、自身の背から生える触腕はその場で揺らめくだけである。
自分は今、どうやってこの腕を動かしていたのだろうか?
『目の前にいない人間よりも、もっと手っ取り早く想像出来るもの、あるじゃないですか』
悪魔のような囁きを耳にした瞬間、全ての触腕が先端を彼女に向けて、その場で完全に静止した。
部屋の中に、むせ返るようなピンクの霧が充満していく。
『あなたは思ってしまった。この腕で自らを慰めたら、どんなにイイだろうかと』
「あ、あァ、ぁぁああああアアアアア!!!!!」
マリィは自らのこれから起こる結末に戦慄し、ゆっくりと身体をまさぐるように這いずる何かの感覚に恍惚とした表情を浮かべ、絶叫した。
『今ごろ中はそんな感じになっていますね』
「「「あんたの方が鬼畜だよ」」」




