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お母さんストリーム

前回までのあらすじ


故人とお話ししましょう


 長く青い髪と青い瞳。

 故オルディナ・ドラグニカ・アイゼンヴァルト婦人は、ニコニコしながら娘達に手を振った。




「・・・・・コピック、流石にこれは悪ふざけが過ぎる」



 ルイが首だけになったコピックに、体を消し飛ばした時以上の怒気を込めて睨みつける。



「いやマジで、僕は何も関与してないって」


「あらあらー私を忘れちゃうなんて、お母さんさみしーなー?」


「お母様は死んだ。ボクの記憶の産物なんだから、この性悪野郎が再現したに決まってる」


「私が見たルイちゃんの最後のおねしょ、()みがサーペントの形で芸術的だったねー。どんな寝返りをすればこんな見事な物になるのか、旦那様と議論してたよー」


「それ今まで忘れてたやつ!?」



 親でしか知り得ない赤裸々な過去を暴露され、顔を耳まで真っ赤にしながら慌てふためくルイ。その様子を笑って見ていたオルディナが、ふっと穏やかな笑みでルイの目を見つめた。



「魂魄魔法って言って、アイゼンヴァルトに代々伝わる家宝を使ったの。【竜の因子】が目覚めた時に、こうして夢枕に立てるようにねー」


「・・・・・【魂の回廊】」


「そうそう、初代が見つけた古代遺跡の出土品。使い手の記憶を指定したものに書き出すだけの物で、残念ながら私は本物じゃなくてただの記憶だけどねー。つまり、そこに転がってるコピーのケロックちゃんと同じものなんだよー」



 オルディナはそう説明して、今度はコピックの方を見る。そこにはオリジナルのケロックもいて、転がっているコピックの頭を人差し指でツンツンつついていたのだが、オルディナのなにもかも見透かしたような青い瞳を向けられ、2人ともビクッとして硬直した。



「可愛い可愛い私の妹ルナリアと、へっぽこファラン君との間に生まれた甥っ子。ルイちゃんを産んだ時から動けなかったから、生まれたばかりのあなたしか見たことなかったけど、大きくなったねー。ルナリアったら、私より若くて結婚も遅かったのに、子どもだけ先に産むなんて、ほんとに羨ましかったんだからー」


「「えっと、なんかごめんなさい」」


「その後ルイちゃんを身ごもった時嬉しかったんだけど、私のお母様が竜巫女で、私の流産を予言しちゃってさー」



 唐突に知らされた自身の衝撃的なルーツに、ルイは身動きを取るが出来ない。そんな娘の元にオルディナは歩み寄り、その頭を優しく抱き寄せた。



「仕方ないから【仙術】の応用でお腹に魔力を集めて、ルイちゃんの生命力に変換してたのよー。でも、産む時にごっそり持ってかれて虫の息になるわ、ルイちゃんも欠陥だらけの身体で生まれちゃうわで、予想はしてたけど全然上手く行かなかったの。その事で最後まで謝ってたら、こんなにこの子を苦しめちゃって。ほーんと私、母親失格ねー」


「……ぞんなごとっ、ないっ」



 母の言葉のひとつひとつを、腹部を押し付けるその意味を理解させられ、声を詰まらせながら反論するルイ。そこが後悔の源泉であるとばかりに額を押し付けて、ぐすぐすと泣き始める。



「何で? 何でボグなんがのだめに、ぞんなごとしだのっ!?」


「産みたかったんだもの、しょうがないじゃない」


「次にすれば良がったじゃん! 産めるかもわがらない僕なんが見捨てでっ、安全に産める弟か妹にっ! ごれじゃあ、僕が殺じたみだいだよ!! おがあざんにはっ、生ぎでてほじかったのにっ!! 僕はもうっ、死にだくなってだのにぃ……」


「……本当に、辛い思いさせたみたいだね」



 絞り出すように泣きじゃくるルイを、オルディナは優しく撫で続ける。



「私だって同じ気持ちだよー。あなたがあのまま流産し(ながれ)ちゃったら、次を産むどころか、生きる気力すら無くしちゃってたかもしれない。たまたま先に私が、ルイちゃんに助かって欲しかったから頑張っただけ。こういうのは早いもの勝ち、ごめんねー?」


「ぐすっ、そんなん、ズルイよ…」


「それが次に繋ぐって事。ルイちゃんは悩みながらも、私の旦那様の為に生きててくれたでしょ? ケロックちゃんの助けもあって、前を向いてくれたじゃない」


「…うん、もうダメかと思ってたけど」


「【竜の因子】が目覚めるかどうかは賭けに近かったけど、ルイちゃんが覚悟を決めてくれたから、こうしてお話しできるの。

 生まれてくれてありがとう。

 頑張ってくれてありがとう。

 そして、これからも私の為に、生きてて欲しいな」


「!!____うん、うんっ」



 彼女の妹であるルナリアもそうだが、この母親たちには母性を超える不思議な包容力があった。親が竜族だからだろうか? それともこの姉妹の性質なのか? どちらにせよ、ルイのこれまでの苦悩を優しく包み込んでくれたのは確かだ。

 ルイの頭を撫でながら、再びケロック達に視線を向ける。その柔和な眼差しに、ケロック達は少しだけリラックス出来た気がした。



「ルイちゃんと心を繋いでくれてありがとう。まがい物の私だけど、ケロックちゃんとフニランちゃんの事、ルナリアとファラン君の今を、こうやって知る事が出来た」


『なるほど、彼の記憶を見たんですね』


「そういう事。なかなか数奇な運命を辿っているみたいだねー」


「「きょっ恐縮です」」



 オルディナから自分たちの母親と同じものを感じ、何故か揃って敬語になるケロックとコピック。同一人物である2人は何かに感づいてしまったようだ。



「それで? 発破かけるためとはいえ、ウチの子をだいぶ泣かしたみたいじゃなぁい?」


「「すみませんでしたーっ!!!!」」



 聖母の微笑みが般若の面に変わるのを見て、ゾンビ2匹が額を地面に擦り付けた。見事なジャンピング土下座。片方だけ生首なのはなんともシュールである。



「仮にも大貴族の令嬢に対して、余りに無礼。本来なら領内引き回しでも生温い。この落し前、どうつけてくれるのかな? かなぁ??」



「あっごめんオリック、僕もう消える」


「逃げるのかコピー! お前が諸悪の根源だろ!?」


「僕はオリジナルの潜在意識だから、諸悪の根源は君だろ?」


「やめてくれ! 僕にタゲを集中させないでくれぇ!」


「僕が死んでも第二 第三の僕が君を助けるであろう、さらだばー……」


(ワル)ックぅううううう!!!!!」



 性悪コピック略して悪ックは、様式美に(のっと)った捨てゼリフを残し、光の粒子となってケロックの中に吸い込まれていった。



「うわぁあああ、ヤツの記憶が戻って来て罪悪感が二倍にぃいい……」


『止めなかったあなたが一番悪いですからね? 自業自得です』



 ケロックはもう一度分身を作り出そうとするが、拒否されているのか出すことが出来ない。管理者権限とは何のためにあるのか。



「それで? 娘をキズモノにした責任は取ってもらえるのかな?」


「僕に出来る事なら何でもしますごめんなさい許してください」


『あ、そこはかとなく漂う嫌な予感』


「よし! 言質はとった!! ルイちゃん婚約者決まったから旦那様に伝えといて!!!」


「「あれっあっそっち!?」」



 場の空気がオルディナのペースに染まっていく。このままでは必要のない約束を重ねる羽目になる。そう思っていたのだが____





「その婚約、ちょぉっと待ったぁぁあ!!!!!」





 変態駄メイド・マリィという、さらなる混沌が追い討ちをかけて来た。



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