性格が悪いほうの主人公
これまでのあらすじ
回想だけど、初めて登場した魔王が金のガイコツって・・・・・
「体力測定?」
「うん、昨日話したじゃない。『一度本気が見たい』って」
自分の身体を診てもらうだけでは忍びないし、6時間はあまりに長い。何か手伝える事は無いかと聞いた時、ケロックはこう答えた。
「ここは夢の中だけど、利用者はぐっすり眠ることも出来る。精神的疲労はここの体感時間に直接影響するから、診察の合間に適時休憩は取るし、必要なものも用意する。そういうわけで、先に身体を動かして貰おうかなと」
「それ、手伝いかな?」
「診察と言いつつデータ収集と実験を繰り返してもらうだけだし、患者に出来る限り快適に過ごしてもらえるよう動くのは僕の義務みたいなものだからね。その分キツい実験とかもあるから。それに「手はもう足りてるよ」」
突然声が重なったと思ったら、横に全く同じ姿の少年が立っていた。
ルイが驚き目を見張って固まると、2人のケロックは丁寧に教えてくれる。
「「もう1人の自分をイメージしたら、並列思考が出来る事に気がついてね」」
「多少劣化するし管理者権限も使えないから、あくまでコピーって事だね。便宜上コピーのケロックで【コピック】と呼ばれているよ」
「相手が同じ考え方だと連携の必要がなくなるし、何より僕には優秀なサポートもいるから」
『恐縮です』
理解が及ばない光景にルイは呆然としながら(ついでに「【コピック】は無いだろ」とか思いつつ)も、そういうものなのかと割り切る事にした。ここは彼の夢であり、この世界の創造主なのだ。基本的に不可能は無いと考えるのが妥当だろう。
この世界基準では、その事が理解出来るだけでもかなり優秀であることに、彼女は気づかない。
「ああ、いい事思いついた。メモメモっと」
「コピックから思いつくなんて珍しいけど……ああ、なるほどね?」
『これ、本当にやるんですか? だとするとコピーは相当良い性格してますね』
「でしょ? 我ながら名案だと思ってる」
「皮肉だと思うよ。一部自律させてるから性格も変わるのかな?」
「ふっ…僕は君の心の負の部分、ダークサイドさ。【性悪コピック】と呼びたまえ」
「うわぁ僕って「ふっ…」て笑えるんだ」
『腹立つ笑顔ですね、あなたそっくりです』
「僕の一面であることは否定しないけど…」
コピックことコピーのケロックは、何か走り書きのようなものをケロックと【天の声】に見せて盛り上がっている。
この夢の管理者同士の会話なのは理解できるが、恐らく自分の「体力測定」の事で勝手に盛り上がられるのは少し複雑だと、ルイは唇を尖らせた。
「おっと、お嬢様が拗ねそうだ。行ってくるよ」
「じゃあ頼んだコピック」
「任されたオリック」
「オリックって……まあいっか」
コピックがかっぽんかっぽんと、自身の両肩を拳で叩きながら歩み寄ってくる。これまでの言動から性悪コピックの呼び名の通り、オリジナルより少し軽薄な印象を受けた。
「えっと、コピックさんで良いですか?」
「うん、一応さっき〝分かれた〟ばかりだから事情はわかるし自己紹介は不要だよ」
「わかりました、よろしくお願いします」
「初対面のような敬語は傷つくなぁ。まあ「気持ちはわからんでも無いけど」」
そう言ってコピックはなんの前触れもなく「2人」に分かれた。先程ケロックがコピックを生み出したのと同じ要領だ。
「これからやるのは「鬼ごっこ。「今から100人の僕が「君を襲うから「君は僕を全員「殺してくれ「僕は僕なりに「殺しにかかるから、「全力出さないと死ぬよ?」」」」」」」」」
「えっえっえええええ?」
2人が4人になり、4人が8人、16・32・64・・・・・。
気づけばルイは、総勢100人のケロックたちに囲まれてしまう。
「もうちょいリアルにしてみよう。脳みそを少し腐らして、身体能力を少し上げれば、ゾンビパニックの出来上がり」
「「「「「「「うぼぁー」」」」」」」
「「『怖っ!!!』」」
脳みそどころか肌の一部なども腐って緩み、その口からヨダレと共に歯が腐り落ちる。白く濁った目は焦点が定まっておらず、中には片目だけ飛び出している者までいる。
「ちなみに噛まれたらキチンと感染する仕様にしたよ。自身が内側から別の意識に侵食される感覚を楽しんでくれ」
「本っ当! 性格悪いなぁ!!!」
わらわらと自身に向け駆けてくるゾンビなケロック達から、ルイは必至の形相で逃げ惑いながら悪態をついた。どうやら腐っているとはいえ、ケロックと同じ姿をした彼らを振り払って傷つける事を恐れているようだ。
「昨日今日会ったばかりの『僕達』に何を遠慮してるんだい? 僕もコイツらもコピーだし、仮にオリジナルでも管理者権限ですぐ復活するって」
「だから「殺していいよ」って!? 冗談じゃない!!! ケロックも彼を止めてよ!!!!」
「ゾンビ怖いゾンビ怖いゾンビ怖いゾンビ怖いゾンビ怖いゾンビ怖いゾンビ怖いゾンビ怖いゾンビ怖いゾンビ怖いゾンビ怖いゾンビ怖い」
『あなたもゾンビでしょうに』
彼は久しぶりに前世の『子供の頃初めて見せられたゾンビ映画が生涯トラウマ』な記憶が蘇り、目の前の光景にガクブルと震えていた。それらが全て自分の姿をしているのだから、今世でもトラウマ確定である。自分もゾンビだけど。
「僕もきっとああなっちゃうんだ、腐って襲ってチェンソーで返り討ちにあうんだぁ……」
『ルイジアナ様、ご覧の通りです』
「そんな!? 【天の声】さぁん!!」
『私はケロック・クロムハーツのサポート以外で自主的に動く事はありません。スキルですから』
ルイの悲痛な叫びも、ビビり無能モードのケロックとスキルである【天の声】には届かない。
「かわいそうに、よくもケロックを…!」
「いや、あれは僕悪くなくない? 僕も思い出したら気持ち悪くなってきてるし……そんな言うなら、さっさと諸悪の根源である僕を倒せばいいのに」
「理由もなく誰かを傷つけるなんて、もう二度としたくない!」
ふっ と。
不気味なくらい突然、コピックの表情が消え、ゾンビなケロックたちの動きが止まった。
時が凍りついたような一瞬の静寂に、ルイは戸惑いを隠せない。
「……ああそっか、そう言う事ね。だいたいわかったよ君のこと。
ねえオリジナル、管理者権限の一部を僕に貸してくれない? 【分裂】だけじゃ足りない」
「僕も君だから、君が何しようとしてるのかだいたいわかるんだけど、本当にやるの?」
「君へのイタズラに今後ゾンビを使わない事を約束しよう。僕も怖いし」
「【天の声】」
『管理者権限の一部を一時的に譲渡しました』
コピックの保証のフリした脅しに対し、即座に屈するケロック。天の声を通して何かの権利を譲渡したようだ。
「集まれ僕たち」
「「「「「ゔぁー」」」」」
コピックの号令に合わせて、腐敗したケロック達がわらわらと寄り集まっていった。「ゔぉあー」と雄叫びをあげながら飛びつき合い、その身を互いの肉に埋めていく。
その衝撃的かつグロテスクな光景に、すぐ横でコピックは冷ややかな目で見つめ、ルイは息を飲み、ケロック(オリジナルの方)は「ゾンバ◯オおぇええええ」と離れた場所でえづいていた。実に残念な主人公である。
ゾンビケロック達が完全な肉塊と化した時、ルイは周囲の真っ白だった光景が変わってしまっていることに気がついた。
それなりの広さに、わずかな家具と大きめのベッドが置いてあるだけの簡素な部屋だ。
「ここ、ボクの部屋?」
「そう、君が生まれ、育った部屋。そして、君の母親の部屋でもあった」
そう言ったコピックの目の前には未だ蠢く醜悪な肉塊があったが、先程から伸びたり回ったり尖ったりと、色や形を変えながら収縮していく。
そして、最終的に1人の人間の形に落ち着いた。
「・・・・・・・・・・・・お母、様?」




