金骨の思い出・名医と変態の衝突
前回のあらすじ
この屋敷は変態が多すぎる
翌日からルシルのサポートのもと、ケロックによるルイの治療が始まった。
まずケロックは、1ヶ月も放置する羽目になった四肢の骨折を治療することを提案した。手術や添え木などである程度修復していても、まともな形でくっついているとは思えないからだ。
「でもどうするんだ? 薬や魔術の力は借りれないぞ?」
ルシルの疑問も最もである。魔法薬などで肉体の再生を早めようとすると筋肉の更なる活性化につながり、現状の二の舞になりかねない。筋肉に対して迂闊に魔力で干渉しようものなら、それすら【身体強化】スキルの発動の要因になるかもしれない。
この世界で発展した魔法的な再生医療は、皮肉にも、ルイに最も行ってはならない処置となってしまっている。
しかしケロックは、そんな状態にピッタリなスキルを持っていた。
「魔力を使わずに骨を治すスキルを覚えたんですよ。『骨』という概念に基づいていて、指定した素材を骨の形にすることもできます。今回は歪んだ骨や散らばった破片などがそのまま残っているので、元の形に整形しちゃいましょう」
「なるほど、魔力を使わず、再生ではなく整形ができると。確かに、上手くやれば筋肉への負担は少ないだろう。しかし、そんなピーキーなスキルどうやって覚えたんだ?」
「通りすがりの人に教えてもらいました。ほぼ際限なく骨折が治せるから、長旅には重宝すると」
「お前、自動回復持ちだったよな?」
「ええ、なので今回を除けばほぼ死にスキルです」
ケロックは、当時の情景を脳裏に思い浮かべてみた。
ケロックが目覚めてから約一年後。
彼は村はずれの森の中で、武術指南書を読みながら秘密の特訓をしていた。
「み、水ぅ……(ガシャッ)」
▼金色なスケルトンが現れた!
「えっ未知との遭遇」
『アンデッドが「水」って』
なんて反応をしてしまったものの、害はなさそうだったので、近くの池に放り込んでみたのだ。
「(ザバァ)カカカカカー! 復・骨!! あなたが泉に落としたのはこの金の骨ですか?」
「『うわぁウゼェ』」
初っ端からよく分からないジョークをかまし、そのスケルトンは泉から上がってきた。
「正直なあなたにはこれをあげましょう」
「いや、まだ何も言ってないんだけど」
『おや? スキル【骨生成】を手に入れました』
「いやー助けてくれてあんがとね! そのスキルがあれば不意の骨折にも対処出来るよ! オイラはそれで長生きしてるんだ!!」
「【フレッシュイモータル】って言う称号のおかげで休むと回復するんでいらないです」
「・・・・・マジ?」
『これは『譲渡』でも『継承』でもない、スキルの『授与』ですね。この骨は魔王か、神に準ずる者のようです』
「えっ魔王? 神?」
「んん~っ惜しいねぇ! 『兵器』の事象存在【機械神マキナ】! オイラはその筆頭眷属【骸骨人形デウス】さ!! 魔王を名乗ってた事もあるよ!!」
「なるほど、アンデッドでは無かったのか」
「自分でもよくわかって無いんだけど、水を燃料にして動いてるっぽいよ」
そこからは骸骨人形デウスの弾丸ワンマントークショー。舌もないくせに喋るしゃべる。
大半のジョークや余談を除いて要約すると、以下のようになった。
理由は忘れたが、とある鉱山に立てこもり、長い間帝国に対し戦争を仕掛けていた魔王デウス。
馬鹿馬鹿しくなったので、【骨生成】で身代わりを作り、穴を掘って1人旅に出た。
数ヶ月掘り続け、そろそろ帝国から離れたかな? と思い始めたころ、いきなりひらけた空間に飛び込んでしまったのだ。
そこは帝国の東の国境線、広大な荒野の間に横たわる【大渓谷】。
瘴気が満たされ凶悪な魔物がひしめき合う深淵の谷の中で、必死に戦って逃げ回って、泣きながら脱出した元魔王。
ほとんど水のない荒野を彷徨い、ようやく森を見つけるも、そこにいた兵士(恐らくアイゼンヴァルト領から巡回中の警備兵)に追い回され、仕方なくもう一度穴を掘って逃げた。
這う這うの体で森に出たところで水が切れ、ケロックに拾われ今に至る。
「いやー君は命の恩人だよ! 見れば武術の練習をしているようだね? オイラも手伝うよ! スキル【骨生成:骸骨軍勢十人隊】!!」
デウスの掛け声と共に周囲の地面が盛り上がり、土気色の全身骨格模型が10体召喚されて主人を囲うように並んだ。
「カーカカカカぁ!! 驚いたかい? 【骨生成】は【人形生成】の類似スキルでね! 周りの素材を使用者の知る骨型に限定して複製するのさ! オイラはその骨を操る事が、出来、る……ダメだっ、みっ水ぅ」
「『燃費悪っ』」
まだ本調子ではなかったのだろう。デウスはふらふらと池に入水し、そこから指示を出し始めた。
「さあ君の実力を見せたまえ! 実戦に勝る経験は無いし、骨格を知れば動きも理解できるはず!! もし有用だと思うなら、も少し匿ってね!」
このなんとも珍妙な骨魔王は、図々しくも半年間森の中に居座るようになる。
後でわかった事だが戦争の原因は、魔王デウスがボディをオリハルコン製にするため、鉱山のオリハルコンを掘り尽くしたからだった。
本人が純度100%の最高級素材なので、それが狙われる要因にもなった。完全に自業自得である。
なんともお間抜けな金骨だったなぁと、ケロックはスキルを使いながらしみじみ思うのであった。
「痛かったら言ってね」
「だいじょうぶ。けど、なんかむずむず、する」
「麻酔かけてるとはいえ、器用だよなぁ」
『散々仕込まれましたからねぇ』
神経や血管を傷つけないように、慎重に治療を続ける。
ここまで器用にスキルを使えるのは、自分のはやらなくても誰かのはやるだろうと、当時デウスが作った骨たちや、骨折した動物達で練習させられたからだ。
スキル【視覚】の熟練度が上がったおかげで、対象の骨格や筋肉も見ただけでわかるようになった。
(人生何が役に立つかわからないもんだなぁ、もう死んでるけど)
『私の声も何故か聞こえてましたからね、良い縁を持ったものです』
「はい終わり」
「おお、 あんまり、いたくない」
「まだ麻酔が効いてるからね。くっついたばかりだから固定して、3日ほど安静にしててよ。傷は治せないし、神経は元の位置に戻しただけだけど、我慢できる?」
「うん、ありがとう」
骨折の腫れなどもあり歪だった手足が、まっすぐになっただけでまともに見えた。痛くないわけないが、文字通りの骨身にしみる痛みが和らいだだけでも嬉しいらしい。お嬢様は眼をキラキラさせて自分の腕を見下ろしていた。
「さてルシル先生、こっからなんですけど」
「30分間無防備になるんだったか? その間襲われないよう見張ってくれとか言われても、領主邸でそんな暴漢出るわけないだろ」
「でも、昨日のメイドさんとか」
「あー、あれはまあ、怖いよなぁ」
「マリィは、ほんとは、いい子なんです」
「愛が深過ぎるというか何というか、ねえ?」
3人は先日のメイドの般若のごとく鬼気迫る表情を思い返し、背筋をぶるりと震わせた。今後治療にかかる期間の中で、彼女が寝込みを襲わないとは限らない。
30分間自分らを守る事をルシルに約束させ、ケロックはルイと向かい合わせに座り両手を繋いだ。
「じゃあ始めますか。スキル【天の声】」
『派生スキル発動条件のクリアを確認。
以前ログインしたユーザーを認証、履歴からルームを作成しました。
このまま起動する場合はパスワードを入力してください』
「【超高速脳内会議】起動」
『認証しました。ルーム【超高速脳内会議】に入室します』
「……行ったか」
手を繋いだまま眠りにつく2人を見送り、ルシルはぽつりと呟いた。
「事前に聞かされてはいたが、なるほど。繋いだ両手を円環にし、回路のようなものを通してるのか。古代遺跡の【魂の回廊】によく似ている」
「あの、先生、これは一体」
「夢を共有するスキルだそうだ。ケロックの夢にルイジアナ嬢の意識を送り込み、治療のため検体の情報を収集するんだと。ようは新しい形式の検査だと思えば良い。さて、それはそうと……」
説明を一区切りさせ後ろを振り向けば、ドス黒いオーラを纏い笑顔でたたずむ駄メイドがいた。もちろんマリィである。
その手にはなぜかククリ刀が握られており、ヒュンヒュンと鋭い風切り音を立てて高速回転していた。
「なぜお前がここにいる」
「まあ、最初はね? 担当医以外立ち入り禁止とのご命令が出た時は、ルシル先生が監視してくださるならと思い、信じて待っていましたよ、ええ。
しかし聞けば彼、お嬢様の艶めかしい手足を根元まで堪能し、その超絶テクでお嬢様に「むずむずする」とまで言わせてイケないスイッチを押したそうじゃないですか?」
「割と序盤から聞いてたんだな」
「その上クソガキの夢精の中で30分間二人きり!? 30分で子供が何人出来るか、先生ならご存知でしょう!!」
「医者に向かって答えるのが馬鹿らしくなる質問はやめてくれないか?」
「夢の中なら分身も触手もボテ腹も思いのまま! そんなところに30分!! 先生は思春期男児の性欲の恐ろしさを知らないのですか!?」
「30分とは言ったけど、夢の中では12倍の速さで時間が流れるらしい」
「6時間!? 子ども騎士団が6団体デキちゃうじゃないですか!!」
「それどっから出た計算?」
「こうしてはいられません! 今すぐソイツの腕を切り落とすか、私が夢に乱入して陵辱の限りを尽くすかせねば!!」
「まあ待て」
宣言し一歩踏み出そうとしたマリィの足元を、細い紫電が遮った。
ルシルが最も得意な、エルフーン族の血統魔法である。
「残念だがここで止めさせてもらう。お前の存在は精神衛生上よろしくない」
「そうでしたか、ロリババァもショタガキの毒牙にかかってしまったのですね」
「あ? 今なんつった公然猥褻物」
「150年も生きててまだ気づかないんですか? ロリどころかペドババァでもいいくらいですよ」
「「・・・・・・・・・。」」
ルシルの緑の巻き角から紫電が迸り、杖の先端から陽炎が揺らめく。
マリィの笑顔が般若のそれへと変貌し、ククリ刀が音を立てて振り回される。
「「死ね」」
轟音が鳴り響いた。
「今、なんか揺れたような」
『そういえば、無理に起こされると脳にダメージがいくかもしれませんね』
「それ早く言ってくれない?」
『微々たるものですから、問題ありません』
「まあいいか、とりあえず今は」
「「「「「この子の本気を引き出さないとね」」」」」
「いやいや、どうしろと」
今、1人の少女の前に、100人のケロックが立ち塞がった。




