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辺境伯令嬢②

前回までのあらすじ


筆者はラブコメが得意ではありません



 ルイジアナの現状と、主人公との婚約についての詳細は、数ヶ月前まで遡る。




 その日、包帯姿の眠り姫の部屋に、4人の男女が集まっていた。


 アイゼンヴァルト領主『筋肉魔導士』バルディアス・バルガ・フォン・アイゼンヴァルト。

 オリジナルの【筋肉魔法】で戦線を突き崩し、魔力が切れた後もその身一つで敵を討ち取るバ……猛者である。王国にとって重要な拠点を代々預かる大貴族でもあり、その豪胆な性格から「最も貴族らしくない貴族」とも揶揄される。


 伝説の傭兵『銀狼』ガルド・ローエン・アイゼンヴァルト。

 現領主の叔父にあたる、元冒険者でフリーの傭兵。齢60の大台に乗った今もなお『生涯現役の戦士』を自負しており、数々の逸話を残しつつ世界中に己の技を伝授し続けた、生ける伝説である。


 町医者『時の囚人』チェルーシル・リシル。

 最古の少数民族【エルフーン族】の末裔であり、魔法学会のテコ入れや軍事医療改革など、長きにわたり大陸の人間社会に貢献してきた女傑である。150年生きてきた中で20年以上定住した記録はなく、名を変え職を変え世界を転々としているそうだ。


 騎士『斥候王(パシリ)』ファラン・クロムハーツ。

 先の大戦時に斥候として最大級の武功を挙げ、見事準貴族の地位を獲得した元冒険者。ガルドの娘を嫁に迎え、その類稀(たぐいまれ)な諜報能力とフットワークの軽さで王国のパシリとして飛び回っていた。 


 そんな名だたる大人物4名が使用人の1人も入れずに、令嬢の寝室で密談をしていたのだった。



「ではルイは、ルイジアナはもう・・・・・」


「ええ、もって数ヶ月の命でしょう」



 痛みで熱を持った体と、ぼんやりとした意識の中で、ルイジアナは自らの余命宣告を聞いていた。



「以前もお話ししましたが、ご令嬢は生まれつき【怪力】と【身体強化】の加護を持っています」



『加護』とは神々からの恩恵であり、才能である。それが世間の常識だ。


 生誕の祝福として授けられた天性のものと、己の適性を伸ばしたもの。神々は、突出した才能に名前と形を与え、神託として下す事で、未来への期待と生涯の宿命を示してみせた。

 知性ある生き物達は、神々から伝えられた加護を指標とすることで、大きな発展を遂げたのだった


 元々アイゼンヴァルト辺境伯家は代々武に関する加護を授かりやすく、その血統から成る功績が、彼らが大貴族たる所以になっている。

 直系の令嬢である彼女が生まれつき授かった加護は、限界以上の腕力を発揮する【怪力】と、魔力を使って筋力を底上げする【身体強化】。

 さらに歴代最高の魔力量を宿しており、伸び代によっては戦術級の魔術を行使できるポテンシャルも秘めていた。

 一見すると相乗効果などもあって、将来が期待されるような内容だ。


 しかし、彼女のような強すぎる加護が、残酷な結果を生み出す時もある。



「ご令嬢は生まれつき膨大な魔力と筋力を持っていますが、そのどちらもスケールから逸脱したものです。小さな身体に押し込めようとする力はコントロールが効かず、彼女を内側から押し潰していく」



 ルイジアナ自身の話をしているのに、反応する事ができない。内容に合わせるように、彼女の消し去りたい記憶が視界に投影されていく。

 指を折られて怯える乳母。砕けたベッドに戦慄するメイド。歪んだたくさんのスプーン。太くならないくせに重くなる筋肉。骨が圧迫され伸び悩む身体。歩いただけで勝手に折れる脚。

 その中で最も恐ろしかったのは、自らの腕の中で首が折れ、息絶えた兎の姿だった。



「それで動きのコントロールを学ばせるために儂を呼んだんだったな? ある程度肉体が成熟し、ギリギリ矯正出来る年齢を狙って」


「ガルド・ローエン殿のおっしゃる通りです。あなたの強さは他に類を見ない身体操作能力にある。しかし、一歩遅かった」



 ガルドとルシルの会話が耳に入り、自らの四肢を中心に身体が爆ぜる光景が、最も新しい負の記憶として蘇る。

 どれだけ栄養を摂取しようとも、成長を続ける筋肉の維持に消費され、二次性徴期に入っても痩せ細ったまま。細心の注意を払って、怯えながら生活をしていた彼女を嘲笑うかのように、昨日の朝、なんの前触れもなく突然こうなってしまった。

 生物としてとんでもない欠陥であり、どうしようもない理不尽だった。



「突然魔力が増大し、比例するように筋肉が四肢の骨を砕き、一部の皮膚を突き破っていました。残りもヒビが入っていたりと、相当な負荷がかかっているように見えます。今後も同じ事態が起こりえる上に、その時は内臓まで無事だとは限らない。余談を許さない状況です。

 今は床に【麻痺(パラライズ)】と【筋力低下(ダウン)】の魔法陣を敷いて抑えてはいますが、それもいつまで保つか」


「我々が先祖代々信じてきた筋肉が、娘をここまで苦しめるとは、なんたる皮肉……」



 父が泣いていた。いつも豪快に笑い、病弱な自分を気遣って弱みを見せた事などなかった父が、ここに来て涙を見せていた。大きな肩が、背中が、悔しさで震えている。


 ルイジアナにとって、父は憧れの存在だ。有事には圧倒的な筋肉で問題を押し潰し磨り潰し握り潰し、大きな背中で領民を導くその姿は、まさに物語で見た英雄のようだった。

 それ故に、たった一人の直系である娘が、このような病弱な身体に生まれて来たことを、ルイジアナは恥じていたのだ。

 生まれてすぐ母が亡くなった時も、父は笑って見送っていたと、当時を知る使用人たちから聞いている。そんな父を、自分が今初めて泣かしてしまった。



(消えてしまいたい。自分の体より、父の心が痛苦に苛まれるのが耐えられない。諸悪の根源を、自らの命を絶ってしまいたい)



 そんな思いから後悔のフラッシュバックが加速し、以前から傷ついていたルイジアナの精神をさらに蝕んでいく。






「あの、何で僕は呼ばれたんですかね?」



 これ以上なく沈んだ空気に、恐るおそる疑問を投げかけたのは、自他共に認めるパシリのプロ、ファラン・クロムハーツである。

 彼はいつも通り、帝国に怪しい動きが無いかの調査任務を与えられると思っていたのだが、明らかにそんな雰囲気ではない。

 ファランは錆びついた血のにおいがする兜と皮鎧を脱いだ状態で、この3人に対面していた。正直かなり気まずい。穴があったら入りたいし、兜があったら被りたい。



「……すまんなファラン殿、本題に入ろう」



 招集をかけた本人であるバルディアスが、目的を思い出し姿勢を正す。表面上だけでも即座に立ち直れるのは、領主としての意地があったからだ。


「さて、唯一アイゼンヴァルト本家の血統である我が娘だが、この病弱さだ、婿に入って我との繋がりを作ろうとする輩が大勢いる。一応弟のウィリアムが男爵として街の代官を務めていてな。同じ血族ならそこの息子と婚約でもと思ったが、これが女好きな上に野心家というとんでもない俗物だった。娘がこのような姿になった時、見舞いに来たヤツは何と言ったと思う? 『本家の為にも、早急に婿養子を迎えねばなりませんな』だと! 婚約者候補の分際で、その相手の目の前で言い放ったのだぞ!? (シッ)!!」



 飲まなきゃやってられないとばかりに、右手で握られた瓶の口が根元から切り落とされる。どうやらその親指で断ち切ったらしい。腕力があったとしても人間技じゃない。



「お、落ち着いてくださいアイゼンヴァルト様」


「落ち着いてられるか! ルイの本質を見ようともしない、家格だけが目的の馬のホネに、我のルイを渡せるかぁああ!」


吾輩(ワガハイ)をお呼びかな?』


「お呼びで無いわブタ馬クソ野朗がァア!!!」



 突如聞こえた窓の外のバリトンボイスに、領主は足元に落ちた瓶の口を拾い、窓に向かって投げつけた。

 パリンという音と『モゥレツゥウウウ!!!!!』という甲高い悲鳴(?)とともに鮮血が飛び、ドスンと重い物が落ちたような地響きが発生する。そういえばここは2階だった。



()ウゥ、馬の悪口を言うとヤツが来る。なんとも嬉しそうな顔でな」



 そう言って一呼吸置き、何事も無かったかのようにワインをがぶ飲みする。案外あのブタ馬クソ野朗の存在が、領主の怒りを鎮めているのかもしれない。



「もちろん娘をこの街の教会に預ける事も考えたが、あそこの司祭はそれこそ俗物の代表みたいなものでな。娘を使って中央とのパイプを作り、そこから成り上がりを画策しておる」



 大きな街にある太陽信仰の教会には、以前説明した対象の加護を映す『神眼の水晶』の他に、『神託の聖杯』というものがある。定期的に魔力を注ぐ事でその土地に祝福を受ける事が出来ると言われているアイテムで、魔力暴走を起こして身体に影響を受けた人への救済措置にもなっていた。

 ただし、どちらのアイテムも使用には多額の寄付が必要であり、さらに『神託の聖杯』により「救済」を受けた者は半強制的に生まれた家と離縁をさせられ、「巫女」と呼ばれ教会預かりの身になる。

 司祭はこれを利用し「元辺境伯令嬢」という道具を手に入れ、中央貴族とのパイプを作ろうとしているのだ。

 そもそも「救済」は延命という時間稼ぎでしかなく、根本的な解決にはならない。苦しみが長引くだけなのは目に見えていた。



「八方塞がりですね……」


「うむ、そこでだファラン殿」


「はい」



 ひと息ついた領主の巨体がファランの正面に向き、ファランは背筋を伸ばして構える。





「貴殿の息子に我の娘と見合いをしてもらいたいのだが」




「……あ、いや、断れませんし断る理由もないんですけど、良いんですか? 以前もお話ししましたが、ウチの息子は」


「ゾンビなのだろう? 我はそれでも構わない。そもそも貴殿がその事を律儀に報告した時、我は全力でクロムハーツ家を援助する事を約束したはずだ」


「今回の件も、その内の1つであると?」


「一度でも婚約を交わせば、我がアイゼンヴァルト家の庇護下に入れる事が出来る。例え成婚の前に娘が死んだとしてもだ」


「それはルイジアナ様に失礼では?」


「「婚約」ではなく「見合い」だと言っただろう? 娘には貴族のしがらみがない、同年代のまっさらな子供たちと触れ合って欲しいのだ! 頼むファラン殿! ケロックとフニランをここに連れて来てくれ!!!!」



 そう叫びつつしゃがみ込み、スキンヘッドを床に叩きつける領主。バコン!! という音と共に床板が爆ぜた。


 バルディアスは、ファランやルシルからケロックの人となりを聞いた時、あるいはその子なら、自分の娘の心だけでも救えるのではないかと考えていた。

 神から使命を授かり、異なる世界から呼ばれた魂。亡くなった少年の身体に降り立ち、この世界で忌み嫌われる『ゾンビ』という存在に成り果てても、新しい家族と思いやりを持って接する事が出来るその心に、領主は可能性を見出していた。



 その土下座が五体投地レベルにまで達する父を見て、ルイジアナは困惑していた。

 見た事のない父の姿にではなく、その話の内容にだ。


 高名な騎士ファランの息子で、自分にとっては親戚である、自分の婚約者になるかもしれない少年。


 どんな人なのかと胸が弾んだ。

 失望されるだろうと心が痛んだ。







 そして、返事が出来るなら、そこまでその少年を信用する父の思いに応えたい。絶対に婚約を承諾したいと思ったのだった。

























「というわけなんですけど」


(はか)りやがったあの大人ども……」




主人公の外堀が埋められていくのって、なろう系の王道ですよね

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