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謎の老人

前回までのあらすじ


筋肉って人によっては悪夢かもしれないね



 双子の筋肉門番アードンとサムスンに、領主邸の中を案内してもらう事になったケロックとフニラン。

 ちなみにベントレールは「王都から共に来訪した視察兵達と合流しなければ」とか言いながら、筋肉から逃げるようにその場を離れていった。どうやら先程のやりとりを一巡するごとに、胃薬を一瓶消費しているらしい。



 屋敷の中は確かに広くはあるが、絢爛豪華よりも質実剛健といった言葉が似合う造りをしている。調度品も、武具や勲章・絵画など、歴代辺境伯の武功や歴史を示したものばかりで、派手さや芸術的価値などは無いに等しい。

 それでも、2人にとっては初めての豪邸である。胃を抑えながらフラつくケロックはともかくとして、まだまだお子サマなフニランは眼をキラキラさせながらそれらを眺めて歩いていた。やはり女の子は貴族とかの暮らしに憧れるものなのだろうか。



「お兄ちゃん、あれ・・・・・・強そう!」



 違った。武器にしか興味がなさそうだった。本当に将来が心配である。

 アードンとサムスンはそんな2人が微笑ましいのか、スピードを緩めながら先導してくれている。そんな気遣いあるなら服を着て欲しい。





「ふむ、この子達がそうかな?」



 突然正面から声をかけられ、4人は歩みを止める。


 そこに立っていたのは、腰の曲がった背の低い老人だった。

 この屋敷の庭師であろうか、オーバーオールに長靴を履き、頭に麦わら帽子を被った、とても温厚そうなおじいさんだ。



「ご隠居、また庭に出てらしたのですか」


「おっしゃっていただければ我々がご挨拶に連れて行くものを、わざわざ直接出向かなくても」


「ファランの小僧に子供がいると言うんじゃ、この目で見ておきたくての」



 門番である彼らがここまで(かしこ)まるのを見るに、どうやらただの使用人ではなさそうだ。

 ご隠居と呼ばれた老人は、ケロック達を値踏みするように見つめている。その眼光のあまりの鋭さにフニランは、ずっと手に持っていた木の槍を構え、兄をかばうように前に立った。



(昔はいつも僕の背中にくっついていたのに、立派になったなぁ)


『守られて喜ぶそれに兄としての矜持は無いのでしょうか。妹を守るよう母と約束したのでは?』


(妹が強くなり手がかからないのであれば楽ちん)


『クズ兄極まってますね』



 この妹にしてこの兄ありである。






(ふむ。妹が槍を取り、兄が見守るか。娘っこの方は未熟だがサマになっておる。師は居らぬだろうな)



 ケロックが兄バカな脳内会議を繰り広げている間に、老人は2人の実力を測っていた。彼は生涯を武に捧げて来た古豪であり、その方面への見識も深い造詣を持っている。

 本来なら、かつて世話をした者の子供という事で積もる話もあったのだが、フニランの戦闘態勢を見て瞬時に意識を切り変えたのだ。



(兄の方は、何考えてるか分からんのう。ファランの小僧が言った通りの子たちなら良いが、本来なら_____)「ここで排除すべきかのう?」



 あえて途中から物騒な考えを漏らすと、フニランが警戒の色を強めてにらみつける。老人からすればカマかけのつもりであったが、当のケロックは無反応だった。ちなみに門番双子は困惑しているようだ。



(気にしていないのか、隠してるのか、それとも聞いていないだけか。まあ何にしろ)



 試してみる価値はある。老人はそう考えたようだった。








 気づけば老人は消えていた。



 フニランがまばたきした瞬間だった。目が渇いたかもしれないし、冷や汗が入りそうになったのかもしれない。

 それでも、まぶたが閉じたかどうかぐらいのほんの一瞬。コマ送りように老人は消え去り、被っていた麦わら帽子だけが、アードンとサムスンの間で浮かんでいた。



「ふむふむ、目方は見た目以上だが、いささか小さいな。男の子ならたくさん食べて大きくならんと。いや、()()()()()()()()()()()?」


「ッ!!?」



 フニランが声のする後方に目を向ければ、兄が立っていたはずの場所に老人が立ち、ケロックを肩に担いでいた。それだけあっさりと、フニランの死線を越えて来たのだ。


 さきほどの猫背と違い、こうして背筋を伸ばして立たれると、なかなかの長身である。多少痩せてはいるが、骨格などからその頑健さが(うかが)える。

 本当に先程と同じ老人だろうか。銀色に光る短い白髪と鋭い眼差し、そしてその獰猛(どうもう)な笑みに、2人は『銀の狼』という同じイメージを連想していた。


 と言っても、互いの感じ方も反応も、全く別物だったりする。

 フニランにとっては兄を喰らおうとしながらこちらにも牙を向けようとする獰猛な獣に見えるのだが、ケロックからすれば自らを捕まえる老人から敵意を感じず、むしろ守ってくれるかのような安心感さえある。まるで遊び相手を見つけたかのような喜びも伝わって来ていた。



『随分と余裕があるような気がしますが』


(多分父さんが僕の身体の事話すぐらいの人だろうから、信用していいと思う。妹の成長も見れるし)


『クズ兄極まってますね』



「・・・・・お兄ちゃんを離しやがれ、DEATH(です)



 目の前の人物が圧倒的格上である事を認識し、兄の奪還が困難である事を悟ったフニランは、敬語で頼んでみる事にしたらしい。殺意と敵意を隠しきれないせいで挑発にしか聞こえないが。



(ほらアレカッコよくない? 勇者じゃない? 僕がヒロインなら絶対惚れてるわ。僕が魔王でフニランが勇者なら世界は平和!)


『本当にプライド無いのでしょうかこの人は』



 思えばこの2年で随分と兄バカになったものである。




「ふむふむ、少々手遅れだが、実力差を見て瞬時に交渉に切り替えたか。最適解だが儂は好かん。力尽くで奪ってみせろ小娘。あらゆる理不尽から守るべき者のために(ふところ)に飛び込め。そのための槍であろう?」



 老人はケロックを肩に担いだまま、空いた手でフニランを挑発した。



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