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アイゼンヴァルト辺境伯領

前回のあらすじ


変態馬襲来!母が毒を盛って降伏!

いざ、領主の元へ!




 アイゼンヴァルト辺境伯領の小都市『トッカータ』は、王国の最西端にある大きな街である。



 ケロック達が暮らす東の村から、徒歩より少し速い程度の馬車で数時間。草原と大森林を抜けた先にある。というより、森の中にあると言った方が正しい。


 何でもかつては魔物の巣窟だったようで、7代目勇者パーティの戦士 (当時男爵位)だった男が腕力に物を言わせて全滅させ切り拓いたのだと言う。

『魔王倒して貴族になったし、自分の領地ぐらい欲しいのう。手つかずで良さげな場所は……ここじゃっ!』という勢いで僅かな手勢を率い、強さだけなら準魔王級な森のヌシを討伐せしめたというから恐れ入る。


 そこからも開拓しながらの魔物討伐、複数の古代遺跡の発掘、それらを利用した農地の開発、帝国軍からの侵攻の防衛など、数々の実績を積んだ末に、小領ながらも一代で辺境伯位獲得という史上最速の偉業を成し遂げたのであった。

 以降十数代にわたり、自給自足が充分過ぎるほどに発展した都市は自然と要塞化していき、当時の強者達が築き上げた兵士のカリキュラムによって、現在も防衛線を維持し続けている。



「トッカータの中心には泉が湧いていましてね、泉の底には【浄滅石】という聖属性の岩盤が敷かれ、汚れや濁りの元となる沈殿物が蓄積されないようになっています」



 それだけならただの綺麗な水だが、実はこの泉と岩盤、古代遺跡の出土品であり、闇属性の【呪殺】に近い魔方陣が彫られている。

 この岩盤とケーブルで繋がっている闇の魔晶石に一日一回微量の魔力を込めると、なんと殺虫殺菌して浄化してくれるという優れもの。しかも、岩盤の浄化作用がある程度持続するものだから、飲めば風邪ぐらいすぐ治ってしまう。

 これが川になって森の外に流れ数キロ先まで続くのだから、領民達は健康そのものだし下水処理もほとんどいらないのだとか(下水については精神衛生上よろしくないのであまり語られないが)。

 ただ、聖属性の物質に闇属性の魔方陣は相反する属性なので、現代の魔法技術では再現不可能である。



「トッカータでは浄化作用が強すぎて魚も住めませんが、それらを利用し水栽培や水田に力を入れています。泉の水は瓶詰めが商品化され、上流階級に高値で取引されているそうです。おかげでトッカータは『大陸一清浄な街』とまで言われています」


「ベントレールさんは自分の事のように誇らしげに話しますね」


「自国の事ですから。お二人もこの素晴らしい国と素晴らしい土地の領民として誇って良いんですよ?」



 馬車の中で抑えきれぬ愛国心を熱弁するベントレールの解説を、ケロックとフニランは若干引きつつ聞いていた。

 そんな平和な道程で、ケロックはもう一度、出発時の母とのやりとりを思い返していた。



『ケロちゃん』


『?』


『・・・フニちゃんの事、しっかり守りなさい。お兄ちゃんなんだから』



 何からとは言われていないが、おそらく目の前にいる、このベントレールという男からという意味だろう。

 なんとなくだかそんな気がして、彼の熱弁も胡散臭く思えてならなかった。




「ああほらお二人とも、もうそろそろ森を抜けますよ」



 解説を中断したベントレールの呼びかけに、ふたりは窓の外に目を向ける



 ここまで進んできた森の中は、弱い魔物や獣がのんびりと暮らしており、基本的に人を襲う事はない。わざわざ狩りをしなくても人々は食べていけるし、森や獣達も初代領主の築き上げた治水の恩恵を受けているからだ。

 どうやら大元の殺菌殺虫作用も森まで流れてくると薄れていくようで、小川にはちらちらと小さな銀色の魚影が視認できる。

 綺麗な水で潤った地面は花や木々を育て、木ノ実や柔らかい下草を絶やす事なく、獣達にその糧を与えている。


 やがて森を抜け、街を囲む石の外壁と門が見えてくる。


 今見えている東側の壁は傷一つないが、かつて帝国からちょっかいをかけられていた西側の国境線の壁は、傷や補修の跡が目立つらしい。

 今はその先の大渓谷を越えてくることすらなく、役目を終えた壁は次あるかもしれない機会に備えて佇んでいる。

 初代からずっと街を支えた防衛線だ。威圧感と安心感が同居する見事な壁だった。



 馬車は門を抜け街の中に入り、緩やかな勾配とともに、外周・内周・中心部へと登っていく。


 外周は商店と住宅が混在する居住区。

 白い壁に赤い屋根の家が多く、どの道にも必ず水路が通っていて、皆そこから水をすくって生活をしていた。その生活の様子は先進的と言えないが、領民達の表情はどれも生き活きとしている。


 内周は複数の大きな建造物を除き、広大な農地で埋め尽くされた農業区。

 棚田や段々畑が広がり、イヌイモ・オニワサビ・水麦などの綺麗な水でしか育たない作物が植えられている。


 そして中心部。

 四方に水路が通る小高い丘のてっぺんには、一際大きな建造物がそびえ立つ。石レンガに覆われたそれは、もはや小さな城と言っても過言ではない。

 丘を登る途中、黒と白の花畑が足元に広がっているのに気づく。

 闇の瘴気溢れる場所にしか芽吹かない【黒寿草(コクジュ)】と、光溢れる地でしか花を咲かせない【白麗花(ビャクレイ)】。交わらないはずのこの二種は相反する土地の性質を受け、まるで「これこそが本来在るべき姿である」とでも言うように咲き誇り、仲良く並んでいた。『トッカータの奇跡』と呼ばれる、唯一無二の光景である。



 丘を登りきると、城の全容が明らかになる。


 城門の周囲にあるのは、低い石垣で囲まれた、城の運用を補助する区画。放牧場や見張り用の前衛塔などがあり、常駐する屈強な兵士達が訓練を行っている。

 大きな堀を跳ね橋で渡り、最初の城門を抜ければ、そこは使用人や兵士たちが住まう中庭となっている。厩舎や井戸、菜園、倉庫などもあり、必要なものはここで大体揃うようだ。見上げれば、さらに高い位置にもう一つの城壁と城門があり、そこから城のもっとも高い主塔が頭を覗かせていた。どうやら城の中庭は二層構造になっているようで、あの城壁の中に領主達の住まう屋敷があるのだろう。



 そして、次の城門に繋がる大階段の前で馬車を降りたケロック達。

 そこで待ち受けるのは、兵士でも使用人でもなく。







「我こそがぁ、アイゼンヴァルドの領地を治めるぅ、バルディウス・バルガ・フォン・アイゼンヴァルドだぁ、()ぅン!!」



 赤いふんどし一丁で、華麗にポージングを決める、毛深めのムキムキマッチョメーンだった。




「げぼはぁ」


「お兄ちゃん!!?」



 直前まで小一時間に渡り美しい街並みを見てきたケロックにとって、目の前の熱苦しい光景は落差がひど過ぎた。この世に生(もとい死)を授かってから、母の手料理以来の黒い吐血である。

 ちなみに順応力が高いフニランは、先刻のスタボロス(ブタ馬クソ野郎)とのやりとりによって耐性が付いていた。



「カヒュー・・・もう帰りたい・・・・カヒュー」


「しっかりしてお兄ちゃん!!!!」


「耐えるのですケロック君、そんな事ではこのお屋敷でお世話になれません」



 どうやらこの光景、一部の草食系男子の胃に穴を開けるらしく、既に経験済みなはずのベントレールも、鳩尾(みぞおち)辺りを押さえながら白い錠剤のようなものを口に入れていた。


 バルディアス・バルガ・フォン・アイゼンヴァルト辺境伯。身長213cm体重168kg。御歳42の彼は分厚い胸板にモッサリと毛を生やし、眉なし丸坊主の鋭い眼光の下には、どこぞの大海賊も斯くやの立派なカイゼル髭が、顔ひとつぶん左右に広がって天を指していた。

 我らが主人公にここまでのダメージを与えるとは、なんてでんぢゃらすなじーさ……おっさんであろうか。今も左の大胸筋をピクリコさせてプレッシャーを与えているせいか、ケロックの心の野獣(ハリネズミ)は威嚇も出来ず瀕死の重傷である。身体はもう死んでるけど。



武々(ムム)ッ! 我の肉体美、少年には刺激が強かったようだ。アードン! サムスン!」


「「お呼びでしょうかお館様!!」」



 筋肉ダルマの呼びかけに馳せ参じたのは、大扉の横にあった二つの彫像。無機物だと思っていたそれらは、双子の筋肉門番パロズィウス兄弟だ。主人であるアイゼンヴァルト辺境伯よりもふた回りほど小さい(それでも180cm越え)が、ゼクロ◯や松崎し◯るも斯くやの黒光りする筋肉とブーメランパンツが美しい。あまりの美しさに、ケロックの心の野獣(ハリネズミ)の背中の針が抜け落ちていく。



「どうかね今日の我のカラダは、()ンッ」


「キレてます仕上がってますよお館様」


「肩にでっかい馬車乗っけてますかお館様」


「よろしい! 客人を案内せよ! ベントレール殿は応接間、子供達はファラン殿の元へ!ワシは正装してくる!」


「「かしこまりましたお館様!!!」」



 右から黒・白・黒の順にダブルバイセップス・モストマスキュラー・サイドチェストのポージングが並ぶ。やがてケロックの以下略が全身の針を喪失してしまう。



「ケポケポケポッ(吐血)」


「お、お兄ちゃーん!!!!」


『さっきの馬車の大きさでも、この3人は乗るでしょうかね。というか何故パンイチ』


「ウグッ! だ、大丈夫です。この屋敷であのような身体は、あと2人だけですから」



 吐血が止まらない兄を心配しながらも頬を赤らめるフニラン、実は筋肉フェチかもしれない。逆に心配である。

【天の声】はやっぱりスキルなのでサポートするべく分析を行っていた。全身脱毛後のハリネズミのケアサポートはしてくれないようだ。

 ベントレールもさすがにダメージがデカいらしく、錠剤をラムネ感覚でポリポリしていた。こんなのがあと2人もいると言うフォローが、いったい何の慰めになるのか。

 少し離れたところでそれらを眺めハァハァ言ってる馬のバケモノに気付いてしまったら、ケロックは今度こそ完全にお陀仏だろう。



 主人公、ここで再び死んでしまうのか! もう死んでるけど!



・ダブルバイセップス

 腕を左右に向け肩から上に折り曲げ、上腕二頭筋と胸筋を中心に上半身を見せつけるポージング。


・モストマスキュラー

 前屈みになり、全身をこれでもかと強調した最も迫力あるポージング。


・サイドチェスト

 片方の手首を掴み横を向いて身体をひねる。胸の厚みと手足の太さを強調するポージング。


 筋肉って男の子の憧れだよね。

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