旅立ち
よろしくお願いします。
「はぁ...」
今日も一人家へ帰るため村の中心へと向かう。俺のいる村は村長の住む家を中心に囲むように円状に家が建てられている。更にその周りに畑がある、俗に言う農村である。中心へ向かうといったが村長の家より畑の方が近いので中心に沿うように外周をまわるといった方がいいかもしれない。
「ただいま」
家に着き、台所へ向かい水の出る魔道具から水を出し、手を洗う。畑仕事をしていたため手についていた土の汚れが落ちる。そしてため息の原因たるものを手に取る。
「少ないな...」
手の上には今日の夕飯であるはずの食材である。買えただけマシだと思うが流石に量が少ない。パン一切れとお肉一口、野菜が申し訳程度である。なぜこんなことになっているかというとそれは数日前に遡る。
「鑑定していない者はこれで全員か?」
王都から来た鑑定水晶を持った騎士が村長に問う。
「これで全員でございます」
「了解した。今から鑑定を行う、一人ずつこの水晶に触れ」
今日はユニークスキル鑑定の日だ。この世界ではスキルというものがあり、その中にユニークスキルというものがある。ユニークスキルは生まれた時から自分に備わっており唯一無二の自分だけのスキルである。ユニークスキルは千差万別あり、詳しくは割愛させてもらうがユニークスキルの強さ、便利さで今後の人生が左右されるといってもいい。鑑定には少なくないお金がかかるため、そして鑑定に必要な鑑定水晶は大きな街などにしかなく、このような小さな村では鑑定はこのように王都から数年に一度くる騎士が持ってくる鑑定水晶で鑑定をするしかない。この場合は無料で鑑定して貰えるのでこの機会に小さな村は鑑定をしてもらう。過去に小さな村で神級と分類されるユニークスキルが見つかった例があるため、このように小さな村にも鑑定がされるようになったのである。 しかし小さな村は無数にあるので流石に毎年騎士を派遣するのは難しいため、数年に一度なのである。
「次の人前へ」
「はい!」
遂に自分の番が来たので返事をして前へ出る。数年に一度であるため、このような小さな村でもそれなりに人数がいる。そして十歳で鑑定ができるのはかなり運がいい。遅い人は十五歳などかなり大人になってから鑑定するなど珍しくないからである。
「軽く手で触るだけでいい」
「分かりました」
言われた通りに水晶に触ると空中に透明な板が現れ文字が表示される。
(どんなユニークスキルかな!超級以上!!とまでは言わないからせめて上級ぐらいがいいな!!)
<身体成長>
効果:身長が伸びやすくなる。
「は...?」
思考が停止する。
「...まあ、そんなもんだ。気を確かに持て...次!!」
鑑定水晶を管理してた騎士も掛ける言葉が思いつかなかったらしく、それだけいうと次の人に呼びかけ、俺は列を管理していた騎士に誘導されその場から離された。
「よお、お前はユニークスキルなんだったんだ?」
鑑定は村の広場で行われており、俺は広場の隅に移動し呆然としているとニヤニヤしながら話しかけてくる奴がいた。
「なんのようだ?」
「おいおい、つれないこというなよ」
こいつの名はカペル。このスモル村の村長の孫である。何かと俺に突っかかってくるめんどくさい奴だ。
「...でなんだ?」
「言わないとわからないのか?ユニークスキルだよ。なんだったんだ?」
「普通だよ」
こいつには絶対に言いたくない。過去に好きな人を聞かれ、その時は純粋で素直に話したら色々な奴に言いふらされ恥ずかしい思いをしたのだ。本人にも伝わり、それはもう...ええい!もう吹っ切っきたはず!!俺よ!あの時の屈辱は忘れるんだ!!!
「普通?ただ身長がっ伸びるっふっだけがか?」
と笑いを堪える素振りすらせず言ってきた。
「なんで知ってるんだよ!」
「いやなに、お前の後ろにたまたま並んでただけだよ」
「.....」
気付かなかった...一番見られたくなかった奴に見られるとは。
「ふっ...これでお前は終わりだな」
とここで意味の分からないことを言ってきた。
「どういうことだ?」
「お前は自分の立ち位置を知らないのか?」
「立ち位置?」
「この村は農村だ。農村といってもうちはそこまで裕福ではない。そして、先月の収穫量だ。お前も少なかったことを知っているだろう?そしてお前は親がいない」
そう、両親は物心ついた時からいない。俺を育ててくれたのは家の隣に住んでいたガッドおじさんである。今はガッドおじさんに畑の耕し方など基本なことを教わり、一人で畑を耕し野菜などを育てている。
「それがどうしたんだ?今更だろう」
「そう、今更だ。いや今更すぎともいうだろう。鑑定を行ったということは自分の能力を把握したということだ。つまり、自立することもできるということだ」
「...何が言いたい?」
「簡単にいえば、村を追い出されるだろうな」
「!?どっどういうことだ!」
「考えれば分かるだろう。お前は親がいないということはお前だけ他のとこと違い、収穫量が少ない」
図星だった。ガッドおじさんは奥さんがいるし、しかも長年行なっているので効率的である。それに対して、自分は一人で畑を耕している、そしてまだ色々と拙い。収穫量は圧倒的に少ない。つまり暗に先月、いや今までも収穫量に俺は貢献していなかったのだろう。確かに今更だ。
「更にそのユニークスキルだ、村に少なからず有益な能力だったのなら色々と変わっただろうが...」
「.....」
「これにて、鑑定を終了とする」
とここで鑑定を行なっていた騎士が終了の言葉を言い放った。その後は特に何もなく解散となった。
「これからどうなるかは俺には分からない。決めるのは村長だ」
それだけ言い放つとカペルは村長と共に家へと帰っていった。
これが今に至る理由である。更にいえば今日遂に村長直々に、
「もう畑を耕さなくて結構」
と言われてしまった。村の人達にも何か伝えられたのか、今まで普通に物を買えたのだが、今日いざ食べ物を買いに行くと今まで払っていた同額のお金を払ったのにも関わらず、三分の一ぐらいしか貰えなかったのである。文句を言うと食えないのと少しでも食えるのどっちがいいと言われる始末。
「これからどうなるんだ...もしかしたら、明日は村を出てけとか言われたりして」
ははっと乾いた笑いが自然に出てしまったが全然笑いごとではなかった。
「まあ、確かに食べれるだけマシだな」
全て、一口サイズなので1分もしないで完食できるがゆっくり味わって食べた。その後は空腹を忘れるためベッドに入り寝ることにした。
翌日、空腹も混じって朝早くに起き、顔を洗い畑に行く準備を癖でしようとしたが行く必要がないことを思い出し、どうしようかと悩んでいると誰かがドアをノックした。
「誰だ?...こんな時間に起きる人なんて少ないはずだが」
夜明けから少し経ったぐらいの時間のはずなのでまだみんな寝てるはずである。
「はい?」
とドアを開けると
「ミズキ君、おはよう」
村長であった。後ろには誰もいないので一人だろう。
「こんな朝早くにどうしたんですか」
「あぁ、朝早くに済まないが話があってね」
「話とは?」
こう言われては、こう返すしかないだろう。まあ話の内容は予想がつくが。しかし、昨日言ったことが当たるとは運がいいのか悪いのか。
「率直に言わせてもらおうか...村を出てくれ」
「...なぜでしょう?」
「言わなくても分かると思うが?カペルに聞いたのであろう?」
あいつめ...
「...しかし、俺はここ以外に行く場所がないのですが?」
「確かに、それは悪いと思っている。しかし、こちらも村人達の生活がかかっているのでね。そこを考えてもらうと助かるかな」
...村長の中では俺は既にここのスモル村の村人ではないらしい。俺もここのの村人だろうが。
「なに、タダでとは言わん。餞別としてこれを渡そう」
渡されたのは金属の擦れる音のする布袋である。つまり金だ。
「...」
「今日、昼頃に商人が来る。ちょうどここに寄った後は王都に向かうらしい。王都なら仕事が何かしらあるだろう。一緒に乗せてもらえるように頼んでやるから、今日中に村から出るように。では、私はもう失礼させてもらう」
と一方的に言いたいことをいい帰っていった。しばらく無言でドアを見つめ、手に掴んでいた布袋を覗くと銀貨が三枚入っていた。
「少な...」
安い宿で一泊とご飯付きで銀貨一枚と銅貨四、五枚(銀貨一枚=銅貨十枚)である。つまり二泊しか泊まれないのである。
「いくらなんでも...はぁ、昼に来るっていってたな。荷造りするか...」
荷造りはすぐ終わり、ちょうど村人たちが起きだす時間になってきたので隣のガッドおじさんとおばさんに挨拶をしようと向かう。
「ガッドおじさん起きてる?」
数秒間が空きドアが開く。
「ミズキか、こんな朝早くにどうしたんだ?」
と言われとりあえず中に入れと促された。おばさんは台所で朝ごはんを作っていた。忙しそうだったので声をかけずに奥にあるテーブルの椅子に座った。対面にはガッドおじさんが座った。
「して、どうしたんだ?」
と聞かれたので、早朝にあった出来事をありのまま伝えた。
「そうか...」
ガッドおじさんはしばらく無言で目を瞑った。俺は伝えなきゃいけないことを伝えるため口を開いた。
「ガッドおじさん、エヴァおばさん、今までありがとうございました」
エヴァおばさんもいつの間にか椅子に座り話を聞いていたのかおじさん同様困った感じの顔をしていた。そして、俺が感謝を伝えるとガッドおじさんとエヴァおばさんは涙を流しながら口を開いた。
「儂らが本当の家族ならばなあ...」
「ミズキちゃん、何も出来なくてごめんね...」
こんなことを言ってくれるのは村の中でおじさんとおばさんだけなので俺も自然と涙が溢れ出してしまった。
「...その気持ちだけで嬉しいよ..昼に村を出るけど迎えはいらない。もしかしたらおじさん達にも迷惑が掛かるかもしれないから」
「....分かった。ミズキ少し待ってなさい」
とガッドおじさんは席を立ち奥の部屋に入っていった。3分ぐらい経ちガッドおじさんが戻ってくると手には布袋が握られていた。
「ミズキ。受け取れ」
布袋からはまたしても金属の擦れる音が聞こえた。
「!?受け取れません!これ以上迷惑はかけっ」
「ミズキちゃん、私たちは今まで迷惑に思ったことなど一度もないよ」
「そうだぞ、ミズキ。儂らはな、子宝に恵まれんかった。しかし、小さなお前を引き取り子供がいたらこんな感じだろうなという気持ちを知れた。それはお前だから知れたことだ。だから逆に感謝をしたくらいだ。これは、ある意味感謝代と言っていいかもな」
と最後に微笑みながら布袋を渡してきた。こんなこと言われてしまったら受け取るしかないじゃないか。
「ありがとう....改めて、ガッドおじさん、エヴァおばさん今まで本当にありがとうございました」
目をちゃんと名前をいいながら見つめ、頭をテーブルすれすれに下げお礼を言った。
「荷物はそれだけかい?」
ガッドおじさんとエヴァおばさんにお礼を言ったあと、最後に朝ごはんを一緒にと言われたので食べて、3人で最期のお別れを言いながら抱き合い一度家へ戻り、荷物を持ち、最後に村を散策し広場で商人が来るのを待った。散策を終えた時にはほとんど太陽が天に近かったので、然程広場では待たなかった。
荷物の量を聞かれたので俺は返事をした。
「はい、これで全部です。無理を言って乗せてもらってすみません」
「いえいえ、大丈夫ですよ。この村にはかなりお世話になったので」
商人が言うには、まだ新米の頃あまり自分の商品を買ってもらえなかったがこの村だけは商品を買ってくれたのだとか。その優しさを少しでも俺に分けてくれ。
「では、出発しますが大丈夫ですか?」
「はい、道中よろしくお願いします」
この日初めて村の外へと向かって行った。初めての村の外はとても広々としており、空も青空で迎えてくれた。そして北東に顔向けるとものすごく遠いはずなのに近いと錯覚してしまうほど大きな塔の姿があったのだった。




