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第二話:銀の鏡

 アインに手を引かれ、ツヴァイが訪れたのは月がよく見える湖畔のベランダだった。

「綺麗な月ね……。」

 アインは、ツヴァイにそんな言葉を投げかけた。


 ツヴァイは、その言葉を聞いて僅かに驚いたような顔をする。

「私はまた、言葉を間違えたのではないのですか? みんなを傷つけて、だから叱責されるべきなのではないのですか?」


 アインは、その言葉を聞いて朗らかに笑った。

「私は、なんでツヴァイちゃんがあんなこと言ったのかわかってる。役に立とうと思ったんだよね、役に立ってそれで死ねるならツヴァイちゃんはそれでもいいんだよね?」


 ツヴァイは全て見透かされていることを知って、敵わないと少しはにかんだように俯く。

「アーティファクト・アインの心理分析は的確です。私はあの時、確かにそう思ってました。」

「そうだよね。ツヴァイちゃんのことだからそうなんだと思う。人一倍頑張り屋さんで、人一倍みんなのために動こうとする、そんなツヴァイちゃんが私は大好きだよ。」

 ツヴァイは、アインのその言葉を聞いて少し嬉しくなった。何のために生きるのか、それをみんなのためと結論付けて生きてきたツヴァイは理解など別に求めていないつもりだった。


 だけど、アインは理解されて、それを愛されて。途端に、胸の奥からぬくもりがこみ上げてくるのを感じた。

「ありがとう……ございます。」

 ぬくもりが、胸を満たすと今度は、心が言葉を止めた。だけど、ツヴァイの表情は朗らかに、微笑むようだった。


 アインは、そんなツヴァイ見て一度大きく頷いた。

「どういたしまして、でもねツヴァイちゃん。みんな同じなんだよ、みんながみんなのためにって思ってる。じゃあツヴァイちゃん以外のみんなにとって、みんなって誰かな?」

 アインは、諭すように、ゆっくりと、ひとつひとつの言葉を大事にするように言った。


「みんなにとってのみんな……。」

 ツヴァイは何かに気づいたように顔を上げた。


「みんなにとってのみんなにはツヴァイちゃんが含まれてるんだよ。」

 アインのその言葉にツヴァイは押し黙った。


 だから、代わりにアインが言った。

「私たちは、みんな違うけど、みんなおんなじ気持ちを少なくとも一つ持ってる。だから私たちは家族でいられるんじゃないかな」

 その言葉を聞いて気づいたように、顔を上げたツヴァイはアインの後ろに水に映る月を見た。


 湖の先に続いてく砂と岩ばかりの土に根を下ろした、淡く光る白い草はとても美しかった。


「同じ……。私も……?」

 ツヴァイにその問の答えはわかっていた。


「ツヴァイちゃんも、私もお揃いの気持ち。みんなが大好き。違う?」

 ツヴァイは首を横に振った。

「違わない……。」


 それを見てアインは満足そうに朗らかに笑って柵から先を眺めた。

「シロクサ、綺麗ね。」

 ツヴァイも同じものを眺めた。


「私には、いつもと変わらなく見える……。」

「そう? 私には海ってこんな感じなのかなって見える。知ってる? どこまでも、水が続いてて、水面がキラキラしてるんだって。それで、ちょっとしょっぱいんだって。」

 語るように、話すアインの目は希望に満ちているように見えた。声は普段より少し大きく高く響く、その姿は夢を見る少女のようですらあった。


「私には星に見える……。」

 ツヴァイは淡々と、それがまるで当たり前のように言った。


「星! 星だって素敵じゃない?」

 アインは、ツヴァイの手を取り喜んでいるかのように声を弾ませる。


「そう……ですか……?」

 アインの勢いに少し気圧されるツヴァイ。


「知ってる? あの星、いつも、ずっとあそこにある。その星から見て、あっちが東、太陽が昇ってくる方。」

 アインは気圧されたツヴァイを見て、今度はゆっくりと、丁寧に、一つ一つを指さしながら話していく。


「導の北星。思えば何度か助けられましたね。」

「うん、あれが見えると自分がどこにいるのか、どうすれば家に帰れるのかわかるよね。」

 アインは、それを懐かしむように目を細めた。


「あれが見えると安心します。帰れるんだ、って少し希望が見えると思います。」

「花より団子、それもツヴァイちゃんらしさだね。もっと素直になりなよ、そんな希望を表現するのもきっと無駄じゃないと思うよ。」

 アインはそう言って、ツヴァイの頭を撫でた。


「私たちアーティファクトは機械です。」

 ツヴァイはうつむき気味に、アインの関節を見つめた。

 球体が、繋ぎ合わせられたような作りの関節はひと目で作り物だと分かってしまう。

 自分の関節にも同じような機構が埋められている、目立たないように隠されているだけ。


「でも、そうは作られてないはず。だって、ただの機械に心なんていらないもん。」

 アインはツヴァイの前でその関節すら誇るように胸を張ってみせた。

 言い切ってみせた。


「そう、なのでしょうか……」

「そうだよ。だって、ツヴァイちゃんのボディは私がマリーさんと作ったんだもん。」

 ツヴァイはそれを聞いて何かに気づいたようにアインの目を見た。

 アインは、最初からツヴァイを見ていた。


 アインは、ツヴァイの目をじっと見つめるようにしながら言った。

「私たちはね、マリーさんやアヴィーちゃんと何も変わらないの。そういう風に作られてるんだよ。一人の人として。だから、ツヴァイちゃんもたまには息抜きしなきゃ疲れちゃうんだよ。」

 ツヴァイは、アインの言葉を少しだけ時間をかけて理解して飲み込んでいった。


 ツヴァイが気付かなかったツヴァイ自身の心は、もっと豊かで様々な感性を秘めていた。

「ありがとう、アイン。たまには、星を愛でてみることにしますね。」

 ツヴァイはそう言って、アインに笑ってみせた。

 その笑顔は、とても自然で機械であることも忘れてしまいそうになるほど美しかった。


 だって、ツヴァイが受け入れた心は光るシロクサと夜空をどこまでも続く大自然のプラネタリウムのように映し出していた。

ツヴァイがシロクサを星と言う会話を探すためにものすごく苦戦しました。

その一言こそこの第二話で最も書きたかったものです。

ですがもう少しよくなる可能性もあるのでまだまだ、書き直すかもしれません。

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