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第一話・ドライ・クラジオラス・ゴールド

 窓から差し込む光は僅かに橙を帯びて長く伸びている。

「そろそろランプをつけようか……お願いねリリー」

 絹のような黄金色の長い髪は、光に照らされて橙色に見える。


「マリーさん、アインって呼んでください!」

 そう言って、微笑む赤い髪の女性。アイン・リリー・ゴールドは、どちらの名前も気に入っていた。

 割り振られた数字、アインからは姉妹としての繋がりを感じている。一方リリーと言う最初に与えられた名前、そこからは与えられた愛情を感じていた。だからこそ、その言葉は弾むように楽しげに響いた。


「あぁ、ごめんね。そうだね、新しい妹も生まれるんだしね。余計にそっか」

 感慨深いような、それでいて期待に胸が躍るような、そんな声色だった。


 そう言っている間にもアインはランプに火を入れた。

 ほんの少しだけ、薄暗くなっていた部屋を光が照らし出す。


「ええ、私、ツヴァイちゃん、そして今からはドライちゃんも一緒です。私としてはゴールドでもいいのですがね、それだとみんなゴールドなので困ってしまいますね」

 困ってしまうと言う割には、その顔はどこまでも朗らかに柔らかかった。


「マスター、もうすぐアーティファクト・ドライの完成です。一度休憩なされては?」

 ランプの光がつくと、窓の枠が影を落としていた場所に誰よりも明るい銀色の髪をした少女が照らし出される。


「大丈夫だよ、ツヴァイちゃん。みんなに早くこの子を紹介したいから、私、頑張る!」

 銀髪の少女ツヴァイに、そう言って笑いかける金髪の少女マリー。その膝の上に、またしても別の少女が転がり込んだ。


「どんな子!? どんな子!?」

 元気な声色で問いかける少女には他の全員と異なる点があった。


 耳が三角形で頭の上の方に有り、ゆらゆらと愉快そうに揺れるしっぽがスカートから顔をのぞかせる。

 しっぽも耳も髪の毛も、全部が美しいアッシュグレー。まるで、猫のような少女だ。


「この子はね。とっても人の気持ちを考える子。きっと、素敵な子になってくれると私は信じてるよ。」

 そう言って、マリー膝に乗せられた猫のような頭をそっと撫でた。


「アヴィーちゃん。あまり邪魔をしたらダメですよ」

 と言う、アイン。

「マスターはちょっとだけそうしていることを推奨します」

 と言う、ツヴァイ。

「怒られちゃった……」

 そう言って、少しだけ落ち込むアヴィー。


「そうしてると、アヴィーちゃんは本当に猫みたい」

 そんな風に笑うマリー。


「にゃ!? 猫じゃないよ!」

「猫じゃないという割に、にゃって言っちゃったじゃない……。」

 否定するアヴィーが余りにも可愛らしくて、マリーはついつい頬が緩んでしまった。


 やがて太陽は傾いて、世界を赤く染めていく。


「そろそろ、仕上げよっか。この子の名前はドライ。ドライ・クラジオラス・ゴールド。私たちの、新しい妹だよ。」

 マリーがそう言うとベッドの上に横たわっていた桜色の髪の少女が目を覚ます。

 少女は、ドライは、しばらく呆然とあたりを見回していた。


 ドライの視界に映った人はみんな誰もが優しい笑顔で、ドライにとってその中でもひときわ暖かく見えた人に向かって初めて声を出した。

「おかあさん……?」

 ドライにとって、それは無意識だった。


 マリーはその言葉に驚いた。それと同時にマリーの心の中には嬉しさがこみ上げてきた。

 なんどだって、何度体験しても嬉しい。

 だから、言葉を返す。

「私はマリー。あなたはドライ、私たちの妹……。」


 その場にいた全員も次々にドライに自分の名を告げた。

「私はアイン、あなたのお姉さんだよ。」

 とアイン。

「私はツヴァイ、二番目に作られた。」

 とツヴァイ。

「私はアヴィー、猫じゃないよ!」

 と元気よくアヴィーが手を挙げ。

 それを見て、マリーが喉を撫でる。

「また猫扱いするにゃ!!??」

 と、アヴィーが怒ってまっさきに笑う。

 それは元気でムードメイカーなアヴィーをよく表した自己紹介だった。


「マスター、私、アーティファクト・ツヴァイは単独による探索任務を開始したいと思います」

 ツヴァイは不意に、そんなことを言い出した。

「なぜ?」

 ツヴァイを問いただすマリーの瞳に剣呑な光が宿る。

 だが、それを無視するかのようにツヴァイは言葉を続ける。

「私には、私を超える性能を持つ後継機としてのドライの存在があります。よって、私はこの機により多くの情報を収集し移住候補地を探索することが懸命だと思います。そのために、どうぞ私をお使いください。」

 ツヴァイは胸に手を当て、満ち足りたかのような表情で言った。


「使う、なんてそんな道具みたいに……。」

 マリーの表情はみるみる変わっていった。優しい笑顔が、剣呑になり、泣き出しそうになり。

「嫌だ! 私は、ツヴァイねぇのこと道具だなんて思ったことない! 家族だって、一番近い、一個上のお姉ちゃんだってそう思ってた! だから、絶対嫌にゃ!」

 そう、叫ぶアヴィーの目には僅かに涙が溜まっていた。


「ねえ、ツヴァイちゃん。少し、私とお話しよう。」

 アインはそう言って、ツヴァイの手を取った。

 手を取られたツヴァイは、一瞬困ったような顔をして。それから、ゆっくりと頷いた。

 アインとツヴァイが去った部屋には今にも泣きそうな二人と、物事を飲み込めないままのドライだけが残された。

 その頃にはすっかり外は暗く、月の優しい光が部屋の中に淡く差し込んでいる。


「おかあさん……これ何かな? 暖かい、と冷たいの間でなんだかとっても不安定で、壊れそうで。」

 唐突にドライが言った。

「そういう、気持ち……かな? ごめんね、うまく言い表せないよ」

 マリーは、その気持ちの名前を知らなかった。だけど、ドライが言いたい儘なならさ、すれ違う寂しさのことは理解していた。


「そういう気持ち……。そういう気持ちに、なっちゃったよね……」

 ドライは、そう言いながらアヴィーにゆっくりと歩み寄って、抱きしめた。

「なに……?」

 されるがままに抱きしめられたアヴィーは戸惑って問を投げる。

「そう見えただけ……。そういう気持ちになっちゃって、最初に言葉が出ちゃって。本当は、もっと伝えたかったよね……。」

 ドライは抱きしめたアヴィーの頭を優しく撫でた。


「そうにゃ! そうにゃ……! 否定したかったんじゃない……、ただ一人で頑張ろうとするツヴァイねぇが苦しかったにゃ……」

 ドライは腕の中でそう言って泣く、アヴィーの言葉に何度も頷いて、何度も何度も頭を撫でた。

「ドライ……?」

 マリーには不思議だった。抱きしめる、なんてこと教えた覚えがない。なのにドライは、アヴィーを抱きしめた。


 それが、不思議だったし、とても優しく見えた。とても、美しく見えた。

「なんとなくだよ、お母さん。なんとなく、悲しい気持ちもこうやって、押し出しちゃえるんじゃないかなって……」

 ドライの笑顔はとても優しかった。

「そっか……。」

 マリーは、それがあまりにも綺麗でうまく言葉を選べなかった。


「あの子の言葉は、口から出るときは暖かいのに、人に届くときはとても冷たかった。お母さんは、それもわかってるんじゃないかな? お母さんにもそういう気持ちあるんじゃないかな?」

「うん、そうだね。」

「じゃあ、お母さんもおいで……。一緒に全部吐き出そ?」

「うん……」

 まりーにとってそれはちょっと悔しい話ではあった。生まれたばかりの我が子に慰められたのだから。

 同時にとても、嬉しかった。優しくて、人を思いやれる我が子の在り方が。

この話の題材は「優しさのすれ違い」です。

皆様にも届きましたでしょうか……。

さて、次の話から少しずつ世界が自己紹介を始めます。

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