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02


 両親のお葬式が騒々しく終わった一月。

 ……はい、十二月に殺されてしまった両親の葬式なんですが、実は一月の正月明けに執り行われました。

 わたしが寝込んでいたからだ。

 その後も体調を崩してしまい、わたしは病院での生活を余儀なくされている。

 殺人事件があったのは両親との思い出が詰まった自宅。家政婦さんがいるので、日々の生活には困らないし、事件の痕跡などきれいに片付けられているだろう。

 しかし、自分を庇って亡くなったトラウマの塊のような家で気が休まるはずもない。

 事件後、食事をまともに取ることもできなくなったわたしは、点滴のご厄介になる必要もあって、ひとつき近く病院のお世話になっていた。


 とはいえ、そろそろ退院して小さなアパートでも借り、独り暮らしでも始めようかなんて考えている。まあ、無理なんですけど。前世では三十代だったとはいえ、今世ではまだ六歳。小学一年生だ。

 だけど、独り暮らしが無理でもそろそろ退院したいのは事実だ。しかし、ちょっとでも起き上がると小舅のようにうるさい幼馴染がいるから、中々行動にでられないでいた。


 少しでも早く動きたい気持ちばかりが募っていく。

 小学校は二年になるまで休学することになっている。

 だからそれほど急がなくてもと周囲の意見ではあったけれど、わたし以外の日常は進んでいるのだ。そのことが心配で、早く自由の身になりたかった。


 わたしの妄想でなければ、『極彩色の花が散る時』というタイトルのBLゲームの世界。

 このゲームは十八禁ということもあって、メインの登場人物たちの過去が悲惨なものが多い。そのほとんどが幼少期に受けた傷だったりする。

 主人公の悲惨な過去の要因は全てわたし、冷泉院彩羽だから問題はない。

 しかし他の同年齢の攻略対象者たちは、トラウマまっただ中。どうにかして助けられないかってちょっと考えてしまっている。


 それがこの世界にとって正しいことだとは思わない。

 ただ、あまりに悲惨で……わたしという存在で少しずつ差異ができている。なら彼らを助けてもいいんじゃないかって思ったんだ。

 桜空のように。


 主人公というだけあって、ゲームの彼の過去は悲惨なものだった。

 母親が親友同士ということもあり、幼稚園に通うより前から一般家庭の花房桜空(はなぶさ おうぞら)は超名家である冷泉院彩羽(れいぜいいん いろは)と知り合う。

 絵に描いたような我が儘お嬢様で桜空は、彩羽のことを嫌っていた。しかし、そんな彩羽の両親が殺され引き取り手がなかったため、桜空の母は親友の忘れ形見と思い引き取る。ここからが、桜空の地獄が始まる。

 まず、自分が暮らすには家が小さい、といい両親の遺産を使い新たな家へと引っ越す。

 次に、桜空を自身が通う金持ち学園に転入させる。一般家庭の彼らに払えるわけもなく、彩羽が代わりに用立てていた。ただの嫌がらせだ。

 生活が突然変わったことにより、桜空は次第に笑顔を失っていく。

 学園では彩羽が学園の学費も払えない貧乏で自分の下僕宣言したため、イジメの毎日。

 金持ち学園ということもあり、庶民への風当たりは強い。小学生は生粋の名家の出のものしかいないため、余計にだ。

 小学校二年の頃に転入したが、三年の途中から登校拒否が始まる。

 心配していた桜空の母親はそれを許した。昼間なら彩羽がいないから、心安らかに過ごせると思ったからだ。


 桜空の母は登校拒否になる前、彩羽を施設にいれようとした。しかし、冷泉院の名は有名でどこも引き取りたがらなかったのだ。彼女の祖父に頼みにいったが門前払い。これではどうすることもできない。では彩羽の性格を矯正しようと試みたが、桜空への暴力がエスカレートし諦めてしまった。

 そんな日々の中、桜空の怒りがピークに達したのだろう。

『人殺し!!』

 と、彩羽の中のトラウマに触れてしまったため、桜空は階段から突き落とされ全治三ヶ月の怪我を負わされた。

 ここまでが小学校編。


 そして本編のシーン回想で明らかになるんだけど、トラウマを刺激された彩羽は復讐を誓っていて、それを桜空が中学三年の時、実行に移していた。

 人殺し、彩羽の幸せを奪った両親の死を思い出させるその一言を彼女は許すつもりはなかった。

 だから――同じようにしたのだ。

 桜空に襲いかかる雇われヤクザ。庇う両親、そして迎える結末。

 彩羽はにっこりと笑い、桜空に言い放ったのだ。


『ヒトゴロシ』


 いやいやいやいや!! おまえだろ、おまえが殺したんじゃん!! とユーザーは叫んだ。

 ムチャクチャだ……。

 いくら幼馴染が幸せになるためとはいえ、わたしにはできません。


 充分非道といえる。

 ユーザーは思う。彩羽消えてしまえ、と。

 それを見越したからか、タイトルには彩羽を指す『極彩色』が入っている。

 直球で意味を解釈すると、冷泉院彩羽(れいぜいいん いろは)が散る――この世からいなくなる、ということになる。

 もう一つの意味として、主人公である花房桜空(はなぶさ おうぞら)のアレが散らされる、とか。エンドによっては桜空が死ぬエンドもあるので色々な意味が含まれているのだろう、とファンの間では囁かれていたが……真偽はわからない。



「あ、でも桜空の恋愛対象が男性に向かなくなる可能性もあるのか……」


 その辺のことは分からないなあー。今は不仲というわけじゃないけど、恋愛話をしたことはない。

わたしのイジメがなくても、元々の恋愛対象が男性かもしれないし、その辺は追い追い考えよう。

 何より、冷泉院彩羽を狙う殺しはまだ続いている。だから、桜空は権力を持つ攻略対象たちの傍にいることが安全に繋がる。守る対象だと認識させるために、やはり彼らと恋愛したほうがいい。


 小学校編が終わり、本編でもある高校へと舞台が代わり、桜空が高校二年になった時にそれは起こる。

 春、入学式、一学年下の彩羽が入学してきた時――エスカレータ式なので新鮮さはない――桜空は彩羽に慕われていると勘違いした愚か者が殺しにやってくる。その時、助けてもらったのが今城由良、婚約対象でありメインヒーロー。オマケで彩羽の婚約者。


「はあ……クラクラしてきた」


 起き上げていた体を横にする。

 色々考えたせいか目眩が起きてしまう。絶対安静を言い渡されているのだから、当然といえば当然だ。


「――失礼するわよ、お嬢さま。いま心拍数が上がったみたいだけど、何をしているのよお」


 そういえば、桜空のご両親の死によって彩羽はひとりの執事を雇う。

 だって生活ができないですから。桜空にやらせようにも彼だってできない。そしてその人物こそが隠しキャラだった。

 雇われた直後は桜空へ暴挙に対し、彼は見て見ぬふりをしていた。

 ただ、桜空の折れない心に惹かれゆっくりと手を貸し始めるのだ。

 だけどこれも大きくズレが生じていたりする。だってこの執事……


「ちょっとぉ、聞いてるの!?」


 わたしの顎をぐいっ、と乱暴に自分のほうに向けさせる。


「今気付いたって顔してるわね。まったく……」

「……あっ、ごめんなさい」


 気付けば燕尾服を着た執事の顔が間近に迫っている。銀フレーム越しとはいえ、怜悧な瞳に見つめられると怖くて背中がぞくぞくする。


「お嬢さま。あのね、元気が良いのは素敵なことよ? だけどもうちょっとお行儀よくできないのかしら~?」


 隠しキャラ、オネエ執事が呆れた表情で小言をいい、わたしが小さく頷く。それに満足したのか、わたしの頬にちゅっと音を立てて口付けをした。



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