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片手鍋
昨日までをなぞって
今日一日の出来事を
明日また繰り返して
一人の台所はきっと
しばらく変わらない
畳と板張りの 境目の
曇りガラスの引き戸のように
僕の記憶には 涙目の
にじんだ風景が残ってるだけ
しっかり握りしめて
手のひらが覚えるまで
一緒に歳を取って
少しだけ笑ったような
辛い事だけ忘れても
黄昏時の西陽の窓の
橙色に目を細めても
揺らめく影はきっと
よみがえる夢になる
鏡と洗面台と 洗濯機
床のタイルの罅割れみたいに
僕の記憶から 弦楽器
鳴らした音だけ消えてくだけ
しっかり握りしめて
指の先が硬くなるまで
一緒に歳を取って
少しだけ笑いたいなあ
昨日までを確かめて
今日一日の生世話物
明日また確かにして
一人の台所でずっと
しばらく使うだろう
すっかり使い慣れて
手のひらに馴染んだ鍋と
一緒に歳を取って
少しだけ笑ったような




