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春 ~花と盆栽~

 祖母の家の前には、盆栽が数鉢ある。祖父が育てていたものだが祖父が亡くなった後、たまに祖母が適当に枝を切るだけで、それらの扱いは雑だった。祖母の家に居候してから、盆栽の手入れはいつの間にか時雨の仕事になっていた。余談だが、時雨の他の仕事は祖母の畑の手伝いとお風呂掃除である。

 バランスを考えながら盆栽を整えていると、前の畑と段差がかなりあるので落ちないようにと立てられた白い柵の下に咲いている一輪のピンク色の薔薇が視界に入った。

 手を止めて、その薔薇を見る。

「今年も咲いたな」

 いつだっただろうか。毎年この場所に薔薇が一輪だけ咲いている事に気付いたのは。いつの間にかその薔薇は風景に溶け込んでいて、下を見ないとその存在に気付かない。

(薔薇って手入れ難しいし、手入れしないとすぐ枯れるって聞いたけど、この品種は違うのかな)

 屈んで薔薇を眺める。薔薇ではない可能性はあるが、姿は時雨の知っている薔薇にとても似ていた。

「時雨~。盆栽の手入れは終わったか~?」

 下の畑から祖母の声が聞こえ、立ち上がる。

「もう少ししたら終わる! ところでばあちゃん」

「なんぞ~」

「どうしてここに薔薇咲いてるの?」

「さあ!」

「さあって…」

「あれや、じいさん薔薇が好きだったからその名残とちゃうんか? 自分でも育てておったし」

「薔薇って手入れしないとすぐ枯れちゃうんじゃなかったけ?」

「薔薇のことはさっぱりだから知らん!」

「了解した」

 祖母だって花を育てているが、手入れの必要があまりない花ばかり育てているし、大雑把で楽観的な祖母だ。薔薇の世話は全て祖父がやっていたのだろう。だから知らない、というのなら納得できた。

「そういえば、ばあちゃん」

「ん~?」

「一昨日くらいにじいちゃんの同級生っていうじいさんに会ったんだけど、その人がおれのことじいちゃんによく似ているって言っていたけど」

「前にわしも似とるって言ったやろ~」

「そうだけど、一目で分かるくらい似ているのがびっくりで」

「じいさんの若い頃の写真、二階の押し入れの中に仕舞っとるはずやから、あとで探してみいと~」

「あ、探してくれないんだ」

「出来るだけ二階には上がりたくない」

 まあ、確かに二階に続く階段は急で、七十七歳になる祖母にはキツイということは分かるが、好きに荒らしてもいいのだろうか。

 気が向いたら探してみるか、と溜息をつきながら、作業を再開した。


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