序
法華津時雨はいつも独りだった。
学校では友達と呼べる人などいないし、家は一人っ子なのと加え両親は息子を一人残して、仕事の為海外に行ってしまった。住む地域は変わっていないが、祖母の家に居候することになったわけだが、祖母はどちらかといえば放任主義者なので、あまり話しかけてこない。食事の時や一緒にテレビ見ている時に会話するくらいで、それ以外の会話など、ほぼないに等しいのかもしれない。
けど、時雨は気にした事なんてなかった。
クラスメイトに無視されているわけでもないし、苛められているわけでもない。話しかけたら応えてくれるし、逆もまた然り。ただ必要以上に干渉しないだけであり、馴染めなく浮いているように見えるようで実のところ空気のような存在なのだ、クラスメイトにとっての時雨という人間は。
人間、合う人間合わない人間というものがある。たまたまクラスメイトに自分に合う人間がいなかっただけだ、と時雨は思っている。
家でも虐待されているわけでもないし、愛情を貰えないということもない。祖母からも愛されていないこともない。これもまた、必要以上に干渉されないだけだ。時雨の両親は、自分よりも仕事を優先するのだ。だが時雨はそれについて、不満に思ったことはない。仕事しなくては生活が成り立たないし、両親が仕事に誇りを持っている事も理解していた。その姿は素直に好感を持てたし、尊敬もしていたし羨ましいなとも感じていた。
気にしない、というより達観していたのだ。
いつも遠くで見ているだけで、そこに混じったことはない。いつも時雨は傍観側だった。例えるのなら、大きな円の傍にある、豆粒のような円が時雨、といったところか。否、もしくは時雨はその円すらも傍観する者なのかもしれない。
人から見れば法華津時雨は変わり者に映っている。見た目は変わったところはない。黒い髪に少しだけ吊り上った黒い目、それを縁取る黒い眼鏡。身長も平均くらいにはあるし、変わったところをどうしてもあげるというのならば、普通よりも整った顔であることだ。ただ、中身が違うだけだ。時雨のような人は周りにいないから、変わっている人だと認識されている。ただそれだけだ。
そんな彼がとある男と出会った。
それは普通だと有り得ないことで、だけど広くて狭い世界の一角にとってはほんの些細なことであり、偶然と言うには軽すぎて運命と呼べばそれほど大袈裟ではなくて。
つまり彼らの出会いは、当たり前の出来事だったのだ。
花に水を遣るように、表があって裏があるように、極々当たり前の事だった。
そんな彼らの物語の紐を解いてまず見るのは、やはり彼らの出会いだろう。
二人の出会い…それは青く晴れ渡った、寒い冬の日だった。




