タロットの持つ意味と作品の関わりについて
『ご挨拶』
まずはじめに。作者はタロット(タローと呼ばれるのが正式のようですが、通りがよいのでこちらを用います)で占いをしますが、専門家ではないことをお断りしておきます。
また、用いるタロットもウェイト版やマルセイユ版などの有名どころではないため、独自の解釈が含まれていることもお断りしておきます。固い内容になるでしょうが、出来るだけわかりやすく書くよう努めますので、時間の許す限りお付き合いくださいませ。また、ご質問には出来得る限りにおいてお答えいたします。
さて、タロットで占いをするとはどんなことをするのでしょうか。星占いのように、個人の基本的な性格を見たり、運勢を占ったりするものでしょうか? それも可能ですが、タロットとは、選択肢を前にして迷っている際に、その選択に関して助言を与えること、それがタロットの一番に意義のある用い方なのです。
つまり占ってもらいたい者、ここでは「旅人」としておきましょう。彼が人生において道に迷ったとき、躓いたとき、分かれ道を前にして進めないときに明かりを投げかけて解決の糸口を「旅人」の心の中から見つけ出す、それがタロットの役割なのです。
『大アルカナと小アルカナの役割』
タロットの歴史については諸先輩方の書物を読んでいただくとして、占いにおける大アルカナと小アルカナについて、大きな違いを申し上げましょう。作者も占いを嗜みますが、その上で感じるのは、大アルカナは選択において直観的な啓示を、小アルカナはより実際的で細かなことに焦点を当てているように思います。
ですので、「自身の大まかな立ち位置」を知りたいときや「大雑把な助言」を求めているときには大アルカナだけで占ってみるのが良いでしょう。漠然とした不安を抱えている方や、そもそも選択肢が分からない、道が分からないという迷子の状態の「旅人」さんも小アルカナを入れた複雑な展開よりもこちらをお勧めします。
占いは同じ問題(問いかけ)に対して何度も占ってはいけません、とする教科書もあるでしょう。しかし私はタロットに関してはそう思いません。上記のように大アルカナだけで占ったときに出た問題点や新たな問いかけについて、次は小アルカナを含めたデッキ(全カード)で展開を出してみればよいのです。
さらに細かく占いたくなれば、続けて占ってみてもよいでしょう。ただし、デッキをよくシャッフルするのを忘れないでください。また、続けて占うときに重要なのが、同じカードが出てきていないか、です。もし同一の質問に対して同じカードが二回以上展開に現れることがあれば、そのカードはその時点での「旅人」にとって大変重要なカードです。占いにおいてカウンティング(ここではカードを控えておくこと)は不可欠であります。
『タロットの象徴するものと作品についての関わり』
ここまで長々と書きましたが、結局何が言いたかったかと言うと、「大アルカナの持つ意味、つまり象徴するものが物語の方向性を決めている」ということです。大アルカナのもたらす直観を物語の暗示に盛り込みたいということです。直観についてはグノーシス主義的魔術解釈という壮大なテーマに関わってきますのでここでは割愛させてください。
拙作『魔王子は女騎士の腕の中で微睡む』におきまして既に出てきているカードについて述べていきたいと思います。ただし、独自に解釈を加えている部分がありますので、占いの参考にはなさらない方がよいでしょう。
さて、一枚一枚の意味に触れていく前に、重要な言葉について触れていきます。
『魔術師について』
魔術師とはなんでしょうか。これもまた奥の深い問いです。
ここでは「魔術を用いる者、変革者、己の完全なる支配者、智慧に通ずる者、雌雄同体(完全なる者)」としておきます。
タロットにおいて、22枚ある大アルカナはある一つの物語を表しているとされています。0番の『愚者』のカードから始まって、魔術師の卵である彼が本物の魔術師として成長していく過程を描いているのです。ですから1番に『魔術師』のカードが来るのが間違いだという説もあります。実際、タロットには幾つか版があり、カードの順番が入れ替わってナンバリングされています。
作者がタロットのカードの中で魔術師と同等であるとみなすカードが幾つかあります。まずは上記の通り『魔術師』の卵である『愚者』、『力』、『隠者』、『吊られた男』です。拙作では後半の三つ、『力』、『隠者』、『吊られた男』の三枚が出てきています。キャラクターと絡めてこれらについて説明していきましょう。
『ルベリアとストレングス』
女主人公のルベリアは、『力』を象徴として持つキャラクターです。作品の中でストレングスのルビを「乙女」に対して振っているのは意図的な独自解釈によるものです。
まずは本来の『力』の持つ意味を見てみましょう。『力』にはライオンを手懐けている女性の姿が描かれています。ここでのライオンは人間の内面の獣性、つまり負のエネルギーを指します。嫉妬や怒り、不満、欲望などのことです。それを押さえつけるのではなく、完全にコントロールした状態、それが『力』です。上記の魔術師の定義のうち「己の完全な支配者」を充たしていますので『力』も『魔術師』と同等とみなします。ウェイト版のタロットには『魔術師』の頭上にある無限の可能性を示す輪が『力』の女性の頭上にもあります。
ですので、これが正しい方向に働けば(正位置つまり縦にきちんと絵が見えている状態ならば)このカードの意味は「愛、活力、誠意、手懐ける、根気、持続のための努力、熟練、訓練、長期間のチャレンジ、和解」などになります。
逆位置(縦にしたときに絵が逆さま)ならば真逆の意味になります。
なぜ「乙女」という言葉にストレングスというルビを当てはめたのでしょうか。
それは十二星座にヒントがあります。獅子座の隣はどの星座でしょうか、蟹座と乙女(処女)座です。魔術的な意味において処女とは「無垢な心、純粋さ、清らかさ」などを表し、処女だからこそ獣(つまり獅子)を手懐けられたと解釈しているわけです。そこで『力』を『乙女(処女)』と表記しているのです。
物語上でルベリアは特別な存在です。主人公というだけではなく、彼女は魔術師として、世界の枠から外れて見守り、導く存在になれと『隠者』に誘われています。陰と陽とがお互いを食い合うあの世界において女の体でありながら陽の気、つまり正のエネルギーだけを身に宿すルベリアはまさに魔術師が目指すところの「完全なる者」の体現なのです。
ニンゲンとして生きている間はルベリアはまだ未完成の状態です。『隠者』はルベリアが処女であるうちに肉体を捨てて魂だけの存在となり魔術師、つまりあの世界で言う「精霊」と言う名の導き役になって欲しいのです。ルベリアには迷惑な話でしょう。
ちなみに、天寿を全うしてから「精霊」になるのであればルベリアが恐れるように記憶を喪ってただのシステムに成り果てることはありません。あの世界では記憶とは魂に刻まれたものであり、定められた命の期間を曲げて肉体を捨てたとしたらその生の記憶はなくなります。端的に言えばエンディングを迎えないと周回プレイは出来ないということです。
拙作の『力』であるルベリアは大きな力の使い方で迷い、後悔しながらも純粋さを失わずにいます。彼女は生を終えた後は時空を越えた存在である「精霊」となって世界を見守ることになります。
『隠者と吊られた男』
『隠者』は物語上にちらと出てきただけなのでさらりと流していきましょう。なぜこの『隠者』が『魔術師』と同等なのでしょうか。それは明かりを掲げるこの老人が、正位置において「孤独な探索者、内面への旅、真理の光、絶対的な知識、賢明な導き手、助言者、隠遁生活」を意味するからです。彼はつまり、引退した『魔術師』であり『愚者』の対極にある者なのです。
さて、『隠者』はさておき『吊られた男』を見ていきましょう。このカードを象徴に持つキャラクターは謎のチート級魔術師、麗筆です。彼もまた白い髪(陽の象徴)に黒い瞳(陰の象徴)を持つ「完全なる者」です。彼もまた未完成な魔術師で、ルベリアのようにすぐさま「導き手になれ」と誘われてはいないようです。
『吊られた男』は、版によっては首にも縄が付いているので、死刑になって首吊りされているのだと誤解された方もいらっしゃるかもしれません。しかし、彼の手や体は自由であり、首の縄は締まってはおらず、ゆったりと留められているに過ぎません。独自解釈に入る前に『吊られた男』の持つ意味を見ていきましょう。
『吊られた男』は正位置においては「修行、試練、忍耐、努力、自己犠牲、奉仕、妨害、身動きが取れない」などの意味を持ち、逆位置にあると「無駄、徒労、責任を放棄する、失敗、後退、屈服する、自暴自棄」といった意味になります。
これがなぜ『魔術師』と同等の意味があるのでしょうか。
それは北欧神話にヒントがあります。主神といわれるオーディンは魔術の神とも呼ばれていることはご存知ですか? 詳しくは北欧神話を見ていただくとして、彼は魔術の知識を得るためにミーミルという巨人の言葉に従って逆さ吊りにされる修行を受けたのです。また、その際に自ら右目を抉り出して巨人に捧げています。ですので、オーディンはいつも右目を隠すために幅広の帽子を目深に被っているのです。
『吊られた男』とは修行中の『魔術師』の姿なのではないかという解釈で、このカードも『魔術師』として見なしています。
レイヒというキャラクターは飄々としていながらも、どこか暗い、陰惨な影の付き纏う印象を与えます。かれは『魔王子は女騎士の腕の中で微睡む』の中にはこれ以上出てきません。彼の活躍はいつか別に書く日が来るでしょう。…たとえば、トマスの物語の中で。
『その他の象徴』
ここでは『力』『隠者』『吊られた男』ほどではないけれども、このキャラクターにカードを当てはめるならどれか、という話題についてです。実際に物語を書き始めたころには、『隠者』と『力』しかいませんでした。そこから『吊られた男』、そして『悪魔』の象徴がプロット上に現われました。
『悪魔』とは、誘惑者のことです。タロットはキリスト教より古いとさえ言われていますから、ここではキリスト教から離して考えていきたいと思います。個人的には「秘められた教え」の知識は時の宗教を隠れ蓑にして生き延びてきたと考えているので、タロットのキリスト教的シンボルも表面だけを取って見ていてはいけないと思っています。
このカードの意味は「誘惑、欲望、悪意、裏切り、暗転、拘束、堕落」であり、逆位置では良い方へ転じて「回復、覚醒、強い意志、新たな出会い」となります。
もうどのキャラクターが『悪魔』の象徴を抱え込んでいるかお分かりでしょうか。そう、テオドールです。『悪魔』は処女を誘惑し堕落させようとします。また、鎖で縛り、不実な愛を押し付け、恋人たちの関係を不道徳的なものに変えてしまいます。
テオドールがルベリアをどうやって手中に収めようとするかをプロットに書き出していた際に、この偶然の一致に気付きました。彼こそこのカードにふさわしい残酷な支配者にして誘惑者でしょう。ここでも、処女と悪魔の関連性が出てきます。人間の獣性そのものである『悪魔』を「処女」が手懐けられるかどうか、というところですね。
拙作の102部、つまり100話「魔王子の憂鬱」でのレイヒの意味深なせりふはここへ繋がってくるのです。
ところで、アウグストやトマスには当てはまるカードはないのでしょうか? 元々予定していたものではなかったとはいえ、懐の広いタロットのこと、ぴったりな象徴が二人にもありました。二人そろって見事なまでに逆位置でしたけども。
まずアウグストの象徴は『法王』です。正位置での彼は「秩序、モラル、誠実さ、教育、社会性、寛大さ、許容、慈悲、組織の強さ」であり、逆位置だと「狭い心、虚栄心、怠惰、束縛、視野の狭さ、反感、不信感」と見事なまでにアウグストです。番外編でルベリアが言っていたことは正位置の、本来のアウグストに関してだったのでしょうね。
次いでトマスの象徴は『戦車』です。正位置では「勇気ある行動、勝利、前進、強い意志、克服」、しかし不安定であり、「事故、力による服従、征服、独りよがり」という意味も持ちます。逆位置では「失敗、障害、混乱、暴走、挫折、自分勝手、悲観的、感情的、攻撃的、軽率」と、力の行使を暗示するカードなだけに悲惨です。影の騎士団を束ねて勝手な理屈で武力を行使するトマスはまさにこのカードの象徴通りと言えます。
『宣伝』
結びに。ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました。文章ばかりで目もお疲れかと思います。いかがでしたでしょうか、まだまだ語りたいことはありますが、キャラクターに直接当てはめたカードはご覧の通りです。
さて、宣伝というか告知でございますが、『魔王子は女騎士の腕の中で微睡む』はアウグストと結ばれて終わる「炎の魔女」だけではなく、トマスと結ばれるルート、テオドールと結ばれるルートと全部で三種類のストーリーを用意してございます。どこまで書ききれるかは分かりませんが、連載を予定しております。
トマスルート(第二部)は存在自体がバッドエンドな「影の騎士」、恋愛が主体ではなくファンタジー活劇に仕上がればよいと思います。テオドールルート(第三部)は「太陽の娘」で、ヤンデレな王子とのねっとりした恋愛と彼の謎に迫りたいと思います。
また、他にもこの、『魔王子は女騎士の腕の中で微睡む』と同じ世界観で執筆している作品がありますので、投稿の際にはぜひ一度ご覧くださいますようお願い申し上げます。
※既に投稿済みの作品に『グッドマンの異世界冒険譚』がございます。