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『皆様、大変お待たせ致しました!!』


スピーカーを通して明るい男性の声が会場内に聞こえ始めると、ガラガラという音とともに天井から白い布を被ったトリカゴのようなものが下ろされる。


「鳥のビーストか…?」


「まぁ…天使のようなビーストなのかしら?」


様々な声が周囲から聞こえて、私は目眩を起こしてしまう。


ユグドラがそれに気付いてくれたのか、私の背中を優しく撫でてくれた。


「黒羽さんは感受性の豊かな人だから…こういうのはお辛いでしょう?」


その間も司会進行を務めている男性の声が、慣れた調子で口上を述べていた。


「…違和感がある。なんだろう?ジュリーは何か感じるか?」


口上の隙間で白銀の声を聞いて、私は顔を上げて小さな声で問い掛けた。


「違和感って何よ?」


声が聞こえたのか、ジュリアスは一呼吸置いた。


違和感の理由をどう伝えるか、悩んでいるような間の置き方だ。


「自然に交配して生まれたビーストではなく、人工で生まれてきたビーストなんだろう…恐らくな」


バサァ…!と白い布が取り払われ、篭の鳥のビーストが姿を現した。


『乙姫です!!どうぞ皆様…近付いてご覧になってください!!』


乙姫と紹介されたビーストは、頭に竜の角を生やしている女性だった。


中国の仙女が着るような服を着て、朱い瞳をぼんやりさせて座っている。


竜宮城の乙姫を元にして作り出された彼女は絶世の美女さながらの美しさを誇っていると、司会進行の男性に変わってこのパーティーの主催者が語っていた。


「綺麗だけど…何か違う」


私は漠然とこう口にしていた。

白銀が何かを察した顔をして、私を立たせるとテラスへと連れていく。


それに倣うように、ジュリアスとユグドラもテラスへと出て来た。


「白銀?え…?二人もこっちに来たの?」


月明かりに照らされたジュリアスとユグドラは、少し青い顔をしているように見えた。


ふぅと白銀は息を吐いて、深呼吸を何度かした。


私もそれに倣うようにして、何度か深呼吸をする。


ジュリアスはユグドラの背中を撫でて、深呼吸するように促していた。


私たちの後ろ、…会場内は珍しいビーストで大騒ぎになっている。


聞こえてくる『美しい。素晴らしい。最高傑作だ』そのどれもが、私には心地悪かった。


「大丈夫か?黒羽?」


自分が思っている以上に私の顔色は悪かったらしくて、白銀が心配そうに私の顔を覗き込んできた。


「ありがとう。ちょっと気分が悪くなっただけ…白銀は?ユグドラもジュリアスも大丈夫?」


「俺もユグドラも気分が悪くなっただけだ。…しかし何度見ても慣れないな」


ジュリアスは話しながらネクタイを緩め、ユグドラの車椅子に寄り添ってしゃがみ込む。


「人間はどこまでビーストに残酷なのでしょう。…辛いと思うこの気持ちも人間の心から出る感情だというのに……」


胸の前で指を組み、祈るようにしてユグドラは悲しげに呟いている。


私も同じ気持ちだ、ビーストというだけで好きにしていいはずはないのに。


いつかこの気持ちもなくなってしまうのかな?


あんな風になってしまうのかな?


私は急に悲しくなって、泣きそうになった。


「心が麻痺するんだろ。人間もビーストもそう変わらない。心地悪いと感じる自分を麻痺させてた方が楽に生きられるからな」




「そんなの間違ってるわ」




ジュリアスの言葉を聞いていた私は、自分でも驚くくらいハッキリと言った。


あまりにハッキリ言っていたのか、三人が私に注目してしまう。


「注目されても困るんだけど?当たり前のことじゃない。ビーストだって一つの人種じゃないの」


私のその発言は問題があったのか、後ろからいきなり口を塞がれた。


白銀が冷や汗を垂らしながら、周囲をキョロキョロと忙しなく見ている。


ユグドラもジュリアスも顔色を変えて、周囲をキョロキョロと見ていた。


「…黒羽?場所を考えて発言しろよ?俺様たち…完全アウェーなんだからな」


安堵の溜息をつき、三人は肩を撫で下ろした。


白銀のいう通り、私たちはアウェーだった。


「ごめん。忘れてたわ」


素直に謝ると、白銀は口を塞いでいた手を離した。


ジュリアスは腕を組み、苦笑いを見せている。

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