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一ヶ月以上経った今でも白銀の言った通り、シェリルが再び私の屋敷に訪れることはなかった。


セバスチャンに理由を聞いても、知らぬ存ぜぬを繰り返すばかりだった。


ノームはまるで最初からシェリルはいなかったと言わんばかりに、決してシェリルのことを口に出したりしなかった。


そんな二人に強い憤りを抱えたまま、私は今夜お父様の取引先のお屋敷で開かれるパーティーに出席するための準備をしていた。


「ねぇ…白銀は人間をどう思ってるの?」


薄い緑色で光沢のあるイブニングドレスに私は着替えながら、それを手伝う白銀に兼ねてからの疑問をぶつけてみた。


問い掛けられた白銀はしばらくは無言で、答えることに悩んでいるのか耳を何度か大きく動かしていた。


「俺様は人間とかビーストとか…分けて考えたくないんだよな。それじゃ黒羽の質問の答えにならねぇし、敢えて分けて考えるなら…可哀相だなぁと思う」


「可哀相?嫌いとか…ムカつくとか…ウザイじゃなくて?」


意外過ぎた答えに私はそう聞き返し、白銀は尻尾をクネクネさせながら頷く。


「生まれた時から世界に一つしか自分はないのに、どうして他と比べたり…他を見下してまで優位になりたいのかなってね。それってとても可哀相だ」


こういう考え方もあるものなんだと、私は改めて白銀の意見に驚く。


そして今夜開かれるパーティーの招待状を手にして、私は複雑な気持ちをそのままに口を開いた。


「今夜のパーティー、白銀には辛いよ。珍しいビーストをお披露目するって書いてあったから」


白銀はちょいっと小首を傾げ、色違いの瞳を細めながら腕を組んだ。


「ペット用に改良されたビーストだな。俺様より黒羽が辛くなると思うぜ?見たことあるなら別だけど」


話には聞いたことがあったけど、白銀の態度とこの言い方は私が聞いて想像しているものより、もっと違うものだと教えていた。


「見たことないんだな?俺様やヒツジと同じじゃねぇから、絶対に触ったり話し掛けたりするなよ?出席者の安全を考えて、檻に入れてあるとは思うがね」


私の表情から汲み取ったのか、白銀はペット用であろうビーストの危険性を私に教えてくれた。


そして扱われ方に私は驚いていた。


「それって…」


「御主人様以外は敵だと刷り込まれてるんだよ。御主人様以外に懐いたら困るだろ?」


また一つ、ビーストと人間の深すぎる溝を私は知ることになった。


屋敷を出てからリムジンを降りるまでの間、私と白銀はセバスチャンから耳にタコが出来るくらい注意を聞かされた。


私はお転婆娘だし、白銀はやんちゃな男の子。


こんな二人がトラブルを招かないわけがない。


それがセバスチャンの考えなんだろう。


「ヒツジ、そんなに心配なら俺様に双月を持たせるなよ」


リムジンを降りてから間を置かずに、白銀は二丁拳銃『双月』をホルダーごと外して、セバスチャンに差し出した。


この二丁拳銃『双月』はセバスチャンがまだ若かった頃に使っていたもので、扱えるものは白銀しかいないだろうと譲ったものだ。


「馬鹿者。お前の力を抑えるために双月を与えたのだから、外したら元も子もないわ」


「…ちっ」


渋々、白銀は双月をまた着け直している。


セバスチャンの口ぶりからすると、白銀は丸腰の状態が一番強いことになる。


そういえば、あの時も双月を抜かずに始末してた。


セバスチャンに見送られながら、白銀にエスコートされて私はエントランスへ続く階段を昇りはじめる。


「白銀は双月より殴る蹴るが好きなのね」


私が色々と省略してそう言うと、白銀が何とも言えない顔をした。


あら、どこか間違っていたかしら?


「間違ってねぇけど…それじゃただの暴れん坊に聞こえる」


白銀の大きな耳がしゅんとなって、本人には申し訳ないけど可愛い。


ん?頭の上に何かくっついてるわね?


[にゃんにゃん、しょぼ~んしょぼ~ん]


「私、あんたのこういうところ、堪らなく可愛くて大好きよ。白銀」


大笑いしたい衝動を抑えつつ、私は白銀の頭に乗っているオハナシパンダへ手を伸ばした。


人間だったらまだよちよち歩きなのよね。


「そうか?ヒツジ印の通信機と発信機付きだぜ?」


[ひつじ~、ひつじ~、め~め~、ひつじ~]


白銀の性格を熟知したセバスチャンの差し金か…。


私は陽気に歌うヒツジ印のオハナシパンダを、元通り白銀の頭に乗せた。


その時だった。


「貴様ぁ!!ここで会ったが百年目ぇ!!いざ…尋常に勝負!!」


良く通るハスキーな男の大きな声がして、私と白銀はそちらの方を向いた。


豪奢な金髪はまるでライオンの鬣のようで、エメラルドを嵌め込んだような瞳の瞳孔は縦に割れている。


間違いなくビーストだ。


「俺様、一年も生きてないぞ?ジュリー?」


「ジュリアスと呼べ!!ジュリアスと!!」


私は二人のそんなやり取りにキョトンとしていると、ジュリアスと名乗った(叫んだ?)ビーストは咳払いをした。


「…お恥ずかしいところを申し訳ありません。つい興奮してしまいまして…」


よく見るとジュリアスの着ている服は執事の服、白銀と同様に誰かに仕えているのだろう。


私と同じで命を狙われるリスクを持った人間を守るために。


「黒羽、紹介するぜ。こいつはジュリアス、訓練所で教官にジュリーって呼ばれてたからジュリー。ライオンのビーストだ。立派な鬣があるだろ?」


ポンッとジュリアスの肩を叩き、笑顔で紹介してくれるのは良いんだけど…。


確か…ここであったが何とかって、白銀は彼に言われてたわよね?


「馴れ馴れしくするな!貴様と俺はライバルだ!俺を差し置いて、トップをさらって卒業しやがって!忘れたとは言わさん!!」


白銀に噛み付く勢いで言ってから、ジュリアスが肩に乗せられていた手を払いのけている。


何なのかしら?


この温度差は?

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