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これは詐欺よ!


私は心の中でそう叫んでいた。


私の目の前には黒い執事服を着たビーストの青年が一人。


三ヶ月前に泣く泣く訓練所に出した白銀だと言うのだ。


あの愛くるしい無邪気な笑顔はどこへやら、面倒臭さそうな顔をして腕を組み、私を眺めている。


「言いたいことがあるなら言えばいいだろ?」


睨めっこに疲れたのか、黒い縞模様のある白い尻尾を不機嫌そうに動かして、私にそう言ってきた。


「詐欺だわ!!」


「詐欺ぃ~?それは俺様が猫じゃなかったことか?それとも自分より大きくなったことなのか?」


「すべからず全部よ!!」


俺様!?


俺様ですって!?


あの可愛かった私の白銀が…

ボクって言ってたあの白銀が…!!


訓練所に行って帰ってきたら、不良になって帰ってくるなんて信じたくもない。


訴えてやる!


あの訓練所…絶対に許さないわ!


私は決意を燃やして、訓練所へ苦情を言うために携帯を握り締めた。


「お前…もしかしてヒツジから聞いてなかったのか?俺様、戦闘訓練の学校へ行ってたんだぜ?」


「は?」


白銀のこの一言に驚いた私は、携帯を床に落としてしまった。


「わざわざ執事の学校なんて行かなくても、ここにヒツジがいるから教えてもらえるだろ?」


小さく肩を竦めるとクルクルと回りながら床を滑っている携帯を白銀は拾い上げた。


「俺様は虎のビーストだから、それが必要だったんだよ」


「そんな話…聞いてない!聞いてないよ!!」


小さい頃の癖はそのままなのに、すっかり変わってしまって知らない誰かになってしまったようで、私にはショックが大きかった。


確かに訓練所とは聞いていたけど、それが戦闘訓練の場所だったなんて、知っていたら絶対に行かせたくない場所だった。


「お前を説得する時間は俺様に残されてなかったからな。ヒツジもパパ様も黙ってたんだろうな」


じっと携帯の画面を見つめて、大きな耳をピコピコと動かす。


この仕草も変わらない、好奇心が擽られたとき、必ず白銀はこうする。


「もういいわよ。あんたは変わってないし…可愛いくないけど」


「虎に可愛さ求めんな。それより携帯壊れてるみたいだぞ?画面がホワイトアウトのままだ。データのバックアップは?」


ポイッと携帯を投げて寄越し、私は慌てて携帯をキャッチして、携帯の画面を確認する。


「いや~!そんなもんしてないわよ~!!可愛い白銀の画像が~!!」


「……消えちまえ。そんなもん」


「なんですってぇ!!」


あの騒ぎで携帯の画面はダメになったけど、中のデータは何とか無事だったようで、執事長のセバスチャンがデータをパソコンに保存してくれた。


「執事たるもの、主に忠実でなければならん。よぉく覚えておくのじゃ」


作業を終えたセバスチャンから説教を受け、白銀は面倒臭さそうに目を細め。


「ケッ!なぁんで虎の俺様が忠犬ハチ公しなきゃなんねぇんだ。うぜぇこと言ってんじゃねぇ、ヒツジ」


パン…ッ!


軽い音がして、それから火薬の香りがする。

白銀はその音が聞こえる前に、軽く左へ頭を傾げる仕草をしていた。


「ヒツジ、テメェ。マジで頭に照準合わせやがったな…俺様じゃなかったら当たってたぞ」


白銀は右耳を軽く押さえながら、ヒクヒクと頬を引き攣らせている。


どうやらセバスチャンは愛銃の月下を抜いて、得意の早打ちをしたらしい。


私のパパは一部の人間に都合の悪い仕事をしているせいか命を狙われることもしばしばで、娘の私も同じく命を狙われたり誘拐されそうになったこともあったから、セバスチャンは執事だけど武器を携帯してる。


「ヒツジではない、執事長と呼ぶのじゃ。身体ばかりが大きくなりおって、オツムはサッパリじゃな」


パン!パン!パン!話ながら発砲を続けるセバスチャンを尻目に、私はパソコンに保存されている白銀の愛くるしい時代の画像を見て、軽くあの頃の思い出に浸っていた。


「その程度の早さで当たるかよ。俺様を舐めてんじゃねぇぞ!ヒツジは大人しく盆栽でも世話しとけ!」


ゴリ…。


私の右のこめかみに冷たくて硬い感触、この感触に私は覚えがあった。


「間抜けな執事どもで助かったぜ」


私は視線だけをチラッと向けて、声の主を見る。

ビースト。それもセバスチャンや白銀とは違う、純血に近いビーストだ。


頭が狼そのままで身体は人間と似てるけど、獣特有の臭いが明らかに違うと告げている。


異常に気づいたのか、セバスチャンと白銀は私の方を向いていた。


「あぁん?テメェ…誰の許可を得て、俺様のモンに手ぇ出してんだ?」


「動くな!この女の頭…ぶち抜かれたいのか!」


状況はどう見ても不利なのに、私は白銀の言葉にドキドキとしてしまった。


「お手並み拝見じゃ」


セバスチャンが月下をホルダーに収めると、ニヤッと白銀は笑い、次の瞬間には狼のビーストは窓ガラスごと、外へと蹴り出されていた。


「野良犬ごときに負けるかよ」

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