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沈黙した(逝った?)レディ=スカーレットを放置して私は会場内へ入ると、まだ戦いを続けている白銀とジュリアス、そして乙姫へ視線を向けた。


白銀とジュリアスは明らかに苦戦していた、乙姫は見た目こそ美しいが見た目とは掛け離れた強さを誇っている様子だ。



「あの変態を逝かせただけじゃ止まらないってわけ!?」



私の声に反応して白銀が振り向き、「馬鹿、逃げろ!」と叫んでいた。


それは私に向けられた言葉なのだと認識するよりも早く、乙姫は私に向かって襲い掛かっていた。


そのまま乙姫と私は錐揉み状態で床を転がり、何か柔らかいものにぶつかってようやく止まった。



「…いたた。…ん?」



にゅぅっと私の背後から腕が伸びてきて、乙姫の動きがぴたっと止まる。


土に還したはずのレディ=スカーレットだった。


「はぁい…ダーリン。あたし…レジスタンスなんて辞めるわぁ…いたた…」


誰がダーリンだ!と思いながらも、助けてくれたことには変わりない…「ありがとう」とお礼を言ってから私は体を起こした。


乙姫は微動だにせず、虚空を見つめている。


私がどれだけ目の前で手を振っても、乙姫の視線は虚空を見つめていた。


「どうなってるの?」


ヨロヨロしながら起き上がり、レディ=スカーレットは乙姫の隣に立つ。


白銀とジュリアスは次が来ることを警戒してか、レディ=スカーレットと乙姫に意識を集中していた。



「どうもこうもないよ?乙姫は元からこんなんさ。超高級な生きたビーストのお人形さんだよ。ダーリンは見るのも初めてかい?」



虚空を見つめる乙姫の頭を撫でて、レディ=スカーレットは悲しげに笑った。


「初めてよ。乙姫のことはペット用のビーストを見せるんだろうと…白銀と予想で話してたくらいだわ」


私は真っ直ぐ乙姫に向かって歩き、手を伸ばしてそっと頬に触れてみる。


生きていることがわかる、私は手の平から乙姫の体温を感じていた。



「ペット用はいるよ。乙姫は非合法で生み出されたビーストなのさ。いくら人権らしい人権がなくったってね…保護する法くらいあるんだよ。あたしは乙姫とユグドラを盗む予定だったのさ」



盗む予定って…レジスタンスって怪盗の集団ってわけじゃないわよね?


その時、ジュリアスが音もなくレディ=スカーレットの背後へ現れ、両腕で首を締め上げた。



「詳しい話を聞かせてもらおうか?レディ=スカーレット」


レディ=スカーレットは降参という意味なのか、両手を上げた。


その視線が明らかに私へ助けを求めている。


このままの状態では落ち着いて話せないし、更に遠くからサイレンの音が聞こえてきた。


「ジュリアス、レディ=スカーレットを逃がすのよ」


私の言葉に信じられないという顔をして、ジュリアスは食ってかかってきた。


「!?…何を言ってる!?正気か、貴様!!」


その間にもサイレンの音は迫り、バラバラ…とヘリが接近している音も鮮明になってくる。


私は頷き、じっとジュリアスの瞳を見つめる。


チッと舌打ちをして、ジュリアスはレディ=スカーレットを解放した。


「…ダーリン、あたしを突き出さないのかい?」


驚いているレディ=スカーレットに乙姫を押し付け、私は外を指差した。


まさか乙姫まで渡すとは思わなかったのか、ジュリアスがまたもや何か言おうと口を開きかけて、白銀にその口を塞がれた。


抵抗するジュリアスの耳元に白銀が何かを囁き、納得したのかジュリアスは大人しくなった。


「レディ=スカーレット。私は黒羽、レナード家の娘よ。ほとぼりが冷めたらレナード家の黒羽を訪ねていらっしゃい」


一瞬、躊躇うような仕種を見せていたレディ=スカーレットは、近付いてきた気配に急かされるような形でこの場から立ち去った。


程なくして現場は騒がしくなった。


事情聴取は当然だけど行われて、でも私がレナード家の娘だと知ると、それは形だけのものに変わってしまった。


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