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執事長のセバスチャンから、パパの乗ったリムジンがお屋敷のゲートをくぐったと聞いて、私は大急ぎで部屋から飛び出した。


長い廊下を駆け抜けて階段の手摺りに軽く飛び乗ると、私はそのままエントランスまで滑り降りる。


セバスチャンに見つかるとお説教されちゃうけど、これの方が断然早いんだもん。


華麗に着地したところでドアが開いて、パパはいつもの優しい笑顔を私に見せてくれた。


「おかえりなさい、パパ!今度はどこの国へ行ってたの?」


それが嬉しくて私はパパに抱き着こうとしたんだけど…


それはできなくて、私はパパが大事そうに抱きしめているものを覗き込んだ。


すやすやと心地良さそうに眠っていたのは。


「ビーストの子供じゃないの!?どうしたの!?」


ビースト、旧人類が愚かな戦争を繰り返した末に作り出した…人間と獣を掛け合わせた半獣人。


今ではペットとして飼う人もいれば、希少価値の高いビーストになればコレクターも存在する…人権など持たない生き物だ。


私のお屋敷にもビーストがいて、執事長のセバスチャンもビーストの一人。


羊と人間のビーストで耳が長くて、羊そっくりの角が頭に生えている。


パパの抱きしめているビーストの子供は人間に近い風貌をしているから、セバスチャンと同じでビーストの血はとても薄いのかもしれない。


「ただいま、黒羽。耳と尻尾が白いし、猫のビーストだと思うんだけどね。私のコートをいたく気に入ってしまったのか、しがみついたまま離れてくれなかったんだよ」


ビーストを取り巻く環境は残酷で、捨てられることなんて日常茶飯事だ。


この子もその運命を辿った子供なのだろう。


「……う~?」


私とパパの話し声に起こされたのか、ビーストの子供は目を開いた。


左右の瞳の色が違う、オッドアイだった。


猫のビーストには珍しくない、赤と青の瞳。


耳も尻尾も確かに白い、ふさふさとしていて触り心地が良さそうだ。


「う~う~?」


私に向かって両手を伸ばして甘えてくる、嬉しくなった私はパパからこの子を受け取ると抱きしめた。


すぐにスリスリと甘えてきて、私の母性本能は擽られてしまっていた。


遅れてやって来たセバスチャンが、私の抱いているビーストの子供を見て、驚いた顔をする。


「お帰りなさいませ、旦那様。ビーストの子供を拾われたのですか?」


「連れて帰れとせがまれてね。ハハハ」


私はビーストの子に名前を付けた、それはもうこの子の親になった気分でだ。


私の名前に黒があって黒羽から、白くてキラキラした毛並みのこの子の名前は白銀シロガネにした。


ある日のこと、私は白銀と一緒にバスタイムを楽しんでいたのだが、白銀の髪を洗おうとして白い毛並みの三角の耳に黒っぽい毛が生え始めていることに気が付いた。


「白銀、お前…模様みたいなのが出てきたね?白い猫じゃなかったのかな?」


ピコピコと耳が動き、白銀は私を仰ぎ見た。


今にも泣きそうな顔をしながら問い掛けられて、私はぎょっとしてしまった。


「オジョウサマはシロいネコがイイのか?ボク…ダメなのか?」


「ごめん、ごめん!そういう意味じゃないんだよ?白銀が来たばかりの頃は白かったから、そのまま大きくなるのかなぁと思ってただけなの。白銀がダメってことじゃないのよ?」


私が必死に説明すると、わかってくれたのか、白銀はニコッと笑顔を見せて私に抱き着いてきた。


ビーストの成長は人間より何倍も早く、お屋敷に来たばかりの頃は私に抱っこされていた白銀も、たった二週間で五歳くらいにまで成長していた。


セバスチャンが言うには白銀は一般的なビーストに比べて、言語の習得する速度にしても物事を習得する速度にしても、特化しているのだそうだ。


パパは将来的に白銀を私専用の執事にしたいのか、セバスチャンは白銀の教育係をパパに任されていた。


「白銀、昨日まで私のことは黒羽だったのに…どうしてお嬢様にしたの?」


湯の上で浮いているアヒルを捕まえて喜ぶ白銀に、私は不思議に思っていた言葉を問い掛けてみた。


私の問い掛けの意味がわからないのか、白銀は首を傾げるとしばらくはアヒルで遊びながら正直に事の顛末を話した。


「ヒツジがオジョウサマとイイナサイって…ボクにイッタよ?」


どういうわけか白銀は執事をヒツジと間違えて言う癖がある、可愛い癖なので私は敢えて注意せずにずっとそのまま言わせていた。


「もう!セバスチャンったら、いっつも…余計な事するんだから!…仕方ないわね、白銀…私と二人の時は黒羽で良いからね?」


「うん、ボク…オボエタ。ヒツジのまえはオジョウサマ、クロハとイッショはクロハ!」


この無邪気な時間がもっと続いてくれたら、私は本当に嬉しく思うのにな。


これって人間のエゴなのかな…と、私は白銀を抱きしめながらそんなことを考えていた。


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