表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

存在しない終章に代えて


 空の中で、私は雪の降る街を眺めていた。


 私を包み込む薄緑色のフラウロスは、だけど決して私と混ざり合ったりはせず、常に私の視界を緑にするばかりだった。だから……真下に広がる街が、真っ白な雪で覆われていることは分かっているのだけれど、全体にかかるグリーンによって、どこか優しい雰囲気を漂わせているように感じた。

 だから、私はこの街が優しい街なのだと記述しなければならない。


 世界には最初、いくつかのものが用意されていた。部屋の鍵、赤いポスト、それから工場。

 それに、賢くてあどけない青年の姿をした、私の可愛い子……フラウロス。


 私は彼を、私を包んでいるフラウロスを通してしか見ることが出来ない。

 それはフラウロスが、彼の名前であり、この世界全ての名前でもあるからだ。

 私にとっては全てがフラウロスだ。たとえそれが、本当に存在する世界だったとしても、突然現れた薄緑色の生き物が、私に見せている幻だとしても。

 そして、フラウロスは間違いなく私が生み出したものだ。

 何をどうやったがために生まれてきてくれたのか、私にも皆目分からないのだけれど。


 私は青年について記述しながら、私の愛するものについて考えていた。

 果たして私はあの青年を愛しているのだろうか。それとも、雪の降る白い……私にとっては薄緑色の、この街を愛しているのだろうか。

 それとも、青年も世界も本当はどうでもよくて、私はただ曖昧な形をした、この薄緑色の「フラウロス」そのものだけを愛しているのだろうか。

 ただ確かなのは、この世界の中心はここ、私のいるところ……フラウロスの中という事で、フラウロスそのものはここにしかない。その向こう側にあるのは、この名前と存在を形に表しているけれど、フラウロスそのものではないのである。

 世界も、青年も。どちらも私が生み出したのだけれど。


 世界は壊れ始めていた。ようやく終局を描くことが出来るかもしれない。

 しかし私は記述をやめて、小さく呟く。

「この世界には登場人物が足りないわ」

 フラウロスはその言葉に素早く反応した。体を捻って自分の体をちぎり、私を本体から切り離したのである。

 私は薄緑色の皮膜に包まれたまま、幼い姿になって、消滅したポストの上に腰掛けた。

 物語がかりそめの終わりを迎えるまで、ここにいよう。


 秩序が続く限り、新たなフラウロスと出会い続けるために。

彦星こかぎです。

今年の中ごろに書いた話なのですが、最後の一説を加えてお届けします。

まったく……どういう意味がある話なのやら。

感想、批判をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ