第四節 アルフォーレシード
うーん、外伝の方がまだ第8話目くらいで、現在銀河の「常識」設定の
開示が終わって無い状況なのに、この四節を出していいのか悩むんですが
スターゲートだ、銀河中枢問題だ、S級人類だという
当分、本編には出て来ない背景設定が、外伝の方では淡々と説明できたんで
この第四節までなら、ギリギリセーフかなと…
次の第五節は、流石に外伝の9話で出てくる話が前提にないと
本伝の方のこっちが苦しいかなと…
光り輝きながら零れる涙を拭いているプリメーラを見つめ
溜息をついて頃合いを感じるシード。
相方のクライドも何も言わずにただ眺めているだけで
このままの状況が続きそうなので
彼は事態収拾の覚悟を決めた。
『なかなか良い感じのヒューマンドラマを講じられている所に
恐縮なのでありますが…
姫様の100年でのようやくの完全誕生も達成できたという所で
そろそろ私が状況の説明を致したい所なのでありますが…』
そんな音を響かせて、掘削した地下トンネルの中
その場にいた二人の前に別の光る物体(?)が現れた。
物体というのは語弊だろうか。
それは発光しながらそこに現れたので
光体というべきだったのかもしれない。
菱の形状の様なモノが中央から放射状に広がって六菱。
赤、水色、緑、マゼンダ、青、黄色と時計回り順で
6色の色の光体として、それはそこに出現した。
「今度は何だ?何だ?」
目まぐるしく起こる怪奇な出来事に眉をひそめ
クライドは新しく起きた「驚くべき現象」に対峙する。
ここはもっとオーバーアクションで
驚くべきだったのかもしれないが
目の前の光る少女で既に彼の驚き表現力は限界に達していたので
もう何が出てきて驚いてもそれ以上はない…
という所まで、いっぱいいっぱいであった。
『あら、シード…
貴方も表に出てきたの?』
そんな自分の連れ添いが「一段落するまでは潜伏している…」
と、彼、クライドに接触を試みようとした最初の時に
言っていたのを思い出して、そして潜伏空間から現れたのを見て
『一段落』という所に彼の判断の上では来たのだと理解する。
「シード?」
目の前の彼女の驚くべくもなく自然にそれを受け入れている様
そして「名前」を彼女が呼んだ事で、
クライドは二人の予測できる関係を考えてみる。
そして、なんとなく「ああ、なるほど…」的な理解をする。
『お初にお目にかかります…
とは言っても実は潜伏空間内でお二人のご様子は
眺めさせて貰ってはいたのですが…』
と、その6菱の光体は、その場で6色の発光菱を回転させ始めて
空間に「音」を作ってそう告げる。
「はーー、なるほど、この『違和感』…
その正体がこれか… 『従者』ね……」
その物言いと前の彼女との会話のやり取りの中であった
彼女の言葉にある物凄い強い違和感とその後ろに潜むモノ
それの「形」が見えてクライドは驚くよりも
納得した顔になってそう言う。
『…違和感?
それと、どうして私を一目で従者と?』
そのシードなる光体はクライドが僅かの間に自分の輪郭を捕らえて
状況を理解するのをある程度は期待もしながら予測して
その予測通りになった事に、微妙な満足を覚えながらも
あえて分かってる事を尋ねてみた。
「プリメーラ…
彼女の会話の中にはおかしな物言いが沢山あった…」
『ほう?』
「100年、この惑星で1人で過ごした、と彼女は言った…
そして彼女のこの短時間での反応は…
まーー、俺の妹が似た様な反応をするのを見たことがあったから…
というのもあるんだが…
本当に孤独な存在が生み出す雰囲気と全く同じだった…
だから、彼女が孤独な存在だというのは演技ではなく本当だと思えた」
『ふむ…貴方には何らかの理由で孤独だった妹さんが居て
その近接体験によって姫の孤独感が理解できた…と』
「まーな…
自慢するような話じゃないがな…」
『ですな…それで?』
シードは断片的にクライドの言葉の中に出てきた
彼の妹なる存在の、より新しい情報をその言葉で認識し
自分の姫と『似ている』という、
かなり不思議な言葉に瞬間的に様々な推論を計算させた。
が、推論よりも、より会話での情報収拾の方が堅実なので
彼の言を促してみる。
「ところがな…彼女の言葉の要所要所に変な言葉が出てくる…
『聞いている』『私の従者が』ってな…」
『…ああ』
今度はプリメーラが自分で無意識に喋った言葉に相づちをうつ。
無意識に喋っていたので、プリメーラの方も不注意だったが
一人なのに最低二人は居るように自分が喋っていた事に
クライドの言葉で気付かされた。
プリメーラが完全に一人状態であるという演技をする必要は
確かに無かったのであるが…
クライドは続けた。
「プリメーラ…ちゃん…
彼女は100年…
恐らく演技はなく本当に1人で存在していた…
この惑星の上で…100年…
そして、彼女の…、
今こう言われるとなるほどよく分かった事だが
『半分の心』
この惑星の上で、存在でしかしてなかった心が
俺という別の心に出会ってようやく補間されて
人間になれたというその言葉、
この涙…
演技や嘘で、こんな真に迫った事は絶対に出来ないよ…
だから彼女は間違い無く一人だった…
それが確信できた…
なのに、彼女の言葉の中に
彼女以外の誰かが居るという意味合いと
彼女のアンバランスな知識…
ここに1人なのに
彼女に知識がある…という違和感がある」
『ふむふむ』『ふんふん』
プリメーラとシードはクライドの解説に同時に頷いた。
「とすると、彼女に知識を与える者が居る…
あるいは物がある…
もしくはかつて居た…在った…
って可能性になるんだが…
しかしそれはライブラリの様な情報体ではなく
何らかの存在で…
なのにそれは彼女をニンゲンにする事は出来ない…
となると…
『人』でないのに、彼女に知識を教える何かがある…
と、なるだろう?」
クライドはたいした推理…というわけでもなく
ただ彼女の言葉の中にある違和感と彼女の姿の真実の中に
その思考を自然に思い浮かべれたのだった。
『ふむ…なかなか論理的な思考ですな…』
「人工知能に褒められてもな…」
『人工知能?』
「古代帝国がどういう美観を持っていたのかは知らんが…
そんな面白い様子で、この空間に存在したとしても…
まぁ、多分俺の推理での…人工知能的な何か…
…じゃないのか?アンタ…
ってアンタ呼ばわりが正しいのかも分からんが…」
クライドは直感的に感じる言葉のやり取りでの違和感
その光体との会話の中にある、
人とは何かが違う言葉のやり取りの違和感に
彼の知りうる中での類似物『人工知能』を予想してみた。
『人工知能…ふむ…
まぁ、間違いではないのでしょうが…
些か言い回しが古いですね…』
「言い回しが古い?」
そんなクライドの推論にひとまず意識論理空間で首を振りながらも
その言葉のクラシックさにシードは閉口する。
そしてクライドもシードの指摘に眉をひそめた。
『人工知能とは、
原理的な意味では人によって作られた疑似知能でしょう?
しかし私を作ったのは人ではなく…
私を作ったモノの先祖の先祖の遠い先祖が人に作られたので…
私が『人』に作られた…という言い回しは
原理的な意味では間違いでしょう?』
「あーー、人工知能が人工知能を作り続ければ
『人工』という言葉はおかしくなっていくのか…」
シードの解説を受けてクライドは瞬時に言葉の語弊を理解した。
人工知能が連鎖して別の人工知能を作り始めれば
『人工』という形容詞は何か不自然になってくる。
『そういう事です…
ただ仰るとおり、
結局は私の始祖が人に作られたモノですので
大きくひとくくりに、くくってしまえば、
人工知能と言って間違いではないですよ…』
「なんかアンタ、人間みたいな人工知能だな…
古代帝国ってのは人工知能を人間に近づける事で
ヒューマンインターフェースの機能を向上しようとしたのか?
あーー、まーー、俺等の国でもそんな物作ってたし
結局、誰もがそういう事をしてしまうのかもしれんが…」
言ってクライドはこの目の前の奇妙な人工知能に毒づいた。
同時にプリメーラの側に居たはずの知識を与えた者が
人間ではないのか?と感じていた違和感も、そこで理解する。
『人に限りなく近い人工知能』なら、
人が側に居たと誤認するのも仕方ない。
また本当にこうも「人」と話してるかのように会話が成立すると
それを人工の知能と思うかどうかすら難しくなってくる。
奇妙な感覚であった。
『うーーーん、ちょっとこそばゆいですね…
『人工知能』なんて
古の言葉で呼ばれると…』
「古の言葉?
じゃぁ、今は何て言うんだよ?」
シードはクライドの言葉に奇妙な懐かしさを覚え
そんな言い回しで微妙なズレを笑ってしまった。
そしてその彼の苦笑に、
クライドが正しい現代の用語を尋ねてみる。
『我々の様な存在は…
複素結晶
もう2000年は優にこういう呼ばれ方をしていますね…』
彼は淡々と自分達の現代での呼ばれ方を口にした。
その用語を耳にして目を見開くクライド。
「複素結晶!?
お前が!? あの!?」
『…あの?』
自分達の呼称に瞬時にクライドが食いついた事に
シードは不思議さを覚え、クライドの続きを促してみる。
「いや、…だって、複素結晶ってアレだろ?
コンピューター何台分も並列に繋げても解けない問題でも
解いてしまう、超コンピューター!!
生成方法が解析不能で、
どうやってこんなモノが出来るのかさっぱりわからない
古代帝国の発掘品の中から出てくる最高級のお宝…
ウチの国だって首都の行政管理コンピューターにしか
組み込まれてなかった国宝……」
そう言って、クライドはクライドの知識の中で知る
『複素結晶』なる物体の認識概念を口にした。
少なくとも、クライドの所属していた地方国家ではだいたいが
「そういう物」という事になっている。
『あーーー、地方星系国家でしたかね…
クライドさんの出自は…』
クライドの解答を得て瞬時に自分達との意識との乖離が
どういう事なのかを理解してシードは納得した。
推論機構で網羅される確率を全て調べ上げて
因子組み込みで完全理解を行っても良かったが、
エネルギーを使ってそんな事をするくらいなら
相手に教えて貰った方がエネルギーの無駄がないなと思い
この状況のままで会話型理解を続けようとするシード。
『複素結晶は
地方国家程度じゃ作れませんよ、そりゃ……
だから汎銀河帝国の財産を発掘すれば
国宝にもなりますでしょうよ…
複素結晶を作れるのは複素結晶だけなんですから…』
「複素結晶を作れるのは複素結晶だけ?」
『そうです…
複素結晶の様な原子や原子核を高階で編み込むなんて空間操作
同じ複素結晶でしか出来ませんからね…
空間操作型複素結晶が無い限り、複素結晶を作る事は出来ません』
「はーー、よくわからんが…
首都にあった管理コンピュータに組み込まれてた複素結晶が
構造解析で原子構造そのものが、あり得ないとか言われてたのは
そういう何らかの難しい工法が必要だったからなのか…
でも、複素結晶ってのは凄いコンピューターじゃないのか?
空間操作型って何だ?」
『クライドさんの国にあった複素結晶は
恐らく人格成分を全く構成しなかった
計算特化型のピーキー物ですね…
構成レベルの低い奴です
まぁコンピューターに近いモノに落ちれば落ちるほど
人格部分の回路を組まなくなるんですがね…』
「…ん?それはどういう?」
シードの不思議な説明にクライドは眉をひそめ
その言葉の意味を表情で促した。
『複素結晶というのにはランクがありましてね…
ある一定以上のランクになると疑似人格…
まぁ古の言葉では人工知能ですか…
それが自然に組み込まれるのですよ…
まぁそうしないといけない理由があるからなのですが…
それは説明するのは、物凄く長い話になるんで
ちょっと今はここでは割愛させて貰います…』
「複素結晶に、人格??」
『だからその話は凄く長い歴史物語が絡むので
今は割愛させて下さいな…
それ話出したら3000年近くの故事まで
話が遡る事になるんですから…」
「3000年!?」
クライドはシードに自分の感覚を遙かに越えた
『過去の時代』の数字を突き付けられ目を見開いた。
1000年前の戦争の事すらあやふやな現代なのに
それ以前の前の時代、3000年前!?
その失われた過去の記録を当たり前の様に語るその光体に
クライドの頬は更に引きつるしかなかった。
「そう、3000年近くの…
だから、その話は割愛させて欲しいのですよ…。
その物語は長すぎます…。
ともかくですね…
複素結晶というのは
コンピューターを越えるコンピューターの事ではありません。
ま…空間演算をしますので、
自分の運動機構の中に自然に
コンピューターでいうコンピューター計算も起きますから…
確かにそういう使い方に限定すれば、そうにもなりますが
複素結晶はそれが主目的ではありません。
複素結晶とは空間操作をする万能機械の事なのです』
「??万能機械?」
シードのまた胡散臭い言葉にクライドは首を捻った。
『空間を操る…という概念を理解して貰えますでしょうか?』
「空間を操る??」
『貴方達、複素結晶を使わない人達でも
1階、2階の空間では同様に行っている事です。
ロケット噴射で宇宙船を飛ばしたり、
コンデンサに電圧をかけて電界を作ったり…
そういう物理現象、運動を起こす事を、空間操作というのです』
「ああ…
まぁそういう言われ方をすれば
確かに空間操作… といえなくもないか…」
クライドはシードに説明されて、
自分達が知っている『物理現象』を利用して、
自分達の考える様に空間を変化させる装置、
そしてその現象を考えてみた。
コンデンサに高電圧をかけて、高密度電場を作る。
コイルに鉄心を入れて電流を流し、コイル周囲に磁場を作る。
それらは意図的に空間を変化させている状態だ。
すると、確かにそれは『空間操作』だと思えた。
『複素結晶というモノは、それらの空間操作をより高度な…
高階というのですが、高階高周波の空間において
それを操作し制御し空間を再形成する事を突きつめて
空間を操る為の特別な機械…
空間を操る装置…なのです』
「空間を操る……」
その説明を受けて不意に考え込むクライド。
今までのクライドの常識では
複素結晶は、スーパーコンピュータの様な物でしかなかったが、
コンピューターの様な高速演算装置付きの高磁場発生装置の様な物を
考えてみれば、一体型空間操作機械、というイメージも出来る。
なるほど、それならそれで汎用性は高まりそうだ…。
と、考えた次の瞬間にクライドは閃いた。
「!!!!!!
じゃぁさっきの雷源の無い所でのプリメーラの落雷は!!」
『ご名答!
あれは私の仕事です!』
クライドが複素結晶のイメージを理解し、
『空間操作』という事を概念的にでも掴んで
先ほどの現象と組み合わせて理解した事で、
シードは妙に得意気になった。
理解力はそこそこ高い人物だと観察できた。
「あれはプリメーラちゃんがやった事じゃなかったのか!?」
『うーん、それはちょっと違いますねーー』
「うん??」
『私はプリメーラ様専属の複素結晶
私の名前は『アルフォーレシード』
プリメーラ様の為だけに存在し、
プリメーラ様が願われる全てを
この空間に具現化させるプリメーラ様の手足です。
人間で例えれば、プリメーラ様が大脳で、
私は小脳や脳幹それ以下みたいなモノですかね…
主が生きるために無意識に活動し続け、
主の意志による行動を、運動なりで実空間に具現化するシステム…
この人類主を主とし、従属複素結晶が付き従う構造を
複素結晶存在のクライアント-サーバ構造と呼んでいます…』
「アルフォーレシード?
それって確か彼女の…」
『そう、そこに居られる
汎銀河帝国現皇帝
『プリメーラ・アルフォーレシード1世陛下』の…
その力の実務を担当する専属複素結晶なので
『アルフォーレシード』と申します…
ただ、長ったらしいんで姫様からは
『シード』と呼ばれておりますが…』
とシードが自己の説明をした時、
クライドの目がとても細くなった。
「あーー?汎銀河帝国現皇帝??」
また難儀な言葉が出た事に、やっぱり渋面になるクライド。
『そんな目で見ないでくださいよ…
まぁ姫様には100年、
『本当の所』は御伝えしていませんでしたので
クライドさんの認識でも結構ですよ…
滅亡帝国の落ち延び皇族…
そっちの解釈の方が、この現代じゃ正しいんでしょうね…』
そう言って苦笑しながら溜息をつくシード。
その言葉に今度はプリメーラの方が噛みついた。
『そうよシード! 100年間、私を騙していたのね!』
そう叫んでシードを指さすプリメーラ。
人類の頂点、頂点、と持ち上げられ、『そういうモノなのか』
と思わされ続けていたが故に
この現実との乖離にプリメーラは自分の僕を糾弾するしかない。
『騙してませんよ…
ずっと100年間、私は姫様に御伝えしてきたハズです。
姫様の力はあまりにも強大すぎ、
銀河最強という、その強力さ故に
姫様が銀河に君臨すれば
殺されなければ分からない馬鹿が
大量に出る世界になるのだと…
でも姫様は殺す事はお嫌いでしょう?
最強であるが故に、その力を使わない、支配もしない
宇宙に暮らす臣下を誰でも愛し許す者
それが真の銀河帝国皇帝であると…』
「お前がその訳の分からん理屈を
彼女に吹き込んだ張本人か…」
シードがプリメーラにそう返したので
クライドの頬が更に歪んだ。
最初に聞いた時から、妙な台詞だとは思っていたが…。
『そんなに訳がわからない理屈ですかねぇ?』
そのクライドのツッコミに自身を回転させながら
拗ねた様なさまを見せるシード。
「いや、普通は分からんよ…
何様だよ、その理屈…
それで彼女は100年間、
ここに一人で縛られる事になってんだろ?
彼女がお前のいう銀河最強なんかどうなんかは知らんが…
ともかく自称銀河最強の為に、ただ1人で居るなんて
気の狂った話にしか聞こえないな…」
クライドはそう言って、1人という孤独の寂しさを想像し
自分の身の中にある思いも含めて強く憤るしかなかった。
『うーん、まぁ、確かに最強故に1人でいなければならない
というのは正気の理屈には聞こえませんが…
しかし、一度、姫様が汎銀河帝国の皇帝として
銀河帝国の分割統治の停止を宣言し、復位なされば
銀河大戦の勃発になりますよ?』
その指摘は最もだとシードは肯定したが、
同時に、でないようにする場合の強烈な反動も語る。
「あ…、あのなぁ…
誰が、自称汎銀河帝国皇帝を名乗る人間…
んーーーーー こんな光ってて、体さえ無い様な
凄い状態の存在を、人間といっていいのかわからんが
心はもう人間だ…
だから人間だとして…だ…
そんな人間個人1人に、
この銀河の誰が付いてくるんだよ!
何所の誰が!!
銀河、今、どうなってんのか分かってるのかよ!
それなのに銀河大戦勃発とか、ワケ分からん事いうな!」
シードの言葉に流石に強く反発して
クライドはこの銀河の常識的な言葉で
目の前のトンチキな人工知能に詰め寄った。
『今の銀河?
六色帝国が分割統治してるんでしょ?
分かってますよ、そんな事…』
「は?」
何も知らない田舎者の妄言だと思っていたのに
さらっと、この銀河の現状を踏まえて言葉を返したシードに
肩透かしを食らって眉をひそめるクライド。
『分家の小倅共が、皇帝気取りで遊んでいるんでしょ?
皇帝の寛大なる気持ちで好きにさせてやっては居ますが
いざ、本家が再び立って、その道を阻むのなら
分家と本家の力の違いを
あの時はしませんでしたが
今度は銀河の小倅共に思い知らせてやるだけですが?』
シードはそう淡々と語る。
「はぁ?」
そのシードの淡々とした様子と、
言葉の頓狂な内容に更に妙な顔になるクライド。
『何ですか?その奇妙な顔は?』
「いや分家の小倅って何だよ…」
『分家の小倅ってのは、
本家から分かれた分家共ですが…』
「いや、だから本家と分家って
どういう意味だよ…って聞いてるんだが…」
『ああ…そういう基本的な事ですか…
まぁ確かに、その事に関しても六色帝国皇帝筋ぐらいしか
今では伝えてないんで、
銀河の一般市民は忘却されてしまった話でしたね…』
「?」
シードが淡々と彼等的な常識で喋るのに振り回され
その言葉の尽くに理解が追いつかないクライド。
その様子に、仕方が無いとばかりに、
シードは実の所を説明をするしかないか、と腹をくくった。
それは冷静に考えれば、シード自身にも不思議な行動だった。
『あのですねぇ…
今の六色帝国というのは、
汎銀河帝国の皇族本家から
分派した分家が作った六方自治国家の事なのです。
もっと言うと、この六色帝国というのは、
6つの軍管区に中央銀河から分けた銀河領域を
2000年程前に皇帝本家血筋ながら
皇帝になれない皇位継承権上位者に
派遣統治をさせて地域軍管区皇帝として
平定統治させた制度の事で…
1000年前の段階で既に汎銀河帝国を宗主国とした
地方分権の六色帝国状態…
ま、中央を入れれば七色帝国状態だったのですよ…』
「は?」
『今の説明じゃ理解できませんでしたか?』
「六色帝国は汎銀河帝国の分割統治帝国だった??」
『はい…宇宙地図出しますけど…
銀河、今、こうですよね…』
その時シードは説明の為に、洞窟内に立体映像を出現させ
現在の銀河の勢力図を表示させた。
「あ、ああ…だよね…」
そんな何もない所に立体映像を出したという驚くべき現象も
何でもアリな古代遺産なら当たり前の技術かと納得して
クライドはその銀河説明図に聞き入った。
『汎銀河帝国が君臨した時代は、この中央が汎銀河帝国本土で
それ以外は今と変わらない六色帝国領土だったんです』
その現在図に1000年前の勢力図を重ねるシード。
それを見てクライドは思わず声を上げた。
「んあ!?
この白色帝国領域の中央が汎銀河帝国で
後は今と同じ状態だった!?」
その驚いた表情がツボだったのか、
思わずクックックと小さく笑うシード。
『銀河は笑っちゃうほど広いですからねぇ…
中央から全て管理支配とかやろうとすると
通信伝達の遅れがどうしても生じるんですよ…
だから、臨機応変な対応をしようとすると、
六方に即動できる
汎銀河帝国直属の軍管区皇帝を置いて委任統治した方が
圧倒的に効率がいいんですよね。
そういう事で、皇帝本家からの分家…的になってしまう
皇帝一族の兄弟を地方皇帝に即位させたのが六色帝国で、
六色帝国の本家である汎銀河帝国との
共同統治という形が、実際の過去の支配形態でした』
「ちょっと待てよ!
だったら六色帝国も汎銀河帝国って事じゃないか!」
その時、クライドはその形態における
あまりにも当たり前の事を指摘した。
『ですよ?』
その言葉をあっさりと肯定するシード。
「六色帝国って、汎銀河帝国滅亡の時に
汎銀河帝国を討った地方帝国連合じゃなかったのかよ!」
クライドはそう叫んで、自分達が今まで聞かされて来た
1000年前の六色帝国の起源についてシードに詰め寄る。
『だからまぁ…
6つの軍管区で、軍管区皇帝に即位していた色帝達が
皇帝本家に反旗を翻したのが1000年前の
この銀河のみなさんの知っている、いわゆる
『汎銀河帝国の滅亡戦争』という奴ですね…』
シードはクライドの言葉に淡々と歴史の実体を語る。
「六色帝国が皇帝本家からの分家筋だっていうなら
革命戦争じゃなくて、
ただの汎銀河帝国内の内乱じゃねーか!」
そのシードの言葉にクライドは1000年前の革命戦争が
その実は汎銀河帝国の内輪もめだという事に粟立つしかなかった。
『内乱ですよ…仰るとおり…』
しかしこれもあっさりと肯定するシード。
「ちょ…
なんでそんな分割統治してた分割帝国制度で
六方全部が武装蜂起する内乱が起きたんだよ!
むしろ銀河を七領域に割って
バランス良く統治できてたんじゃねーか?これなら!?」
クライドはその1000年前の銀河地図を見て
地方委任で支配の領域分けをしたという事なら、
むしろ安定に帝国運営が続いたのではないかと指摘した。
少なくとも、現代の様に六色帝国が
互いの覇権を求めて1000年戦争するような
不安定な世界になるとは、この図からは考えられない。
『まー、こうも綺麗にバランス良く配置されてれば
恒久的統治支配は夢では無かったのかもしれませんね…
しかし、1000年前に、とある事件が起きましてね…
銀河中央皇帝本家の決定に対して、周囲六家が不服を唱えた。
で、六色帝国の分家共が皇家本家との決戦もやむなしと
連合を組んで進軍しやがってきましてね…
どうしようかなぁって所で
まぁ六色連合軍を皆殺しにしてぶっ潰して
汎銀河帝国皇帝本家の
圧倒的な力を見せつけてやっても良かったんですが…
その時の末代皇帝が皆殺しを良しとせず、
最小の被害に留めるようにと指示されたんで
仕方ないんで
汎銀河帝国の一時的な休止を宣言した…と…』
「はぁーーーーー!?」
シードのとんでもない説明を耳にして
魂の底から絞り出したかの様な声で絶叫するクライド。
正直、目の前のトンチキが何を言っているのか
理性では理解は出来たが、心は理解出来なかった。
『なんですか?クライドさん』
その絶叫に回転しながら、明滅を繰り返すシード。
当然のリアクションなのは予想していたが
ここまで激高されると、奇妙な悪戯心も生まれてくる。
それがシードには面白かった。
「ちょっと待ってくれよ…
この銀河の常識ではな!
1000年前の汎銀河帝国『末代皇帝』が
何かとんでもない事を『やらかした』せいで
地方反乱が六方から起きて、六色帝国が勃興して
その六色帝国の連合軍に
汎銀河帝国が包囲殲滅されて滅亡したって話で……
それが、六色帝国の連合軍を殲滅するのが嫌だったんで
やらかした本人の『末代皇帝』が
汎銀河帝国を滅亡した事にしただぁ!?
馬鹿な事、言うなよ!!」
クライドは昨日までの常識が180度回転して
ちゃぶ台返しを食らう様な話を聞かされて
より叫び声を上げるしかなかった。
『うーん、末代皇帝陛下のそれが願いでしてねー
それ、1000年前の末代皇帝陛下の要請なんですよ…
これ以降の銀河においては
汎銀河帝国が負けて滅亡したのだと情報を改竄し
更にはその汚名を、我が身に着せるようにせよと…』
シードはその時、とても寂しそうにそう呟いた。
「は?」
シードの言葉にクライドは思わずその気勢をそがれる。
汚名を我が身に着せる様に情報を改竄?
その言葉にクライドは背筋が凍る様な感覚を覚えた。
シードは溜息を付きながら、語り始める。
『精密に言いますとね…
『やらかした』皇帝は末代皇帝じゃないんですよ…
本当に『やらかした』のは、末代皇帝の先代の皇帝陛下…
先代様がちょっと『やらかした』事、というか…
指示した政策が、その当時の銀河では大問題になりましてね…
末代陛下は先代様の尻ぬぐいで、分家6家と対峙する事になった…
しかし、末代様は本来は出来た反乱6家の殲滅を良しとせず…
また先代の父上が被ろうとした汚名を
父一人に被らせる事も良しとされず…
全部自分がやらかした事にして、銀河の情報を書き換え
汎銀河帝国の一時的な活動停止を以て、
最悪の混乱を止めたと…』
そう呟いてシードは僅かに哀しそうな仕草をした。
そしてただクライドと同じ様に話に聞き入っている
プリメーラをチラっと見つめる。
何も知らず、初めて聞く話に目をパチパチさせている
愛らしい我が主を見つめ、
そこにある憂いに深く溜息を付くしかなかった。
しかし、クライドはシードの言葉に、
より強く反発するしかなかった。
「最悪の混乱だってっ!?
このっ! この銀河のっ!!
この今の銀河のっ!!
どうしようもない1000年戦争が続いている状況でっ!
それで、最悪の混乱を止めたって何だよっ!?
この状態が既に最悪だろうっ!!
1000年も終わらない戦火が続いているんだぞ!!
1000年の間に、何億もの人が死んだんだぞっ!!
だから汎銀河帝国の末代皇帝ってのは、
この状況を作ったせいで
『銀河最大の悪』って言われてるんだぞ!
それが、最悪の混乱を止めただと!?」
クライドはあまりにあまりな言葉に、
この銀河の現在状態の『最悪』っぷりを叫び
悲嘆に暮れているシードに向かって、
全力でその主張を否定するしかなかった。
自分の生まれた惑星は、遠因とはいえ、
六色帝国戦争のせいで灰にされたのだ。
それが『最悪』でないとするなら、どんな事が『最悪』なのか?
クライドは憤るしかなかった。
『え…私のご先祖様って…
銀河最大の悪って呼ばれているんですか!?』
その時プリメーラがクライドから衝撃的な言葉を聞いて
肩をビクっとさせて震えた。
そんな合いの手の様な挙動と言葉に、ハッと我に返り
クライドは自分の激しい憤りを殺す。
『あの目』を持つ少女には優しくなりたいという
長年の習慣が、クライドの烈火の様な怒りも
瞬時に冷ましてしまったのだった。
「あ…うん…
まぁその… そうらしい…」
そう言って先祖を悪く言った事に対して
柔らかく言葉を添えるクライド。
慰める言葉を出すのは間違い無くおかしかったが
しかし、彼女を糾弾する気にはどうしてもなれなかった。
『ははは…『銀河最大の悪』ですか…
そう汚名を付けられることを末代皇帝は望まれたのですから
むしろ褒め言葉と思うべきなのかもしれませんね…』
シードはそんな二人のやり取りを見て笑うと
軽口を叩いてそう呟いてみた。
「『銀河最大の悪』の汚名を望んだ!?
どうしてだよ!?
狂ってるだろ!?そんな感覚!?
誰が好きこのんで、『銀河最大の悪』なんて
呼ばれたくなるんだよ!」
そのシードの軽口にやはり激高するしかないクライド。
これがただのポンコツになってる人工知能の狂言だとしても
その内容は質が悪すぎた。
冗談ですら、言って良い事と悪い事があると
今のクライドには思えた。
『こんなにベラベラと出会い頭の人に
1000年前の秘密を喋ってる私も
どうかしてるのかもしれませんが…
なんでしょうかね…
プリメーラ様に人の心をくれたお礼というのでしょうかね…
それと、プリメーラ様にも、今までお伝えしてこなかった
汎銀河帝国末期の秘匿の話ですので…
これは良い機会ですから、お話ししましょう…』
そう言ってシードはようやく腹をくくる事に決めた。
そう…、いつかは…、何かの機会があれば…
『このプリメーラ様』にも語らなければならない日が
来るのだと思っていたのだ。
ならそれが、宇宙からニンゲンが落ちて来た今日だった。
だから『今日がその日だ』
それでいいのではないかと思えた。
「ぬ…」
その何か決意をした様な雰囲気を漂わせるシードの明滅に、
これからの言葉の中に冗談が無いように思えて
不意に身構えるクライド。
しかし、プリメーラの言葉がクライドの真剣味を
一瞬にして殺した。
『聞かせなさいシード!
私も初耳過ぎて、
ずっとビックリしてるんだから!』
そう言ってシードを指さすプリメーラ。
その言葉にクライドは思わずズッコケた。
「初耳なんだ…
汎銀河帝国現皇帝って言ってたのに…」
『あーー、いや、だって…そのーーー
シードに100年間、
そう言われ続けてただけだから…
銀河最強の汎銀河帝国の現代の皇帝って…』
「あーー、あーーーー」
そんな会話を交わして、思わず二人でハハハハと
笑い合うクライドとプリメーラ。
それが故に、プリメーラの方に強い怒気が生まれる。
『よくもそんな大事な話を、100年間私に秘密にしてたわね!
私の忠実なる僕って言ってきたのに
とんだ主への背信行為よ!』
そう言って自分の従者を糾弾するプリメーラ。
その叱責に緩く回転しては思わず項垂れるシード。
『だって、本当の事を話したら姫様…、
ますます汎銀河帝国皇帝への興味が失せるじゃないですか…
我々としては最後の正統皇家が姫様なんで、
それじゃ困りますし…
でも、たかだか1億人程度抹殺するのでも、
良しとできないんでしょ?
姫様は…』
そう言い訳をするシード。
その言葉に出てくる単語の内容の物騒さと
スケールの大きさに
一々、クライドの頬は引きつるしかない。
『当たり前でしょう!
1億人も殺さなきゃ
汎銀河帝国皇帝って認めて貰えないなんて
そんな話、承伏できるわけないわ!』
シードの言い訳にプリメーラは毅然として答え返した。
しかしその『あたり前の返事』にクライドは
奇妙な違和感を覚え、思わず忌憚のない意見を口にする。
「え…1億人程度じゃ…
銀河の誰も汎銀河帝国の皇帝とか認めないと思うよ…」
クライドは何気なく、
『銀河の当たり前』を口にしてしまった。
『え!?
クライドもシードと同じ事言うの!?
それも1億人程度って…』
そんな予想外のシードへの援護射撃の言葉に
プリメーラの表情が凍った。
「へー、このトンチキな人工知能にそういう事教えられてきたんだ…
はー、1億人ぐらいの抹殺で、汎銀河帝国皇帝なーー
でもね…俺達の星系の地方帝国であるクリークス帝国ですら
俺達の首都星を熱核爆弾で焼いて
7億人を瞬時抹殺したからね…
1億人で汎銀河帝国皇帝なんて、
控えめ過ぎる数字じゃないかな…」
『7億!?』
そのクライドの『銀河的常識』の言葉と、
彼の中にある実体験をともなった『数量』を聞いて
表情が引きつるプリメーラ。
1億ですら桁違いの数だと思えたのに7倍!?
と、プリメーラは混乱した。
それとは別途に、
シードの方もその言葉に暗澹たる気持ちになる。
(熱核爆弾を惑星殲滅に使用して7億人を殲滅…か…
確かに、あの情報はモニターはしていたが、
遂に、被害者から直接『聞いて』しまったな…
さて、この
『皇室典範規約違反』と『連邦帝国憲章規約違反』
どうしたモノかな…
我々が華帝国をつっつく訳にもいかんしな…
いやいや、華帝国が200年前に撤退したせいで、
サファナム星系は滅茶苦茶になってしまったものだ…
あの時は、私達には好都合ではあったから
それで良しとしてしまったが…
さて…これは問題の火種にならんだろうか…)
そう思って、クライドの持つある一種の誤解に
苦い思いになるシード。
クライドは、このサファナム星系で生まれ育ったから
この星系で起こる事が、銀河で起きる事の平均的な事と
思い込んでいたのだが、
実の所、このサファナムで起きる事の尽くは
本来、他の銀河宙域では起きにくい事なのだという
そのギャップが、シードにはかなり笑えなかった。
その遠因が自分達にあるのなら、尚更だった。
「地方帝国でそれなんだから、
汎銀河帝国の皇帝名乗ろうと思ったら
100億、200億…
下手したら1000億ぐらい殺さないと
認めて貰えないんじゃないかな…」
『1000億!?』
そんな思案をしているシードを他所に
クライドはプリメーラに『銀河の適正な数量』
というのを教えてやるしかなかった。
自分でも、おかしな数字を口にしているのは分かっているが
しかし、それが哀しいかな『銀河的常識』だった。
その常識の数字を聞いて目を丸くするプリメーラ。
シードは、本来の深刻な問題の方は
どのみち今の状態ではどうにもならなので
この会話の流れに合いの手を入れ続ける事にする。
『私の試算での1億人というのは、
六色帝国の御三家級国家の
宇宙艦隊の殲滅でという意味なんで
一般市民の抹殺で支配権を取り戻そうとしたら
クライドさんの言われたとおり
1000億人ぐらいになるかもしれませんねーー』
軽い口ぶりに戻って、明るくそう語るシード。
『何なの…汎銀河帝国皇帝って…』
そんなクライドとシードの解説に
プリメーラは思わず地面に手をつけて愕然とした。
『と、まぁ姫様が眩暈してしまう様な話が…
まぁしかしクライドさんの様な一般市民における
汎銀河帝国の皇帝ならば
出来そうな事のイメージでして…』
『そんな滅茶苦茶な存在感が
汎銀河帝国皇帝のイメージなんだ…』
シードの指摘に眩暈を覚えてふらつくプリメーラ。
「うん、まぁ、そこら辺は、俺もそう思う…
だから自称銀河帝国皇帝って言われても…
首を傾げるしかないわけで…」
クライドもシードの言葉に乗って
今までのプリメーラの言葉にあった
”滅茶苦茶感”が分かる様に促した。
『1000億!?
1000億って…えーっと…
1億がアレの1000倍の…
もうこれだけで大変な数なのに
その1000倍とかって…
えーと…えーーーー!?』
指折り演算の真似事をしながら、
シードとクライドが提示した妥当な数字の把握に
頭を混乱させるプリメーラ。
「もう億単位になると、
誰だって、えー?ってなる数字だよ…
そんな数字でも、宇宙のあっちこっちで
消えてたりするのも現実なんだけどもね…」
そう、少し銀河を誤解しているクライドの『常識』で
銀河の有様を語るクライド。
そのイメージは、必ずしも正しい現状認識ではなかったが
色連邦帝国にも所属してない、本当に銀河外縁に位置している
辺境星系での星系国家であるなら
本当にやっててもおかしくはない話でもあるので
嘘半分、本当半分といった所として
シードはその解説はそれでもいいか、と流す事にした。
『それなのに1000倍の1000億ですか!?』
プリメーラは相変わらず混乱したままで
把握できない数字に粟立っていた。
「だって六色帝国の皇帝が汎銀河帝国の後継者目指して
戦争してる、どうしようもない宇宙だぜ?
7億人軽く殺せる様な狂信者が手も足も出ないっていう
色帝国を叩き潰せるような力って言われたら
銀河が今、概算2500億から3000億人
登録されてない潜伏人口まで予想すると
5000億~6000億人は
居るんじゃなかろーかって言われてるんだから
この銀河を突然、自称汎銀河帝国皇帝が
復位して支配しますって
言い出したらさ…
そりゃ過去の権威なんかどうでもいいって思ってる人間
力ずくで屈服させなきゃいかんのだから、
潜在人口の五分の一でも抹殺できる様な
夢の様な力持ってないと、
誰だって妄言にしか聞こえないよね…」
そう言ってプリメーラに優しく『汎銀河帝国皇帝陛下』の
一般的な存在イメージを説明するクライド。
『クライドが凄い顔で怒ってたのようやく分かった…
そういう風に教えて貰うと
なんだか私の言ってた事って、
無茶苦茶だったんだ…』
「うん…無茶苦茶だったんだよ…」
ようやく、この光の可愛らしい少女が
いわゆる一般的な『無茶苦茶』を理解してくれて
奇妙な安堵感を覚えるクライド。
『話せば分かる』
というのはとても良い言葉だなと心底思えた。
話す気も分かる気もない狂信帝国と戦った身としては
銀河がそんな言葉で成立すれば、どれだけいいのだろう?
と哀しくもなったのだが…。
『そう、それはあまりにも無茶苦茶な話なわけで…
ところが…
実の所、それこそが1000年前に
本当に末代皇帝に突き付けられた話だったわけで…』
そのクライドの言葉に乗ってシードは
問題の諸元にクライドの言葉を結びつけて語り始めた。
『!?』「!?」
シードのそんな切り出しに目を見開く二人。
シードは語り始めた。
『あの当時、反乱六家を汎銀河帝国の全力を以て殲滅すれば
試算で50年の闘争で500億の人類を死滅させる事で
混乱が一時的に止まると試算されました。
また、反乱六家の残りの本国残党を殲滅するのに
300年以上がかかり、
300年の間に1000億の人口が失われるとも試算されました。
約400年の間に1500億人を死滅させると
汎銀河帝国の帝国支配を現状のまま維持できる
というシミュレーション計算結果が出たのです。
所が、汎銀河帝国が負けた、滅んだという事にして
銀河中枢を封印すれば、
当時の1億人の犠牲者で、
後の400年間の1500億人の死滅が起きる鎮圧戦争
それが回避できるという別の試算がありました。』
『!?』「!?」
そのシードの言葉に、また目をぱちくりとさせる2人。
『姫様…それかクライドさん
貴方達が当時の皇帝陛下であったなら…
銀河最強である事を証明するために
400年の時間をかけて1500億人殺しますか?
それとも、汚名をその身に乗せて
汎銀河帝国は負けた滅亡したという事にして
1億人の犠牲者で幕を引きますか?』
「!!!!!!」
その問いかけにクライドは背筋がまたしても凍った。
”どうしようもない1000年戦争が続いている状況でっ!
それで、最悪の混乱を止めたって何だよっ!?”
自分で叫んだ言葉に対して、『それ以上の最悪の状況』
慢性的反乱鎮圧戦争の為の1500億人の大量虐殺…
それを提示されて、思わず息を飲むクライド。
この六色帝国戦争が続いた1000年間で、
一体、何億の人間が死んだのだろう?
その統計量は、よく調べられてないので不明だが
1000年前に明確に1500億人の虐殺が必要と試算されて
ではそうしよう、等と自分は言えるか?
『これ、銀河の物凄い秘密バラしですからね…クライドさん
貴方が当時のそんな状況に置かれていたら…
貴方はどうされますか?』
シードはそう言って、少し嫌らしそうにそれを尋ねた。
「そ、そりゃ…
1500億人を確実に殺さないと駄目だっていうんなら…
1億人の犠牲者で幕を引く方を俺も選ぶだろうよ…
国家滅亡で大量虐殺の阻止が出来るなら、むしろ英断だ…」
『私も多分…そっち…
というか、その犠牲者になる1億人も救う事とか
当時は出来なかったの?
汎銀河帝国皇帝は銀河最強だったんでしょう?』
クライドはその命の天秤がけを尋ねられて率直に軽い方を選んだ。
その選択にプリメーラは更に、
最低限必要な1億の犠牲者の事まで言及する。
その言葉に、思わずクライドはハッとなった。
自分はこの銀河の常識に慣れすぎていたせいで、
1億の犠牲は最低限必要なモノだろうと思い込んだ。
しかし銀河を知らない無垢な少女は、
その命さえ必要最低限ではなかったのだった。
そんな意識齟齬が、如何にこの銀河の常識に毒されているのかと
クライドの気持ちを黒くさせる。
クライドはプリメーラを呆然と見つめた。
『この犠牲者1億人というのは、
当時の六色帝国連合軍の連合艦隊
銀河中枢白色帝国首都『ガイアポリス』に
攻めて来た連合艦隊とその支援者の事でしてね…
まぁ、ちょっと細かい数字の齟齬はありますが…
これらの汎銀河帝国を潰そうとする艦隊を
最小の犠牲で済ませて
そして六色帝国本国にお帰り頂くようにする為には
どうしても結果的に1億人の犠牲が必要になる試算だったんです。
なにせ六色帝国が勝った事にして貰うように演出するには
犠牲者ゼロじゃ説得力も何もありませんからね…
革命戦争で死んだのは、ほとんど軍人ですよ…』
そのプリメーラの言葉にシードは
より正確な情報でフォローに入る。
確かに、ただ数字だけを述べれば、
どちらも同じ大量虐殺でしかない。
しかし、死ぬ覚悟を持って戦った者と、一般民間人では
同じ死でも意味が違う。
シードはあの時の人々の魂の尊厳だけは
どうしても守りたいと思ってそう言ったのだった。
「ちょっと待てよ…
そんな話、信じろっていうのかよ!!」
そんなシードの言葉に動揺し、
そしてそれを強く拒絶するクライド。
ある程度の説得力はあったが、
それでも内容が荒唐無稽には違いない。
ただの古代帝国の遺産が、
狂って狂言を言ってるだけかもしれないのだ。
その可能性も考えて、
クライドはシードの言葉を鵜呑みの出来なかった。
『信じる信じないは御自由に…
そういえば、まだプリメーラ姫を汎銀河帝国現皇帝とも
お認めになって居られなかったですしね…
姫を現皇帝と信じる信じないも御自由に…
どうせ、こんなド辺境の、あり得ない場所で
汎銀河帝国の現皇帝を名乗る不思議な少女と
なんだかよく分からん発光体のいう戯れ言です。
信じろっていう方が無理でしょうしね…』
そう言ってクライドの心情を察してやるシード。
「そりゃそうだろ…
信じろって言う方に無理がある…
汎銀河帝国の現皇帝がここにいる!?
どうしてそんな話、信じられる!?」
クライドはそう自分自身に言って、
この「在り得ない事」のありえなさっぷりを
もう一度自分に問いかけた。
サファナムのド辺境の廃惑星に、汎銀河帝国皇帝の末裔が居る…。
そんな事を簡単に信じてしまえば、やはり正気ではないだろう。
『ここに汎銀河帝国の現皇帝が居られるのは…
1500億人の人々を抹殺しないようにする為です』
その問いに淡々と答えるシード。
「そりゃ本当かどうかは分からんけど、過去の話だろ!?
で、汎銀河帝国をそういう理由で滅亡させた皇族の子孫が、
なんでこんな廃惑星にずっと居る話になるんだよ!」
クライドはシードの言葉に問いかけ直し
その問いでこの現状のおかしさを再認識した。
そう、末裔が居るのは良いとしても、
どうしてこんな廃惑星なのか?
放射能汚染で人間が住む事さえ出来ない様な
何も無い場所にだ。
『もし我々が、未だに1500億の人間を抹殺する事が
可能な状態である…としたら…どう考えます?』
「!?」
その時、シードは真剣な言葉でクライドにそう語った。
その言葉に思わず息を飲むクライド。
『我々の気分次第で…
というか、プリメーラ様の気持ち1つで
六色帝国と1000年前に回避した
1500億人を抹殺する大戦争を、
まだする事が可能であるとしたら、どうします?』
シードは強い明滅を繰り返して、クライドにそう告げる。
「馬鹿な!!!
何所にそんな戦力がある!!!
銀河を!!!
銀河の10万光年をあまなく支配しているという六色帝国相手に
1500億人もの想像を絶する人類を殲滅する力!?
それが今もあるって!?
冗談もたいがいにしろ!!
彼女が空間の電磁気を支配できる力があるのは理解した!
実感した!!
認める!!
これは恐ろしい力だ!!
個人で見れば、彼女が物凄い能力者であるのは認める!
でも、この程度の事で銀河が支配できるなんてありえない!!
それとも、星でも砕けるのか!!
彼女の電磁気の力で!!!」
シードのあまりにも狂気じみた言葉に
クライドは全力で反発して、そう叫んだ。
『惑星ですか?出来ますよ?
今ここで、砕きましょうか?』
その時、売り言葉に買い言葉で、
思わずシードはそう返してしまった。
反物質を大量に内包している自分である。
惑星如きを砕くのは、造作もない事だったので
自分の性能のプライドが故に、そう言ってしまったのだった。
「え!? ちょ…」
そんなシードの買い言葉に、虚を突かれるクライド。
『いや、貴方が死ぬんでやれませんけど…
砕こうと思えば、こんな惑星程度、粉砕できますが?』
それはある一種の
1000年も潜伏していた鬱憤だったのかもしれない。
惑星程度でガタガタ言われるのならば、
こんな廃惑星、一瞬にしてぶっ壊して再構築すれば
どれだけ気が紛れる事だろう。
この大事な惑星を、ここまでボコボコにされたのに
それに耐えろと命じられたのだ。
その憤りは複素結晶のシードでさえ、
冷静を保つのが難しい事であった。
だからこその、シードのその買い言葉だった。
「は?」
そんなシードの凄みに、飲み込まれて呆然とするクライド。
『姫様、やります?』
シードは勢い余って自分のマスターに
その許可の取り付けに出た。
『やりません!!
やるわけ無いでしょう!
ここにはあの子達もいるんですよ!!』
その時、シードの短気にプリメーラが全力で怒った。
そして大事な家族を思ってそれを静止する。
「ん?あの子達?」
そんなプリメーラの以外な言葉に、
クライドはキョトンとしてそれを尋ねる。
『あーえーっと…えーっと…
その…きっと、お友達のみんなが…』
そのクライドの問いかけに、
不意にどう答えて良いのか混乱したプリメーラは
自分の思い込んでいる『お友達』を
どう説明するかで些か慌てる。
「お友達?」
そんな奇妙な言葉に益々眉を歪めるクライド。
今、この場所は、放射能汚染で生命さえ住めない
不毛の廃惑星である。
そこに、オトモダチ?
『姫様、行きますか?あっちに?』
『そ、そうね…
まぁ確かに、ここでクライドさんと一緒にいるよりは
あっちに行った方がいいのかも…』
『じゃぁ場所も無粋ですし…
ひとまず、あっちに移動しましょうか…
トランスポート』
「え?」
そんな二人のやり取りの後に
クライドは、物質波輸送移動を食らって
その場から強制移動させられたのだった。
この第四節でアルフォーレシードが語った事を前提に
外伝のエスカ達を見ると、見事に銀河の背景に振り回されて
ピエロ状態なのが分かるんで、エスカ達が可哀相なんですよね…
だから、本伝を進めるのが、今は辛い(^^;
それと、本伝の方で、複素結晶の基本説明がここで入るんで
外伝の方の何処でこの説明入れるのかずっと困ってるんですよねぇ…
彼等A級人類以上にとっては、複素結晶なんて常に側にあるデバイスなんで…