第三節(Ⅱ) 2つで1つ
二分割の後半です。
2015/11/18 初掲載
2016/08/23 第1次改修(分割推敲加筆)
『私も、どうして私がこうなのか…
どうしてここに居るのか…
それも分からないし…
今、どうして嬉しいのかさえ分からないけれど…
でも多分…心…』
「うん?心?」
『きっと、この嬉しいは…心だと思えるから…』
プリメーラはそう言って自分の両手を自分の胸の前で握る。
そうやって握りしめる事で、あやふやに思えたそれ
『心』を、今、握れたような気がしたから
だからそれを離さないように大事に握りしめたのだった。
そんな泣きながらも喜びの微笑みで両手を握る彼女を見て
益々難しい表情になるクライド。
「その嬉しいは…心…か…
やっぱり、よく分からないけれど…
でも、もっと簡単な事かもしれないな…」
『…?簡単な事?』
クライドは不意にそう口にして、
会話の流れで思いつくままの事を言ってみた。
「こうやって、
なんとか奴等から逃げれるだろう見通しが立ったから…
君はその超常の力を使って
誰も殺さなくて、心に傷が付きそうになくて…
心が辛い事が無かったから、だから嬉しい…とかね…」
クライドは今言った自分の理屈に沿わせて
そんな荒唐無稽な理由を口にする。
『違う!』
そのクライドの言葉を即座に否定するプリメーラ。
「あれ? 違うのか?」
プリメーラの反射的な絶叫に、投げた言葉のボールを外したのを知り
じゃぁ何だろうと、更に首を傾げるクライド。
『それは…そうかもしれない…
心に傷が付かなかったから、哀しく無かったから
良かったのは、そうかもしれない…
でも、それだけじゃない…』
「?」
『私の心が傷つかなかったのは
クライド、貴方が私の心を守ってくれたから…
私の心を守ってくれる人に、私は今日初めて出会った…
それが、嬉しいから…きっと私…泣いている…
ここに今、あるのはきっと心…
だから…嬉しい…泣けるほど…』
プリメーラは少しはにかみながら、そう言った。
そんなプリメーラの素直な気持ちの吐露を耳にして
またそれと似たフレーズを昔口にした
妹の姿を無意識に思い出しすクライド。
クライドは、妹との記憶から
ボンヤリと彼女の生きてきた境遇を想像して
それを確認のために尋ねてみた。
「…今日、初めて出会った?
もしかして…100年…
君は、ずっと1人でここに居たのか?」
『はい…』
クライドの質問を素直に肯定するプリメーラ。
そのプリメーラの返事に、クライドの背筋が凍った。
「100年!
100年ここで!?」
『ええ…
だって…皇帝は絶大な力を持っているからこそ
孤独でいないといけないって…
皇帝の力を分からない、殺されないと分からない
馬鹿ばかりいるって聞かされて来たから…』
「なんて事を!!」
彼女の言葉を聞いて、瞬時にその言い分をこの世の最大の悪と感じて、
心の中でその恣意を睨むクライド。
クライドは、最初に耳にした時から全く分からない彼女の理屈を前に
『彼女にそう思い込ました何者かの存在』を感じ
また『彼女をこの状況に追い込んだ存在』も感じ
そのいかがわしい存在感に、これ以上ないまでの嫌悪感を覚えた。
「君をそんな体にしたのは誰だ!?
君をそうした奴は、人間じゃないよ!!
人間を超常兵器に変えるような事をするなんて!!
君は誰にそんな体にされたんだ!!」
『え…
わかんない…
私は意識が生まれた時から、ここに居たの…』
クライドの奇妙な問いかけに、
最初から『そう』だったプリメーラは首を傾げてそう答える。
(まぁ姫様は生まれた時から、
最強の力を持っていた皇帝陛下ですからね…
クライドさんには、
皇帝は生まれた時から『そう』だとか分からないんです…
この銀河において、力在る者は最初から『そう』だなんてね…
でも、今はそれを分かって貰うより…
姫様がずっと欲しがってたモノを
彼から沢山、姫様は貰い続けましょうか…)
(どういう事?シード…
私は何を、今、クライドから貰っているの?)
(それは…心ですよ…)
(心?)
(姫様は生まれ落ちたときから最強の力を持っています
それが皇帝です。
でも力を持っていても、姫様は心を持っていません)
(どうして?
どうして、私は心を持っていないの?)
(じゃぁ、どうやったら心って手に入ると思いますか?)
(分からない…)
(その答えがきっと目の前にありますよ…)
シードはプリメーラの戸惑いにそうフォローを入れながら
この100年、得難かったモノが、あまりに簡単に目の前にある事に
呆れも感じながら、自分の主をそう促した。
そう導く事が正しい事だったのかは迷う所だったが
正否の問題よりも、その時にシードにあったのは主への忠誠愛であった。
そんな二人の念話など気付く事もなく
クライドはまた無駄に熱血し始める。
「人を兵器に作って、こんな惑星に放り投げて…
何が遺産兵器だ…何が汎銀河帝国だ…
笑わせやがる…」
クライドはそう言って体を震わせて、地面を叩いた。
『笑うの? こんな私をクライドは…』
そんなクライドの言葉に怯えて、
自分の存在の脆弱さにも怯えて彼の言葉を確かめるプリメーラ。
「笑えるわけないだろう!!
俺が笑っているのは、汎銀河帝国とかいう古代帝国だよ!
こんな事しやがるから滅んだんだよ!!きっと!」
『えっ!!
私を作ったから、汎銀河帝国は滅んだのっ!?』
クライドの思いがけない言葉に心が硬直するプリメーラ。
「当たり前だろうっ!!
心を踏みにじってまで人間を兵器に変えるような
馬鹿な組織…それが汎銀河帝国だっていうなら…
それなら全員が全員、
古代帝国の人間全員、心を無くしてしまってんだろ!?
じゃなきゃ出来ないよ!!
君みたいな超越的な存在を作り出すなんて!!
幽霊的な不可侵を作って、攻撃だけは思いのまま!?
そんな古代兵器を作った!?
戦う為には何でもアリだって!?
ふざけやがって!
そんな事考えれる様な…
人を人とも思えなくなるような…
人が人の心を無くしてしまった存在なら
もうそれは、何でもないじゃないか!
心が無くて、力しかないモノは、存在でも何でもない!
心を失ったら、無くなるんだよ!何もかも!!」
クライドは自分の中にある今までのクリークス帝国との戦いの体験と、
この宇宙に歴然とある力の論理、その2つを交えて苦渋の面となって叫ぶ。
と同時に、きっと1000年前の古代帝国も、
今と同じ様に「そう」だったのだろうと連想して、
変わらない人間の業に、胸を焦がすしかなかった。
『心のない、力しかない存在は、存在でも何でも無いの!?』
クライドの憤りの言葉を受けて、
プリメーラはその言葉の中にある存在否定に動揺し、
自分自身がそうである今の状態を狼狽えながら尋ねた。
「ああ!きっとそうさ!
クリークス帝国のあいつ等が
熱核兵器で3億もの人を一瞬に焼くなんて方法で…
暴力を行使する事でしか、人を制圧できないんだ!
そんな機械みたいな事が出来るのは
心が無くなってるからとしか、考えられないよ!
どんなに人間の皮を被ってても
心が無いなら、コンピューターの機械となんにも変わらない!
そして機械なんて、突きつめれば、石ころと何が違うんだ!!
そんなモノ、人間だとも存在だと、俺は絶対に思わない!!
あいつ等は人間なんかじゃない!!
だから、君をそんなにした奴等も、きっと人間なんかじゃない!!」
『人間?』
人間ではないというクライドの絶叫に
プリメーラは、ならば『ニンゲン』とは?という疑問を募らせる。
同時にそれを自分は探していたのだと、会話の流れで自覚した。
(『…きっとニンゲンなんかじゃない』)
その時、プリメーラの意識の奧にあった、もう一人のプリメーラが
心象風景の中で目蓋を開けて、その言葉を自分でもなぞる。
その言葉は、意識の奧にあったプリメーラには手痛い言葉であった。
「そうだよ!『人間』!! ニンゲンさっ!
『心』を持ってなければ、どんな存在も『人間』じゃないんだ!」
プリメーラの言葉の流れにあった半ばの問いかけに
クライドはただ率直に思う自分の人間感をそのまま宇宙に叫び上げた。
どれだけ矮小な自分である事を自覚していても
ただ1つそれだけは、クライドには譲れない思いだったから
そう遮二無二に吠えたのだった。
『『心』を持ってないと『ニンゲン』じゃないの!?』
プリメーラはクライドに自己存在を追い打ちで否定され
恐怖に襲われて、目を大きく見開いて
クライドのいう人間という存在感を問う。
「そうなのか、どうなのか
宇宙の『本当の事』なんて、俺には難しすぎてわからんよ!!
真実や哲学的な解釈では違うのかもしれない!!
でも、少なくとも俺はそう思うっ!!
『心』を持った者が『ニンゲン』で
心を持たなきゃ、人間でも存在でも何でも無いと!!
そう思うっ!」
その問いかけに、熱くなっていたクライドは
プリメーラが何を聞いているのかさえ、気を回して考える事もできず
自分の心の中にあるイメージ、妹の儚げな笑顔を思い浮かべて
その表情を精一杯否定して、自分の思いを叫ぶしかなかった。
自分の妹は『ニンゲン』だった!
あの涙を流す『心』があったからこそ『ニンゲン』だった。
それを誰にも否定させはしない。
だからこそクライドはこの考えから一歩も引く事は出来なかった。
その激しい言葉にプリメーラの心は押しつぶされそうになる。
自分の中にある『虚ろ』なモノを再確認し
だから同時に彼のいう『心』を欲する。
それが言葉になった。
『じゃぁ『心』はどうやったら手に入るの!?』
プリメーラは真剣な眼差しを送って
クライドにそれを問いかけた。
「え!?心を手に入れる!?
心を手に入れるって何!?
心なんて手に入れるとかそんなもんじゃないだろう!
『心』なんて、『感じてしまえば』心じゃないか!」
自分の中の憤りのイメージの中で言葉を紡いでいたクライドは
不意にプリメーラに『心』というモノの在処を聞かれ
同時に『この場』に意識を引きずり戻された。
意識の中で、妹を否定する哲学と戦っていたクライドには
プリメーラの現実に引き戻される問いかけの奇襲に狼狽する。
そして、この場に意識が戻ってくれば、
プリメーラのよく分からない必死の問いかけに眉をひそめたのだった。
彼女の問いかけにあった、心を手にするとかしないとかいう
唯物的な感覚がよく分からず悩むクライド。
『心』は『それ』であるという
漠然とした無意識イメージであったから、
クライドはそのまま反射的に言葉を返した。
クライドには、その時、
プリメーラが何かに怯えていたという事に気付けなかった。
だから、彼女が何を尋ねているのか理解できないのだった。
『…感じる?』
そんなクライドの素朴な感想を耳にして首を傾げるプリメーラ。
「心はモノじゃないから…
手に入れるとかそうじゃなくて
君と俺がここに居て、お互いが心を感じれば
それが心じゃないか…」
クライドはとぼけた顔で、「何を言っているんだこの娘は?」
という表情をして、蒼白な表情になっているその少女にその言葉を返した。
その何気ない言葉を聞いて、時が止まるプリメーラ。
(キミトオレガ、ココニイテ、
オタガイ、ガ、ココロヲカンジレバ
ソレガ、ココロジャナイカ)
そのクライドの言葉を聞き、それがプリメーラの心の中でリピートされ
その言葉の意味をゆっくりと意識が理解していく。
そして理解が深まると同時に、プリメーラの瞳はどんどんと輝き始めた。
『ああっ!!』
プリメーラはその時、安堵と歓喜の声を響かせた。
「ん!?」
突然、活気のある声を耳にして驚くクライド。
『私、分かった…今!』
「何が?」
『心はどうやって、手に入れるのか…』
プリメーラは大発見をした事に瞳を輝かせて、
胸を両手で抱えて、クライドを嬉しそうに見つめる。
「……??…心を手に入れる?
だから心なんて、モノじゃなくって…『感じれば…』」
『うん…そうだよ!』
クライドはプリメーラに自分の言葉を反復したが、
それを喜びの声と共に肯定され、更にポカンと成るしかなかった。
「そう、だから心なんて…
普通にあるもんで……」
プリメーラの何かよく分からない納得に
念を押すように言葉を続けるクライド。
しかし…
『違うよっ!』
その時、プリメーラはクライドの言葉を即座に否定した。
「違う?どうして?」
突然、自分の言葉を肯定したかと思えば
次の瞬間には、強い勢いで否定の声を上げるプリメーラを見て
目を白黒させるクライド。
しかし、その瞳の中にある強い思いに
言葉だけでなく、気持ちまで飲み込まれ、真っ直ぐに彼女を見返す。
違うと言われて、何が違うのかをクライドは問いかけ返した。
その問いかけに、プリメーラは笑顔で応じる。
『だって私…100年、
心を半分しか持ってなかったもの!』
プリメーラは満面の笑みで、クライドにそう叫んだ。
「心を半分っ!?」
クライドは思いもかけない彼女の言葉に衝撃を受ける。
通念で分割不能に思えていた『心』なるものが
2つあるという彼女の言葉に、ただ驚くしかなかった。
意味が分からなかった。
『そうか…私ずっと、心が欲しかったんだ…
ずっと…ずっと…そう…そうよ…』
プリメーラは自分の胸に己の手を当てて
そしてその胸の中にあった思い、覚醒と睡眠の曖昧な意識の中で、
自分の中に何か欠落していると思えるモノ
そして何故か欲しいと思っていたモノ、その正体をようやく悟れた。
と同時に、深いもう一人の自分が、その心の中で囁く。
(『そうね…私はもう一度…心に出会いたかったのかもしれない
ずっと…そう…ここで…ずっと…私は心を待っていた…』)
深い彼女はそう呟いて自虐的に微笑む。
そんな彼女の言葉に驚かされっぱなしになるクライド。
あまりの不思議な勢いに飲み込まれ
彼女の言わんとする事を素直に尋ねた。
「え-っと…よくわかんないな…
今まで、心を半分しか持ってないなんて…
心は…2つ?
それに心が欲しかったなんて…
心は、あったら心じゃないのか?」
クライドは率直に問いかけた。
『違うよ!
絶対に違う!!』
その言葉を全力で否定をするプリメーラ。
「違う!?
何故!?
むしろ俺の方が分からないな…
心が半分しか無いなんて…
どういう事なのか、教えて欲しいのだけど…」
クライドは彼女の意味不明な言葉に先ほどの涙の熱さも忘れ
しかし何故か熱くなっていた「あの思い」よりも
もっと大事な事に思える「これ」に意識を奪われた。
不思議な問いかけなのに、
それはとても大事な事だと直感が警鐘を鳴らしていた。
だからクライドは言葉の意味を問いかける。
そんなクライドにプリメーラは微笑んで答えた。
『心は最初は不完全なモノなの…
半分しか存在してないモノなの…
もう一つを手に入れたら、その時、その時にようやく、本当の心…』
プリメーラは自分が過去に見つめてきた風景を思い出して
その中にあった思いを胸に、心の在処を語る。
何度触れようとしても、触れる事もできない世界で
眺め続けるしかなかった、あの子達との時間を思い出して、
プリメーラはそう言った。
そんなプリメーラの言葉に、得体の知れない違和感と恐怖を感じ
クライドは彼女の言葉を更に問う。
「心は最初は不完全で半分??
君の言ってる事が、全く分からないんだけど…
まぁ、一先ず、心が2つあるっていうのなら…
そうだと仮にしても…
なら、心が半分しかないなら、
もう半分はどうしたら手に入るんだ?
何が心を本物にするっていうんだい?」
クライドは、その意味不明な言葉のやり取りに
それでも何故か「心の半分」という言葉に奇妙に心を引かれて、
目の前の超常現象にそれを問う。
『こんな簡単な事だったんだ…
こんな簡単な事だったんだよ…
もう半分を手に入れるのって…
でもからこそ、私には何よりも難しかったんだ…』
そのクライドの問いに、プリメーラは直ぐに答え返さずに
頬を緩ませて、胸の中にようやく生まれた
『心』を抱きしめて満面の笑みを浮かべる。
「簡単な事?」
プリメーラの「半分の心」という言葉、
そして簡単に手に入るという言葉と、自分には何より難しかったという
背反する物言いに眉をひそませ、ただ問い続けるしかないクライド。
『『感じなければ』心じゃないんでしょ?』
プリメーラはそんな混乱しているクライドの方を向いてはその瞳を見つめ
悪戯っぽい表情を作っては、彼の言葉を確認しなおした。
「ああ、俺はそう思う…」
プリメーラの確認の言葉に、そして余りに澄み切ったその瞳とその問いに
自分のある一種の信念というか、通念とも思っていた事に首を振るクライド。
『でも、私は100年、何も『感じれなかった』の!
知ってただけなの!
『在る』って事を100年間!
私は、ただ『在って』ただ『知ってる』だけだったの!
自分が『在る』のを100年間『知ってた』だけ!
でも、知ってるのは、感じる事と同じじゃない!』
「っ!?
100年間、在るのを知っていただけ!?」
突然のプリメーラの言葉に、
弾丸に撃たれたかのような衝撃を感じるクライド。
そして反射的に彼女の言葉を自分の心の中でイメージする。
ただ、何年も、何十年も、そして100年も、
この惑星の上に立ち、星を見てたたずむという光景を。
ただ「在る」という事しか感じられないその感覚を。
それを、クライドは無意識にイメージした。
そして無意識の想像によって、
反射的にそのイメージが恐怖を生み出し、背筋が凍える。
『1人でずっと惑星に居続けて
『在る事』を『知ってる』だけじゃ
それは本当に『感じた事』じゃないんだよ!』
そのクライドの作ったイメージの世界に、
プリメーラはそのイメージの中にある矛盾を口にした。
「っ!?!?
1人で居続けたら…
見ているモノを感じた事さえ、感じれないなら
じゃぁどうやったら、世界を感じる事が出来るんだ!?」
余りに寂しいそのイメージを思い浮かべ、
と同時に、それが自分の妹が見ていた世界と同じモノに思えて
クライドは慌てて、自分が口にした「ただ感じれば心」
という通念に矛盾を見いだす。
そして、その孤独なイメージの中で、
心の所在を捜しながら、それを尋ねるクライド。
それはとても大事な問いかけに思えた。
ならば、妹は、どこで心を感じれたというのか?
そのクライドの問いかけに、あまりに甘い微笑みを浮かべて
プリメーラはクライドに向かって、その人差し指で片割れの心をの在処を指す。
『私、今日、貴方に出会った…』
「!?」
その、あまりに甘い微笑みにクライドは心を奪われ
と同時に自分の頭の中に全く無かった彼女の返事を耳にして、
驚きを通り越して心臓さえ止まりそうになるクライド。
プリメーラは満面の笑みを浮かべて、クライドに言葉を続けた。
『私は、今、貴方の『心』を『感じて』…
貴方は、私の『心』を『感じて』くれた…
今、ここにある2つの『心』が出会ったの…
だから、この世界も世界なのだと、感じれた事が確信できる…』
「!!」
ただ、そっと告げたプリメーラの言葉に
電撃を受けたかのように痺れるクライド。
(2つの共感)
不意にそんな言葉が、クライドの脳裏を過ぎった。
この世界を感じる装置が1つしかないのなら
その観測は誰が保証してくれるのか?
そんな、あまりに単純な問いかけだった。
だからプリメーラは、はにかみながら、
今日の自分の大発見を得意に語る。
『心は、もう一つの心に出会わないと
本当の心にならなかったんだ…
だって『感じる事』は1つの心じゃできないもの!
2つ必要だったんだよ!『心』が心になる為には!』
そうはしゃいで、何所までも甘い微笑みを浮かべるプリメーラ。
「………
ああ…なるほど…そういう事か…」
プリメーラのその言葉を聞いて、クライドは思わず肩を落とした。
なんていう自分は間抜けなのだろうと思いながら、ふぅと溜息をつく。
プリメーラにそう言われて意味が分かってしまうと
当たり前の事過ぎて笑えてくる。
それは生まれてくれば、あまりに当たり前の事で
「そう」である事を実感する事すら難しい事で
あまりにも当たり前過ぎる事だから
「そうではない事」を思いつくのさえ難しい事だった。
”人が生まれて、生まれた人間が、その後に誰にも出会う事がない”
そんな、ただ1つの心で在り続ける事なんて仮定自体が
「あり得ない事」だったから、クライドは考える事さえ無かったのだ。
人は生まれれば、どう転がっても、もう一人の人に出会う。
それは自明の現象だと思い込んでいた。
それが自然なのだと思っていた。
だから、心は必ず2つが遭遇する必要が有り、
『単心』等と言う不安定な状態では
存在が成立しないのだと分からなかったのだった。
心が本当に心になる為には、最低「2つ」が必要なのだという
何でも無いと思える条件がそこにあるのだと、クライドは知らなかった。
しかしプリメーラという特異な存在を感じた事で
クライド自身が、自分の知らなかった心の本当の在処を知れた。
それを理解してクライドは思わず笑いだす。
「ははは…
そうか…心は…2つ必要だったんだな…
そうか…そりゃ…そうか……」
『うん…
そう…そんなんだよ…心は2つで1つ!』
そのクライドの微笑みにプリメーラも同じ様に微笑み返す。
「はははは、
じゃぁ俺も、そんな大事なが分かってなかったんだな…
『心』の在処を…
人は一人で居てはいけないって事を…」
言ってクライドは己を頭をかいた。
妹があんな生活でも『ニンゲン』であったのも、
そういう事なのかと分かれば、安堵の思いも生まれる。
『気が付いてしまえば、こんなに直ぐ側に
私の欲しいモノはあったのに…』
言ってプリメーラは少しだけ涙ぐむ。
そう呟いてはみたものの、自分で言った言葉の矛盾がおかしくも思えた。
その「直ぐ側にあるもの」は、でも、ある日突然、空から振ってきたわけで
そんなとんでもない偶然がなければ、
何時までも胸の中に生まれるモノではなかったから…
その彼女の含んだ言葉の意味に、その時クライドは何故か気付けてしまい、
だからこそ、何よりも心からの言葉を贈らなければならないと思った。
何より、贈りたいと思った。
何故なら、目の前の光輝く少女の笑顔は
超常現象を越えて、愛らしい少女の輝きを放っていて…
そして、その肩の震えが自分の妹とそっくりであったから…。
だから、クライドは、頭をかきながら言葉を紡ぎ出す。
「なら、今日、
君は生体兵器じゃ無くなったんだな…」
『え?』
不意に語り出すクライドの言葉に虚を突かれるプリメーラ。
そんな彼女から視線を少しだけ逸らし、こんな物言いをするのは
本来は自分らしくは無いのだろうと自虐しながらも、クライドは言葉を続ける。
「触れることさえ出来ないのはびっくりしたし…
だから、まるで幽霊みだいだって思ったし…
挙げ句に、あんな恐ろしい超常現象を起こせるから…
君が生体兵器として作られてた存在なら…
物凄い古代兵器だとも思えた…」
クライドはそう言って今さっきまで見た光景からの
目の前の少女の『兵器性』を思い、その凄まじさに溜息を付く。
これが心を持たない純粋な機械なら、とんでもない機械に遭遇した、と
別の意味で狼狽えた事だろう。
しかし、言葉で触れ合えた今は、狼狽える必要は無かった。
「でも…もう違う…
今は違う…
俺は、これからはずっと君を生体兵器だとは思えない…
もう…違うんだ…」
『………』
そのクライドの優しい瞳と言葉に胸を高鳴らせるプリメーラ。
『どう違いますか? 今の私は…』
プリメーラはそう呟いて、
クライドが今、自分をどう感じているのかを静かに尋ねる。
クライドは少しだけ苦笑いを浮かべながら、それに応えた。
「君とここで出会って
こうやって話し合えて、心が触れ合って感じれて
君の心が半分埋まって、俺の心も半分埋まって、
お互いに、出会ったこの間に本当に心が生まれたから…
だから、今日から、君と俺は人間だ…
力ある存在じゃない…
俺達は…心を持ってる人間だ… そう思う…」
『…ニンゲン?』
クライドに虚を突かれた言葉を贈られて、目を丸くするプリメーラ。
今までは、意識する事が曖昧で、
それが何であるかすら分からなかった言葉。
知っていたけれど、何であるかは分からなかった言葉。
それをその瞬間に感じれて、プリメーラは驚きを隠せなかった。
そんな彼女の様子に、自分の妹の姿をまた重ね
僅かな苦笑を浮かべながら、クライドは言葉を続ける。
「ああ…、心を持ってる存在を…この世界を一緒に感じれる二人を…
ニンゲンって言うんだよ…
……きっとそうに違いない」
そう言って、それが嬉しく思えて微笑んでしまうクライド。
それは荒唐無稽な言葉にも思えた。
それでも、そうであって欲しいと心から願わずには居られない思いでもあった。
『そうなんだ…』
そんなクライドの言葉に、ただ彼の飾ることの無い優しさを感じて
微笑みながら頷くプリメーラ。
「ああ、きっと、そうなんだよ…
ニンゲンなんて…それだけで十分…なんだ…」
思わず鼻をかいて自分の言葉が奇妙なモノだと自嘲しながら、
それでもそう言える事が嬉しくて、微笑みを浮かべてしまうクライド。
その微笑みを見るのが、また嬉しくてプリメーラも微笑み返す。
その微笑みの起源は互いに別の記憶からの導きであったとしても
そこで邂逅した笑顔は、間違い無く共感だった。
『なら貴方の言うとおり…
貴方に出会って、心を感じる事が出来たから
私、今日、人間になれました…』
プリメーラはそう言って、嬉し涙を浮かべながらはにかんだ。
この後書きは、恐らく二パターンが考えられるので
初見でこのパートを読まれた方と
もう一度、1章が終わった後に、読み返された方で
別別に、コメントをしたいと
□初見でこのパートを見た方
えーっと、恐らく
「何でこんなに感情がコロコロと揺らぐん?この二人?」
と、いきなり全物語の後半級の盛り上がりが
超序盤に勝手に始まる事に戸惑われるかもしれません。
書いてる自分も、最初に書いてたときには
「ヒロイン、こんな出会い頭に泣き出してるんですが!?」
と、書きながら唐突感溢れる気がして困ってました。
ただ、これは設定したキャラクターの背景から逆算すると、
互いにこういう、自分の背景からの台詞が飛び出て
互いの台詞の応酬になる、という数学的なロジックで
書き進めたので、書いてた当初は
「これでそれでも良いはず…」と
ま、今回の第1次改修で、ちょっと唐突過ぎるのを
まだ後に続くキーワードを組み込んで、最初の草稿よりは
何かある的に改善したと思うのですが…
というわけで、よく分からない的なのなら
1章、通して読んだ後に、もう一回、ここを読んで貰えると
どうでしょうか?的な。
結局、互いが互いに分からない二人が、
自分の事情で話を交わすとカオスになる的な結果ですかね…
1章を荒文でも書き終えた今だから、
「やっぱり、ここは、こうでいいのか…」的な
終わった後には作者も納得したのですが…
□1章のラストまで読んで、もう一回ここを読まれた方へ
そんなの文章の校正する作者以外、居るの?ってのはあるんですが
要するに、クライドはクライドで
自分の挫折や妹の社会からの排除要請への抵抗
もう死んでもいいや、的な投げやり感と
何かしがみついている自分、という感情のアンバランスの発露が
このシーンで出てくるキャラクター性になり
プリメーラはプリメーラで、居るのか居ないのか分からない
40年の半存在的な状態からの自己存在への怯え
それと、出会う事全てが初めての人間的感情への触れ合いなので
その気持ちと気持ちの応酬なわけです。
それが互いに分かってないから、よく分からないままに
互いに勝手に盛り上がるわけですが…
それでも互いが会話が成立し続けるのは
クライド妹と緑メーラには存在感にシンクロ性があるので
そこで、互いの自己感情の発露が互いになんとなく納得できてしまう。
クライドは、妹の影をプリメーラに見てしまい
プリメーラは、自分の不可思議さを受け入れてくれる相手に
感情の発露を依存してしまう、という形になるハズなんです。
と同時に、この時点では完全に秘密にするつもりだった
『赤メーラ』さんを、チラッと出して物語を調整しましたが
この二人をやり取りを、シードだけでなく、赤メーラも見ているので
赤メーラの方もクライドに興味を持ってしまったから、
緑メーラの幼女並のハズの論理思考に微干渉して
物わかりを良くさせている…というのもあるわけです。
哲学でいう所の、「存在成立の為には二認識機関が必要」
という事は、赤メーラは思考天体との融合で既知なので
それを、無意識的にやんわりと緑メーラに分からせたと…
そんなわけで、ここの緑メーラの不安定性は
赤メーラの介入もあるのだ、と認識して貰えると。
また同時に、このシーンは
シードと赤メーラの二者のクライドの値踏みのシーンでも
あるわけです。
逆に言えば、クライドがこんな奴じゃなくて
「銀河を力で征服するのだ!」みたいなDQNだった場合は
シードに抹殺されて、緑メーラの記憶も消去されたと思います。
もしかしたら1000年の間に1回ぐらい
そんな事があったのかもしれません
(そう設定してませんが)
そう言う意味では、クライドが
結局、緑メーラをニンゲンにしてしまった、このシーン
ここが銀河を胎動させるスイッチを、
クライドが良くワカランままに押してしまったとも言えます。
だからクライドがここから主人公をしなければならなくなった
所以なのだとすれば、そういう事なのかなーと。
と同時にクライドの様な人間を呼び水にしたのは
何なのかなー?というのを逆算していくと、
この作品には、存在が欠片も出ないか、
ちょっとはいつかは出てくるかもしれない
華帝国の1000年前の華帝国皇帝
リーシャス・ガルドムルンゾが寿命を受け入れた事
それにより華帝国にだけ、知識の特権を与えた事
それなのかなーと考えれますね。
こんなサファナムをおかしな宙域にしたのは
白帝の発見と、華帝国の撤退が全てなので
クライドという人間を生み出す因子の元は、
最終逆算では設定的にしか存在しない、
リーシャス・ガルドムルンゾさんになるんですよね…
(しかし、それの元になるのはプリメーラの母になるんで
じゃプリメーラの本当の母親が原因?って
因子を追えば追うほど、何が原因?ってのが
複雑になるんですけれど…)
となると、リーシャスさんは
もーちょっとキャラクターとして魅せる必要が
あるのかもしれませんね…