第二節(Ⅱ) 自称銀河帝国皇帝
元々の第二節の分割後半です。
文章改修で読んでいたときに、ここが長すぎると感じたので
分割する事にしました。
2016/08/11 第一次改修
「汎銀河帝国って、あの古代帝国の事だろう?
今の六色帝国が1つだった頃の銀河統一国家…
じゃぁ、それの遺産技術を用いられているのが君だっていうのか?」
プリメーラの口から出てきた奇特な単語のおかげで、
ようやくクライドは目の前の常軌を逸した存在が、
その単語からの類推で、理解出来そうな気がした。
クライドが、昼に端末情報で読んだように
今、この大銀河では、六色帝国なる6つの超帝国達が
終わる事の無い1000年間戦争を続けているらしい。
その六色帝国や戦争の実体が、実際にはどんなものなのかは
それを見たことが無いクライドなので
ただそう言われているとしか認識できていないのだが
昼に読んだ声明文の流れから考えて、自分達の国を滅ぼした
クリークス帝国ですら手も足もでない存在であるらしく、
奴等がこんな理不尽な戦争を仕掛けて来た事と
宇宙地図で示される巨大な勢力図を思い出せば
クライドの理解を超越した超軍事帝国なのだろうと思われた。
六色帝国とは(サファナム宙域という特殊な場所の)
一般銀河市民にはそういう事になっている超帝国群だった。
そして一応、これも教科書レベルだが…、
その六色帝国が『六色帝国戦争』と呼ばれる1000年戦争を始める前は
6つに割れた銀河も元々は1つの巨大な銀河帝国に統一されていたという。
その銀河帝国の名前は『汎銀河帝国』
今では、古代帝国と呼ばれる伝説の存在で、
一般知識で知られている六色帝国の版図の全てを、
1000年前には統治していたという。
銀河全てを制覇した古代の統一帝国。
その古代帝国の科学技術は、1000年後の今になっても
現在の分裂した六色帝国を超越しており、
古代帝国の技術遺産を手にするだけで、
地方豪族程度なら、周辺の勢力版図を塗り変える事が出来るという。
また、これは都市伝説に近い話だが、クリークス帝国の国是でもある
古代帝国の『秘宝』を手にする事が出来れば、
銀河の全てを支配する力を手に入れる事も出来るとか…
最後の話だけは眉唾であるが、ともあれ
伝説の古代の銀河帝国。
その古代帝国が生み出した何かが、目の前にいる彼女なのだ、
という事をクライドは理解した。
『…古代帝国?』
一方、プリメーラは自分の認識の中に無い違和感のある言葉を
目の前の彼に口にされ眉をひそめる。
「…ああ、汎銀河帝国っていったら
1000年前に滅んだっていうあの古代帝国の事だろ?
なるほどな…驚くような話だけど…
あの『古代帝国』が絡んでる話ってんなら…
どんなトンデモ無い事であっても不思議でもないのか?
しかし…なんでまたそんな古代帝国が、幽霊なんか作ったのさ?」
クライドはあまりに大事な話と分かって面食らい、思わずそう毒づいた。
そんなクライドの言葉を聞いてプリメーラの眉は瞬時につり上がる。
『ちょっと!
なんで汎銀河帝国が古代帝国なんですか!
汎銀河帝国は古代帝国なんかじゃないです!
今も銀河を支配している大帝国です!
それと私は死んでないんで、幽霊じゃないです!』
初めて出会う人なのだから印象を悪くしないようにと、
穏やかな口調で会話をしようと心がけていたプリメーラなのだが
クライドのそんなぼやき言葉を受けて、カチンと来て当初の決意も忘れ
激高して腕をブンブンと振り回して荒れ始めた。
「え?君こそ、何言ってんの?
汎銀河帝国は、1000年前に大分裂して
崩壊して滅亡した古代帝国だよ…
こんなの常識じゃないか!」
幽霊の様な神秘的な雰囲気で光を放ちながら、
先ほどまでは対峙していたのに
古代帝国の話題が出てからは、大人しかった様も失って酷く取り乱し
随分とけたたましい様子になった超常現象の少女に、
あっけにとられるクライド。
その姿に飲まれて、思わず普通の人と話すかの様な姿勢になった。
(ちょっとシード!
この人、また分け分かんない事言い出したよ!
貴方の言ってた事と違うじゃない!どういう事なの!)
(うーん、まぁ下賤な臣下には
姫様の様な高尚な存在の理屈は分かりませんからなぁ…
一般の人には、今は「そう」思われてるんですよ…)
(なんですって!!)
『ちょっと、えっと、貴方!
それは現代の人の認識が間違っているんです!
汎銀河帝国は滅んでいません!!
今も、この銀河を支配している大帝国です!』
プリメーラはクライドの言葉に慌てて
シードなる者の解説の続きを聞かずに、けたたましく反論の声を上げた。
そんな微妙に可愛らしくも見える彼女の立腹の姿に首を傾げて
クライドは会話を続ける。
「なんか、光ってる幽霊みたいな子と
こんな、よく分かんない会話してるのも妙だけどさ…
うーん、君が言うように、古代帝国の遺産なんなら、
君が超常現象的なのは、なんとなく理解出来るとして…
でも、どうしてそんな、古代帝国の事を
一生懸命、存続してるって言うのさ?
君が古代帝国の遺産技術で作られた存在なら、
古代帝国は、遙かな昔に六色帝国に滅ぼされたって
この現状、分かるでしょ?」
非常識の塊である目の前の存在に対して『古代帝国の遺産』という、
遭遇したなら何でもアリになりそうな概念を思考の中に持ち出しては、
この状況を一端は納得し、だからこそ、この宇宙に厳然として広がっている
銀河の状況をクライドは口にする。
1000年前に、古代帝国は六色帝国に滅ぼされたという常識を。
『分かるって、分かりませんよ!
私が汎銀河帝国の皇帝なんですよ!
私が居るのに、何で汎銀河帝国が滅んだ事になるんですか!』
そんなクライドの一般知識による諭し言葉に
更にカチンと来て、プリメーラは叫けんだ。
「…………」
そんなプリメーラの絶叫に、頭が白くなるクライド。
彼の脳の理解システムが彼女の言葉を理解する事を拒絶した為、
思わず目をぱちくりさせた。
「…は?
汎銀河帝国の皇帝?
何、言ってるの君?」
余りに彼女がとんでもない言葉を口にしたので、
頭の中が白いままでクライドは言葉を返した。
彼女が何を言ったのか、頭の方がまだ理解を拒んでいたが
反射に近い意識が、言葉だけはそう紡いだのだった。
そんなクライドの呆然とした様子を前に、更に憤るプリメーラ。
『何を言っているって
だた本当の事を言ってるだけですよ!
私が汎銀河帝国の現皇帝なんです!
その現皇帝がここに居るのに
なんで汎銀河帝国は、古代帝国だとか滅んだとか言うんですか!!』
プリメーラは最初の大人しかった仕草も忘れて
まるで子供の様に…いや完全に子供の様に
腕をブンブン回してはクライドの言葉に抗う。
そんなプリメーラの返事に、強く眉をひそめるクライド。
冗談にしても言って良い事と悪い事があった。
それを思い、深い溜息を付く。
この大銀河では、1000年間続いている『六色帝国戦争』なる
全く終わる気配もない大戦争が続いているらしい。
らしいとしか言えないのがクライドの辛い所だったが、
そうだとみんなが言うのだから、そうらしい。
しかしその六色帝国戦争が勃発した原因も、
どうも、今の話題中心である汎銀河帝国にあったのだった。
当時の歴史の詳細はよく分かってないが、
汎銀河帝国の末代皇帝が『何か失政をやらかした』事で、
当時の汎銀河帝国は6つに大分裂したという。
そして、それぞれが色帝国を勃興しては独立し、
やがてその6つは六色帝国同盟を組み
六色帝国同盟軍によって、当時の暴虐をつくした汎銀河帝国を討ち
1000年前に汎銀河帝国は末代皇帝と共に滅んだという。
暴虐と専横は因果応報で滅びる
という暴君による失政の末路に対しての、手本の様な話であった。
しかし汎銀河帝国は、その時に滅亡はしたものの
汎銀河帝国の莫大な超越技術群も、同時にその討伐戦争で失われ、
今では『銀河中枢』の汎銀河帝国の首都があった場所に
『秘宝』という謎の言葉で眠っているというのだ。
…そこら辺は都市伝説じみた部分でもあるが…。
また1000年前に、汎銀河帝国を分裂した六色帝国達が
同盟連合して皆で討ったはいいものの、それで円満には終わらず
今度は六色帝国がそれぞれ銀河の制覇をかけて争い始めたという。
その争乱はやがて、汎銀河帝国の遺産である『秘宝』があると信じて、
それを求めて『六色帝国戦争』という1000年戦争になったらしい。
1000年前に戦争を始めた昔の当事者達は
その覇権戦争が1000年も続くとは思って無かったのだろうが
結果的に六色帝国がバランス良く足を引っ張り合ったので
1000年の間、終わる事の無い泥沼の戦争となってしまった。
そして、その1000年戦争のせいで、
1000年間、ありとあらゆる人々が
六色帝国戦争の直接的にも間接的にも戦災に合い、尊い命が沢山失われた。
かくいうクライドも、元を正せばその六色帝国戦争の遠回りな被害者で、
昼に読んだクリークス帝国の政略宣言の様な
思い上がりによる一方的な侵略戦争で、自分の国を滅ぼされたのである。
拡大解釈的に考えれば、クライドを正しくこのどん底にたたき落としたのも
元々は『汎銀河帝国』だと言えなくもなかった。
そんな、この銀河を今のこの姿にしてしまった『汎銀河帝国』
そしてその古代帝国の『皇帝』が、目の前の光っている自分だと
容姿の可愛らしい彼女がクライドに言うのである。
それに驚くなという方が無理だった。
「いやいやいや、君が汎銀河帝国の皇帝とかって
冗談でも言って良い事と悪い事ってあるんだよ?
何言ってるのか、分かってる?」
クライドは、目の前の光子の少女に
自分は何を言っているんだろうか?と眩暈のする思いになりながらも
しかし、そこは人として注意するべき所なので、そう窘めた。
『冗談なんか言ってません!
私が汎銀河帝国の現皇帝
プリメーラ・アルフォーレシード1世です!』
クライドの諫言に、むしろ泣きそうな表情になって
プリメーラは自分のフルネームを絶叫する。
「……はぁぁぁ??
汎銀河帝国の現皇帝、
プリメーラ・アルフォーレシード1世ぃぃ??
ちょっと何言ってるの君…
古代帝国遺産だからって、
そこまで無茶言うのはどうなのさ!?」
クライドは「1世」とか「っぽい」単語まで
彼女の口から出てきた事に唖然となった。
目の前の相手が、古代遺産の超常現象であるという
常識外存在だという事をなんとか受け入れる事は出来ても、
そんな彼女が、常識外存在の頂点『皇帝』であるという妄言だけは
承伏する事ができなかった。
だから彼女の言葉を窘めようとする。
『冗談じゃないですよ!
私が現在の汎銀河帝国の皇帝なんですもん!』
そんな諭すような言い回しをしてくる目の前の相手に、
プリメーラは涙目になって、必死に自分の主張を続けた。
食い下がる彼女に、流石にクライドも少しだけ苛ついて感情的になる。
いや、本来なら激しく激高しても良い所だった。
何せ彼女の言う事が本当なら、
『銀河最大の悪』が目の前にいる事になるのだから。
しかし、こんな涙目になって『銀河最大の悪』である事を
主張する少女を見ると、とても彼女の言葉を信じることができず、
真剣に怒ることすら馬鹿らしく思えた。
その気持ちの狭間が、言葉となった。
「ちょっと、汎銀河帝国なんて、
1000年も前に滅んだ古代帝国じゃないか!
何所にそんなモンがあるんだよ!
汎銀河帝国は、1000年前に六色帝国に分裂して
その六色帝国の同盟に、汎銀河帝国がその時に倒されて
残った六色帝国は、汎銀河帝国の最高遺産『秘宝』を求めて
どうしようもない、1000年戦争してるんだぜ!?
こんな銀河の惨状で、君は汎銀河帝国の現皇帝!?」
自分で彼女の言葉をそらんじて
その余りの内容のおかしさに、言った自分の方が笑えてくる。
流石に、酷く涙目になってる目の前の少女が可愛らしすぎて
『汎銀河帝国皇帝なんて現存してたら銀河最大の悪だろう!』
と最後に飲み込んだ言葉は口にしなかったが
むしろそこは、本当は言わなければならない所だとも思えた。
『だ、だから滅んでません!!
私が無敵過ぎるんで、臣下の者どもに好きにさせてるだけです!
えーっと、ちょっとお休み中!
そう!お休み中!』
クライドのそんな強い抗弁に、それでも半泣きで反発し
そう言ってプリメーラは指をクライドに向ける。
そんな言葉と仕草に顔を渋面にさせて肩を上げるクライド。
「はぁぁぁ? お、お休み中!?
汎銀河帝国がぁぁぁ??
ちょっと、君が皇帝だっていうなら、君、何歳なんだよ!
汎銀河帝国は1000年前に末代皇帝が滅茶苦茶をやらかして
その末代皇帝ごと滅亡。
銀河中枢にあったといわれる白色首都も壊滅して
今は誰一人、そこに辿り着くことが出来ないって話なんだぜ!?
もし皇帝が現存したとしても、居るとするなら銀河中枢…
それも末代皇帝が生きていたら、1000歳を越える事になるだろう!?
この話と、君、どう関係すんのさ!?」
クライドはそう説明して、
目の前の可愛らしい自称汎銀河帝国皇帝陛下に
言っている主張と、いわゆる一般認識との鬩ぎ合いからくる、
この状況のおかしさを理論的に指摘した。
自分自身も頭がおかしくなりそうだったので
何がおかしい所なのかを、整理する思いも同時にあった。
『ね、年齢?
私は…確か…100歳… くらい…じゃないかな…
多分だけど…』
(……だよね?シード…)
(うーーーーん、まぁ…うーーん
姫様の体感年齢は40歳程度ですが、
姫様が生まれてから
睡眠覚醒の繰り返しをして来られたので
正確な時間で換算すると、だいたい100年ですね)
(それって……60年間は、寝てたって事よね?)
(まぁ私が起こしても、姫様、する事ありませんでしたし…)
(う…うううう…)
連れ添いの言葉を耳にして、ただこの荒野の惑星に一人で
星を眺め続けてきた過去を思い出し、プリメーラは心の眉間を押さえる。
「うわ、年上なんだ…
す、すいません…年下だと思ってました…
………
…いや、じゃなくって、ほらおかしい!
1000年前に滅亡した汎銀河帝国の皇帝が
今、100歳なんてありえないでしょ!
残りの900年間、何処行った!?」
クライドは自分の年齢が38歳だったので
相手の容姿からして、きっと年下なんだろうと高を括っていた。
だから、100歳というB級人類平均寿命100歳ギリギリの
年齢を耳にして、瞬間的には驚いたのだった。
しかし、辺境国家とはいえ、首都中枢にはA級人類も
首班政治家として存在していたわけで
それ故、A級人類以上は150~200歳の平均寿命を持つという
宇宙一般常識ぐらいは知っていた。
そういう常識を知っていたので、驚くべき年齢ではあったが
『古代遺産』という超常現象を加味すれば
100歳と言われる事そのものに、そこまでの驚きは無かった。
だが、その様な年齢数字の驚きは少ないにせよ、
彼女のそんな新しい情報の提示で、
また整合性の合わない話になったので、そこを強く指摘する。
『だって、だってっ!
私も聞いた話でしかないけれど、
私のお母様が汎銀河帝国の皇帝で
その子供だから皇帝だって、私の従者が…』
プリメーラは、クライドから諭される理論的な説明に
理性の方が『それはそうだなぁ…』と思ってしまい
無意識の方が反射的に納得してしまった為、
だからこそ意識が反発して、目に涙を浮かべて、
ついには、今までシードに聞かされ続けて来た
その言葉をを叫んだのだった。
「えっ!
お、お母さん!?
君のお母さんが汎銀河帝国の皇帝!?
ええっ!!!
どういう事!?
母親が汎銀河帝国の皇帝で、その子供だから皇帝?
んな安直な…
じゃぁ、その人が1000年前の末代皇帝?
いやいや、S級人類の寿命も200歳程度って話だし
……というか、待てよ…」
その時、クライドは不意に、彼女が告げた新たな、
そしてクライドのそれまでの予想に無かった情報を元に
この状況が成立してしまう、ある可能性を思いついた。
その考えを心に浮かべると同時に、思わず声にもしてしまう。
自分自身への言い聞かせの言葉であった。
「…もし、皇族の生き残りがあの頃に居たとして…
皇帝の子孫として、討伐戦争の戦火から逃げ延びていたとしたら…
銀河中枢から逃げ延びて、白色領域に落ち延びる事は
十分、有り得る事だな…
なんせここは白色帝国領域だもんな…。
その逃亡皇族が、延々と子孫に血を繋げていれば
1000年前から、今に続くって事も在り得るか…
うーん、滅亡している帝国に皇位継承権とかあるんかよく分からんけど
まぁ、そんな皇族の生き残りがいたとするなら
皇族の子孫が言い張れば、
自称銀河帝国皇帝って言えなくもはない…か?」
そう言葉を連鎖させて、彼女の口から出た言葉から
そんな『あり得る可能性』を考えだして、
この状況が成り立つ仮説をクライドは立てる。
「あーー、君はもしかして
汎銀河帝国の皇族の生き残り?」
クライドは、目の前の光の少女にその可能性を伺ってみた。
『汎銀河帝国の皇帝!!』
そんなクライドの不躾な言葉に、涙目で叫び声を返すプリメーラ。
「あー、はいはい…、
古代帝国の皇族の生き残りなら
まぁ自称皇帝でも間違いないかもしれませんねーー
そこは、皇族の末裔の証拠か何かを見せて貰わないと、
流石に、なんともいえないけど…
それさえあれば、なんとか納得はできそう…な…」
この目の前の…クライドが知っている
いわゆる「皇帝」の威厳もへったくれもない、ただの可愛い女の子…
体から光子を発していて、
半透明で触れることも出来ない超常現象ではあるが、
それでも視覚的には可愛らしい少女に、
少しだけ柔らかい調子に戻って、この、今起きている奇っ怪な問答に、
ある程度の理解の落とし所を見いだしたクライド。
しかし、その言葉にプリメーラは憤怒した。
(ちょっとシード! どういう事なの!!
貴方の言ってる事と、彼の言ってる事、全然違うじゃない!!
何!?皇族の生き残りって!?)
(…いや、噛み合ってますよ?
はい、彼の知識の上での、彼のこの解釈は間違いないです。
姫様は先代皇帝のお子様。
なので汎銀河帝国の現在皇帝。
だたし、この今の銀河では汎銀河帝国を滅亡帝国と認定してますので
彼等の認識では、姫様は滅亡帝国で落ち延びた
皇帝直系の生き残りと解釈されます。
我々が、慈悲を以て汎銀河帝国の支配を
分割統治の疑似民主主義にしてやっている…という事は
銀河一般には知られていないのです…)
(ちょっと、それじゃ私が汎銀河帝国の皇帝って言っても
本当に何の意味も無いじゃない!)
(まぁ、そうかも知れませんねぇ…
でも何時も言ってるでしょう?
貴方は、この銀河で誰も触れることの出来ない至高の存在。
究極の至高に至られた汎銀河帝国の皇帝。
そんな御方が、下賤な者にそのお力を注いでも
それは王者の姿ではないと…
最強でありながら何もしない事。
それこそが汎銀河帝国の皇帝たる姿なのです。)
『それよ!』
「そ、それっ!?」
突然、彼女の脳内会話から抜け出て、彼女は人差し指をクライドに向けた。
逆にプリメーラに人差し指を向けられて
反射的にビクッと動いて肩をすくめるクライド。
『私は銀河最強の存在、汎銀河帝国の皇帝!
最強だからこそ、無益な事をしても仕方ない!
だから、下々の者達がしたい様にさせているのです!!』
彼女は、シードの言った「王者の理論」をそのまま口上し
そしてえっへんと胸を張ったのだった。
「え?最強だから、下々のしたい様にさせている!?」
『そう!そうっ!
慈悲なのです!慈悲っ!
王者は慈悲を以て、臣下に自由を与えねばならないのです!』
突然の少女の発言に、また呆然とさせられ
一瞬は、何か真理的な言葉の様にも聞こえて
思わず瞬間にはその言葉に納得しかけたクライド。
しかし、次の瞬間に、その主張に単純な反論や疑問が生まれ、
その疑問をそのまま口にしてしまう。
「……あーーー??
最強だから、何もせずに臣下のしたい様にさせてるー?
うーーん?? なんか…それは…
確かに本当に強い人の理想像ってのは…そうにも思えるけど…
そう…本当に強い人ってのは、クリークスのアホ共の様に
むやみやたらと暴力を振るうような奴等とは思えんしなぁ…
…………
……でも、それじゃ…
逆説的に、居ないのと何も変わらないんじゃないのか?
力が在っても銀河を支配もせずに、
市民にしたいようにさせてるんでしょ?
それなら、居ないも同然だし…
俺が言った滅亡した帝国の皇族の生き残りと何が違うの?
君が銀河最強かどうかはともかく…」
女の子なのに銀河最強という言葉を連呼するのに
些か不快感を覚えながらも、
そこは子供の戯れ言的な雰囲気で聞き流しながら、
彼女の主張にある矛盾を、そう理屈で示してみるクライド。
何もしないのなら居ないも同然。
というのは、誰にでも分かり易い理屈だった。
ただそう言いながらも、確かに『最強論』という理想像を考えれば…
力在るモノは、在るからこそ、むやみやたらと暴力を振るわない、
というのは、何か賦に落ちる思想で在り、
それならばその方が良いなとも思えたが。
そんな摂動の中で、クライドは揺れる。
『えーっと! えーっと…
あ、あれ… そう言われると、そういう気が…
何もしないって、確かに言われると、居ないも同然な気が…』
(姫様、いけませんな!臣下に言論で翻弄されては!
王たる者は、悠然と支配しない支配をしなければなりませんが
王である事を疑われるのは王の品位が問われるのです!)
(そんな事言われたって!
彼の言っていることの方が、もっともじゃない!
何も支配もしてないのに銀河の覇者っておかしいよ!)
(いやー、だから彼に見せてあげればいいんです…
姫様の力を!
『銀河最強』というのはどういう事なのか!
それが分かれば、下賤の者といえど『支配しない支配』の
意味を少しは理解できるかもしれません!)
(ど、どうやって!?)
(ちょっと、近くに落雷させてみましょうか?
軽く10億ボルト程度で!
こういうのは、言葉で言うよりも見せた方がいいんですよ!)
『そう! 見せてあげます!
私が最強の存在の証を!
銀河最強の証明をすれば、私が皇帝って思うでしょ!?』
「いや、まぁ…
何を見せられても、それで皇帝ってなるわけじゃ…」
『えーい!空間場開放で落雷!!』
プリメーラがそう叫んだ後に、その場に見えない圧力が走った。
そして次の瞬間には、雷雲さえない…いや大気が普通ではないので
水蒸気すら満足に無いこの大気の中で
地上に突然、雷の閃光が、クライド達を中心に周囲半径1km、
10度ずつ360度円状に、36本、走ったのであった。
その雷撃が光った後のおよそ3秒後には、
落雷衝撃の激しさがどの程度なのかを知らせる轟音が、
耳をつんざくほど鳴り響き、雷撃の威力を音でクライドに教えた。
「……は?」
クライドは、電光が自分の周囲の円状を激しく照らしたのを目撃した。
と同時に遅れて響いてきた轟音で、その雷のエネルギーも分かる。
そんな自分が知っている物理現象を
完全にねじ曲げられた光景を見せつけられて
思考そのものが止まってしまった。
「は?」
またしても間抜けな声を上げるクライド。
そんなクライドの様子に、どうも自分の力が認識して貰えなかったか?
と早合点したプリメーラは、仕方ないので追撃のパフォーマンスを行う。
『うーん!じゃ、これならどうです?
落雷、流しっぱなし~~~!』
と彼女が言っては、またその空間に何らかの圧を飛ばす。
今度は先ほどの雷撃の様子が、瞬間のインパルスではなく
連続雷流という凄まじい光景となって、展開されたのだった。
シードはそんな主の思いきったアクションに閉口し
大地に特別アースを作ってはサージ雷が彼等の所に向かわない様に
雷流の流れを綺麗に交通整理させて循環系を作ったのだった。
クライドの目の前には、信じられない光景が広がっていた。
連続する雷撃がスパークを生み、眩しいを通り越して
目を瞑らなければならない程の光が周囲円に溢れた。
そしてその光景から否応なしに雷撃柱円の中心に
自分達が居る事を知らされる。
と同時に、連続爆発音とも思える轟音に耳をやられそうにもなる。
「ちょっと待ってくれっ!
大気無いのに、雷落ちてる!!」
余りの現象に大慌てになって、彼女の方を向いて絶叫するクライド。
『ほーら!
これが私の力なんです!!
私はこの世界の電磁気を全て思いのまま支配できる力があるんです!
それが銀河最強の力で皇帝の証なんですよ!』
クライドの蒼白な顔を見て、
してやったりと勝ち誇って胸を張るプリメーラ。
そこでようやくプリメーラは周囲に雷撃を作るのを辞めた。
シードは、プリメーラが強引な空間制御を辞めたのを見て
その後に残された大量のイオン化した大気ラジカルを
流体制御でかき集めては、地上に溜まった大量の電荷と環流させて、
いそいそと、電気的中性を再構築しようとする。
クライドは今の目の前で起きた事を元に、自分の常識内で該当する
『こんな事が出来る可能性』を想定して騒然となった。
『汎銀河帝国に縁のあるモノ』
彼女自らがそう言っていて、尚且つクライドが承伏できない
『皇帝』を除外した場合、考えられるモノとは?
それを考えて、クライドは身震いするしかなかった。
「う、うわ…
なんか俺…多分、
とんでもない者に出会っちゃったんだ…
うわぁぁ………」
『でしょう!でしょう!
そう、貴方は偉大なる汎銀河帝国の皇帝に出会ったのです!』
クライドの『とんでもない者』という言葉が
皇帝の認識だと思い込んで、更に悦に浸るプリメーラ。
しかし次の彼の言葉が、彼女の瞬間の喜びをぶち壊した。
「うわぁぁぁ!!!!
汎銀河帝国の古代遺産の兵器!!
汎銀河帝国の遺産兵器が目の前にある!!!」
『え!?
は、汎銀河帝国の遺産兵器ぃーーー!?
はえーーー!!
なんですかそれーーー!!!』
「こんな辺境の…それも銀河中枢じゃなくて、
こんなサファナム宙域の……
それも、こんな誰も見向きもしない廃惑星の上に…
汎銀河帝国の遺産兵器とか、
とんでもないモノがあるなんてっ!!」
クライドはクライドの知識内で理解できる範囲で
今起きた信じられない現象を踏まえて、
目の前の「ナニカ」を瞬間的にそう結論づけた。
『何ですか!!汎銀河帝国の遺産兵器って!!』
クライドが絶叫した言葉を受けて、それを逆に問うプリメーラ。
(何!どういう事!!
力を見せれば皇帝って分かってくれるんじゃなかったの!?)
(んーー、流石に皇帝と思って貰うまでは無理でしたかー
まー、この程度じゃ、まだ皇帝と思わせるのは無理ですねー
超加減してますからねーー
惑星でも割ってやれば信じたでしょうけど
それやると、信じる前に、彼、死にますしねーー)
(ええええっ!惑星を割る!?
そんな事までしないと皇帝って認識して貰えないの!?)
(まぁ、汎銀河帝国皇帝という言葉に持たれるイメージって
そういうレベルですからねーー
そうでしょうねーー
ふーむ、それぐらい出来なくもないですけれど、姫様やります?)
(そんな事しませんっ!!
するわけないでしょう!!
ここにはあの子達も居るのよ!?
でも遺産兵器とか変な事言われてるよ!!
それは、どういう事!?
彼は私をどういう風に理解にしたの!?)
(あーー、いや、彼は中々、聡明ですねーー
この現実を見せられて、最も適した理解をしてくれました。
少なくとも姫様の「力」は認めてくれたわけですよー)
(「力」?それが遺産兵器って言葉!?遺産兵器って何!?)
(えーと、ですねーー
まぁ、彼の知識レベルじゃ、そういう認識が限界でしょうけど
姫様の帝国である、汎銀河帝国は
姫様の寛大な処置によって、今は分割統治になっているんですが、
姫様の帝国の技術は、臣下の分割帝国なんかよりも
遙かに超越した技術を未だに持っておりましてーー
その技術が帝国お休み宣言をした1000年前に
バラバラになったんですねーー
でも、その技術があまりにも超越し過ぎてて
臣下の国の者達が、それを手に入れたら
宇宙の勢力図が変わるぐらいなんですーー
それを彼等は『遺産兵器』って呼んでいるんですよねーー)
(はぁ!?私をモノ扱い!?)
(いやー、姫様は遺産兵器じゃないですけど
彼等の知識の物差しじゃ、姫様の様な存在を
遺産兵器というレベルで認識しないと理解できませんからねー
この時代の常識で考えれば、汎銀河帝国の皇帝陛下が
こんな所に1人で100年も居るなんて
信じる事ができない話ですからねー
彼の言うように、居たとしても銀河中枢の帝国帝都にいると
普通は思いますし、だから、汎銀河帝国の超兵器って
彼が理解出来る所で、落ち着いたみたいですよー)
(私はモノじゃない!!
というか、なら、彼の方がよっぽどまともな
認識してるって事じゃない!
なんで私は銀河中枢の帝都に居ないのよ!
そう考えるのが普通なんでしょう!?)
(皇帝陛下の深淵なる力は、
なかなか下賤なモノには理解できないのです。
常識などという枠では、姫様の圧倒的な力は
首都に在れば在るほど、より臣民を苦役に落とすという
王者の理論が分からないのです…
それが下賤という事なんですよ…)
(おかしい!おかしいよそれ!
その王者の理論って、私でも納得できないわよ!
それなら彼の言ってる事の方がよっぽど正しいって事じゃない!
何もしないんなら、居ないも同然だって!)
(うーーーん、でも、
姫様が首都に還って皇帝を復位宣言して
汎銀河帝国のお休み、終わりーーって言って、
銀河の支配者に戻ろうとしたら
今の世の中じゃ、姫様、ざっと1億人ぐらい軽く殺さないと
汎銀河帝国皇帝陛下って認めてもらえませんよ?
ここまで臣民に分割統治を許してしまってたら…)
(は!? 1億人も殺すですって!!)
(姫様なら、その超越能力で1億人殺そうと思えば簡単ですけど
殺戮の暴君にならないと、銀河を支配できない
頭の悪い臣下しか居ない世界ですからねーー。
姫様のお母様も、それが嫌だったので復位されなかったんですし…
だから姫様は寛大な心で、1人で居られないといけないんです。
そうずっと私は40年間、言ってきたでしょう?
殺されなきゃ分からない、馬鹿しか居ない世界だって…)
(ええええええ!!!
何よそれーーーー!!!!
殺されなきゃ分かんないって!)
(しかし、現に目の前の彼は、まだ姫様が汎銀河帝国の皇帝だって
理解できないじゃないですか…
ここまでの空間雷撃なんて、在り得ない光景を見たってのに…
こんなモンなんですよ…銀河にいる下々って…)
(それはよく分かったわよ!
今まで貴方が私に言ってきた
『どうせ馬鹿だから分からない』って言葉は!
でも、それを分からすためには、
この人を殺さなければならないって事でしょ!?つまり!)
(まぁ、本当に理解させるにはそうでしょうね…)
(でも殺したら、分かってもその時、彼が消えちゃうじゃない!)
(ええ、消えますね)
(理解させても消えちゃうんじゃ
何の意味もないじゃない!!)
(そうなりますねぇ…
力を理解しない臣下を殺したら
そいつは分かる前に無くなりますねー
でも、それを目撃した他の臣下がいた場合
その臣下は恐怖で平服すると…
だから、臣下を平服させて、世界を支配をするには
臣下が最低2人は必要なんですよねー
まぁ皇帝の銀河支配ってのは、概ねそんな感じです)
(何よ、そのシステム!!
そんなんなら、汎銀河帝国の皇帝なんて私どうでもいい!
何もかも殺さないと認められないのが皇帝なら
私、そんなのもう要らないよ!)
(そう思われるの事こそが、真の皇帝陛下の御心なのです…)
(それどんな理屈なのよ!!)
と二人は『光速理解』の空間で、念話会話をし、
ついにシードの今までの言葉遊びの中に隠され続けて来た
『皇帝復位の条件』を、プリメーラはそこで聞かされるのだった。
それに、愕然とするプリメーラ。
思わず目の前のクライドの事も忘れて膝をついた。
「ちょっと君!」
『え?』
そんな100年か40年か、どちらかは曖昧にしても
長い時を経て、ようやく伝えられた重要な話に
心底から打ちのめされていたプリメーラに対して
彼女の心の状態など完全に無視して
クライドは真剣な顔になって、自分の手をさしのべた。
そしてそのまま彼女の手をその手で掴もうとする。
しかし、その手は宙を掴むだけだった。
「あっ掴めないんだった…
うわぁ…改めて分かると、スゲェなこれ…」
何度も彼女の手に触れて、その手を取ろうとするが
ただ宙を掴むだけのクライドの手。
外からは彼女に干渉できないという彼女の言葉を
こうやって目の前で実感すると、改めてそのすさまじさが分かる。
と同時に、ならばこの状況は考えている以上に一大事なのだという事も。
「でも、とにかく、君っ!
あっちの丘に隠れるんだ!! 一緒に行こう!
ぐっ!痛っ!」
クライドはそう言って、指で方向を指さして
今の視界から見える丘の方に走ろうとしたが
プリメーラがその空間に展開していた
大気フィールドと放射能遮断フィールドの壁に頭からぶつかり
後ろに転倒したのだった。
「何だこれ? 空間に壁がある!」
端から見たら、パントマイムの動作の様に、
見えない壁の境界に手を這わせて、
そこに透明の界面が在る事を知るクライド。
『あ、そこからが貴方が生きていられる空間の範囲で…
ちょうどそこにバリア壁がありまして…』
「これも君の力!?
空間の電磁気を支配下に置けるって、
こんなに恐ろしい事なのか!!」
クライドは彼女が言っていた
彼が生きていける空間を作ったという言葉が本当の事である事を、
手触りのフォースフィールドで感じて、
ますます背筋が凍るような思いになる。
しかし、そんな超常現象にいちいち驚いている場合ではなく
打ち付けた体をさすっては立ち上がって、また彼女に手をさしのべる
「でも、それはいいから、ちょっと隠れよう!」
真剣な眼差しで彼女に手をさしのべるクライド。
『え?どうして?』
そんなあまりの突然の彼の言葉にポカンとするプリメーラ。
「人を遺産兵器にするなんて、許し難い暴挙だけど
今はそんな事、言ってる場合じゃない!
奴等に見つかる前に、隠れるんだ!!
あんなに派手に落雷を起こしたんだ!!
もうきっと、見つかってる!!」
一生懸命に、近くの丘に行く事を指で合図する彼に圧倒され
言われるがままに、とぼとぼとクライドの方に向かうプリメーラ。
『見つかってるって…誰に?』
ゆっくりと歩きながら、
同時にクライドの言わんとする事を問いかけた。
「この惑星の遙か上空に居る、俺の敵だよ!!
さぁ早く!!」
状況が飲み込めていない彼女に苛立ちながらも
クライドはともかく指図した丘に
行こう行こうと、急かして彼女を促す。
(…シード?これは?)
(……いやぁ、彼、良い人ですねぇ)
(…良い人?)
(まぁ彼は分かってませんけれどね…
この空間は私が空間遮蔽してるんで、
姫様の力が外部に感知される事はないってのを…
ただ、そんなの普通の人は分かるわけないんで仕方ないですけどねー
でも、あんなに姫様の為に必死な顔になってくれてるんです…
勘違いでも良い騎士じゃないですか)
(……騎士?)
(うーん、臣下の中でも特別な者の事です。
皇帝陛下と臣民の間は、
絶対的な力の差で支配と平服の関係を構築しますが
そこに心はありません。
でも、心で従ってくれる特別な臣下の事を騎士というんですよ)
(心で従ってくれる特別な臣下?)
(そう、特別な臣下…)
『…貴方は私の騎士なの?』
「…へ?」
プリメーラはシードのちょっとした言葉遊びを鵜呑みにして
クライドにそれを尋ねる。
そんな彼女の唐突な質問に眉をひそめるクライド。
『私の騎士だから、
そんなに一生懸命な顔で、私を見てくれるの?』
プリメーラは生まれて初めて出会う
…といっても人と出会うのが初めてなのだから
何をされても初めてだったが、
それでも初めて出会う一生懸命に自分を見てくれる眼差しに驚き
じっとその瞳を見つめ返して問いかけた。
「あーー貴き皇族様の理解言語ってのは、よくわかんねーな!!
ドラマよりも、これは酷いわ!
まったく、これだから、貴族ってヤツはっ!
まぁともかく、それで俺の後に付いてきてくれるなら
それでいいよ!もうっ!
俺は君の騎士だから、
俺は君をあの丘に隠さないといけないんだ!だから急いで!!」
クライドは自称皇帝陛下という亡国皇族の生き残りの
貴族社会的な物言いを聞いて、苦笑いと共に閉口したが
事の重要性を思えば、それでこの状態を隠蔽できるのなら
何でもいいと思い、彼女の言葉に乗って彼女に移動を促したのだった。
『は、はいっ!!』
差し伸べられたその手に胸を高鳴らせ、プリメーラはクライドの手を取る。
その行為は、反作用を受けないプリメーラの手には何の感触もなく、
ただプリメーラの光の手とクライドの物質の手が交錯しただけだった。
それでもたったそれだけの事が、プリメーラにはとても嬉しく思えた。
(おーー姫様、初めて出会った人なのに騎士として臣下をゲット!
流石、姫様ですね!
騎士を得れる皇帝は、人徳の証明です。
最強でありながら1億人も殺さない
寛大な姫様だからこそ、いきなり騎士を得れたんですよ?)
(…シード、貴方楽しんでるでしょ?)
(楽しんでますよ…
ある日、突然、空から落ちてきた人が
こんなに面白い人だったら、私だって楽しみたいですよ。
だから、彼の言うとおりにして
彼の言葉に耳を傾けてやって下さい。
状況や事情を私が説明してもいいですけど…
そんな野暮な方法で水をさすよりも
あの騎士の心を、姫様は得た方がいいと思いますよ。
きっと、姫様がずっと欲しがってたモノが
手に入りますから…)
(私がずっと欲しがっていたモノ?)
(ええ、もうすぐに…だから…)
そう不思議な事を言われて、連れ添いにまで促されると
プリメーラはただ言われるがままにするしかない。
そして二人は丘に向かって隠れる為に走った。
ここは、元々の二節を、読む文量でキリが良くする為に
分割しただけの所なので、特に前の後書きに加える事は無いです。
ただ、分割しての割り込み、という操作が初めてする事なので
上手くいくのかどうか、そういう実験の面があります。
1章の全体的な改修が出来れば、二節(Ⅱ)とか無様な番号打ちではなく
改めて、三節など、数字を打ち直す予定で…