3分異能バトル
「もう昔のことなんだけどさ」
「その前置きから始まるお前の話が面白かった試しがないなあ」
「まあまあ、聞いてみなくちゃ分からないだろ? 今回は自信があるんだよ」
「へえ、そりゃ楽しみだな。続きを聞こうか」
「もう昔のことなんだけどさ……、『3分異能バトル』っていう番組があったんだ」
「テレビか? 聞いたことないけどなあ。いったいどんだけ昔の話なんだ?」
「さあ、詳しいことは僕も覚えてないよ。それでさ、とある日に僕はこれを初めて見たわけ」
「一体何をするんだ?」
「文字通りだよ。2人の異能力者が3分で戦って、どっちが強いか決めるんだ」
「ちょっと待てよ。その異能力者っていうのはなんだ?」
「ほら、人とは違う能力を持ってる人だよ。例えば口から火を吹いたり、相手の思考を読んだり」
「そんな人間がいたなんて初耳だけどな」
「僕もびっくりしたよ。でも実際に見てみると面白かった」
「確かに俺も見てみたいなあ。口から火じゃなくてコーラとか吹いたら面白そうだ」
「あんまり想像したくない絵面になりそうだけど。それでさ、僕が見たのはあれだったな。水鉄砲」
「水鉄砲? ちょっと待ってくれよ、それのどこが異能力なんだ? そもそも弱すぎるだろう。スピードが音速を超えるとかなら分かるが」
「スピードが音速を超えたりはしてなかったね。でも手から自在に水を発射できるんだ」
「なるほど、手が水鉄砲になるのか。水遊びで無双できそうじゃないか」
「まさにその通りなんだよ。水が苦手な人に対してなら最強の武器さ」
「それで、もう一人は? 戦うんだからもう一人の異能力者がいるんだろう?」
「それなんだよ。でもしばらく待ってももう一人は現れなかったんだ」
「棄権したのか? でもそれじゃ、番組的にダメじゃないか。視聴率が下がりそうだ」
「それがさ、僕もびっくりなんだけど。突然テレビが光り出したと思ったら中に吸い込まれてさ。気づいたら目の前に水鉄砲がいたってわけ」
「おいおい、夢でも見てたんじゃないか? もともとぶっ飛んでた話がさらに飛んだぞ。……いや、でももし本当だとしたら、それも何かの異能力なのかもしれないな」
「ホント、夢のようだったよ。けど戦場に出たからには本気でやろうと決意したんだ。でもさ、僕はその時気付いちゃったんだよ」
「何にだい? 本当に夢だった、っていう落ちはつまらないから許さないぞ」
「いやさ、そもそもこれは異能バトルなんだよ。出場者は各々の異能力で相手を倒すんだ。もう分かったんじゃない?」
「そんなことは知ってるさ。焦らさないで早く教えてくれよ」
「だからさ、僕も出場者なわけ。ということは実は僕も異能力者で、もしかしたら異能力が使えるんじゃないかってさ。そしたらあの水鉄砲を倒せるかもしれないって、ちょっとワクワクしたんだよね」
「ああ……、なるほどな。で、結局のところどうだったんだ? まさか本当に異能力者だったのか?」
「全然ダメ。水鉄砲野郎に散々びしょ濡れにされたよ。まったく酷いもんさ。僕は水が苦手なんだ」
「なんだよ、ちょっと期待したじゃないか。じゃあ結局のところ、何かの間違いで凡人のお前が呼ばれて、そのまま異能力者になすがままにされたってことか」
「なすがままとは失礼だなあ、僕も頑張ったんだけど。でもまあその通り。だから番組的にも大打撃さ。視聴者からのクレームが殺到、番組は僕が電撃出場した回が最終回になった」
「それは残念だな。聞いただけでも結構面白そうな番組だったのに。一回見てみたかったなあ。それで、どうなったんだ?」
「どうにも何もないよ。これで僕の話は終わり。面白かっただろう?」
「なんだ。まあ面白かったかと問われれば、久しぶりに面白い話だったよ」
「それは嬉しいなあ。きっとまた楽しい話を持ってくるよ」
「ありがとう。じゃあ俺はそろそろ寝るぞ」
「あ、待って。実はさ……、僕は一つ嘘をついたんだ」
「なんだよ? 最初から嘘のような話だったが」
「本当はさ、僕、異能力者なんだ」
「え?」
「驚くなかれ……、これは夢だったのさ」
目が覚めた。
俺は、異能力者ではない。
だから俺の腰にはいつも水鉄砲がある。
剣は危ないもんね。
早く平和な世界にならないもんか……。
この世界で3分異能バトルが開催されるのは、まだまだ先になりそうだ。