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海のララバイ  作者:
第一部 海賊たちとほろびの音
8/13

七章 作戦

             挿絵(By みてみん)


 鳥の鳴く甲高い音が、耳元できこえた。顔をしかめながら寝返りをうつ。しかしその音は鳴り止むどころか、ギイギイとさらにけたたましくなってきた。おまけに、ツンツンと頬をするどく固いものでつつかれる。

 うっすらと目をあけると、ちいさなふたつの瞳と目があった。しばらく何なのかわからなかったが、やがてそれは色鮮やかなインコだと気づく。

「…ルリー?」

「おキタ!おキタ!」

 元気よくルリーは羽をばたつかせた。ララはぼんやりその様子をながめていたが、意識を失う前のことを思い出してあわてて体をおこす。全身の筋肉がひきつるように痛むが、そんなことを気にしている場合ではない。そうだ、リイと一緒に海におちて、それから…。

 ララは自分の両手をみおろした。ぼくは、生きている。

 そこは小さな部屋だった。四方の壁は、天井まで続く本棚がおおっている。棚におさまりきらなかった本は、あちらこちらで山のように積まれていた。その本の海の中で、まるで虐げられているかのように、ララの寝ていたベッドは部屋の一番端に追いやられていた。

「お目覚めかい?」

 ララはびっくりして目をみひらいた。それは本の山の中からきこえた。どこかで、きいたことのある声。そして、どこかできいたことのある笑い声。

「まさか…」

「やあ。また会ったねえ、『青き者』」

 本の山の裏から、黒ずくめの不気味な男が顔をだした。手にしていた本をパタンと閉じて、ララに近づいてくる。クックック、という癖の強い笑い声が部屋に響いた。

「どうしてあなたが…」

「どうしてって、ぼくが海岸に打ち上げられている君をみつけたからに決まっているだろう?今朝、ふいに散歩をしたくなって外にでてみれば、色鮮やかなインコがぼくの目の前に舞い降りてね。ぼくの洋服をくちばしでつまんでひっぱった。仕方なくついていったら、海岸に打ち上げられた君たちを見つけたのさ。いやあ、すごい偶然だったね!」

 ちっともおどろいた様子などなく、男は…クックはそう言った。ララはカラカラの口をなんとか動かした。

「ここは一体…?」

「テヤの町。ユルルから、ずっと南にいったところにある、ちっぽけな町だよ。そして、ここはその町にある唯一の図書館の一室さ」

「図書館?…にしては、だいぶ荒れているような…」

「図書館といっても、小さな家に本棚をしきつめただけのものさ。この町の住人は本にあまり興味がないみたいでね。『館長』であるぼくもたまにしかここにはこないから、仕方がないのさ」

「館長?ユルルの図書館でも、館長をしているのに?」

 ララが驚いてそう聞き返すと、クックはいたずらっぽく笑った。

「ぼくはね、このシイア王国のすべての図書館を管理しているのさ。でもまあ、ユルルの図書館がこの国では一番大きいから、普段はそこにいるんだけれど」

 ララはおどろいてクックを見つめた。国中の図書館をたった一人の人間が管理するなんて、そんなことができるんだろうか?

 しかしその時、ララは重要なことを思い出して顔をあげて叫んだ。

「そうだ、リイは?女の子が、一緒に流れついていませんでしたか?」

「ああ、ちゃんと生きているよ、安心するといい。立てるかい?」

 クックに促され、ララは隣の部屋へと移動した。そこは、彼がいた部屋よりも少しだけ広いが、無数の本棚にかこまれ山のように本が積まれた様子は変わりがなかった。そして、やはり追いやられるように端にあるベッドの上にはリイの姿があった。

「リイ!」

「グルーガスの眠り姫は、まだ夢の中のようだね」

 ララはほっとしてベッドのそばにあったイスにくずれるように腰かけた。リイはぐったりとしている様子だったが、その胸はおだやかに上下している。ほっとした瞬間、荒れ狂う海を必死に泳いだ恐怖がぶりかえしてきた。あんな荒波の中で気を失ったのに、ぼくらは生きている…しかも、一度会ったことのある男に偶然助けられるなんて。

「…ほんとうに、偶然なんですか?」

「…なにが言いたいのかな?」

「ぼくらを見つけたことです。いつもはユルルにいるはずのあなたが、たまたまテヤの図書館にいて、たまたま流れ着いたぼくらを見つけたなんて…あまりにも話がよすぎる」

「ふうん、きみはやはり馬鹿ではないようだ」

 クックは嬉しそうに笑い声をあげた。ララはしぼりだすように言う。

「じゃあ、やっぱり…」

「簡単なことさ。ぼくは、めずらしいものが見たいだけ。だから、君を助けた。ただ、それだけのことさ」

 クックはそう言ってララを細い目でみつめた。漆黒の瞳で見つめられて、ぞくりと寒気を感じる。

「あなたは…一体なにものなんですか?」

 声が少しだけ震えた。問わずにはいられなかった。

「それを知るだけの対価を、君はもっているのかな?」

 クックが静かにそう言った瞬間、ふいに布のこすれる音がしてララはベッドをふりかえった。リイが寝返りをうち、うっすらと目をあけた。深緑色の瞳が彼をみつけ、思わずほっと息をはきだした。

「リイ、よかった!目がさめたんだね」

「ここは…?わたし、どうして…」

 生きているのが信じられないと戸惑っているリイに、ララは状況を説明した。クックに助けられたと知ると、リイはあやしむようにララの背後にいるクックを睨んだ。どうやら、この男のことをリイはあまりよく思っていないらしい。

「あんたのことは、前から信用なんてしてないけど…今回のことは礼を言うわ。ありがとう」

「お礼は君のインコに言うといい。海におちた君たちを、ずっと空から見張っていてくれたようだからねえ」

 その言葉に、「見はっタ!見はっタ!」とルリーが翼をひろげた。その首を、リイは優しくかいてやると、ルリーは嬉しそうに目を細めた。

 クックは「なにか栄養のあるものをもってこよう」と言って部屋をでていった。そしてほこりっぽい部屋には、ララとリイと、そして大量の本たちだけが残された。

 最初に口をひらいたのは、リイだ。

「わたしたち、よく生きて地上にかえってこれたわね」

「海が…」

 ララはそこまで言って、ふいに口をつぐんだ。ばかけていることかもしれない。けれど、どうしてもそう思わずにはいられなかった。

「…海が、ぼくらをここへと運んでくれたのかもしれない」

「海が?」

「声がきこえたんだ。…『おいで』って」

 小さな声でララはつぶやいた。エルファと砂浜で話した時からきこえはじめたあの不思議な声。いままでは、なにかの間違いだと…そう自分に言いきかせ続けていた。けれどもう、自分をごまかすのはやめよう。

 あれはきっと、間違いなく、『海の声』なのだ。

「本当にそうだったら…わたしは海に感謝しなきゃ」

 リイはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと言葉をこぼした。

「え?」

「わたし、海で死ぬのが、一番いやだったのよ。わたしの両親は、海で死んだから」

 ララはおどろいて、彼女の顔を見つめた。リイが自分のことを話すのは、はじめてのことだった。

「わたしは昔から、島を出て世界中を旅したいとずっと思っていた。島の船を勝手に借りて、遠くまで行く事もよくあったわ。それでよく兄さんと喧嘩をしていた…兄さんはわたしが船にのることを何よりも嫌がった。海は恐ろしい場所だ…お前は父さんと母さんと同じ目にあいたいのか、って。あの日も…」

 かすれた小さな声で、リイは悲しそうに続けた。

「あの日も、わたしは兄さんと喧嘩をしていた。はげしく言い争って、わたしは頭に血がのぼって小舟で島をでた。そして夜になってやっと頭が冷えて、兄さんにあやまろうと島に帰ってきたら…」

 その続きは、リイが話さなくてもわかった。彼女の兄は、深い眠りという『呪い』にかかってしまったのだ。リイと仲違いをしたまま、どんなに謝っても、彼女の言葉は彼には届かない。彼女の緑色の瞳は、深い後悔で暗い色をたたえている。ララは、のどがきりきりとしめつけられるような感覚におそわれた。リイと自分の姿が、重なったのだ。

 どうして本当のことを黙っていたのかと、師匠に声をあらげる自分。最後に見た、師匠の悲しげな瞳。リイも自分と同じだったのだ。大切な人と気持ちがすれ違い、大切な言葉を言えないまま、後悔にさいなまされて苦しみ続けている。

「…ごめん、リイ」

 ぽつりと、言葉がもれた。リイが不思議そうにララを見る。

「なにが?」

「ぼくは…いままで、グルーガスにほろびの音のことをきいても、そんなの人事だって…自分には関係ないことだかから解放してくれって、ずっと思っていたんだ。それが、いざ師匠が…自分の大切な人が呪いにかかったとたんに協力するようになって…いらいらして、君にやつあたりをした。君やグルーガスの仲間たちも、ぼくと同じように苦しんでいることにちっとも気がつかなかった。面倒事にまきこまれたくないって、ただ、それだけを思っていたんだ」

 言葉を続けるごとに、声が小さくなる。最後は、ほとんどささやくようにつぶやいた。

「…ぼくは、自分のことしか、考えていなかった」

 リイはだまってララのことを見つめていたが、やがて静かな声で言った。

「それは、ちがうわ。リフティールの酒場で、あんただけが、わたしを助けようとしてくれた。わたしがデルーセン号にしのびこんだときも、馬鹿みたいにまっすぐに追いかけてきてくれたでしょ。そして、海の中でサメにおそわれたときも、あんたは自分をかえりみずにわたしのことを助けてくれた」

 ララはぽかんとしてその言葉をきいていた。リイがやわらかい表情で笑っていたのだ。彼女が笑っているのを、彼ははじめて見た。

「ありがとう、ララ」

 まっすぐに笑顔をむけられ、はじめて名前をよばれ、ララは目を泳がせた。それを気にせず、リイは続ける。

「それに、海賊の心構えは、『自分の利益に貪欲になること』って、ロブーとバルーが言ってた。海賊なんて、ただの目的が同じ者どうしの集まりだ、って」

「きみは、海賊じゃないでしょ?」

「いいえ、いまはアンデル号の海賊よ。わたしも、そしてあんたもね」

 その言い方がなんだかおかしくて、ララは思わず笑ってしまった。暗くしずんでいた気持ちが、すこしだけ軽くなる。その時、部屋のドアがひらいてクックが顔をだした。手にした大皿には、みたこともないフルーツや魚が山盛りにされている。

 見た目は悪かったけれど、味はミッフィーの料理にまけないくらいおいしい。しばらく何も口にしていなかった二人は、黙ってもくもくと料理を口に運んだ。

「ところでララ。そろそろポケットの中身をみせてはくれないかな?」

 ふいにクックに言われて、ララは首をかしげながらポケットをさぐった。そこには、ロブーがくれた繊細な小鳥の木彫り細工があった。

「ちがう、逆のポケットだ」

 クックにぴしゃりと言われて逆のポケットをさぐると、ぎらぎらと輝く虹色のとがった石のようなものがでてきた。それは海に落ちてサメに襲われたときにつかんだ、あの石だ。

「やっぱり。それは、『虹色のサメの歯』だね」

 その瞬間、クックの不気味にひょろ長い手がにゅっとのびてきて、奪い取られる。

「ほう、なかなか鋭い。色も状態も申しぶんないね。どうやって手にいれたのかな?」

「海に落ちた時にサメにおそわれて…もう駄目だと思ったとき、サメが混乱して自分から岩にぶつかっていったんだ。たぶんその時に歯が抜けて…」

 そこまで言った時にあることを思い出して、ララはふいに口をつぐんだ。サメに襲われたときのことを頭に思い描く。

「そうだ…サメがリイを襲おうとしていて、ぼくは必死に頭の中で『やめろ』って怒鳴った。そうしたら、サメの動きがぴたりと止まって、それからサメはおかしくなったんだ。まるで、ぼくの声がきこえたみたいに」

「ふうん、不思議なこともあるものだね」

 意味深にクックが笑った。枝のような手の中で、虹色が不気味に光る。

「それはさておき…そうだねえ、これはなかなか価値のあるものだよ。どうだい、この歯をぼくにゆずってくれるなら、いくつかヒントをあげよう。君たちの追っているものについての情報だよ」

 クックの細い目がずる賢そうにララをみつめている。リイがその瞬間言葉を尖らせた。

「前から思っていたけれど、あんたはどうしてそんなにほろびのオルゴールについて詳しいの?まさか、あんたがすべての黒幕なんてことはないでしょうね?」

「そうだとして…ぼくが君たちに情報を教えることで、なにかぼくに有利になることがあるのかな?」

 クックは不気味に笑いながら二人を見つめた。人間らしからぬその視線に、ララは居心地が悪くなる。しかしどんなに胡散臭かろうが、頼れるのはこの男しかいないのだ。

 リイをちらりと見ると、あきらめたように小さくうなずくのが見えた。ララは決意を固めて、改めてクックに向き直った。

「…わかった。歯はあなたにあげる。だから、ヒントをください」

「ようし、取引完了だ」

 クックは満足げに歯をふところにしまうと、細長い指をぴんと立てた。

「ほろびの音の正体がオルゴールであることは、知っているね?」

「ええ。ギルーガスは、それを無人島の洞窟で見つけたと言っていたわ。その箱をあけた瞬間、まわりにいた部下たちがみんな呪いにかかったって。ギルーガスだけが無事だったのは、オルゴールがギルーガスを主人として選んだからだって…」

「その通り。ギルーガスはよく理解しているね。あのオルゴールには『意志』がある」

「意志?」

「そう。あの箱には、邪悪な魔力と一緒に、オルゴールを作った者の意志がこめられているのさ。そいつがグルーガスを主人としてえらび、この国に呪いをもたらしている」

「魔法なんてものが存在する、ということ?」

 ララの言葉に、クックは大きな笑い声をあげた。

「きみは呪いが存在しているのをこの目でみているのに、魔法がないとでもいうのかい?呪いも、魔法の一部なんだ。君もみただろう、『ほろびの音』の恐ろしい呪いの他に、ギルーガスが不思議な力をつかうことを。あれはオルゴールがもっている魔法の一部だ」

 ララはリイの島で見たデルーセン号を思い出した。沖にいた船が一瞬で島の船着き場にワープしていた、あれを魔法と呼ばず、なんと呼べばいいのか。

「その呪いを…魔法をとくには、どうしたらいいの?」

「簡単なことさ。あのオルゴールは魔法のこめられた箱。しかし、その物質はこの世の物に変わりはない。箱さえ壊すことができれば、そこにこめられた魔法も消滅し、呪いもとけるだろう」

「どっちにしろ、ギルーガスを追わなければならないってことね」

 ため息をつきながらリイが言う。オルゴールを壊せばいいということはわかったが、どちらにせよギルーガスを捕まえなければそれもできない。あの邪悪な船は、今どこにいるのだろうか。クックにたずねようとすると、彼はそれを見越したかのように、意地悪く笑った。

「ギルーガスの居場所はぼくにもわからない。自分の力でなんとかするんだね」

「自分の力?」

「海の声をきくんだよ」

 クックは軽い調子でそう言った。リイもグルーガスも簡単そうに言うけれど、ララにとってはそれが一番むずかしいことだった。心の中でぼやいていると、クックが優しく笑った。

「きみは、自分が『青き者』だとうけいれた。きっと海も、きみのことを受け入れてくれるさ。…そうだ、最後に、とっておきの情報をあげよう」

 そう言うと、まるで内緒話でもするかのように、彼はささやくように言った。

「あの呪いは、『人間』にかかるものなんだよ」

「…どういう意味?」

 ララが首をかしげると、クックは面白そうに目を細めた。

「あとは自分で考えることだね、青き者」


 話が終わる頃には窓の外は夕焼け色に染まっていた。リイは少し安静にしたほうがいいと部屋にのこし、ララはテヤの町を散策すると言って図書館を出た。ずっと室内にいるのが嫌になったのだろう、ルリーが一言鳴いてララのあとをついてきた。

 クックが「何もない小っぽけな町」と笑ったとおり、テヤは小さな港と小さな家々が点々とあるだけで、リフティールやユルルとは比べ物にならないくらい静かだ。しかし小さなレンガ作りの家はどこかあたたかく、町人のあつまる市場もどこかのんびりしていて、ララはすっかりこの町が気に入ってしまった。

 人気のない波止場を、ゆっくりとあるく。しばらく船の上での生活が続いていたため、こうしてしっかりとした石の上を歩いているということにほっとした。海鳥の声に、ララは目を細めて波止場を眺めた。小さな船のマストを、夕焼けが美しく染め上げている。静かに波打つ海はキラキラと光り、まるでオレンジ色の宝石のようだ。

 ルリーがふいにララの肩の上で歌いだした。高く、冷たく、繊細な金属音のメロディー。それは、オルゴールの音を模したものだった。そのメロディーがあまりにも不気味で、ララは思わず顔をしかめる。

「ルリー、なんだよ、その気味の悪い歌…」

 ララがそう言って肩をゆらしても、ルリーは近くの柵に飛び移っただけで、その歌をやめようとはしない。それは確かに音楽だが、どこか音がはずれているような、不快感のある歌だった。美しい音楽を、わざと邪悪にゆがめたような、「できそこないの音楽」という表現がぴったりのメロディー。つめたく冷えきったオルゴールの金属音が、ルリーのくちばしから奏でられては港に響きわたる。ララはあきれながらも、笑ってしまった。

「ギルーガスにきかせてやりたいよ。きっと、ほろびの音もこんな不気味な…」

 そこまで言いかけた時に、ララははっとした。ルリーが歌うのをやめて、彼の顔をじっとみつめている。そして、一言「ギイ」と鳴いた。

 そうだ。リイの島でギルーガスが『ほろびの音』を奏でたとき、アンデル号の船員達はみんな海に飛び込んだ。…ただ一匹、インコであるルリーをのぞいて。

「…ルリーは、ほろびの音をきいたんだよね?」

 独り言のようにララは言った。クックの言葉がよみがえる。『あの呪いは、『人間』にかかるものなんだよ』。

 じゃあ、人間ではない、インコのルリーは?

「ほろビのおト、ほろビのおト」

 ルリーが連呼して、翼をばさりと広げた。間違いない。いまルリーが歌っていたのは、ほろびの音なのだ。あの箱から奏でられたのは、この寒気のするようなメロディーなのだ。

 ララはしばらくぼうっとしたままそこに立っていた。不気味な音楽が、頭のなかで回り続ける。その時、ララはあることを思いついて、ポケットをさぐった。

でてきたのは、繊細な木彫りの小鳥。バルーが記憶をし、ロブーが彫った、完璧な鳥のレプリカ。

 うまくいくかは、わからない。でも、やってみなければ、わからない。

「ルリー…いいことを思いついたんだ。協力してくれないかな?」

 すると、ルリーはまっすぐにララを見て「ギイ」と鳴いた。その背後には、きらきらと紅色に乱反射する海が静かに息をしていた。

 クックは言った。きみは、自分が『青き者』だとうけいれた。きっと海も、きみのことを受け入れてくれる―…。

 どうか、教えてください。デルーセン号は、ギルーガス達は、今どこにいるのかを。

 そう心のなかでつぶやいて、ララは目を閉じ潮風を吸いこんだ。その瞬間、頭の中がふいにぼんやりと青くかすんだ。

 幻だろうか?奥に、きらきらと光るものが見える。これは、海だ。島が浮かんでいる。あれは、リイの島だ。

 ララはその幻の中で、鳥になっていた。翼を広げ風ように、リイの島の上空を通り過ぎる。荒れる海に、突き出た岩礁をとびこえ、さらにその先の海を進んだ。すると、ふいに不気味な霧に覆われた黒い影が見えた。とがった山に、荒れ果てた大地。

 島のようだ。その島を見た瞬間、ふいにぞっと鳥肌がたった。その島に、真っ黒な帆の海賊船が近づいていくのが見える。

 ―…南へ。すべての、はじまりの場所へ…。

 どこかできいた言葉に、ララははっとして目をあけた。ルリーの背後で、海はさっきと変わらず、ただ静かに波打っていた。幻はもう消えていた。


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