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「『魔法使い』?」
と、白坂先生は怪訝な顔をする。
「ええ、『魔法使い』です」
と、普通に返す武藤さん。
「『魔法使い』になりたいってことですかぁ?」
「いいえ、既に修行は終えています」
「でもぉ……」
白坂先生は困った顔をして闇沼先生のほうへ顔を向けた。闇沼先生は黙って首を振る。
「えっとぉ、『魔法使い』は、対『未確認敵性異物』の排除要員のスキル種別には登録されてないですねぇ」
「でも、わたしは魔法使いなんです!」
「そういった属性はぁ……」
なんだかわからないが、押し問答が始まった。武藤さんと白坂先生の間で。
「芙亜ちゃんはぁ、一般入学だからぁ、一学期の間に適性を見極めてぇ、コースを選んでもらわないといけなくてぇ」
「はい、『魔法使い』コースを志望しています」
「でもでもぉ、『魔法使い』コースは、この学校にはぁ、っていうかぁどこにも無いですしぃ、日本政府も認めてませんしぃ……」
「『未確認敵性異物』なんて言ってますけど、あれは魔界から来た魔物なんです。それに一番的確かつ、迅速かつ効率的に対抗できるのは同じく魔界の魔力を根源とする魔法なんです」
「魔物ぉ、それとぉ、魔法ですかぁ? でもでもぉ、公式には『未確認敵性異物』ってことになってますしぃ」
「呼び方なんてどうでもいいんです! だって、いっぱい人が困ってるのに……。それを退治できる魔法を使えるわたしがいるのに……」
「芙亜ちゃんは、『未確認敵性異物』を退治したことあるんですかぁ」
「『排除』だ」
白坂先生ののんびりとした口調に、闇沼先生が鋭く口を挟む。件の『シャラップ!』以来、これでやっと二言目。が、それ以上何か言うわけでもなくまた黙り込んで窓の外なんかを眺めだした。
「そうですぅ。排除ですぅ。芙亜ちゃんは排除しましたかぁ? 『未確認敵性異物ぅ』」
「それは…………」
武藤さんはうつむいてしまった。座っている俺は下から見えるからよくわかるが、なんだか悔しそうな表情だ。唇をかみしめ……。
「ま、魔力の供給源が……今は無いですし……、それに魔物がどこに出るか教えてくれないから……」
「魔物じゃなくってぇ、『未確認敵性異物』ですねぇ。ちゃんとコースを選んで、政府直属の排除者として認定されたら、能力に応じて情報が斡旋されますぅ」
「だからっ! わたしは『魔法使い』なんです! 魔力の供給さえ……」
しつこく食い下がる武藤さんだったが、
「それくらいにしておけ……」
闇沼先生の鋭い一喝で、黙らされる形になってしまった。
三度口を開いた闇沼先生の言葉は白坂先生に向けられたものだったのかもしれないし、武藤さんに向けられたものだったのかも知れない。
が、それで武藤さんは諦めたように席に座り、再び自己紹介が続けられた。最後の一列。つまり俺の列。
俺は、おおとりではなく、最後から二番目だったが、まあ、ごく普通のありきたりな自己紹介で。何も特筆すべきことはないので割愛。
今日のところは、それですべてのイベントが終了。明日の登校時間と持ち物などの連絡を受けて――今日は白坂先生の番だからなのか、結局、闇沼先生はあれ以来黙りっぱなしの座りっぱなし――解散の……下校の運びとなった。