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~10

「どうやら、資格ありのようね。魔法の鎧を粉砕するなんて。驚きだわ。わたしの予測では、二手に分かれて、一方はこのわたしを見つけて攻撃を仕掛けてくると思ってたのに……。そちらの金髪の御嬢さんは見込み違いだったようだけど……」


「やはり、お前が操ってたんだな」


 俺は自然とエルーシュに向かって一歩踏み出した。それを武藤さんが手を広げて制す。そりゃそうだ。いかに怒りに我を忘れていても、俺が丸腰で近づいていっていいような相手じゃない。


「試験は一応合格よ。武藤芙亜、それに石神響平。ついでに、ミエラ・グリューワルト。三人とも魔物退治、つまりは『排除適応者』の教育コースに乗せてあげる」


「試験? どういう……?」


 首を傾げる武藤さん。俺も市ノ瀬ももちろん良くわかっていない。そんな中、ミエラが一人、反応する。


「まさか、茶番だっていうのか? 今までの……」


「そうよ、これ以上ない茶番。あなたたちの実力を見るために、わたしがわざわざ駆り出されたんだから……」


「エルーシュ……、いや闇沼先生……じゃあ、今までのは全部学校側の仕組んだことだったんだな?」


「学校と言えば学校だけど、もっと上が動いているわ。あなたたちごときにね。でもね、試験はまだ終わったわけじゃないの。最終関門よ。武藤芙亜。中途半端な決意ではこのさき戦力にならない。せっかくの石神君も宝の持ち腐れだわ。どうすればいいかは……わかるわよね?」


 エルーシュは不敵な笑みを浮かべた。


「試験はまだ終わってないってどういうことだ!? 武藤さんは戦って、勝った。それで十分じゃないか!?」


「ほんとうにそう思う? 坊やに聞いてるんじゃないわよ。お嬢さん。あんな環境であの程度の魔物が倒せたからって、あなたの望み、ご両親のような不幸な人間は増やさないって決意は実行できるのかしら?」


「なんで……それを……?」


 武藤さんの顔色が変わった。


「そりゃあ、知ってるわよ。あなたたちの担任なんだから。そちらの関西弁の御嬢さんは良く知らないけどね。で、質問に答えなさい。覚悟はあるの?」


「覚悟……」


 武藤さんは黙り込んだ。


 ミエラが口を挟む。


「そういうことか……。確かに我々の戦いの場はすべて魔空間だった……」


 どういうことだ?


「魔空間だと魔界に近いから……石神君の体に魔力が集まりやすいの。だから仮契約でも魔力が抽出できたんだけど……」


「この世界、わざわざわたしみたいなのが作ってあげないと魔空間なんて都合のいい場所はできないわよ。あなたがこの先魔物と戦っていくには、その従者と正式な関係を結ぶ必要がある。それが絶対条件」


 俺の仮免許期間はついに終わってしまうのか……。まあいい、武藤さんと二人三脚で魔物退治に明け暮れる。そんな生活も悪くないか……。


「でも……、そんなことしたら……石神君は……」


 なに? まだなんかあるの? これ以上? 不安材料? とミエラに解説を求める。


「確かに……本契約後の従者は四六時中魔力を集めて……微かにだが放出することにもなる。であれば……」


 ごくん、俺が唾をのみ込んだ音。


「魔物に狙われやすくなるな……」


 ああ、なんだ……そんなことって!


「なに~! 狙われるのか? 俺だけ? 優先的に?」


「そういうことだ」


 って、お前も……ミエラも俺を従者にしようとしてただろ? そこんとこのアフターケアはどう考えてたんだよ?


「なに、役に立つうちは護ってやるさ。だが、自分の身を自分で守れないようなやつと永く主従関係を結ぶつもりもない。その時はその時で別の従者を探すつもりだ」


 クールだねぇ。


「別の従者を探すって……、それって石神君が死んじゃうってことじゃない!」


 そうなの~?


「まあ、実質的にそういうことだな」


「ひどい! ミーちゃん! そんな……可哀そうだよ! 魔法使いだったら自分の従者には責任を持たないと……」


 若干、武藤さんのほうが俺のことを真剣に考えてくれているのは伝わった。だがなんだろう? この絶望感。行き止まり感は。どう転んでも俺にいいような未来は開けていない。


「こっちも忙しいんでね。おしゃべりはそれくらいにしてちょうだい。武藤芙亜、どうするの? 今ここでその従者と契約を結んで魔物退治のエリートコースに乗るのか? それとも……?」


 いやいや、こっちは人生がかかってますから! 即断即決なんてできませんから! ねえ? 武藤さん?


 ところがどっこい、武藤さんは、


「そんなの無理! 石神君とチュウなんてできない~!」


 なんて叫びながら、顔を赤らめながら、赤らめた顔を手で多い隠しながら、まさかの逃亡。


 残された我々。やれやれといった感じでため息をつくエルーシュ。同じくミエラ。訳がわかっていない俺と市ノ瀬。


「そういえばそんなのが必要だったかしら?」


 とエルーシュがあきれ顔でミエラに問いかける。


「ああ、儀式の接吻。正式な従者として契約を結ぶには絶対に欠かせない作業だ」


 なに? そういうこと? 俺振られたの? 告白もしてないのに?

 どういうつもりだったんだ? 聞いてないぞ? つまりはあれか? 将来のそういったことも含めての仮契約、魔法使いと従者の関係だったの? そ・れ・と・も……遊び?


 武藤さんにとって俺って、体のいい遊び道具だったの?


「仕方ないわね…。あの御嬢さんの手前あんな言い方をしたけど、あなたたちの力はなにかと評価が高くてねえ。あなたの従者の候補者も今血眼になって探しているところよ。あなたはキスが嫌で契約しない……なんてこと言わないわよねぇ?」


「あたりまえだ! そんなビジネス上のキスなどカウントしない」


 おおっ! 企業戦士。プロの女優魂を感じさせるミエラ。


「それは良かった。じゃあ、新たなミッションね。石神君、長く待てても数か月。つまりは一学期中。その間に武藤芙亜が唇を許せる関係。そこまで進展させなさい!」


 ええっと、どういう……。ああ、そーね、プラトニックな主従関係から一歩進んでいわゆるA、キスまでいっちゃえってことね……。ってなんだこの展開!


「趣旨変わってますがな……」


 短い付き合いだけどさすが関西弁を操る市ノ瀬。突っ込みの内容もタイミングもばっちりだぜ!


 そんなんでいいのか? 俺の学生生活……。



 おしまい。

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