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~7

 だが、突然、


「リコネクト開始! 制御シーケンスオン! 第一次回線接続省略! 二次制御ブロック承認!」


 武藤さんが叫び始めた。


 と同時に俺の首から繋がる古びた鎖が輝きだす。


「なに? なにが始まるの?」


 市ノ瀬に聞かれたが答えようもない。いや、答えたくもない。

 これはあれだ。武藤さんと俺との絆。


「最終接続確認、伝送路、オープン、承認!」


 最後の一声とともに、武藤さんの左手首に輝く輪っかも光りだした。どうやら、魔空間の突入へのどたばたで鎖で繋がっていても魔力が供給されていなかった模様。それがこの手続きで万事オーケー。


 モバイルバッテリーの一丁上がり。俺と武藤さんとの絆が結ばれたってわけだ。飼い殺し状態の俺。


「そういえばその首輪……鎖……なんなん? あんたも魔法使いなん?」


 市ノ瀬は興味津々だ。人の気もしらないで。俺は無言を貫いた。もはや、俺にできるのは、魔力を供給し、武藤さんの戦いを見守ることだけだ。


 が、今回はそれで終わりではなかった。思いもかけぬ横槍。


「あたしにも、十分な魔力があれば……もう一度!」


 と、右手を天高く掲げるミエラ。ミラノの右の手首にも武藤さんのと似たような腕輪がいつの間にやら装着されている。


 そこから湧き出た光がなんとまあ、俺の首に向かって伸びてくる。

 それで、いつもの武藤さんとの同一シーケンス。俺の首にはひとつの首輪。首輪からは二本の鎖。一本はおなじみの武藤さんの左腕。もう一本が、新たな接続。ミエラの右腕に連結される。


 おいおい、俺の飼い主ってばどっちなんだよ。


「ミーちゃん! そんな、従者契約もせずに! 上手くいったとしても石神君への負担が大きすぎるわ!」


 武藤さんが、若干状況説明を交えながら叫ぶ。


 要するにそういうことだ。ミエラは無茶をやっていて、そのしわ寄せは俺のところに来るらしい。


「かまわん。なによりこいつを始末するのが先決。そのためには魔力が必要!」


 そんなことをのたまいながら、ミエラはすっと武藤さんの背後に隠れた。

 さあ、甲冑騎士を包んでいた水流はあらかた消え去り、そこには残骸ではなく、すっくと立ちつくす騎士の姿が。恐ろしいことにノーダメージに見える。

 その証拠に、再び武藤さん、あるいは対抗でミエラ、大穴で俺、ダークホースで市ノ瀬へ向かって襲い掛かろうとしている。


 どうやら、ミエラはまたしても、敵の攻撃を武藤さんに任せて、自分は安全圏から呪文を唱える隙を確保するつもりらしい。


 が、人間が出来ているのか、あきらめているのか、武藤さんは文句も言わない。

 甲冑騎士は、戦力値の高い魔法使いが二人もいる方向へ狙いを定めた。

 つまりは、武藤さんが矢面に立たされる。


 武藤さん目がけて剣撃が繰り出される。武藤さんはそれを律儀に受け流す。かわす。突き出した掌から、衝撃波のようなものを繰り出して、剣の軌道を変える。弾き飛ばす。


「魔法が利かないんなら! えいっ!」


 半ば、やけなのか、武藤さんは相手の隙を見つけて杖での打撃も試みている。カーンと乾いた音がこだましただけで、なんのダメージも与えられない。


 武藤さんはそれを確認すると、数歩下がって一旦距離を置いた。ついでにいうとミエラはとうの昔にもっと離れた場所へ移動している。さらに付け加えると俺と市ノ瀬はそのさらに後方。


 まあ『死なない』ことが、俺の至上命題なわけだから、か弱い女の子の陰に隠れて……ってのは恥ずかしいことではあるまい。市ノ瀬なんてほんとに単なる傍観者だ。部室に居残っていたほうがいいくらい。本人は絶対に見たがって、押し込めておけたもんじゃないだろうが。


 で、甲冑野郎との距離を取った武藤さんは、短い詠唱のあと、杖を高く振りかざす。するとその杖が青白い光に包まれた。

 俺の経験から言うと、おそらくは攻撃補助魔法かなにかで杖を強化したんだろう。完全なる想像だがその後の武藤さんの行動を見ると、あながちはずれでもなかったようで。


 完全なるちゃんばらを演じはじめたのだ。


 剣技で勝る武藤さんは、相手の剣はすべて受け止め、返す刀――杖なんだがな、本当は――で一撃、二撃と攻撃を繰り出す。


 今度は乾いた音はしない。


 バシッ、バシッと子気味良い打撃音が響くが、ダメージに関して言えば、そう効果をあげているとも思えない。


 甲冑の相手は、ひるむことなく攻撃を続けている。

これでもだめなのか? じゃあどうすればいいんだ? と俺が思い始めたところで、次の展開。


 溜めに溜めたミエラがその呪文を発動する。


「“でく”には“でく”だ。土の戦士よ!」


 ミエラの叫びと同時に足元の土が盛り上がる。いわゆるゴーレム? 的な土人形が姿を現した。


 頭は扁平で、お世辞にもかっこいいとは言えないシルエットだがかなりのマッチョだ。


 付け加えるなら、その土人形が現れる瞬間は、思わず目を閉じてしまいそうなくらい、俺の首から伸びる鎖が光輝いていた。ミエラの右手につながっているほうの鎖だ。そういうことだろう。俺の魔力を使ってゴーレムを作り出した。

 こりゃあ、戦闘後の疲労が思いやられるな……。


「任せてみろ、マリア=ファシリア。魔法が効かないのなら、同じく、操り人形をぶつけるまで!」


 そう意気込むミエラの意見に従ったのか、武藤さんは、さっと後方に飛んだ。何をしても絵になる人だ。そんな仕草ひとつとっても様になっている。

 まるでいっぱしの格闘家かアクションスター。

 で、一対一となって対峙する甲冑騎士とゴーレム。


 ゴーレムが先手を取った。


「行け!」


 という、ミエラの号令に反応したのか、自立的に動作するのかはわからんが、その太い腕で甲冑騎士を殴りつける。


 バコっと鈍い音がした。


 甲冑騎士は、後ろへ吹っ飛んだり、膝をつくような傍から見てわかりやすいリアクションは取らなかったが……。


 へこんでいる。ゴーレムに殴られた箇所が。武藤さんが攻撃力を付与した杖であれほど叩いてもだめだったのに。このままうまくいけば、鎧を割り、壊せるかも知れない。


「どうだ!」


 と勢いづくミエラ。


 その声に励まされ、ゴーレムはさらに甲冑の胸元に打撃を加えようと試みる。が、ガードされてしまったようだ。剣を持っているほうの右腕の二の腕あたりにヒットする。

 防御されたとはいえ、またしても効果あり。殴ったあたりに陥没が見える。


 が、鎧の悪魔もやられっぱなしではなかった。剣を繰り出しゴーレムに迫る。とはいえ、なにせ土製だ。うちの学校の土は敗者の野球小僧が持ち帰るほどの由緒正しい縁起物でも、星の形をした特殊なものでもなんでもないが、魔法が込められているのか、攻撃を受けてもびくともしない。

 ましてや、切れることなんかない。剣でガツガツと攻撃されても、平気の平左。相手の剣の刃こぼれこそないが、虚しく打撃音が響くだけ。多少は土煙が舞う程度。


 これならいけるか? 問題は時間がどれだけかかるんだ? という俺たちの心配。

 相手の攻撃が効くことはない。しかし、相手に致命傷を与えるほどでもない。いつかは相手の鎧を破壊する? それにはかなりの時間がかかりそうだが、ぜいたくはいってられない。今打てる手が、他になく、効果ありそうな手段がゴーレムの地道な打撃であるならそれにすがるしかない。


 が、そんな楽観的な観測を期待する状況も長くは続かなかった。


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