表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/31

~5

 と、そんな雰囲気の中。


 あれが襲ってきた。味わったものにしか表現できない居心地の悪さ。

 宇宙酔いや、深海酔いにも似た、体がふわふわして、少々気分が悪くなるあの感じ。 間違いない。摩空間だ。宇宙にも深海にも行ったことはないけどな。


 誰かが魔門を開こうとしている。わかってしまう。門前の小僧なんとやらだ。


 そして、また、化け物が登場するのだろう……。武藤さん、あるいはミエラによって成敗されるそのために。


 ミエラと武藤さんはほぼ反射的に駆け出した。


「なんなん~?」


 などと疑問を吐きながらも、市ノ瀬もそれを追う。好奇心絶好調なんだろう。


 俺も仕方なし……いや、有事に備えて武藤さんのバックアップバッテリー、魔力供給源としてそれを追いかける。


 今までの魔空間とは違う。いや、まだその内部に入っていないのか、周りには一般生徒が沢山。ぶつからないように気を付けながら、ひたすら走る。

 たどり着いたのは教室。俺達――俺、武藤さん、ミエラの所属する教室。


「ここ? でもなんだか……」


「ああ、不安定だ。空間が生成されていない? いや、違うな……。我々の侵入を拒んでいるのか?」


 放課後の教室には、誰もいない。約一名を除いて。あの十字架を背負った両目眼帯少女のみ。

 こいつは……まさか朝から晩まで教室で過ごしているってわけでもないだろうに……。しかし、あんな重そうな十字架を背負っていれば……移動手段にも難儀しているだろう。送り迎えの専用業者でもいるのか? それとも人の居ない時を見計らってこっそりと十字架を降ろしているのやら。


 そんな疑問はどうでもいい。どうでもよくなった。


 教室の中央から突如――なにも無かった空間に突然現れた黒い光球。黒で光るってのは変だが、バチバチと閃光を放ちながら浮かんでいるのだからしょうがない。


 それが、俺達目がけて飛んできた。


「きゃあ!」


 正しくは武藤さん目がけて。


 そして……。

 黒球に触れた武藤さんは消えてしまった……。


「おい、ミエラ! これって……」


「おそらくマリア・ファシリアだけが魔空間に吸収された!」


「俺たちも行けないのか?」


「それが……進入を試みているのだが、術式が異なるのか、進入を拒まれる」


 何だかんだで武藤さんは魔空間に取り残される。ミエラは、魔空間へのアクセスを試みるが侵入できない。


 場所は教室。一縷の望みを託して……俺は思案する。方法はあるはず。であれば……。


 不自然に……ひとり居残る、十字架少女、猫柳。彼女の存在。特に活躍なしに、その奇怪な扮装のみ語られて来たこいつ。伏線のはずだ。終盤の展開の鍵。いまここでその真価を発揮してくれる……はず。


 俺は、直観と推論を元に猫柳の元へ駆け寄る。懇願する。


「頼む、武藤さんを助けたいんだ。俺を、魔空間へ連れてってくれ」


「…………」


 まかさの無言。ってかガン無視!!!! って、じゃあお前なんのためにここにいるんだよ!


 こんだけ引っ張っておいて活躍無しって、台詞も無しって! アニメ化されたときのエンドロールでの扱いを覚えてやがれ! 某国民的アニメの猫のように、役名表示の声優は『?』なんて扱いは受けないぞ。名前さえ表示しないように俺が責任もって製作会社に掛け合ってやる!


 なんて、八つ当たりをしてても事態は解決するはずも無く。


 残る望みは、担任の闇沼先生か? だが、職員室まで行って事情を説明するのもはばかられる。それに、彼女が黒幕だとして協力してくれるはずもない。

が、そんなことを行っている場合でもない。


 とにかく職員室へ。


 その時、俺の首周りが輝いて、首輪が現れる。


「ミエラ! これって……」


「ああ、向こうでマリア・ファシリアが伝送ルートを開いたんだろう」


「じゃあ、とりあえず武藤さんは魔力を気にせず……ってか俺の魔力を使って戦えるってことか?」


「いや、今のお前から魔力の伝送は感じられない。ファシリアが、まだ魔力を消費するような事態になっていないのか……。それとも魔空間の障壁によって伝送を阻まれているのか……」


 そういうことか。いつもならセットで出現する鎖が今回に限っては存在しない。

 ひょっとしたら、魔力を制限されて、苦戦を強いられているのかもしれない。

 なんとかならないのか?


「ミエラ……」


「ちょっと待て、今考えているのだ!」


 割と必死な感じのミエラ。今頼れるのはこいつしかいない。


「うちにも説明してぇな!? なんなん? 怪物が出たんちゃんか?」


 と市ノ瀬。律儀に手には魔道書が握られている。


「それを貸せ!」


 ミエラがいきなりひったくった。ぶつぶつと呟きながらページを捲る。


「見慣れない紋様が多いが、よくよく見ると、我々の術式に共通する魔方陣、呪文も多い。これは……」


「どうしたんだ? それって本物だったのか?」


「うるさい!! 話しかけるな!!」


「大事に扱ってぇや!」


「だから少し黙れといっている!」


 ミエラご立腹。


「空間進入の術式……これか!? しかし……これでは……。やってみるしかないか」


 言いながら、ミエラは教壇に走った。


「机をどけろ、魔方陣を描く!」


 ミエラの怒声にも近い指示にしたがって、思わず反射的に動いてしまった。まあ武藤さんの手助けをするという目的のためなんだから仕方ない。


 作業中、ちらちらと十字架少女の~~が目に付くがこの際無視だ。こいつの活躍は第二シーズンで期待すべし。今回は最後の最後まで沈黙を続けているがいいさ。


 雑な作業であったが、協力的な市ノ瀬ともに机を端に寄せて出来上がった空間に、ミエラがチョークで魔方陣を描いていく。


「中心へ入れ!」


 ミエラは、自身を魔方陣の中心に立たせながら俺に向かって強制口調。で、どうでもいい部外者の市ノ瀬も魔方陣の中心へ。


「お前はいいんだ!」


 なんて、ミエラに言われながらも市ノ瀬は厚かましく居座っている。


 あ~、できたら俺は傍観者でありたいんだが……。まあ傍観は魔空間の中でもできる。ひたすら安全圏で。そうあることを望みながら。重い足取りで魔方陣へと歩みを進めた。


「発動させるぞ!」


 ミエラの詠唱が始まる。手で何か印を結びながら、たどたどしく、唱えるその声に連動してチョークで描いた魔方陣が光を放つ。


 一瞬視界を奪われた。


 その直後、俺達の所属していたのは先ほどまでの教室。しかし本質は違う。魔空間だ。その証拠に猫柳の姿が無い。窓から見える空の色が異なる。


 そして体が重い。これは前回、前々回の魔空間では感じなかったことではあるが……。


 俺の首には相変わらずの首輪とさっきまで無かった鎖。長く伸びている。教室の外へ向けて。


「この鎖、伝送路を辿るぞ!」


 さすがは魔法使い。状況判断の速さに定評のあるって今俺が勝手に定めたんだが、ミエラは教室を飛び出した。速い。


 俺も後を追おうとするが思うように体が動かない。それでも必死に……全力で後を追う。自分の首から伸びる鎖を辿って。こいつは伸縮自在なのか、俺が進むたびに短くなって手繰り寄せたり巻き取ったりする必要は無いらしい。便利だ。


 でもって、


「なんやの~。ごっつしんどいわ~」


 なんて文句を吐きながらも市ノ瀬も付いてくる。

 必死で追うがミエラの姿は見えない。仕方なく引き続き鎖を辿って行く。このままだと校舎を出てしまうが……。


 たどり着いたのは下足室。


 ちなみに、うちの学校、校門を入ると体育館と教室棟の下足室がすぐに見えるのだが、その間には少々広いスペースが広がっている。


 一度目は校庭、二度目は中庭。こんどはこの場所。

 どうやら、魔界から呼び出されたなにがしは、律儀にも戦いやすい開けた場所を選んで現れてくれるらしい。


 近づくにつれて、俺にも魔物の気配が伝わってくる。どう表現すればよいのだろう。五感を超えたなにか。おそらく魔力を検知する器官が人間にもひっそりと備わっているのだろう。普段は気にもならないが。


 その、俺の体の魔力検出装置が作動する。そして鳥肌としてアウトプットされる。


 気味が悪いを全身で体感する。


「なんや! あれ!」


 市ノ瀬も気づいたのか。確かに、目視できる距離まで来た。

 ここからでは、黒い靄が立ち昇っているくらいにしか見えない。それを取り巻く武藤さん、そしてミエラ。


 どうやらまだ戦いは始まっていないようだが、遅かれ早かれ……また、見たくもないような姿形の化け物ないし、悪魔的怪物が待ち構えているんだろうな。


 それをいっそのこと放置してみたらどうかね?

 だめなの?

 魔門を開こうとしている輩が武藤さん達――というか、正義の味方っぽい立ち位置の魔法使い全般――に邪魔されないように、魔物を召喚して配置する。


 誰も彼もがそれを無視していたら……。魔門が開くことになるのか?


 じゃあなんで化け物、つまり門番がやられたら諦めるんだ?


 それでも魔門を開けばいいじゃない? そこに門があるんだったら。

 それともあれかな? 魔法使いとの直接対決は敵方も避けたいということなのだろうか?


 だから、一体倒されたら増援を寄越すのではなく、すごすごと諦めて引き下がるんだろうか?


 初めから、一体とはいわず、何体も、二体でも三体でも魔物を用意しとけばよさそうなもんだが。


 まあ、それをされると魔物のデザインを考えるのも億劫だし、こういうのって何故か小出しにするよね。敵組織、あるいは個人なのかも知れないが。


 いつの時代の悪者だってそうだ。


 毎週一体ずつ怪人を送り込み、正義のヒーローにぶつける。


 ある意味正々堂々と。ある意味では非効率的に。お約束のパターン。これが破られる時もままあるが、それは劇場版などのとっておき、あるいは何十周年かの記念行事にとっておくべきなのだろう。


 それか最終回か。とわけのわからんひとりごちはここらでお開きにしておこう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ