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新たな仲間というか野次馬 ~1

 室内は奇妙な雰囲気に満ちていた。カーテンを締め切り、明かりといえば、数本の蝋燭が灯すほのかな炎のみ。


 部屋には一人の少女がいた。本を片手に唱えている。召還の魔法を。

 ショートカットのおとなしそうな顔つきとは裏腹に、その瞳は輝きに満ちている。しかしその目の中に映る蝋燭のともしびのはかなさに比例するように、瞳は精力を失い、表情も物悲しげなものに変わっていく。


 少女の足元には魔方陣が描かれている。儀式に必要なものは全て揃えた。生贄となる生きた動物を除いては。


 少女は呟く。


「やっぱり……ダメか。こんな本に載ってるやりかたじゃいけないのか……。生贄が必要なのかな?」


 パタンと本を閉じると、少女は窓際へ向かいカーテンを開け放った。見慣れた中庭の風景。


 しかしそこに映る光景は、彼女の望んでいたものを全て内包していた。

 魔物と闘う一人の魔法少女。

 それを見つけた少女は、言葉を失い、その光景に見入ることになる。時を忘れて。


 目指していたものが見つかった喜び。何者にも代え難い驚喜。小躍りしそうになるのを堪えながら、少女は見入る。その結末を。その全てを。

 時を忘れて…………。






 あいにくの雨だ。雨の日は学校なんて休んでしまえばいい。とは思う。が、俺の父親は南の島の大王でもなんでもないし、大王から受け継いだ名前も名乗ってもいない。腰みの一丁で過ごしているわけでもない。風が吹いたら遅刻して……なんて末恐ろしい行為に手を染めるほど、ゆとりある生活でもなければ、寛容な親父に恵まれているわけでもなく。


 新入学間もないこの時期。出席日数を気にすることも――今のところは――特にはないが、はやくも1日病欠をとってしまった身分。


 さして、体調が悪いわけではない。魔力消費の反動だかなんだかの恐ろしい倦怠感と疲労は今回は襲ってこなかった。エルーシュのおかげかもしれない。


 気分的にはなんとなく落ち込んでいる。また厄介なことに巻き込まれる前提。

 今日も、武藤さんがお弁当をこしらえて、待っていてくれている。はずだ。雨だと中庭では食えないが、さりとて他に良い場所が思い当るわけでもなく。


 そもそも、一緒に食う必要性といえば、魔法使い談義という昼飯とは切り離してもよいそれだけのこと。なんとなく気分が鬱傾向にあるのは、そんなこんなの俺の微妙な立ち位置、スタンスが原因かとおもいつつも、玄関で傘を取りつつ駅へ向かう。


 ああ、雨だ。それもしこたま降っていやがる。気分を奮い立たせて、雨に負けないように快足を飛ばす。早歩き。


 要は、何事も無い、ごく普通の日常、プラス雨。それが今日一日の始まりだった。

 始まり良ければすべて良し……とはいかないのがこの俺のここ数日の惨状。


 書いて、判で押したように、、まさに予定表どおりに物事は進む。そりゃそうだ。時間割どおりなんだから。一、二、三、四限と何の想定外事態――最悪のケースだとまた魔門が開いて怪物がでてくるとかだろうが、そりゃほんとに最低だな――も起きない。


 しいていえば、三時間目は例の演習。体育館ではなく教室で行われたが、拘束衣を脱ぎ捨て、通常モードのワンピースに衣替えをなされた白坂先生の指導の下、召喚獣の召喚の手ほどきなんてのを受けた。なんだか実は召喚能力を備えていた白坂先生のお手本どおりに手際よく召喚獣を呼び出したのは自称召喚士の女子委員長ともう一人のみ。


 どだい、一般人には召喚獣の住む異世界をイメージしろだの自分の血肉を分け与える感じで……なんていわれても一向に召喚獣の気配など感じられない。


 カテゴリエラーなのか、精霊使いの筆頭を自負だけしている秋継は一応授業に参加はしていたが、召喚技能に対してはさして興味もないふうで、「私には精霊術がありますからね」なんて顔をしていた。


 ほんとにこんなペースで授業を続けていていいもんかね? 三年間で何人が使い物になるのやら。もちろん、その女子委員長やら秋継やら、忍者の子やらの既に能力を備えた奴らはそれなりに育っていくのだろうけど……。俺とかね。素質だけを買われての選抜組の話。税金の無駄遣いって気もせんでもない。


 別件で疑惑のつのる黒沼先生も教室には来るが、相変わらずの無言。無表情。彼女が魔族であるのなら魔界の波動とやらを魔法使いさん達が敏感に察知してもよさそうなもんだが……。武藤さんも相変わらず何の反応も見せない。ミエラにしても同様。うまく人間に化ければ魔法使い相手に気配を悟られないのかも。それかほんとに別人か。エルーシュが単に俺の知った人間の姿を模しているだけ? 謎。その一言。武藤さんに聞けば疑問は一発で解消するのかも知れないがなんとなく機会を逃している。


 そんな黒沼先生と同じく無言、無表情で授業への参加をしているのかしていないのかすらわからないのは、隣りの席に座る女子生徒の猫柳。

 あいも変わらず十字架を背負い、両目に眼帯の出で立ち。

 異常だが通常の風景。もはや見慣れた。


 後は、体育の授業がグラウンドではなく体育館の隅で行われたというぐらいだが、まあ一年が三百六十五日あれば、登校日がそのうち二百日程度あるとして……体育が年間何十日。それくらいは日常の茶で飯を食うぐらいの些末時だ。フェルミ推定を持ち出すまでもない。


 そうそう、その体育館へ向かう道中に武藤さんへ俺から話しかけた。


「あの、お弁当だけど……」


 まさに、おずおずというお手本で低姿勢。胸を張ってそらして上半身が地面に着くぐらいの低い物腰で武藤さんに切り出した。

 武藤さんはというと、平気の平左――平左ってだれ?


「ああ、今日も作ってきたよ。昨日もたくさん頑張ってくれたから……」

 そうです。むりやり頑張らさせていただきました。己の意思とは関係なしに。


「それは嬉しいんだけど……」


 核心に迫れない。軟弱な蒟蒻並みの俺。


「気にしないでね。従者の体調管理も魔法使いの仕事のうちだから。それに一つ作るのも二つ作るのも対して手間は変わらないし……」


 何気に、その超絶容貌で男子生徒の注目集めまくりで輝きに輝いている学園でトップスリーに入るだろう、ランカークラスの武藤さんは、よくできた主婦のようなことをさらっと言う。


「あ、でも嫌いなものがあったり、そうね、おかずのリクエストなんかあったら言ってよね。できるだけ努力します」


 と追い打ち。多勢に無勢だ。一対一だけど。


「いや、特に不満はないんだけど……」


 ええい、言ってしまわねば。意を決して、


「今日は、その、雨だし、教室で食べるよね?」


「そうね。なんか話があるんだったら、知り合いの先輩にでも聞いてみようか? 雨の日でも使えるお弁当スポット」


 それは、不要でございます……っていうか聞きたかったのは、


「今日は別々に食べるってことでいいんだよね?」


「そうね、なんか特別に石神君から話が無いならね」


 あるといえば大ありなんだが、それについては、時間を気にせずゆっくりと話し合いたい。なんたって、腐るから冷蔵庫に入れたらもうすでにいっぱいで、仕方なく食えるものを食ってみたが、やっぱりどうしても冷蔵庫に入らなくて腐るほどの聞きたいことはある。が、それをいまさら一気に解決しようとも思わない。すこーしずつでも疑問が解消していけば御の字だ。

 それでもって、あんまり昼飯時に消息不明になって変な噂が立つのも困る。


「ちょっと、なんてーの、武藤さんからお弁当作ってもらってるのって不自然な気がするんだよね」


「それは、従者だから当然なんだけど……仮にとはいえ……」


「じゃなくって、それを知らない奴らからしたら……」


 そこで、武藤さんはう~んと考え込み、


「ひょっとして恥ずかしい?」


 と、自身も若干ほおを赤らめながら尋ねてきた。

 ええ、そうなんです。周りの視線が気になるというか。


「まあ、その……そういうことかな」


「それは考えてなかったわ」


 と、考え込む武藤さん。が、頭の中で電球がはじけたようで、


「じゃあ、お弁当はこっそりと、石神君の鞄の中にいれとく。それならいいでしょ? 食べ終わったらこっそり、返しておいて。なんだったら魔法使ってみんなに見えなくするけど……」


 いや、そこまでは……。

 で、万事解決。


 そもそも従者としての特権が弁当だけなら俺は……。現状維持を望む悪魔的俺と、従者からの撤退を望む天使的な俺が言い合いを始めそうで考えるのをやめた。


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