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魔法少女以外の曲者どもの夢の競演 ~1

 去年の暮れ。日本のみならず、全世界に渡って与えられた衝撃。世界中の人々を貫いたインパクト。想定外、想像外の事象。それについは後述だ。


 実際に目にしても――もちろんテレビの画面を通してだが――それでも他人事だと傍観を決め込んでいた俺。それで問題はないはずだった。何も変わらないはず。人並みに高校受験などに向けて勉学に励む毎日。いつもどおりの日々。


 が、現実はそううまくいかず……。

 突然送りつけられてきた書状。ある意味では強制連行通知書。

 現代に甦った赤紙。


 そのおかげで、志望校への進学――入試の受験すら――もままならず、家からは近いことは近い、通学圏内適性地域ではあるが偏差値が高すぎてノーマーク、ノーチェックだった公立エリート校、久遠山くおんやま高校が俺の通う新たな学校となった。


 俺の学力では無謀であり夢物語。内申点の段階で可能性ゼロだったそんな学校へ何故進学できたのか?


 新設された『未確認みかくにん敵性異物てきせいいぶつ排除者はいじょしゃ養成ようせい』コース。

 仰々(ぎょうぎょう)しい名称で彩どられた魑魅魍魎ちみもうりょううごめく学科、専任コースへ、いわばスカウトされてしまったからだ。


 俺に声がかかった理由は極秘。選ばれた要因、誰が推薦したのか、これから何が始まるのか? すべてシークレット。

 秘密主義のベールに包まれた国家安全プロジェクトの隅の方に加えられた俺は、拒否権も与えられずただなすがままに流されるしかなかった。


 去年の暮れに訪れた全世界を貫く衝撃。それについは後述だ。


 入学式はつつがなく終わった。


 ありきたり、想定どおりの儀式。順序良く進行する祭典。

 他の高校とやや異なったのは教職員の紹介に混じって、政府機関から派遣されてきた『対未確認敵性異物』の『排除適応者』の面々が紹介されたこと。


 彼らが俺たちの、いわばティーチャーになるという。お師匠さん。指導官とかいう名称らしいけど。


 あとは校長の長々しいスピーチの最後に余計な文言が追加されていたこと。


 曰く、


『昨今、未確認敵性異物のため、私達は過度の緊張、恐怖を味わって生活することになってしまいました。しかし希望があります。それが、わが校に新設された特別クラスに入学を果した排除適応者の卵達です。特別な力を備えた君たちが、これから、特殊なカリキュラムを通して成長し、人々の役に立つ存在へ成長することを期待しています。しかし、学生の本分は勉強でもあります。排除適応者と、学生の両立は難しいかもしれませんが……』

 うんぬんかんぬん。ちなみに、『未確認敵性異物』の別称はまだ定まっていない。頭文字を取ってMTIエムティーアイだとか、UTDユーティーディだとか呼ばれたりもするが、略称すら定まっていないのが世界の……日本の混乱を表していると言えよう。面倒なときは単に『異物』と呼ばれていたりする。

 ちなみに『排除適応者』ってのも、『排除者』までが最大略称。もっと格好いい呼び名があれば、提案してやったらみんな喜ぶだろうが。

 


 さて、普通とは違う、ことさらに特別、特殊や特異を強調した校長の語り。

 要は、俺たちを鍛えて、正体不明の怪物たちの矢面に立たせるということだ。そのための基礎能力を持った生徒が集められた……らしい。


 公募で自ら望んだ奴らも多数居るらしいが、俺のようにどういう基準だか適正ありと診断されて無理やりに選抜された立場からすれば非常に迷惑な話。


 一切の学費やその他もろもろの費用の免除なんてのは免罪符にもなっちゃあいない。親は多少なりとも喜んだがね。制服代だって本来なら馬鹿にならないはずだから。


 そりゃあ人類共通の敵である、通称『未確認敵性異物』とか曖昧で大層な名を冠された、要するに正体不明で目的不明。それでいて迷惑行為の度を越した殺戮や破壊を行う対話不能のまさにモンスターの存在は脅威だ。


 毎日毎日、うるさいほどにニュースや特別番組を騒がせている。登場から数か月。まだまだ飽きもしないでそれらのテレビ放映を見てられるのは、番組制作者たちの涙ぐましい努力……というよりかは、『未確認敵性異物』達の映像、異形、行動、残虐性……などなど。


 騒ぎのわりには大した被害が出ていないのは、既に水面下では対策が立てられていたからだろう。『排除適応者』達のチームによる円滑なる対応。

 何時からか……おそらくは有史以来、それ以前から、歴史の表舞台に出ることなく繰り広げられてきた人類と怪物たちの死闘。そのまま知られざる真実として、日陰で続けてくれりゃあ良かったものが……。


 突如として、一般人の知るところとなってしまった。それが去年の年末の出来事。

 

 繰り返し流されるニュース映像を何度となく見たが、本来ならばゲームでしか見ないような悪魔のようなモンスターのような、とにかくおどろおどろしい奴らが暴れていた。多数の人を殺傷し、街を破壊……に至らなかったのは、そんな怪物を退治してくれる謎の面々の存在。

 放送コードに引っかかるのか、それとも映像に映らないように上手く立ち回っているのか、なんせこれまた正体不明の誰かさんが、出没した怪物たちを退治、排除してくださっているらしいということはなんとなくの報道で知られることとなっている。


 なにせ手回しが良かった。公にされた怪物第一号の姿がテレビやネットに流れるや否や、政府は緊急会見を開いた。


『未確認敵性異物』なんて意味不明な名称が即刻固まって、さらにはそれを排除できるだけの人材が沢山いるから安心しろと。要約すればただそれだけの話ではある。


 それ以来、『未確認敵性異物』の出没は頻繁に、それこそ一日に何体も。出たと思ったら退治されたので安心してくださいとのアナウンス。それの繰り返し。

 どこからやってきて、なんのために暴れまわって、そして誰が対応しているのか……そんなこんなの情報は一切なし。秘密のベールに包まれている。だからこそみんな飽きずにニュースや報道を見続けているのだろう。新しい情報を求めて。


 とにかく、世界は変わってしまった。放置しておけば甚大な被害を生みかねない謎の怪物達が、どこからともなく現れて襲い掛かってくるのだ。

 その対応を行う人材は多ければ多いほどいいんだろう。


 だからって、俺には関係ない。

 普通に高校に行って、普通に大学に進学し、ごく普通の企業に勤めて嫁さんを見つけて平凡な家庭を築くだけで精一杯、キャパシティぎりぎりなんだ。


 それが、こんな変なクラスに配属されようとは……。


 何が目を引くって隣の女子生徒。入学式には居なかった……ように思える。居たとしたら背中に背負っている大きな十字架は外していたんだろう。

 装飾もなにもない、古い木材を十字に組み合わせただけのくたびれた代物。存在意義もわからなければ、背中に張り付いている理由も不明。


 そんなものを担いで黙って座っている少女。なかなか堂に入っている。

 が、特異点はそれだけではない。


 あろうことか両目に眼帯をしている。痛々しい医療用の眼帯ではないのがせめてもの救いだが……古風な黒い眼帯。独眼流正宗ならぬ無眼流むがんりゅう。なんで両目……?

 それ以外はごく普通。だが、異常で異質。出オチにしてもシュールすぎる。なにせ表情がわからない。移動とかどうしてんだ? 両目を塞いで……。

 それ以前に……通学やらトイレへの行き来やら……もっといろいろ『はてな』が多すぎる。疑問符の洪水。むやみに話しかけられないオーラがぷんぷん。


 よりにもよって俺の隣の席。黒板に張り出されていた座席表を確認して俺の座る席、窓際の後ろから二列目を見て、二度見、ならぬ三度見をしてしまったくらいだ。

 他の連中も一癖も二癖もありそうな奴らばかり。


 ほんとに嫌になりそうだ。しょっぱなから……。


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