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~3

 さて、体育館に集められ、適当に座り込んだ俺たちに、闇沼先生が言う。


「精霊術でも見せてやろうか? 秋継!」


 突然の指名にも慌てることなく秋継は、立ち上がり前に出た。事前に連絡があったのかもしれない。


「精霊術とは?」


 との闇沼先生の問いに、


「万物の根源であるところの地水火風、すなわち、大地、水、火、そして風の力を引き出して己の物とする術式です。私は四大属性すべてを自在に操ることができますが術者によっては相性があり、特定の術に長けた者、苦手な属性を持つことがほとんどです。精霊との交信にはまずは精神集中、自然と己を一体とし、精霊の力を肌で感じることが必要となります。私の場合は、生まれ持った才能が故、生まれながらにして全ての属性と親和し、その力を最大限に引き出すことが……」


「お前の話はいい!」


 一喝されて秋継は言葉を切った。

 で、闇沼先生が、


「聞いての通りだ。幸いこのクラスには精霊使いが何人かいる。そいつらに話を聞け。精霊との交信を課題とする。できた奴は精霊使いの素質があるんだろう。できなかった奴はまあ、別の道を目指せ」


 なんて投げやりな。俺達をほっぽって出て行ってしまった。

 しばらくは一同ぽかんと活動停止していたが、誰かがぽつりと、


「精霊使いかぁ……いまいち地味なんだよなぁ」


 多分上園の声だ。確かに、あいつは召喚士目指してるって言ってたし。で、それに食いついたのが例によって自意識過剰の秋継。すぐさま


「地味かどうかは実際に見てから言ってごらん。ちょうどいい、デモンストレーションだ。精霊使いの実力の一端をご覧に入れよう」


 と、なんだかんだで何もない中空に炎を出現させる。それを見て一応歓声があがる。自分の力に絶対の自信を持った一部の精霊使い以外の奴らはしらけたような目でそれを見ていたが。


「君たちに被害が及ばぬように最小限の力しか使っていないが、同じように風や水を操り、大地の力を引き出す。いわば万能なんだよ。実際に活躍している『排除適応者』にも精霊使いが多いと聞く。未来への展望も明るい」


「それってどれくらいの練習が必要なんだ?」


 と誰かの声。目の前で超自然の力を見せられて興味を持ったのだろう。自分にもできないか? その可能性は高い。なんせ選ばれてこのクラスに編入されたのだから。


「それは素質次第というところか。まあ、万に一つも私の才能を超えるものはいないととは思うが……早ければ……そうだな、手順良く行けば一時間で簡単な術ぐらいは使えるようになるだろう。先生からのご指名もあった。精霊使いの諸君」


 と秋継の呼びかけに、取り巻きグループ、つまりは精霊使いの一派が立ち上がった。秋継を入れて総計で五人。確かに多い。


「グループごとに、六人程度か。適当にばらけてくれたまえ。まあ今日やるのは基礎中の基礎だ。しかし、才能に恵まれていればこの時間で精霊を操ることができる可能性はゼロではない。我々もできる限りの力添えをしよう」


 いきなりリーダシップを取り始めて秋継の勢いに負け、あるいは超能力への憧れが開花したのか、幾人の生徒たちはそれぞれの精霊使いの元へ集まりだした。


 動かなかったのは俺のように躊躇してしまったもの。そして、『呪術師』『陰陽師』『召喚士』など、自らの力に信頼を置き、精霊術を覚える意思の無いもの。


 それと武藤さん。


 ちなみに猫柳は体育館には来ていない。あいつは教室でしか見たことがない。いつも俺が教室に入ると隣に座っているし、出ていくところも見たことが無い。謎。何故だか特別扱いを受けているようではある。

 でもって、俺は同じくこの場を動かない武藤さんに聞いてみた。


「行かないの?」


「…………」


 おっと、無言で返されました。

 乗り気ではない俺たちに向って秋継が、

「さあ、君たちも、早く来たまえ。才能が無ければ諦めてもらうしかないが、仮に……精霊使いになれたなら……」


 と、セールストークを繰り広げているさなかに、


「馬鹿馬鹿しい……」


 と、こぼしたのは武藤さんだ。それを耳にした秋継の眉がぴくりと上がる。


「聞き捨てならんね。君は武藤芙亜君……だったね。魔法使い志望だとか。君のいう魔法使いに一番近いのは、この精霊術だと思うがね。違うかい?」


「精霊の力なんか借りなくたって、四元素でしょ? 自在に操れるわよ。魔法使いの基本中の基本。小学生だってそれくらいできるわよ」


 さらに表情を硬くした秋継は、


「ならば、見せてもらおうか、君の言う魔法使いの力ってのを……」


 と挑発。売ったのが秋継なら、買ったのは武藤さん。


「見世物じゃないんだけどね……」


 などと言いながら、一団から距離を取った。


 オンステージ。ショーの始まり。武藤さんタイムが始まった。


 竜巻、炎、水流を繰り出す武藤さん。さらには体育館の扉をあけ放ち、体育館裏の地面から土人形を作り出して、どこからか出した剣でもってチャンバラを始める始末。


 さらには雷雲を呼び寄せ、一本の木に落雷を落とすことまでやって気がすんだのか、


「わたしには魔法で十分なの」


 と吐き捨ててまた座り込んでしまった。なんの力も持たない俺を含む元一般生徒はもちろんのこと、自分の腕前を自負している自称能力者たちもこれには驚愕。呆然。


 しかし、秋継だけは大したもので、


「武藤さんの力は我々、精霊使いとは源流が違うようだが……、精霊術だって極めればあれくらいのこと、いやそれ以上の事ができる。さっきは無為に力を披露するのもあれなので、あんな派手なパフォーマンスはしなかったがね。やる気のない人達は放っておいて、初めてしまおう」


 と、負け惜しみ気味ながらマイペースに事を進め出した。

 なんとなく機会を逃した俺は、戻ってきた武藤さんの隣で傍観していたが、武藤さんの一連の技の披露がかえって興味をかきたてたのか、残っている面々はさっきより少なくなっていた。


 それでも残ったうちの一人、たしか自称忍者だった女の子が武藤さんに、

「面白い。私の忍術にも遁術、自然の力を使うものが多々あるが、あそこまで見事な腕前は、お師匠さんクラスでもなかなか……」


 などと話しかけていたが、


「わたしのは精霊術でも忍術でもなくって魔法だから……」


 とつれないご様子で相手にしない。


 精霊術とやらを学ぶ生徒の間で「やっぱ難しいわ~」だの「きゃ~、できた~! 火が出た~」だの歓声が上がったり静まり返ったりしているのを眺めながら、やがて授業の終了を終えるチャイムとともに教室へ引き上げた。


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