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通学途中で、大貝に出会った。今朝は上園や、谷口はいない。
「おう」
「ああ、おはよう」
ふとそこで、おとといの大貝の言いぐさが思い出され、気になった。そうだ、こいつ俺の首がどうしたとか言ってなかったか?
「なあ、大貝? 一昨日の事なんだけどな、俺の首について何か言いたいことがあったんじゃないか?」
大貝は、ちょっと目を細めると、そのまま俺の首あたりを見つめて、
「ああ、気にしないでくれ」
「気にするなって言われても気になるんだけど?」
俺もそう簡単には引き下がらない。あきらめたように大貝は、
「変に思わないでくれよ。まあ、信じるか信じないかは任せるけど……、あ、やっぱやめとこうかな……」
非常に、気を持たせる。そこまで言って、『はい、じゃあいいです』とはいかないだろう。俺は先を促した。
「見えるんだよね。昔から。幽霊だとかそんなもんだとは思ってないけど、なんだろう、街を歩いていると一部がやけにまぶしく感じられたり、靄がかかっているような雰囲気だったり……」
おっと、霊感少年だったのか? 大貝のやつ。
「いや、気のせいだとは思ってるんだ。それが人の形をしてたりなにかそこで事件があったとかいわくつきの場所でとかそんなんじゃないからな。だけど、お前の首にも何かが巻き付いているような気がしてな……」
「首に……巻き付く……」
「ああ、やっぱり言わなきゃよかったかな」
いや、それは貴重な証言だ。というか心当たりがありありなんだ。こっちはこっちで事情があって打ち明けることはできないけどな。
「それって、いつから?」
という俺の焦点をぼかした問いに大貝は短く、
「何が?」
「いや、お前が変なものが見えるようになったの……と、俺の首に周りにそれが見え始めたの」
「ああ、ガキのころからだよ。あんまり気にしないようにしてたんだ。だけど、こんな学校に連れてこられて……。やっぱりなんかあるのかなって」
そうか、うちの学校は一部の――人数的には過半数を超えるが――自称怪しい能力使いの他に、俺のようになんの因果か、無理やりに入学させられた生徒もいるんだ。大貝だってその一人。何か不思議な力を備えていてもおかしくはない。
「でもってお前のクビのは一昨日始めて気が付いた」
「今も……なのか?」
「ぼんやりしてるけどな……」
「…………」
まさか、大貝にまで無言を使うとは……。
「頼むから、まじめに受け取らないでくれ。別に不幸の前兆とかってわけじゃないんだ。なんだかそういう風に見える時があるってだけで……。いや俺が悪かった。忘れてくれ」
忘れるわけにはいかないが、これ以上大貝を問い詰めても何も出てこないだろう。
その話はそこで打ち切って、違う話へ。一昨日の放課後の一件。
「あの、一昨日の事件なんだけど?」
「ああ、あれか? どうもはっきりしないんだよな。『未確認敵性異物』が現れたのは確からしい」
そりゃそうだ。目撃者多数。被害者少数――精神的にショックを得た秋継ぐらいのもの。だが、騒ぎは騒ぎだ。
「一応昨日説明はあったよ。なんでも指導官の誰かが排除したって」
そうなのか? 事実は……武藤さんがやっつけたのだが……。というのは胸の内にしまっておいた。
「秋継なんかは自分の与えた攻撃によるダメージが直接の原因だって息巻いてたけどな」
ポジティブな野郎だな。武藤さんに助けてもらった恩義なんて感じてもいなさそうだ。話を聞く限り。
「まあ、俺達も入学そうそうで、詳しい知識もないからな。差しさわりのないことだけしか教えてくれないらしい」
そういうことなのか? 魔物ではなくあくまで『未確認敵性異物』。そして、武藤さんの関与は闇に葬られたわけか。なんか不信感が募る。
大貝にそれ以上聞いてもめぼしい情報は得られそうにない。あとは当たり障りのない会話をしながら俺たちは教室へ向かった。
朝のHR。相変わらず二人セット、コンビの担任の到着とともに、ばらけていた生徒たちが一斉に席に向かって、教室は一瞬の騒然を醸し出す。
と同時にそれぞれが好奇のまなざしを教壇に向ける。教壇に立つ、闇沼先生ではなく、ぴょんぴょんと跳ねながら遅れて入ってきたもう一人の教師。いつもと同じく白い服に身を包んだ白坂先生に……。確かに色合いはいつもどおりだ。だが、清楚なワンピース姿ではない。
拘束衣とでも言うのだろうか? 白い繋ぎの上下。手足の自由を奪うこれまた白いベルト。物々しい。そんな装束に身を包んだ白坂先生は無表情。教室の入り口で固まっている。
「今日は白坂の調子が悪いのであたしが、主担任だ。では……」
以上。調子が悪いの一言で片付いてしまった。詳しくはWEBで! ってことなのか?
ロリでどこか頼りないがまだまともだと思っていた白坂先生にこんな鋭さ溢れる設定が冠されていようとは……。
「うぅ~~~~~、うぅ~~~~」
と、隣りから聞こえる威嚇するようなうなり声。相変わらず十字架を背負い、両目に眼帯という出で立ちの猫柳が、体を震わせていた。
「ああ、猫柳には酷な姿だったな」
それを見て、闇沼先生はつかつかとこっちにやってくる。俺の元ではなく、もちろん奇声の主である猫柳の元へだが。
猫柳の頭に手を置き、何やら耳元でささやいた。するとどうやら落ち着いた様子の猫柳は振動させていた体を静止させいつもどおり、不動の精神を取り戻したようだ。
闇沼先生はさっと教壇へと戻っていく。戻り際に俺の顔を伺ったように思えるのは気のせいか?
生徒たちのざわめきを余所に手っ取り早く簡潔にHRが始まって終わる。
「一限目は特別カリキュラム。体育館に集合!」
と連絡事項を述べて闇沼先生は退出。生徒たちは、口々に白坂先生の姿を詮索したり、いぶかしんだりしながらも移動の準備を進めていた。




