表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/31

幼馴染なら初めからそういう設定説明とかしといてよ ~1

 伝説の剣を引き抜いたわけでは無論ない。


 やむにやまれぬ状況でふと放置してあった人型の機動兵器に乗り込み、そのまま敵を退けたわけではない。

 そのまま宇宙戦艦に乗り込んで、一年の戦争で名を挙げたエースパイロットになんて俺はなれない。


 無論、実はお前は魔族の血を引いていてどうたらこうたらだの、魂の価値がなんたらかんたらと、講釈を垂れられたようなことでもないが、なんとなくもやっとする説明不足の状況を突き付けられた一昨日の一件。


 ゲームスタートと同時に誕生日の朝に目覚めて、国王との謁見、わずかばかりの旅立ちの資金を手に入れて、こん棒片手に冒険を始める……というようなお約束イベントからは距離をとりつつも、俺の人生は大きく迂回を始めた。


 他に考えられるのは、なんだ、俺に由来不明の眠れる力が備わっているとかそんな設定か? サタンの血脈理論とそう大差はないが、親父にでも聞いてみるか? あんたのご両親のどちらかに魔族はいませんでしたかって。


 馬鹿馬鹿しさを通り越して、正気を疑われそうだから、親父に聞くのは論外としても、武藤さんへ軽く訪ねてみるのはよさそうだ。


 何故俺だったのか? なんで俺が選ばれたのか? 最大の疑問だ。

 それとそもそも世間を騒がせている『未確認敵性異物』と魔物の関係。

 魔族であると自ら名乗ったあの女悪魔、エルーシュと闇沼先生との設定。

 考えてみると疑問は多い。


 前日に寝すぎた後遺症で、普段では考えられないほどの早朝に目を覚ました俺は、ベッドの中でもやもやとした思念を、いろんな坂道で転がして、遊んでいた。


 そろそろ起きる時間だといえばそうだ。まだまだいつもと比べると早すぎるぐらいだが、これぐらいの時差なら問題ないだろう。いつもより多少ゆっくりめに支度をし、優雅に朝食を取ればよいだけの話。


 あいにくと、我が家の朝の食卓には親父が精魂込めた純和風のメニューが並ぶため、ゆったりとしたひと時を珈琲のたてる湯気とともに……なんて風景は望むべくもないが。

 昨日までの疲れ、痛みは嘘のように引いていた。逆に言うと昨日の状態が、信じがたい悪夢のようだったのだが。


 自称魔法使いで、結局のところ、SFX真っ青のとんでもない芸当を、そらでやってのける武藤さん――正式名称、武藤=ファシリア=マリア――に、突然声を掛けられ、断る機会を与えられずになし崩し的に、従者としての――今のところ『仮』らしいが――契約を結んでしまった俺。


 さらには、悪魔と戦う現場まで足を運び、色っぽいおねえさんに翼が生えた正体不明のおそらくは敵属性を持つ謎の人物――でありながら顔見知りの美女と会合し……。その代償なのか、武藤さんの魔法の後遺症なのかなんなのか、詳しく聞けてないから原因不明のままだが現実問題として丸一日の間、寝込むことになってしまった。


 しかし収穫はあった。


 昨日の夜遅くにかかってきた一本の電話。這うようにして受話器を掴むと――まあ、実のところはコードレスフォンの子機をベッドまで持ってきてもらったので、物理的な労力は消費していないが――、なんと電話の向こうにいたのは武藤さんだった。

 そういえば、PTAの有志で作った連絡網が配られていたような。クラスメイトの誰にでも連絡できる状況はお膳立てされていたはずで。


『こんばんは。どう? 体調は?』


 第一声がそれだった。


『すごくつらいです。死にそう。まじで動けない……』


 泣き言を臆面もなく吐く俺。みっともないが、一日中寝ていりゃ心も沈む。


『ごめんね。わたしのせいで……。ちゃんと説明もせずにまき込んじゃって』


 ああ、説明不足は否めない……。


『明日は来れるよね?』


 いや、この状況が続くならわかんないんですけど。なんせ今朝から今まで一向に回復した気配がない。


『多分大丈夫だと思う。普通は一晩寝たら治るものだから』


 それは、ありがたいお話です。普通はそうなんだね。それはもはや俺にとっての普通と相いれていないのだが。


『それでね、お詫びとお礼を兼ねて……なんだけど……』


 なんでしょう?


『石神君って普段からパンとか買って食べてるよね?』


 ああ、昼まで親父に面倒見てもらうのがいやなんでね。金の面はともかくとして。


『あした……』


 そこで、武藤さんは少し間を置いた。恥じらいがどことなく伝わってくる。


『明日のお昼ごはん、用意しなくっていいから』


『えっとぉ?』


『お弁当作ってもっていくから……』


 お、お弁当! 武藤さん手作りの? いただけるの? 頂戴かしこまれますの? わたくしめが?


 とかまあ、そんな短いやりとりがあったわけだ。長話もなんだし、どうせ明日は学校で顔を合わせるし、そのあとはまあお互い深入りせずに電話を切ったのだけど。

 ということで、俺は布団から抜け出して着替えを進めながらひとつの仮説を構築していた。


 宿屋のマジックポイント回復理論だ。MPと呼ぶのが嫌なら、メンタルエナジーでもマナでもなんでも好きな呼称を当てはめればよい。


 昨日、武藤さんは大掛かりな魔法を使った。が、彼女には十分な魔力、つまりは魔法を使うためのエネルギーが足りていないらしい。

 ということは、だ。どこからエネルギーを調達せねばなるまい。


 そこで、繋がる。俺の存在意義。武藤さんは俺から魔力を吸い取って、悪く言えば勝手に使って魔物を退けたというのが、もっともらしくて筋が通っている。


 であるならば、俺の魔力――それがどれだけ十分に存在しているのか、レベル3ぐらいで覚える『べた』な回復魔法ひとつで空になってしまうのかはともかく――が底をつき、緊急事態、戦闘不能、行動不可状態に陥ってしまったのだろう。


 で、問題は、だ。ここからが重要。その魔力の回復のためには? コンビニに行ってもドラッグストアに行っても、魔法の聖水もエーテルも購入できないこのご時世。


 そういや以前にエリクサーなんてのは、コンビニで買えた気がするが。あんなオロナミンやレッドブルのお仲間で、魔力なんてものは回復しない。翼を授けられても、辛さは和らがない。


 早い話、自然回復を待つしかない。そのためには寝る。現に寝てると回復した。以上、証明終わり。QED。


 と、ほのかに核心を得ていそうな、それがわかったからといってさして何の役にも立たないことを考えながら学校へ向かった。

 一昨日とは全く異なり。軽ーい足取りで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ