楊 海花
楊 海花
初めての時はポン引きの言いなりになったが、二度目は彼女のアパートに逗留する。彼女の名は楊海花、ハルピン出身25才。身分証明書を見せる。中国式漢字は略し過ぎ、半分ぐらいしか読めないが生年月日は確認できた。人種はモンゴルのようだ。この国では身分証明書は必携だそうだ。人口統計も10億となると大変であろう。国土も欧州全体以上とか、これだけの他民族を共産党の独裁でまとめてゆくのは所詮無理というもの、チベットにしろモンゴルにしろ独立させればいいと思われるのだが、、、。
空港に迎えに来た彼女は少しやつれていた。日本からの土産を渡すと嬉しそうに受け取る。水商売の女には見えない。タクシーでアパートに向かう。料金でもめる、200元で釣りを寄越さないのだ。日本の男と同伴している女が何を言うか。それは私のお金、返して。金が絡むと形相が変わる。やれやれ、色恋よりも金か、無粋じゃのうと50元を出して運転手に100元を返せと手振りで話す。150なら少し高いが双方の顔もたとう。
しかし彼女は運転手を睨みつけて車を降りる。10月も下旬になると肌寒い。細身の彼女は私のバッグを持って、しばらくしてから部屋に来るようにいって歩き出す。こちらは重いスーツケースを引摺って階段を登る。10階建てマンションの4階だ。エレベーターはないのか。男を連れ込むところを見られたくないのであろう。
根底に、春をひさぐ女、金で女を買いまくる日本人との思いがあるのであろうが、金をだまし取るのと労働の対価として受け取るのとは同列ではあるまい。勿論、売買春がほめられたものではないが、古今東西、最古の商売が廃ることはないようだ。ここは、富は異民族から奪うべし、を基本哲学にしているように見える。
市場原理導入により貧富の格差は拡大している。少数が富む、多数が貧する構造は共産主義というイデオロギーだけでは変わるはずがない。マルクスの唯物史観によれば資本主義が成熟して社会主義に移行してその後共産主義にいたるはずである。実質的には外資導入により資本主義の緒に着いたところであろう。資源、労働力はあっても技術のない国が発展する訳はないが、外資は技術も連れてくる。ただ、それがこの国に根付くか、それが問題である。国家国民にその素養があるか。
目眩く造愛のあと、買い物に出かける。10万円を元に替えると7142元。銀行の入口で胡散臭いオジサンが両替をやっている。1元=14円の世界相場どおりだ。1000元を砕いて、さらに両替して、彼女にわたす。平均月収8000円約571元を物価の目安におくと大抵の物価は理解できよう。釣りがないからと買い物を断られる日本人がいるが勉強不足である。
この1000元をどのように使うかで彼女の性格がわかるはずだ。駅ビルの商店にはあらゆる種類の商品が並べられている。秋葉原の小さな店が数百とひしめいているのに似ているか。彼女は3階の婦人服売り場を見てくれという。10㎡ぐらいのテナント料が3万元とか、これは譲渡できるらしいが、商品仕入れ代諸経費で2万元は必要だろう。彼女は以前ここで販売員をしていたらしい。ハルピンで洋服を仕入れて売れば1年で元が取れるという。1着100元として年に5000着売り切れるか、月416、日16の計算だ。
親戚から安く仕入れて売る、自分には自信があると熱ポっく語る彼女が可愛くみえたが、中間層をターゲットにして1日16着の水揚げは不可能と思われた。彼女は小学校の教師をしていたが給料が安いのでやめたと言っていたが、本当なのかはわからない。スケベな日本人が喜びそうなセリフだが、楊海花はそれが事実であってもおかしくないと思わせるものをもっている。
夕食は近くの市場で食材を買って帰る。アパートには彼女の同僚が食事の用意をしていた。買ってきた食材を丁寧に料理してゆく。中国料理は時間が掛かる。シャワーを浴びてベッドに横たわっていると楊が襲ってきた。シャワー浴びた身体が冷たい。激しい攻勢に意識が薄れてゆく。いきり立つ男根にコンドームをかぶせて股がる。気持いいね、と言いながら腰を揺すり続ける。造愛は二人の身体をケイレンさせる。海花の腰が大きくうねって果てる。
そのまま眠りに落ちたが、食事ができたと起こされる。彼女の同僚は淡々と給仕をする。これは美味い、と言うとにっこり笑う。久しぶりの御馳走に二人も満足している。手をかけた料理に堪能した。やがて同僚はシャワーを浴びて厚化粧をして出勤していった。二人で借りているようだ。客が来たときは一方は外に出るが冬は大変だろう。
ところで海花ハイファ、お前は。お店クビになったから仕事探している、俺のせいか。もともとママとは相性が良くなかったから気にしないで。店の客を無断で連込んだのでママが怒ったらしい。お前は水商売は向かないんじゃないか。私もそう思う。俺の子供生むならあのテナント借りてもいいぞ。だめよ、この国で結婚しないで子供を産むことはできないのよ。そうか、これは一週間の宿泊代だと6000元を渡す。半分でいい、貴方お金なくなる。一瞬俺のことを愛しているのかと思った。
翌日、楊海花がアパートを出ろという。近くのホテルをとったから移れ、金は私が払うという。大家からクレームが入ったか、彼女にあるいは同僚に客がついたか、理由を聞くことはできなかった。何故か聞いてはならない気がしたのだ。ホテルの部屋に入ると海花がごめんねと言う。いいんだと見栄を張る。女要るなら、友達紹介する。お前以外の女は要らない。海花は俺を抱き寄せてキスをする。濃厚だ。ベッドに運ぼうとすると私行かなくてはという。
その悲しげな顔は訳は聞かないでと言っている。途中まで一緒に行こうとホテルを出る。晩秋の大連は冬の訪れを感じさせる。これは露西亜人街、これは日本語学校、楊海花は説明する。大連はライラックの花が美しいそうだ。五月にまた来るよ。待っていると腕にすがる。今だけは恋人でいさせてと訴えているようだ。
大和ホテルに日本の弁護士事務所があった。飛び込みで訪ねてみる。人の良さそうな弁護士は予約があるので一時間後に来てくれという。ホテルの珈琲は有名だ。さすがに美味い。貴方のことかまって上げられなくてごめんね、これから面接受けてくる、もう、飲み屋には行かないから。それがいい。こうしてみると可愛い。
時間をみて事務所を訪ねる。名刺を交換してすぐ本題に入る。彼女の面倒を見たいがここで仕事はあるか、彼女をどう思うか、と単刀直入に切り出す。一点目はJETROに相談されたがいいでしょう、私に出来ることがあったらいつでも逝ってください。二点目は難しい質問ですね、小学校の教師の給料では家族の面倒まで見れないと言えますが、まあ、信じて上げては、見たところ性格は良さそうですし。そうですか、ありがとうございます。相談料は。いいですよ、いつでも来てください。私は日本から月に2,3回こちらに来ていますが、やっとここに事務所を構えることができました。突然の飛び込みなのに、すみませんでした、では、お言葉に甘えさせていただきます。
楊海花はコーヒーの値段と弁護士が料金を取らなかったことに驚いていた。ホテルからタクシーに乗る。彼女が見送っている。面接はどんな仕事かはやがてわかると訊かなかった。運転手は中年女性、タバコを吹かしている。後ろ姿が寂しげだ。運転は確かで最短コースを走っている。目的地を無線で確認して進路を変える。到着するとメーターを指さす。60元、釣りの40元をきちんと揃えているので要らないと手を振る。運転手は嬉しそうに頭を下げる。ボッタクリの多いタクシーで初めてまともな運転手に当たった気がした。気持ちよさが日本人には大切なのと無言で手をふる。
その日から楊海花は姿をみせなくなった。理由はわからないが、携帯に電話する気にならない。遥々日本から造愛に来たのにとの思いは男の見栄か、心にしまっておくことにする。しかし、異郷の空で一人寝の寂しさは格別である。ホテルの料金は500元、一週間で海花は赤字となる。
夕食は裏通りの焼肉屋台。主に羊だ。モンゴル人のオヤジは夕方から深夜まで黙々と焼き続ける。椅子はみかん箱。味が客を呼ぶのか、ハヤっている。ビールを注文したが冷えてないので返す。栓を抜いたからと代金を要求する。その顔はオヤジそっくり。隣のおっちゃんがビールを引き取る、日本人は冷たいビールしか飲まないと言っているようだ。息子らしい若い男は冷たいのを持ってくる。開けろと手振りで言ってコップに注ぐ。隣おっちゃんに乾杯とコップを持ち上げる。カンペーと応える。
それにしても胡椒の種類の多いこと、30はあろうか、とにかく試してみる。モンゴルは羊を主食とするからか。かつてのモンゴル帝国は草原から生まれ草原に消えていったのであろう。誇り高い蒼き狼は中国に併合されている。異民族の支配を経験していない日本人は、良くいえばイイところのお坊っちゃんかも知れない。悪く言えば、、、。
あくる日、大陸側の海を見にゆくが道が途中でなくなり、警備員に追い返される。外国人に見られたくない施設かも知れない。一時間ほどうろついて公園たどり着く。ここでも太極拳をやっている。陳式か、動きが激しい。奥ではおばちゃんたちが扇をやっている。明日はここに来るかと思った。回り道をするとパットライスを砂糖醤油で固めたのを売っている。三箇で一元。その場で頬張る。
朝6時はまだ暗い。公園には大娘ちゃんたちが集まっている。ここの老師は 40過ぎで色香が残っている。どこでも太極拳は24式から始まるようだ。本場の太極拳は滔々と流れる、動作が大きな流れをつくっている。表演そのものは素朴であるが本場は流れが自然である。生まれながらのリズムがそうさせるか。ここでも扇と剣は借りる。大娘ちゃんは親切だ、いろいろ説明してくれるが不知道了。老師が誰に習ったかと聞く。日本人に習ったことが信じられないようだ。
24式を一人でやらされる。好、もし貴方が太極拳本格的に学びたいのなら私が教えてあげましょう。一人のオジさんが英訳してくれる。
明日の朝、旅順を発つので来年ライラックが咲く頃教えてください。今度は表演服を持ってらっしゃい。品のある男が近づいて来て88式が宗家である、と言う。知道了ーわかった。24式で4分、88式ならは20分掛かる。中国人でも覚えきれないと半分の半分に縮めたのが簡化24式、これとて1年で覚えれば早い方とされる。
麻雀の上がり役は日本の倍以上あるそうだ、こうしてみると中国人の知能は馬鹿にならない、むしろ驚異的である。中国武術院では体育大学卒のエリートを集めて雑技を教えているが、太極拳は一般教養マスターしていることが前提とされているようだ。人口10億と言え、人的資源は豊かである。各分野の人材が日本並みに能力を発揮するならば、その可能性はきわめて低いが、世界を征服することも有りうるのではないだろうか。
さて一般的に日本人と診ると相場の4倍は吹っ掛けるのは如何なものであろうか。日本人からぼったくるを旨とすべし、との通達が出ているのではないかと疑いたくなる。ホテル、飲み屋、デパート、乗り物、按摩など事前に相場を調べておくべき。それには現地人と友達になること。筆談で通じる。同じ店に通って同じ物を注文すると顔を覚えてくれる。白菜鍋がお薦め。予算は40元と言っておくとビール、酒付きで見つくろってくれる。そうなると掛値なしの(現地人と大差なかった)相場を教えてくれる。




