序章
目次: 序章 北帰行 楊海花 アムール川
序 章
大連の風は日本語のドラマということだがついに一度も観られなかった。内容も知らないが日本企業の駐在員向けではないかと想像している。ほかに日本語接するのはNHKの衛星放送ぐらいだったと思う。他の20ほどのチャンネルは中国語であると思われる。ただし、北京語なのか大連語なのか分からない。字幕に中国体漢字のが出てくるのが多いのでそう思った次第。50を超える民族が住んでいる国なのだ。
日本は日本語だけで事足りるが(アイヌ語、琉球語はちょっと分からないが)、回族、モンゴル族、朝鮮族などの漢民族以外の人たちは中国語を覚えなくてはならないのではないか。多くの民族に接するところでは数ヶ国語ができないと生活できないと聞いたことがある。
大連はロシア語のダーリアン遠いところと言う意味らしいが、日露戦争後、ここを起点に満州建国が始まった。つまり、ロシアのシマを日本が分捕ったということだ。関空から2時間で空港につくから日本からは近いところだ。露西亜街、大和ホテルなど日露支配の歴史の面影をとどめる建造物があちこちに見られる。大陸から突き出した半島は常に異民族の侵略支配を受けねばならなかったのであろう。異国情緒あふれるこの街は中国人には憧れの観光地でもある。海岸には数十億ションのマンションが立ち、高級住宅街には日本社宅が並んでいる。裏通りには煉瓦造りの民家が続く。貧富の差は100倍以上はあろうか。日本のオール中流とは別世界だ。
観光客の中には多くの日本人がいる。ひと目で買春ツアーとわかる。空港ロビーで昨日の女は好かったなあ、と声高に話している。日本語のわかる中国人もいように。しかしツアーの日程を見るとわからないこともない。昼は観光、夜はカラオケ、お持帰りの中国娘とホテルにチェックインしてベッドイン。中国娘のお値段は1万から2万円が相場らしい。カラオケ店の原価明細は賃金5計費2粗利3ぐらいと推察される。共産党支配国でも労働分配率は低いようだ。とは言っても平均月収8千円らしいから娘たちは一夜でそれ以上を稼ぐ、日本人様様、スケベ熱烈歓迎なのだ。
飲み屋はカラオケと中国娘の品定めの場所である。いずれか、両方かは客次第。歌い続ける日本人客が私を旅行者と知って、いいですね、私はもう3年もここに住んでいますと言ったのが印象的だった。店のカラオケは日本のビデオをコピーしたものであろう、画像も音もかすれている。著作権など気にしない。従業員はこき使って搾るもの、搾取する者される者。日本の高度成長は終身雇用に支えられてきたというは見識である。
”人の命は地球よりも重い、しかしこれを償うに我々は金銭以外の英知をもたない”は有名な日本の判決文である。人口増加に対して一人っ子政策を強烈に推し進めるこの国では、命の値段と題して外国メディアが報じる。小さな子供を撥ねた車が引き返してきて再度轢死させたというのである。理由は、死亡事故の補償は安いが、被害者の医療費は上限がないということ。通行人は見てみぬふり、係われば累が及ぶのを恐るからだ。日本なら業務上過失致死罪及び殺人罪を構成する。
貴重な外貨しかも世界で孤高の日本円を獲得する観光産業を支えている日本人の存在を忘れてはならない。と言っても要するにポン引きだ。カモの日本人を連れてきてくれたら料理はいかようにもできる。原価構成は、中国娘の取分45、ポン引料20、粗利35、が標準的といわれる。売上お一人様2万円としても10人で20万、粗利7万が見込める。ポン引きはホテル、飲み屋、土産店、旅行外社などに重宝されているようだ。それもまた人生と思えないこともないが、あわれでもある。
観光地としては203高地、水師営を見たが大したことはない。標高203mの要塞を攻略するのに幾万兵が血を流したことで有名だが、最初から大砲をぶっ放なしておれば犠牲は少なかった、作戦ミスと思われる。日本は、軍隊企業において部下の評価は厳しいが戦略、作戦の評価は常に曖昧である。徳川幕府の重臣が責任逃れ、保身を図ってきた変な伝統か。誰も最終責任を取らない。
水師営も乃木将軍とステッセルの写真があるだけで歴史的価値もさほど認められない。ポン引きの彼女の強い勧めで40元の入場料を払ったが、彼女も売上に貢献しているのであろう。日本人ひとりだと危険だと女友達まで連れてきた。旅費食事代がかさむ。それだけ彼女のリベートが増える訳だ。
あとで案内料を請求されたが無視した。旣にポン引の旦那には十分はらってある、往復ビンタはだめよと無言で笑って見せる。彼女はチイママだったが日本人ママの旦那を寝取ったようだ。彼女の野望は飲屋のママでは気が収まらないのだろう。ふと、川島芳子こと愛新覺羅顯、が重なる。