第8話
ある日、ポット・タットに手紙が届きました。
【王室付きの魔法使いを雇いたい。明後日までに返事を返すように】
という内容と、ビックリするぐらいの謝礼金が書かれていました。
普通の人ならすぐにでも飛びつきそうな内容でした。
けれど、ポット・タットは悩みました。
まだ、アリシアに弟子入りしてから1ヶ月・・・。
かといって、もともと使えていた、もとい成功していた魔法とは別にアリシアに教えてもらいながら習得できた魔法は、いつしか数え切れないものになり、普通なら一人前といわれる魔法使いよりも、魔法が使えるようになっていました。
しかし、ポット・タットはアリシアと一緒にい続けることを願っていました。
そう、恋をしたから・・・。
実はポット・タットの気持ちを、アリシアは知っていました。
そして、アリシア自身も少しずつポット・タットに惹かれていました。
二人の間の距離が、目に見えてハッキリと見えるようになった矢先の王室からの手紙・・・。
二人は食事も取らずに悩みました。
【離れたくない】
素直に言葉は出なくても、二人の心は同じでした。
「ねぇ、タット・・・。」
先に沈黙を破ったのはアリシアでした。
「私は、今までずっと一人ぼっちだった・・・。けれど、あなたが来てくれたおかげで、私の生活は変わったの・・・。でも・・・。」
アリシアは、涙ながらにポット・タットに別れを告げる決意をしました。
「でも、こうしてあなたの魔法が国王様に認められた。これはとても素晴らしいことだと思うの。だから・・・。」
それ以上の言葉を、アリシアは言うことができなかった。
できるはずがなかった。
ハッキリと「さよなら。」なんて・・・。
ポット・タットは首をうな垂れたまま、アリシアの話を聞いていました。
言葉が涙に変わるまで・・・。
そして、ポット・タットも話し始めました。
「君の言いたいことは、わかってるんだ・・・。国王の、王室付きの魔法使いになれば、今まで俺をバカにしていた魔法使いたちにも顔が上げられるようになる。」
ポット・タットはゆっくりと顔をあげました。
「けど、俺は・・・。俺は、君と離れるなんて考えたくない。アリシア、君のことが好きなんだ。」
ポット・タットの気持ちを受け入れたい。
それがアリシアの素直な心でした。
けれど、アリシアは心を殺して言いました。
「タット・・・。気持ちは嬉しいわ・・・。けれど、それはせっかくのチャンスを逃してまで、手に入れなければいけない幸せかしら・・・。チャンスを希望に変えてからでも、遅くないんじゃないかしら・・・。」
そして涙を拭いて言いました。
「ここからお城までは、箒で半日もかからないわ。明日の朝でかければ十分間に合うはず・・・。さぁ、タット。お城へ行く準備をしましょう!」
ポット・タットは何も言わず、アリシアに従った。
そして翌朝・・・。
ポット・タットは朝日を見る前に、アリシアの家から姿を消した・・・。
「さよなら」も言わずに、姿を消した・・・。
けれど、個室の窓からアリシアは見ていた。
ポット・タットの背中を・・・。
見送った。
涙とともに・・・。
「ポット・タット・・・。今までも、これからも、私が愛した唯一の人・・・。」