第5話
考えてみると、不思議なことは、まだまだ沢山あった。
その中でも、一番の不思議は黒い妖精の名前を私が知っていたことだった。
聞いたこと無かったのに、私は知っていた・・・。
それはある日の午後だった。
私たちは、いつものように世の中についての勉強をしていた。
「だから、俺たちは【妖精】ってよばれる【生き物】で、お前は【人】って呼ばれる【生き物】なんだ。」
「なるほどねぇ・・・。けど、名前が付いてても、生き物じゃない物だってあるのよね。はぁ、難しい・・・。」
私は鉛筆を置いて手を前に思い切り伸ばした。
「ぅわぁぁぁぁあぁ!!」
黒い妖精が、急に迫ってきた私の手のひらのせいで慌ててしまい椅子から落ちてしまった。
「ゴメン、グート。大丈夫??」
私の言葉に、その場にいたみんなが目を丸くした。
そして、グートが言った。
「お前、なんで俺の名前知ってるんだ??」
「そ、そんなこと、私にはわからないわ・・・。」
それだけ言うと、私は意識を失った。
その日私は、自分が自分じゃなくなった気がした・・・。
薄い意識の中で、私は夢を見た・・・。
泣き叫ぶ人々。燃え盛る炎・・・。
親を亡くした子供たち。
そして、自分に向けられている、殺意の視線・・・。
その光景が過ぎ去ると、次には少女の叫び声が聞こえてくる。
「お前が“愛”を知ったから、私たちの世界は闇に染まった!お前なんか、お前なんか消えてしまえ!!」
そして、いつもそこで目覚めるのだった・・・。
そう、いつも見るアノ夢だった。
けれど、いつもと少しだけ違っていた。
この夢には、続きがあった・・・。
少女は叫び終えると、駆けて行った。
燃え盛る火が取り囲む、家の中へ・・・。
そして・・・。
両親だろうと思われる【人だった】者の首を大事そうに抱えて帰ってきた。
「これは私の両親・・・。大切な人たちだったのに、あなたが全部壊した・・・。」
いつのまにか傍観者だったはずの私は、夢の中でリアルになっていた。
そして、一転を指差した少女の指は間違いなく私に向けられていた・・・。
少女は叫んだ。
「不幸の女神アリシア!お前なんか、滅んでしまえ!!」