最終話
心が、ここまで苦しくなったことなんてなかった・・・。
続きを読もうとしても、涙で読むことができなかった。
独りだった、アリシア。
愛を知った、アリシア。
愛するものを失った、アリシア。
孤独を閉じ込めて、闇に飲まれたアリシア・・・。
記憶がよみがえる。
薄っすらと・・・。次第に、ハッキリと・・・。
「痛っ・・・。」
次の瞬間、胸に激痛が走った。
呼吸が苦しくなる。
意識が朦朧とする中で、記憶が意識を消そうと押し寄せてくるのがわかる。
【アリシア】に変わろうとする・・・。
感情が溢れでる。
そして、【私】は眠った・・・。
目覚めたら、アリシアだった・・・。
ここは、見慣れた場所。
私がいた場所は、私の城だった。
人々は、力のコントロールがきかなくなった私を、村の住人達がココに閉じ込めた。
タッグとグートは、私の見張り。
記憶を取り戻したときの、見張り。
それは、ポット・タットの残した、最後の魔法。
私が記憶を取り戻さないように、分身にたくした最後の魔法・・・。
そして、あの老婆は村の希望。
私がはやく記憶を取り戻すための魔法。
こうして、明けなかった夜に朝がきた・・・。
そして約束どおり、村に朝が訪れた。
服装を整えて、【私】を振り返った・・・。
色々な光景が浮かんでは消え、また浮かんでは消えていった。
そして、村の鐘が鳴った・・・。
部屋の扉がたたかれる。
私は覚悟を決めて扉を開いた・・・。
無言のままつれられて、私はあの日の広場へと向かった。
人々は、不安交じりの瞳で私を見ていた。
一つずつ、階段を上る・・・。
かつてポット・タットがそうしたように。
私が処刑台の横の椅子に座ると、裁判長が叫んだ。
「罪人、アリシア!これより、お前の公開処刑を行う。異存はないな?」
私は、ただ一点を見つめていた。
何も語ろうとは、思わなかった・・・。
村の人々からは、不安の声が漏れていた。
「約束では、アリシアに聞くんじゃなかったのか?」
「アリシアが、もう答えをだしたのでは?」
「けれど、もう一度確認しなくていいのだろうか・・・。」
次から次へと、村人は言葉を連ねた。
ザワつきを抑えるかのように、裁判長が叫んだ。
「アリシアよ!返事をせぬか!!」
私は、スッと立ち上がると処刑台へと向かった。
そして、言った。
「この白装束は、私の家に代々伝わる死に装束・・・。私の答えは、最初から決まっておりました。たとえ、村の人々に許しを与えられても、私の心は一生埋まることがないでしょう・・・。愛するものを失った今、私は生きる意味を無くしてしまいました。どうぞ、みなの気のすむように処刑してくださいませ。そのほうが、不安にも怯えることなく暮らせるでしょう・・・。」
凛とした姿で、言えただろうか。
それはもう、私には解からない・・・。
「いいのだな?」
裁判長の確認に、私は静かにうなずいた。
「最後に言いたいことはないか?」
私は、首を振ろうとして考えた・・・。
そして、自分なりの答えを出した。
「私が死んだら、私の体を灰になるまで燃やしてください。魔女は、肉体があれば生まれ変わってしまいますから・・・。」
「よかろう・・・。」
裁判長の言葉に、私は安堵して目を閉じた・・・。
アリシアの遺体は、最後の言葉通り灰になるまで焼き尽くされた。
彼女が亡くなった場所には、花が植えられ、そしてその花は血のように赤い花を咲かせた。
まるで、アリシアの恋と死に様を語るかのように・・・。
ある日、アリシアの墓に1人の男が現れた。
男の両肩には、妖精が座っていた。
いや、その妖精は眠っていた・・・。
男はアリシアの墓に花を生けると、光になって消えていった。
男の名前は、誰も知らない・・・。 ―完―