えぴろーぐ
真新しい木目の床。まだまだ汚れを知らない白い無地の壁。
そんな新築とも言えるレベルの綺麗さを誇るこの部屋は、うちの高校の寮だ。
入ってまだ一日も経っていないので、まだこの空気には慣れていない。
今は、入学式を終え、友達の「先行ってていいぞ、これ終わらせたら行く」というご好意に甘んじ、僕一人だけこの寮に先んじて訪れたことになる。
「ふう…」
入学式特有の少しむずむずする緊張感が抜け、とりあえず、椅子に座る。
二人で使うと少し広いぐらいの広さがある長方形のテーブルの中心に、ちょこんと観葉植物が乗っていた。
(なんて言うんだっけな、この植物…)
的なことを考えながら部屋全体を見渡す。
僕の左側、つまり机の隣には、一通りの調理器具が揃っている、木目を基調としたキッチン。その前には、カウンターが広がる。
後ろ側には、別の部屋に繋がるドアがある。玄関近くにもドアがあったことを踏まえると、僕たちの部屋のドアだろう。
右側には、ソファとテレビがある。ゴロゴロし放題だ。いや、ゴロゴロしすぎると、あいつに怒られるな…。
…
(うん、慣れねえ!)
一回抜けた緊張感が再び身を包む。
一人で何もせず、肩をピクピクさせていると、玄関の扉が開いた音がした。
その音でピクピクしていた肩が収まる。…ビクッというより大きな刺激を受けたことで。
「ただいまー、広」
「あっ、おかえり、ハルト」
…だいぶ声が上擦ってしまった。緊張しすぎだな、僕。
彼は僕と同じように部屋を見渡す。
「…真新しいな、この寮。最近できたんだっけか」
「うん、おかげでまだ慣れないや」
「…そっか」
彼はそのかっこいい顔に笑みを綻ばせる。
未だに慣れない、テレビでも見たことのない顔とルックスでそれやられると…
「結婚しよ」
「うん、何が何でそうなった?」
今度はその顔が引き顔になる。うん、これもこれでいいね!
「はぁ…で、今日の夜ご飯何にするか?せっかくの入学式だ、すき焼きでもなんでも作ってやるぜ?」
ふと外を見ると空の夕焼け色が目に溶け込む。もうそんな時間か。
胸に手をあて、己の胸に巡る想いを口にする。
「マジの結婚生活じゃん」
「ダマレ」
「まあ、うーんそうだな、じゃあしゃぶしゃぶでっ」
「お、いいな。実家から持ってきたガスコンロが早速日の目を浴びられるな」
「家からガスコンロ持ってきたのハルトだけだと思うよ…」
話しながら、ハルトはキッチン奥にある冷蔵庫を開く。
「まあ、何もないわな」
「買い出しに行く感じ?」
「ああ、ここのすぐ近くにスーパーがあったろ?そこで買おう」
一応、学校周辺は通って帰って来てるので、スーパーなんてあったらすぐに気づくけど…
「あったっけ?」
「ちょうどこの寮に隠れる感じでな。ここに引っ越す前にその辺りは調べておいた」
「さすがっす」
ハルトは、小学校の頃から、ガチで忘れ物をしたことがない。つまり、それほどちゃんとしている。
「…俺がするならともかく、なんでお前がドヤ顔してんの?」
やれやれと言った様子で、買い出しの準備をするハルト。
僕もそれに倣って準備し、玄関の扉を開く。
すると、お化け屋敷でも驚かないハルトが
「っ!?」
と明らかに驚く。
おそらく、ここは男子寮の最上階、しかも一番奥の部屋なので、人がいることに驚いたのだろう。
ハルトが驚くの、珍しいなぁ、なんて思いながら、目線の先を見るとー
(…っ)
息を呑んだ。
そこには、アイドルとかでしか見たことのない顔とルックス、夕日の光を受けて輝く金色の、長く美しい髪。
青い目に見えるのは、彼女の意思の強さ。
立ち姿だけでもわかる、気品高さ。
そこにいるだけで、その場の次元を変えてしまうようなオーラがあった。
彼女は美しい所作で一礼すると、こちらの方を見て、
「お久しぶりです、有明広さん♡」
そう、言い放ったのだった。




