誰も知らない世界
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私より、ほんの少し低いくらい。
並べば視線はほぼ同じ高さで、かえって距離の近さが意識に残る彼女は 黒を基調にした軍服、魔法少女の衣装としては異様なほど実戦的だった。肩や袖には赤いラインが走り、胸元には金色の飾り鎖が幾重にもかかっている。
頭には深い色の制帽。
長い髪は一部が鮮やかな色を帯びて背中に流れているけれど、可愛さよりも異質さが先に立つ。
表情は相変わらず硬く、口元は不満そうに結ばれている
敬語を使っているのに、距離を詰める気はまるで感じられない。
彼女は私を一瞥すると、すぐに眉をひそめた。
「……怪我はありませんか」
声は硬く、感情が表に出ていない。
「あ、たぶん……」
答え終わる前に、彼女は小さく息を吐いた。
「おばけの確認します」
そう言って彼女は化け物の方に体を向ける。
愛想がない。
それを隠そうともしていない。
すると、その直後、さっきまでそこにあった化け物が、音もなく崩れ始めた。
形を保てなくなった影が、黒い泥みたいに溶けて、地面に広がっていく。
彼女はそれを見ても、顔色ひとつ変えない。
「……消滅を確認。今回は到着が遅れてすいませんでした、」
そう言いながらも、謝罪の感情はほとんど感じられない。
「次は、もう少し早く来ます」
一瞬だけ、彼女が私を見る。
その目は鋭くて、どこか責めるようだった。
二人の間にシーンとした空気が流れる。
「あれー?もう終わってんじゃん。さすが、あいにゃんだねぇ」
背後から足音と飄々とした声が聞こえてくる。
振り向くと制服を着たレインが溶けかけの化け物を覗き込んでいた。
「レイン!?なんでいなかったの!?私、死ぬとこだったんだけど!」
「え?あーごめんごめん」
そう言うレインの表情は反省の色が全く見えない。
マフはジトーっとレインを睨む。
「ごめんって。今回は初仕事のついでに私の後輩紹介したかったの。」
そう言ってレインは先程の少女を指差す。
「紹介するよ。あいにゃんだよー」
"あいにゃん"と、紹介された少女はレインのことをキッと睨む。
「変なあだ名で紹介しないでもらっていいですか?私の名前はアイカです。」
「まぁまぁ」
どうやらあいにゃんはレインが勝手につけたあだ名らしい。
アイカはそのあだ名が気に食わないようだ。
「まぁまぁ。で、コイツはマフね。新人さん」
今度はレインはアイカに体を向けると、マフの方を指さす。
「よ、よろしくお願いします。」
マフはペコっと頭を下げた。
「…敬語はいいです。私の方が年下なので。」
アイカはプイッとそっぽを向く。
「ごめんねーちょっとツンデレちゃんなのよー。」
ヘラヘラと笑いながらレインはアイカの肩に腕を回す。
アイカは迷惑そうに「やめてください。」と呟いたが、レインはあまり気にせず、マフに問いかける。
「初仕事どーよ?楽しかったー?」
「…んなわけないじゃん…。てか、なんだったの!?あの化け物!」
マフが声を荒げると、レインは溶けきれずに残った黒い染みをちらっと見る。
「あー、あれね。通称“おばけ”」
「……おばけ?」
拍子抜けするような名前に、マフは眉をひそめる。
アイカも軍帽のつばを指で押さえたまま、ちらりとレインを見る。
「正式名称はもっと長くてめんどいんだけどさ。要するに――国が作った人工キメラ」
「は?」
レインは軽く肩をすくめた。
「国家機密の実験。人間と、別の生物を無理やりくっつけるやつ。性能は高いけど、だいたい制御できなくなって逃げ出すんだよねぇ」
その言い方は、まるで壊れやすい機械の話でもしているみたいだった。
「……それを、私たちが?」
「そ。表向きは“存在しないもの”だからさ。その後始末が本当の魔法少女のお仕事。お国も魔法少女の勧誘にはかなりガチなんだよねー。素質があるやつは逃がさないってね。」
マフは言葉を失った。
さっきまで自分を殺しかけていた存在が、誰かの都合で生まれ、誰にも知られず消されるものだなんて。
「……そんなの……」
「考えすぎるとやってらんないよ?」
レインはくるっと振り返って、いつもの飄々とした笑みを浮かべる。でもどこか寂しそうだ。
「だからさ、倒せたなら上出来。初仕事としては百点満点」
その横で、アイカは唇を噛み、視線を落としたまま何も言わなかった。
マフは、胸の奥に残るざらつきをうまく言葉にできないまま、もう一度、黒い染みの跡を見ていた。
(レインもアイカちゃんも…それでいいの?)
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