転校生とバレンタイン
今回は転校生と紗月にスポットライトを当てたお話です
転校生とバレンタイン
「今日は転校生を紹介する」
ある日の朝、朝日の差し込む教室で教卓の上で出席を書き終えた担任の先生が発する
「入れ」
すると教室のドアが開き、黄色みがかった髪にリボンの髪留めが特徴的な小柄な女子が入ってきた
そして俺はその子に見覚えがあった。
「あっちゃん!?」
驚く俺を気にせず彼女は自己紹介する
「今日から転校してきました。三月綾です」
「えーと三月は今年中国から帰国してきて
転校してきたそうだ」
そうあっちゃんこと綾は俺が小3の時、親の都合で外国に行ったのだ。中国だと言うのは知らなかったが。
「已经有一段时间了(久しぶりね)」
なんて言ったのかは分からなかったが中国語だろう
「にしても綾、久しぶりだな」
「はい!久しぶりに会えて嬉しいです」
「それに……やっと答えが言える」
綾が懐かしむように発した言葉の意味が俺には分からかった。
「と、とにかく今日の放課後、屋上に来てください!」
「お、おう」
そんな俺達の会話を紗月が偶然聞いていた事はまだ知る由もなかった。
ガチャン
俺は屋上の鉄扉を開ける
「来ましたね」
綾は待ってましたとばかりに屋上に居た
「で、来てくれってなんなんだ?」
俺はずっと思っていた疑問を投げかける
"問題を出したり"はしてないから"どこかの三女みたいに答えを伝えに来た"訳では無いだろうし
「あなたは私が転校する前日の事を覚えていますか?」
「えーとなんか言ったけ?」
「"綾の事が好きです"と」
「あぁそうだ。言った。綾は初恋の開いてだからな」
「「「「えぇぇぇ」」」」
その頃、屋上のドアが少し開いた隙間から四人が春馬と綾の会話を聞き、声にならない声を同時に出していた。
「その答えを言いに来たんです」
「おう」
「私は…春馬さんと結婚したいと思っています」
「は、ええっ」
俺は押し黙る
本当は初恋の相手なのだから良いと言いたい
だけど脳裏に四人が思い浮かぶ
瑠花の時もそうだった。
だけどなぜだかは分からない。
「やっぱりダメ、ですか?」
「え」
「春馬さんはやっぱりあの四人の事が…好きなんですか?」
「あ、いや…そう言うんじゃなくて」
ちなみに屋上のドアの前では四つ子が真っ赤に赤面していた
「自分にも分からないんだが……」
「良いです。切り替えました」
「は」
「私だって、春馬さんの初恋相手としてもう一回春馬さんを好きにさせてみせます」
「はぁぁ」
こうして俺の周りにはまた女子がふえてしまった
「快乐的?(うれしい?)」
綾が甘えるようにコチラを見ながら言ってくる
完全に"中国語でデレる綾さん"状態だ
こりゃ四つ子よりも大変な気がした
か
「何作ってるのよ?」
私、仲川花梨はキッチンで一人何かを作る紗月に聞いてみる
「チョコ」
「チョコ?」
「そう。もうすぐバレンタインでしょ。だから」
紗月の頰がほんのり赤くなる
「そう言うことね」
私は思わず納得してしまった
「そう言えばアンタ、お菓子とか作るのは何故か苦手よね」
「だから練習してる」
このあと私は紗月の試作チョコを何度も食べさせられる羽目になってしまった……。
「花梨が鼻血なんて珍しいな」
春馬が物珍しそうにこちらを見ている
「うっさいわね」
私は紗月の方に目をやる
紗月は申し訳なさそうに頭をペコペコと下げている
そんなこんなバレンタイン当日になった
「子供達だって、何を描くかより各過程が楽しいから絵を描いているとも言えるでしょ」
「確かにそうだな」
俺、上条春馬は紗月に国語を教えてもらっていた。
「じゃあ切もいいから今日は終わりにしようか」
「おう」
「上手い、おもしろいは次回の家庭教師で終わると思うから」
「分かった」
齋藤亜弥さんの上手い、おもしろいは学校の授業では終わったが、紗月との家庭教師だとゆっくり教えてくれるがゆえまだ終わってないのだ。
俺が教科書とノートを片付けていると、いつも筆箱などを入れているエコバッグを見て迷っている仕草をしている。
「こ、これ」
紗月が俺に差し出しているのはラッピングされた小さな箱だった。
「その、チョ…チョコ作ったから…だからその貰ってくれる」
「あぁ、ありがとな」
さっきまでの先生モードな紗月は何処へやら今は顔を耳まで真っ赤にした紗月がそこに居た。
「うん。じゃあ戻るね」
紗月は何処か嬉しそうな表情で部屋を出て行った
「で、春馬は今日バレンタインチョコ、どれくらい貰ったのよ?」
夕飯を食べ終えて一息していた俺に花梨が聞いてくる
「えーと、お前ら4人と瑠花、それに綾からも来たから……6つだな」
「多いわね」
「まぁ今までは瑠花からは貰ったことがあったけどそれだけだったからな」
今年のバレンタインは今までとは一味違う物になったなと改めて思った
まぁホワイトデーが大変そうだが……
バレンタインから数日が経った金曜日、俺達が住む街……と言うより日本のあちこちでゲリラ雷雨が発生した。
テレビを見ていると記録的短時間大雨情報がでている所もあるとか。
コンコン
外がゲリラ雷雨の真っ只中、寝ようと電気を消したタイミングで部屋の襖がノックされる。
「はい」
俺は襖を開ける
すると水色の寝間着でビクビクと体を震わせている紗月が居た
「雷が怖くて…その、一緒に寝てくれない?」
「お、おう…っては」
俺は部屋を見渡す
部屋には布団が一枚敷かれているだけだ
(一枚の布団に二人って事かよ)
そんな状況に意識しない方がおかしい。俺は鼓動を無視して紗月に部屋に入ってもらう
「お、俺は畳で寝るから紗月は布団使えよ」
「そ、それは…申し訳ないし…心細い」
ゴロゴロドッカン
雷が近くに落ちたらしく轟音と地響きがする
「きゃあ」
紗月はいつものクール感は何処へやら可愛い叫びと共に抱きついてくる
俺は諦めて紗月と同じ布団に入った
(寝れねぇ)
隣に感じる彼女の体温や動きに俺はドギマギしていた。その時紗月がこちらに向き直ると口を開けた。
「春馬って好きな人とか…居るの?」
「ふぁ、は、えーと」
俺は反応に困って黙る
頭には綾や瑠花そして四人の姿が思い浮かんでいた。綾に告白された時のように。
「居ねぇよ」
気付けば言っていた。
私、仲川紗月は春馬と同じ布団に入っていた。
雷は少しづつ落ち着いてきたのか雨音だけがしていた。
(どうしよう)
雷のあまりの怖さに一緒に寝てもらったが意識しすぎて寝れない。
(やっぱり私…春馬の事、好き)
この気持ちを今なら伝えられる気がした
今まで何回も伝えようと迷った。
だけど言えなかった。
でも…今なら
("もう迷わない!")
私は春馬に問いかける
「春馬って好きな人とか…居るの?」
「ふぁ、は、えーと」
春馬がしばらく黙る。
そして
「居ねぇよ」
春馬の返答が私には嬉しかった
私は春馬の方を向く
春馬の顔は目の前にある状況
私は布団から手を出して指先を春馬の鼻に当てる
「好き」
完全に本心だった。
鼓動が今までに無いくらい早い
私は布団から立ち上がる
「ちょ、ちょっと待っ…」
「結論は直ぐじゃなくて良いよ」
一呼吸する
「ただ気持ちを伝えたかっただけだから」
振り返りながら春馬に言う
襖を開ける
「雷収まったみたいだから戻るね」
「おう…」
バタン
襖が閉まる
その瞬間私はしゃがんで熱い顔を両手で顔を隠す
(い、言っちゃった)
羞恥心が襲ってくる
でも後悔は無かった
(でも…後悔はしてない。だって)
(迷わないって決めたから)
最後までお読み頂きありがとうございます
今回はついに紗月が告白し、転校生がまさかの幼馴染と言うもりもりな話になりました。そのため執筆に時間がかかってしまいすみません。次回は早めの更新を頑張ります




