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え、俺もデビュー?①

 そして配信終了後。


「うふふ。楽しかったね、たっくん。私、今までの配信で今日が一番生き生きしてたかも。それになんだかすっごく若返った気分♪」

「ああうん……それはまたなによりなことで……」


 そりゃあんだけ好き放題ハッチャければそっちはそうだろうけど、俺としては終始ヒヤヒヤもんだったんですが……。

 やたらとツヤツヤした母さんの隣で項垂れる俺。

 その表情は誰が見てもあきらかなほど対照的だった。


「…………」


 それにしても、まさか母さんにこんな一面があったなんて。てっきり自分を抑え込んでいるのは俺の方だけだとばかり思っていたのに……。

 正直途中からマジで荒れ狂う暴風雨にシェイクされてるみたいだった。あまりに激しすぎてところどころ記憶が欠落している。

 わからない……俺はさっきまでいったい何をしていたのだろう……? もしやあれは全部夢だったんじゃないだろうか……?


 とまあ、そんな現実逃避はさておき。


「……まあでも、なんだかんだ例の炎上騒ぎが鎮火したのはせめてもの救いか」



 そこだけはホントにそう思う。

 果たしてあれが謝罪として成立していたのかは甚だ疑問しかないが、とにかく何事も大事なのは結果だ。

 なんやかんやいろいろあったが、最終的には視聴者のみんなも最初から炎上なんてなかったかのように盛り上がってたし。

 そういう意味では、今回はまーたん……もとい母さんが暴走してくれてよかったのかも。

 だってほら、あれだけ「ビッチ」だの「裏切り者」だのと散々荒れ放題だったSNSだって、今じゃすっかりこんなにも浄化され――。




『まーたん 覚醒』

『まーたん 母性爆発』

『まーたん おっぱいチュパチュパ』




 ……うん、なにこれ?(呆れ)


 俺はスマホでトレンドをチェックしながら白目をむいた。

 そして我に返って荒ぶる。


「いやなんだこれマジで! おかしいだろ!」


 まあ百歩譲って「覚醒」と「母性爆発」は俺もギリわかるよ!(わからんけど)

 問題なのはその下だよ! なんだよ「おっぱいチュパチュパ」て!

 おいおい、こんなんがトレンドに入るって本当に大丈夫かこの国……?

 こんなんもしまかり間違って海外の人が意味調べちゃったりとかしたら「ニッポン終わっとる」……ってなるだろ絶対!

 ……いやでも、意外とちょいちょい見かける日本すげぇスレみたいに「hahaha! やっぱりジャパンは相変わらずクレイジーな国だぜ! うっひょう!」的なノリで受け入れてくれたりするんだろうか?

 それはそれでなんかイヤだな……クレイジーなのは1ミリも否定できんけど。


「やったねたっくん! ほら見て、ママトレンド1位だって! 思わずスクショしちゃった!」

「いや呑気か!」


 ……やれやれ、配信終わってもこのテンションなのか母さん。

 もはや隠す気ゼロじゃねーか。もしかしてだけど、このままずっとこの調子でいくつもりなのか……?

 だとしたらちょっとどころじゃなく気が重いんだが。俺の平和な生活が……。


「……はぁ、なんかどっと疲れた」


 ま、でもいいさ。さっきも言ったとおり目的は達成したんだ。

 さすがにまだ完ぺきに安心するとなると気が早いかもしれんけど、少なくともこの様子なら「引退しろ」だのなんだの騒ぐ連中はもういないだろう。

 なんなら案外このままなんのアクションもせずほとぼりが冷めるのを待っているだけで、しれっと次回の配信を通常どおりやっても誰も文句を言ってこない気もする。


 つーわけで、今回の炎上騒ぎはひとまず一件落着。

 ホッとしたらなんかお腹も減ってきたし、あとはメシ食って風呂入って今日はぐっすり寝よう。


 ――と、思っていたのだが。


「あ、達也さん。この度は本当にありがとうございました」


 配信終了直後から廊下に消えていた玉森さんが戻ってくる。

 その手にはスマホが握られていた。


「ああいえ、これについては言い出しっぺは自分ですし、俺がやりたくてやったことなので」

「ですが実際に会社としても助かったのは事実です。私も花咲ママミのマネージャーとしてホッとしました」

「そうですね……俺もです」

「ところで、そんなお疲れのところすごく申し訳ないのですが、少しだけお時間をいただいてもよろしいですか?」

「え? 今ですか?」

「はい」

「あー……」


 はて? なんだろう?

 とりあえず俺の出番はもう終わったはずだけど……。


「ご心配なく。それほどお時間を取らせる気はございませんので」

「そうですか……ならまあ。えっと、なんでしょう?」

「ありがとうございます。実はですね、今しがたお二人の配信をチェックしていたうちの社長から電話がありまして」

「え、社長?」

「はい、どうしても達也さんにお伝えしたいことがあると」

「え、俺に……?」


 母さんに、じゃなくて?

 ……え、マジでなんだろう?

 もしかしてだけど、怒ってる……とかじゃないよな?

 うわぁ、けどあり得るか。ケッコーいろいろ危ない橋渡っちゃったしなぁ。

 さすがに公的な書類をモザイクありとはいえ配信にのせたのはマズかったとか……いやでも、一応その辺のことはちゃんと玉森さんには事前に確認したはずなんだけど。

 ……う~ん、わからん。とにかく聞くっきゃないか。


「え~っと……いったいなんでしょう?」

「そうですね。まあ単刀直入に言いますと……」


 ……言いますと?


「『うちでぜひVTuberとしてデビューしないか?』……とのことでした。まあ俗に言う、スカウトというヤツですね」

「へぇ~」


 あーなるほど、スカウトね。はいはい、そういう感じの方向性か。

 な~んだ、ビビって損しちゃった――。


「……って」


 はぃいいいいいいい!!!?



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