謝罪配信……と言う名の終わりの始まり④
「ところでたっくん。せっかくだしこの際だから呼び方も変えてみない?」
「は? 呼び方?」
「うん。お母さんって呼ばれるのも好きだけど、それ以上にもっとたっくんとの距離を縮めたいなって。どう?」
「まあ、別にいいっちゃいいけど……」
正直今さら急に呼び方を変えるってのも若干の抵抗があるんだけど……。
でもいつまでもおっぱいおっぱい言ってるわけにもいかないし、それにうまくいけば話題を逸らしてウヤムヤにできるかも。
よし、とりあえずここは乗っかっておくか。
「で、変えるってどんな風に?」
「うん。お母さん的にはシンプルに“ママ”がベストかなって」
「ねーよ」
ねーよ(大事なことなので2回ry
「えーなんで?」
「なんでもクソもないよ! このトシで急にママ!? 俺もう17歳なのに!? 違和感がすごいよ!!」
「そう? ママは気にならないよ?」
「俺が気になるんだよ! てかさらっともう自分で呼んでるし! ちょっ、マジでダメだから! フツーにムリムリ!」
「でもこの方が“お母さん”より親しみやすい感じがあるし、たっくんも今までよりグッと甘えやすくなるんじゃない?」
「いやならんでしょ……よしんばなったとしてもダメだろ。健全な男子高校生が母親をママ呼びしながら甘えるのは完全にアウトだって。だいたいママなんてもっと小さいときの呼び方でしょ。なんでここに来て退化しなきゃいけないんだよ……」
「そうかしら? 考えようによってはこれを進化と呼ぶこともできるんじゃない?」
「どんな進化!? そんな進化あったら絶対Bボタン連打するわ!」
【コメント】
:草
:草
:まーたんのレベルが高すぎるww
:ギャ〇ドス→コイ〇ングルート
:これは進化キャンセル不可避
:たっくん指壊れそうw
:でも俺はまーたんの理論も一理あると思った
:わかる。おっさんになってくるとどっかのタイミングでたまらなくバブみが欲しくなる瞬間あるしな
:そこでちゃんとオギャれるかどうかが人生の分かれ目だよな
「あ、ほら見て見て。コメントでもわかるって言ってる人いるよ」
「いやそれ一部の特殊な人たちだから! 俺とは住む世界の違う選ばれし者たちだから!」
「でも、たっくんもその人たちと同じく私のファンだったんだよね?」
「うっ……」
「それに知ってるでしょ? うちのチャンネルの視聴者さんにはたっくんよりもっと年上の人もいっぱいいるけど、でもみんなASMRのときとかママ~って呼んでるよ?」
【コメント】
:たしかに
:ならアリか
:これは説得力ある
:ママぁ……
ちょ、なにこれ。なんでみんなそっち側に流れはじめてんの?
いやたしかに俺も心当たりあるけど……。
「ほらね? そう考えると全然恥ずかしくないでしょ? むしろこれはとっても自然なことなの。だから私を信じて、ママって呼んでごらん? きっと気持ちよくなれるから」
「気持ちよく……」
すごい、声が推しだからかホントにそんな気がしてくる……。
……ってダメだダメだ! 流されるな俺! 自我を保て! 心を強くもつんだ!
「い、いやいや! それとこれとは別だから! とにかく無理なもんは無理だって! マジで絶対ムリ! 死んでもムリ!!」
「うーもうちょっとだと思ったのに……というかそんなに強く否定しなくてもいいのに。……ああ、でもなんだかうれしいかも。これが反抗期というものなのね……ママ、今とっても幸せな気分」
「こんなやり取りで!?」
というかこれを反抗期と言われるのなんか癪なんだけど!?
俺的にはさっきから常識に基づいた意見しかしゃべってないつもりなんだが!?
「というわけで、はいどうぞ。じゃあ私が3,2,1って言うから、その後に――」
「ちょっなに無理やり進めようとしてんの! だから呼ばないってば!」
なおも諦めない母さんに決死の抵抗を試みる俺。
だが、そこでこれまで攻勢に出ていた母さんが急に肩を落とす。
「……そっか、そうだよね。こんなの気持ち悪いよね。ごめんね、無茶なこと言って。お母さん、うれしくてつい調子に乗っちゃった……」
「!?」
え、えぇ~……。
いや、そんないきなりシュンとされるとそれはそれで逆に困るんですけど。
「たっくん……私のこと嫌いになっちゃった?」
「あ……いや……」
【コメント】
:あー泣かせた
:まーたんかわいそう
:たっくんさぁ……
:これはよくないですよ
「えぇ……」
おいおいウソだろ? なんかどんどん俺が悪者的な空気になってるんですが……。
え、なにこれ? マジで俺のせいなの? 俺が悪いの?
「…………」
ぐ、ぐぬぬ……。
「……だーくそ、わかったよ! こうなったらやったらぁ! 呼べばいいんでしょ、呼べば!」
「え、いいのたっくん!? やったー!」
母さんの顔がパアッと明るくなる。
くっ、こんなん卑怯すぎるだろ。
「それじゃあいくよー。3,2,1……はい!」
「………………ま、ママ」
ぐああああ……!!!
なんだこれ超恥ずかしい! 死にそう!!!
「きゃあああああうれしい! どうしようたっくん! ママ、今人生で一番うれしいかも! うぅ……ダメ、こんなのもう我慢できない!!!」
興奮した様子で抱きついてくる母さん。
そしてあろうことか唇を突き出してくる。
「はいたっくん……んー」
「ちょおおお! ストップ! 待て待てそれはダメだろ! それはさすがにライン越えだから! いやもう今更っちゃ今更だけど!」
「えーならいいじゃない。あ、大丈夫よ。ちゃんとほっぺにするから……お口については、ちゃーんと夜のお楽しみに取っておくから♡」
「いやお楽しみって何!? 全然望んでないんですけど!?」
ちくしょおおおおもうダメだこの配信!
終わりだ終わり! もうなにもかも終わりです! 閉廷!!
かくして、まーたん謝罪配信は無事(?)に終了した。