グッズを作ろう①
「はぁ……“グッズ”かぁ」
とある休日の昼下がり。
俺は自室の椅子にもたれかかりながら思わずため息を吐いた。
それは先日のジローさんとの料理勝負配信後のこと。
「あ、そうだ達也さん。実はさっき言いそびれてしまったのですが」
「はい? なんですか玉森さん?」
スタジオから帰る直前、ふと思いついたように玉森さんが俺を呼び止める。
そしてこう言った。
「近々ですね、達也さんのグッズを出しませんか?」
「え、グッズ!? 俺の!?」
「ええ。達也さんもデビューしてもうそろそろ半年ですし、ここらでVTuber花咲ベイビとしての初グッズを出してもいい頃合いかと」
「はぁ……」
「というわけで、詳細はまた後日改めてご連絡しますがそのつもりでいてください。ちなみにグッズを出すにあたって『まずはタレント自身が作りたいものを作る』がうちの方針ですので、その点達也さんの中でこんなの出したいな~というのをざっくりでもいいので考えておいてもらえると助かります」
「あ、はい。了解です……」
……とまあこんなやり取りがあったわけである。
で、それが冒頭のため息の理由。
率直に言うと、この話を聞いた瞬間の俺の心境は「マジかよ……」だった。
嬉しさのあまり言葉を失ったとかではなく、ただ純粋な驚きとして。
無論、グッズを出すこと自体はさほど珍しい話ではない。むしろ普通。
ある種のアイドル稼業でもあるVTuberにとって、グッズとはタレントとファンをつなぐ大事なコンテンツのひとつだ。
昨今は誕生日や活動の周年に記念グッズの販売もお決まりとなり、どこの事務所とて当たり前にやっている。
そして今やデビューからそれなりの日数が経ち、一VTuberとして徐々にその地位を確立しつつある俺がグッズを出すとしても決しておかしくはない。
おかしくないのだが……。
「……と言っても、いったいどんなのを出せばいいのやら」
アイディアを出しといてとは言われたが、正直初めてのことだけに勝手がよくわからない。
案を練るにしても、そのための取っ掛かりがないというか……。
「やっぱアレかな? こういうときは既存のアイテムを参考にするのが手っ取り早いか……?」
そう思って俺はチラリと棚に目を移した。
そこに飾ってあるのは他ならぬ俺の推しである花咲ママミ――まーたん(母)のグッズたち。
今となっては自分の親と判明してしまったので最近は控えているが、かつては俺もどっぷりと沼に浸かった“ママっ子”(まーたんのファンの総称)だったのでよく小遣いをはたいてはグッズを買い漁っていた。
「Tシャツにタオル、あとはアクリルスタンドにキーホルダーに缶バッジ。この辺はまあ王道だよな……おお、そういえば湯呑なんかもあったなあ。これなんてケッコーおもしろいよな。マグカップとかならたまに聞くけど、湯吞となるとそこそこ珍しいうえにお茶屋っていう母さんの設定もちゃんと活きてるし。しかも普段使いもできて実用的」
ま、と言っても残念なことに一回も使ってないんですけどね……もったいなくて。
何を隠そう、俺はフィギュアを箱から出さずに飾るタイプの人間なのだ。
「う~ん、やっぱせっかく出すなら俺もこういう変わり種の一つや二つ作りたいよなぁ」
とはいえじゃあどんなのを……と考えるとやっぱり思い浮かばない。
ああ、嘆かわしきかな己の発想力……。
「……仕方ない。ここはやはり経験者に聞くのが早いか」
経験者――もちろん母さんである。
というわけで俺は早速台所へと向かった。
すると洗い物をしていた母さんから返ってきたのはこんな答え。
「そうねぇ。それならいっそのことバブ友のみんなに直接どんなのが欲しいか聞いてみたら?」
「え、それって配信でってこと?」
「うん。悩んでるならそれが手っ取り早いんじゃないかなって」
「けどこういうのって基本はサプライズじゃない? 記念配信とかの終わりの方で発表して、それでファンの人たちもワーって喜んで……」
「一般的にはそうね。でも事前に候補を募るくらいなら雑談とかでもよくあることだし、べつにダメってこともないんじゃないかしら。なんだったら配信ではコレって一つに絞るんじゃなくて何個か候補を挙げるまでにとどめておけば、いざ正式に発表するまで『最終的にたっくんはどれを選んだんだろ?』ってワクワク感も保てるし」
「おーなるほど」
それはたしかにそうかも。
さすが母さん、ナイス機転だ。やはり何年もVの先輩だけあって頼りになる。相談してよかった。
よし、そうと決まれば……。
「――え~、とまあそういうわけで散々悩んだ割にたいしたアイディアも思い浮かばなかったので助け舟を求めに来たというわけでして……」
【コメント】
:なるほど
:ついにたっくんもグッズを出すのかぁ(しみじみ)
:なんか感慨深いね
「ですね~。まさか自分がVTuberになってグッズなんて出す日が来るとは思いませんでした」
「それもこれもみんなのおかげね」
「そこに関してはホントにね」
隣でにこやかに頷く母さんに同意する。
今日も今日とて俺の配信は親子同伴。この時代にここまで母親と時間を共有する息子がいるだろうか、いやいない(反語)。
「なのでせっかくなら心から喜ばれるものを作りたいな……ってことで今日はぜひみなさんのお知恵を拝借できればと思った次第です。まあ自分的には若干情けない話ではあるんですが……」
【コメント】
:いやいやそんなことないよ
:むしろ相談してくれてうれしい
:そーそー
:まあ任せろバブ。こちとらまーたんのときからグッズ買いまくってるバブからな
:俺の知恵でよければ振り絞りまくるよ!さながらボロ雑巾のごとく!
「ありがとうございます! そう言ってもらえるとマジで助かります! ちなみにできれば雑巾は新品でお願いします! ――んじゃ早速なんですけどどうですかね? みなさん的には率直にどういうグッズがほしいですか? なにかあります?」
【コメント】
:はい!キーホルダーがほしいです!
:アクスタ
:タペストリー
:やっぱTシャツでは?いつかイベントやるときとかに着たいし
:抱き枕!たっくんと添い寝したい!
「あーなるほど。でも抱き枕って僕の場合どうなんですかね? 等身大で普通のクッションくらいのサイズになりそうですけど……」
【コメント】
:たしかにw
:草
:一般的なサイズで作ったら余白過ごそう
:いっそまーたんとセットとかは?
:まさかの親子丼方式w
「あ、それいいかも! そしたらママも両サイドからたっくんを挟み込んで両耳ASMRごっこできるし!」
「いやなんだそのごっこ……てかママも買うつもりなんかい」
「うふふ、当たり前じゃない。たっくんのグッズはこの先出すたびに全種コンプする気満々だもの。お部屋いっぱいのたっくん……あー楽しみだなぁ」
「えぇ……。同じ家に本人いるのに……?」
「それとこれとは別」
「あ、そっすか。う~んでもあれですね……今出してくれた案のやつは自分も作ろうかなと思ってて、ただそれとは別にやっぱりもうちょい変わり種のやつとかもほしいな~って考えてるんですけどその辺りはどうですかね?」
【コメント】
:他のVが出してなさそうなやつってこと?
:はいはいはい……なるほどね
:変わり種か・・・
:あ、じゃあTシャツはTシャツでもめっちゃ奇抜なデザインにするとかは??
「奇抜なデザイン……と言いますとどんな?」
【コメント】
:胸にいつぞやのたっくんの戸籍謄本をプリントする
「はいアウトー! はい却下ー! いやなんだそれ奇抜ってレベルじゃないだろ!!」
【コメント】
:斬新すぎるwww
:ガチの前代未聞で草
:それもう奇抜通り越して奇行だろww
:でもガチでやったらVの歴史に名を残せそう
:VTuberなんだがTシャツに個人情報のせたら伝説になってた
「いやいやいや伝説にはなるでしょうけども! 同時に失う物の方がデカすぎますて!!」
「そうねぇ……たしかにそれだとみんなにとっては新鮮でも、私にとってはよく知る当たり前の情報だから目新しさを感じないものね」
「そういう問題か!? あのわかってますかママミさん!? 俺のってことはほぼ自分の個人情報でもあるんですよ!?」
【コメント】
:wwwww
:呑気で草
:視点がおかしいww
:さすがまーたん
……ふぅ、やれやれ。母さんの天然っぷりにも困ったもんだ。
しかしまあ奇抜なデザインのTシャツ自体はおもしろくはあるけど……一応候補に入れとくか。
「あ、そうだ。ところで若干本筋からは逸れるんですが、みなさんこういうグッズのTシャツってどうしてます? ふと気になったんですけど……。正直外に着てくにはデザイン的にちょい恥ずかしいと思いますし、やっぱ部屋着とかですかね? それとも着ないで飾ってるだけって可能性も全然あると思うんですけども」
【コメント】
:せやね
:寝るときにパジャマ代わりにしてる
:シワになるのが嫌だから着ない
:俺ももったいなくてムリ派
:まあフツーはあんま着ないわな
:うん、着ないね。ライブとかイベントは別だけど
:でもたまに外でも堂々と着てる強者いるよなw
:たまにコテコテのアニメキャラのTシャツ着てる外国人とかいてビビるww
:あと秋葉原なら今でも多少はいたような??
「ふんふん……まあだいたい着ない派がやや優勢って感じですかね。まあかくいう俺もまーたんのTシャツ何着かあるんですけど、着ないでずっと押し入れの中に閉じ込めてましたしね」
「えーなんでなんで? もっとどしどし着て家の中を闊歩してくれてもよかったのに」
「いや無理でしょ、家とか特に。フツーに恥ずかしすぎるって。今だからこそ正体を知ったからあれだけど、当時はまーたんが自分の母親だなんてこれっぽっちも思ってなかったし」
なにせ当時の俺はマジメな優等生キャラを通してたしな。
さて、それはそうとして話を戻すか。
「てわけで、ここからはなるべく自由な発想でおもしろめのアイディアを考えていきたいな~と思いますので、引き続きどんどんコメントお願いします!」
「は~い」
【コメント】
:は~い
:は~い
:は~い
再度グッズ検討開始。
今度は俺の要望を踏まえた上で、リスナーさんたちがさらに様々な案を出してくれる。
もちろん俺や母さんもただ黙って見てるだけじゃなく、いっしょになって頭を捻りながらアイディアを振り絞る。
……だが。
「う~ん……」
話し合うこと約30分。
それでもやはりアイディアは出ず。
「なかなか難しいわね。自分のときは意外とスッと浮かんだんだけど……」
「ケッコーおもしろそうな案は出るんだけどね。ただ、なかなか『これだ!』というところまでは行かないというか……」
「ママがいつぞや撮ったたっくんのティンの写真を複製するって案はちょっとピンと来たんだけどね」
「それは絶対にない。……つーかティンやめて! なに急にいやらしい! せめて股間って言ってよ!」
「ピンと来たにかけてみました」
【コメント】
:wwww
:ティン・・・草
:言い得て妙
:ティンとピン
:うまい!
:一見オブラートに包めてるようであまり包めてないw
:なおたっくんのティンはバッチリ包まれてるのでセーフ
……などというひと笑いは起きるも状況自体は依然として変わらず。
どことなく配信全体に漂い始めた煮詰まった空気に、俺の中にも焦りが生まれてくる。
マズいな。このままだとただ時間が過ぎていくばかりだ。
なにか……なにかないか? 感覚的にはあと一歩、何か一つでも画期的な案が出ればそれをきっかけにこの状況を打破できる気がしてるんだけど……。
――と、まさにそんなときだった。
【コメント】
(皇アラン)おしゃぶり
「……!?」
思わぬ人物が思わぬアイディアを引っ提げてやってきた。
次回は8/8(金)の更新予定です!




