アッー!な先輩と料理対決③
「料理勝負……ですか?」
「そう。お互いテーマに沿って料理を作って美味しかった方の勝ち。判定はベイビ君にしてもらおう。そして僕が勝ったらママミ君はベイビ君の来訪を止めないこと」
「……では私が勝った場合は?」
「当然、僕の家でのコラボの件はなし。あとそれだけだとウマみがないだろうから、ママミ君も一日中ベイビ君を好きにしていい権利を得られる――ってのはどうだい?」
「乗りましょう」
「うぉおおいちょっと待ったぁ!!!」
あまりにも流れるように成立したジローさんと母さんの交渉にストップをかける俺。
これが配信中なら今頃「判断が早い!」のコメントで埋め尽くされていただろう。
「ちょちょちょっ、なに勝手に決めてるんですかジローさん!? なんすか俺を好きにできる権利って!? そんなん全然聞いてないんですけど!? なんか二人して当たり前みたいに『取引成立!』って感じでガッシリ握手してますけども!!!」
「まあまあベイビ君。勝負事にご褒美は付きものだろう?」
「そうよたっくん。これも配信を盛り上げるためと思って」
「いやだからその褒美の対象である俺の意思確認がまだ済んでないよってハナシなんですが……え、てゆーか配信ってなに? これ配信するんですか?」
「もちろんだとも。VTuberたるもの、いついかなるときもネタになりそうなものはなんでも配信すべしってね」
「マジっすか……」
そりゃたしかにそうかもしれませんけど……。
でもそれにしたっていくらなんでも急すぎません? よく突発コラボとか言うけどこの部屋に母さんが来てからまだ数分と経ってないのにこんなスピード感でコラボ成立って……。
……なるほど、これこそがトップレベルのVTuberたちの実力ってわけか(誤解)。
と、そんな風に俺が謎にゴクリと唾を飲みながら戦慄していると――。
「ちなみに場所についてはこちらでご用意させていただきますのでご心配なく」
そう言いつつ登場したのは玉森さん。
いつの間にか入り口付近に立っていた。
「玉森さん!? い、いつの間に……!?」
「今しがたです。ジローさんから配信に使いたいからスタジオの貸し出しを延長したいと連絡がありましてその返事に。連絡を受けたのは別のスタッフですが、流れ的にたぶん達也さん絡みかなと思いまして私が来ました」
「あーなるほど……それはなんとも察しがいいと言うか」
「あはは、どうもです玉森さん。すいませんね急なお願いをしてしまって」
「いいえジローさん。これもタレントを支えるスタッフの務めですから。ああ、それと勝負にあたってある程度の食材の手配もしておきましたのでどうぞご自由にお使いください」
「おお、まさかそこまでしていただいているとは。重ね重ねありがとうございます」
「さすがハルちゃん!」
「いえいえ」
う~む、繰り返しになるがさすが敏腕マネージャー。そこまで準備済みとは。
やはりいざ仕事モードとなった玉森さんは普段とまるで別人だな。右手を添えた眼鏡のフチも見事にキラリと光っておられる。
「それにちょうど時間帯的にも晩ゴハン時ですしね。これで今夜は帰りにスーパーの割引総菜を漁らなくて済みます」
「と思ったらケッコー私利私欲入ってたっ! ちゃっかり腹ごしらえの算段立ててるこの人! さては余ったヤツを自分も食べる気だよっ!!」
「当然です。ジローさんも仁恵さんも料理上手ですから。このチャンスを逃す手はありません」
やれやれ、ちょっと脳内で褒めたと思ったらこれか……まあ別にいいんですけどね。たしかにこの二人の料理を一度に味わえる機会なんて稀だしな。
なんなら俺自身もここまで割と反対のノリでツッコんできたが、冷静に考えたら「あれ?これって別にそこまで悪い状況ではないのでは?」なんて思えてきた。
自分を景品にされている事実はさておき、やること自体はメシ食ってどっちがウマいか判定するだけとラクチンだし。
なによりジローさんと母さん、どちらが勝つか単純に興味もある。
であれば――。
「はい、というわけでね。本日はジロー‘sキッチンの番外編と言うことで急きょママミ君との料理対決コラボと相成りました。みんなこんばんは、そしてよろしくー」
「みなさんこんママー。Vランド3期生の花咲ママミです。今日はいきなりだけどお邪魔してまーす」
【コメント】
:こんばんはー
:おーーー!!
:2期VS 3期の仁義なき戦い
:これは楽しみな勝負!!!
:まーたんも料理の腕は確かだからなぁ
:ついに最強のチャレンジャーがきたか・・
:事実上のVランド内料理王決定戦!
配信明け早々、画面中央に並び立つジローさんと母さんにコメント欄が沸き立つ。
元板前であるジローさんはもちろん、母さんは母さんでこれまで俺のいない休日の昼間などに「今日のランチ」などと料理配信をやってきた実績がある。
ゆえにその実力はすでにリスナーも知るところ。
このボルテージの高さはそのまま期待感の高さの表れだ。
ちなみに今回の勝負だが、さすがに扱うのが料理だけあって実写での配信となる。
とはいえそこはVTuber。映すのはあくまで手元のみで、顔出しは厳禁。
あとは進行具合によって両者の画面を同時に映したり、注目したい方を交互に切り替えたり……という配信スタイルでお送りする。
「さて、それじゃあまずは勝負内容の説明をしようか。お互い作るのは一品物。制限時間は45分で、出来上がった料理を審査員のベイビ君に食べてもらって勝敗を決める形だよ。ここまででなにか質問はあるかな?」
【コメント】
:ジローさんの好きな男性のタイプはどんなですか?
「年下でカワイらしい男の子かな……それこそ赤ちゃんみたいな、ね♪」
「いきなり全然関係ない質問キタ! そしてなんですかジローさんそのウィンクは! やめてくださいコワいです!」
【コメント】
:草
:あっ(察し)
:たっくん狙われて草
:ジローさん「ターゲット……ロックオン!」
:子どももいけちゃうジローさんステキ///(ポッ)
:ヤバイ、逃げてたっくん!!
「そうですやめてください次郎先輩! たっくんの貞操は余すところなくママがもらい受けるって決めてるんです!」
「こっちはこっちで何を言っている!?」
【コメント】
:今日の下着は何色ですか?
「色? 色かぁ……ちょっと答えづらいな」
「え、そうなんですか? こう言っちゃなんですけどジローさんならそれくらいパッと答えそうなイメージですけど」
よかった、ジローさんでも一応恥ずかしいとかそういう感情はあるんだな。
少し安心したぞ。
「いや、そうじゃなくてそもそもノーパンだから何て回答したものかってね。あえて言うなら無色透明?」
「あーなるほど……ってノーパン!? なぜ!? さっき一回服着替えてたはずでは!?」
俺が控室に挨拶に行って全裸だったときのことだ。
あのときあえて履かなかったってこと!?
「その他の服はね。でもパンツに関しては家から履いてこなかったから。着替えようにもモノがないんじゃどうしようもないさ。……どうだい? 興奮したかな?」
「しませんよ! むしろドン引きなんですが!?」
【コメント】
:wwww
:さも当然のようにノーパンw
:まあ次郎さんなら平常運転か
:着替えようにもモノがないんじゃどうしようもないさ ←努力はしようとしたみたいな言い回しなのちょっと草
:ギリギリ法律的にアウトじゃないのが憎らしい
「ちなみに今日のママはピンクよ、たっくん」
「私は黒です」
「いやこっちもこっちでいいから! なんですかそんな立て続けに!」
「さ、次はたっくんの番よ。え、恥ずかしくて答えたくない? しょうがないな~。じゃあママが代わりに答えてあげるから今すぐトイレに行って確認してきましょ――」
「行かんわ! そして答える気もないわ!」
【コメント】
:え~~~!
:そんな・・・
:ちぇっ
:たっくんはどうせオムツでしょ
「違うわ! なにがどうせなんですか失礼な! ちゃんと大人のボクサーパンツだっつの! ……あ、答えちゃった。うおおおクソがぁあ!!」
【コメント】
:wwwwww
:まんまとw
:これには孔明もニッコリ
:たっくんw
:てかなにげにハルちゃんが黒なの興奮する
:それな
「今日は攻めてみました。ちなみにスケスケのレースです」
「いやだからそこまで答えんでいいですって! どんだけサービス精神旺盛なんですか!」
「なにせここはVランドですから。その社員たるもの、これくらいは当然です」
「無駄に潔い! なんだこの人!」
【コメント】
:かっけぇ
:さすがです!
:方向性はともかく関係者のやる気だけはものすごいんだよなこの会社・・
「つーかなんなんですかこの唐突な下着暴露大会は!? そもそもさっきから質問の方向性からしておかしいし! 料理に関しての話じゃないの!?」
【コメント】
:今日の勝負って作る料理のテーマとかあるんですか?
「ああ、ようやくマトモなのが……」
「テーマかぁ。たしかに全然違う料理だと審査しにくいし決めるのもアリかもね。ママミ君はどう思う?」
「いいんじゃないでしょうか? 作る側もメニューを考えやすいですし」
「うん、じゃあそうしよう。となると、あとはどんなものにするかだけど……」
そう言ってジローさんがおもむろに周囲を見渡す。
そしてチラリと俺と目が合う。
「……よし、テーマは“ミルク”でいこう」
「あのすいません。気のせいじゃなければ今俺のこと見て決めませんでした?」
赤子だけにミルク好きだろってか!?
ちょっと! さっきのオムツといい、俺が赤ちゃんなのはVとしてだけなんですけど!?
ともあれこうしてテーマも決定。
いよいよ仁義なき調理バトルが始まる。
シレッと配信に混ざってる玉森さんの説明は次回で!
てなわけで次の更新は7/25(金)の予定です




