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謝罪配信……と言う名の終わりの始まり②

「えー……どうも皆さんはじめまして。花咲ママミの息子です」


 やや震える声で話し始める。

 覚悟は決めたとはいえ、さすがに配信で話すなんて初めての経験なのでやたらと心臓がバクバクしている。


 でもってこれが二人にした俺の提案の中身。

 今回の謝罪配信におけるメインスピーカーは母さんじゃなく、俺。

 なぜそうしたかは……まあすぐにわかる。


「あの、まずは改めて、この度は僕がうっかり配信の邪魔をしてしまったことで皆さんを驚かせたり、いろいろ不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」


 まずは深々と頭を下げる。

 母さんと違ってモデルのない俺は立ち絵すらない声だけの存在だが、それでも謝りたい気持ちは本心だったので自然と身体が動いていた。


「その上で例の噂の件ですが……え~結論から言いますと、それについては事実です。今も言ったとおり、僕は花咲ママミの息子にあたります」


【コメント】

 :マジか……

 :あー

 :息子。。。

 :あーあ、これで正式に旦那&子持ち確定か

 :やっぱりか……

 :はぁ、終わりやね

 :ごめん普通に涙でてきた

 :覚悟はしてたけどやっぱツラぇわ……

 :ワンチャン親戚の子どもとか言ってた奴www俺です

 :【悲報】ユニコーン、ショック死

 :ちょっと首吊ってきますね……


 ……うん、そりゃまあさすがにそうなるよな。

 まさかの炎上の原因となったご本人登場……そして疑惑が真実へと昇華したことであからさまに落胆の色が見えるコメント欄。

 コメントの流れる速度も尋常じゃないくらい加速している。


 でも、これ自体はもちろん想定どおり。

 問題はあくまでここから。


「……ですがその一方で、恐らく今の皆さんの中には若干の誤解もあるかと思ってます。今日はそのことをお伝えしたくてきました」


【コメント】

 :????

 :誤解?

 :若干とは?

 :まだなにかあるんか……?

 :まさか子どもは一人じゃありませんとか?

 :旦那も配信者やってるとか

 :もしくは有名人?

 :バツイチ?

 :実はバ美肉でパパでしたとかだったらさすがに吐く


 様々な憶測が流れる。だが、どれも違う。

 俺はスゥーと息を吸うと、ゆっくりとその事実を告げた。


「それは花咲ママミが僕の母親であって、でも本当の母親ではない……ということです」


【コメント】

 :え?

 :どゆこと??

 :本当の母親じゃない?

 :ん?ってことはもしかして……

 :まさか養子……ってこと?


「はい……まさにその通りです。たしかに戸籍上は子どもということになっていますが、母さんと僕に血のつながりはありません」


 ……そう、これこそが俺と母さんのもう一つの特殊な関係。

 俺は母さんの養子であり、実の息子ではない。


 ちなみにこのことは友だちにも近所の人たちにも誰にも言ってない秘密。知ってるのはせいぜい役所と学校内の一部の関係者のみ。

 隠していた理由は言わずもがな、周囲に色眼鏡で見られたくなかったからだ。

 そしてだからこそ打ち明けるなら他の誰でもなくせめて自分で……と思った。


「実は僕が幼い頃に両親が事故で他界し、本当の母の友人だった母さんが僕を引き取ってくれたんです。なのでネットで噂になっていたような事実は一切なくて、母さんは僕を生んでもいませんし、もちろん結婚もしてません……未婚です」


【コメント】

 :ええええええええ

 :マジか!!!

 :未婚の母!?

 :いやそれもちょい違くね?

 :結婚もしてなくて生んでもなくて……ってことはなんだ? どういう扱い?

 :わかんねぇ……てかいろいろ情報量多すぎんだろ

 :……とりあえずユニコーンは生存?

 :俺たちのまーたんは健在だった??


 戸惑いながらも事実を認識し始めてやや温度の下がっていくコメント。

 けれどその一方で。


【コメント】

 :いやでも、そんなんどうとでも言えるくね?

 :そうそう

 :なんか証拠とかないの?


 証拠……か。

 まあやっぱりそうくるよな。やっぱり用意しといてよかった。


「そうですね。証拠については“コレ”を見てもらえればと思います……お願いします」


 そう言ってチラッと視線を送った俺に、脇に控えていた玉森さんが頷き返す。

 そして一枚の書類が画面にアップされる。


【コメント】

 :これは……戸籍謄本?

 :ほんとだ、養子って書いてる

 :うおっマジやん


 一般的に養子縁組が成立すると、戸籍謄本の続柄の欄には「養母」や「養子」といった情報が記載されることになっている。

 ついでに言うと、今朝俺が学校を抜け出したのはこの書類を役所で発行してもらうため。


「まあもちろん、この書類だけじゃまだ完璧には信じてもらえないと思います。名前については一応隠させてもらってますし、合成とかいくらでも偽造できると言われればそうかもしれません。でも、もし必要ならちゃんとした第三者の人に渡して確認してもらっても構いません。他だとDNAの鑑定書とか、そういうのもできる限り用意します。なんだったら……僕の名前だけなら今ここで出しても構わないです」


 さすがにVTuberである母さんの実名は出せない。そんなことをしたら今度はあれやこれやの色んな情報を探ろうと別な意味で荒れてしまうだろう。

 でも、俺だったらまだ傷は浅い。せいぜい卒業アルバムがネットに流出したとでも思えばいい。


「けどその前に、これだけは言わせてください。母さんは決してなにか後ろめたいことがあってこのことを黙っていたわけではないです。ただ、あえて言う必要がなかったというか……とにかく一部の人が言っているような、皆さんをダマしてお金儲けに利用するような人じゃありません。むしろ血縁でもないのにボクを育ててくれた、それといつも誰かのために尽くしてばかりの人で……すごく優しいし尊敬できる人です」


 すべて本心。俺は振り絞るように言葉を紡いだ。


「それともう一つ。その、僕にとってはものすごく恥ずかしい話なんですけど……」


 あードキドキする。

 まさか本人の前でこれを……いや、もう言うしかない。


「実を言うと僕も母さんがVTuberをやってるって知ったのは昨日が初めてで……しかもそれだけじゃなく、何を隠そう僕もずっとまーたんのファンでして……なんなら結構スパチャしたりメンバーシップにも入ってたり、正直自分ではホントに大ファンだと思ってます」

「え!?」


 隣で母さんが声を上げる。

 まあそりゃ驚くよね。そっちも俺が見てるなんて思ってなかっただろうし。


「っていうのも、リアルだといつも頑張ってる母さんに迷惑をかけたくなくてずっと優等生ぶってて、だから代わりにまーたんから癒しを貰ってたと言いますか……その、ぶっちゃけて言うと甘えてたんです。こんなこと言ったらアレですけど、それこそ母親代わり……みたいな」


 ヤバい、泣きそう。俺は何万人もいる前で何を話してるんだ?

 そして母さんはこれを聞いてどう思ってるんだ?

 わからん、でもこうなったらもう勢いで突っ走るしかない。


「なので今回の件はホントに全部偶然で、僕自身同じファンとして皆さんに迷惑をかけたことを心の底から反省してます! でもだからこそ、こんなことでチャンネルを終わらせたくありません!」


 そして最後に。


「そういうわけなので皆さん、もしよかったらこれからもどうか母さんを……”花咲ママミ”を何卒よろしくお願いします!!」


 そう言って、俺はもう一度思い切り頭を下げた。

 ありったけの想いを込めて。


 …………。


 しばしの沈黙。コメント欄の反応も薄い。

 ただ、決して視聴者が減ったわけではない。たぶんみんなどう受け止めていいか悩んでいるんだろう。

 でも、荒れてないってことは少なくとも悪い印象ではないはず。

 どうしよう、あともう一つ……なにか一押しできればいいんだけど……。


 と、そんなときだった。


「たっくん……。ありがとう……まさかたっくんがそんな風に思ってくれてるなんて知らなかった」


 ポツリと母さんが呟く。

 その瞳は潤んでいた。


「……実はね、私もずっと不安だったの。ほら、たっくんていつも何かあっても私には心配しないでとか大丈夫だよとしか言わないじゃない? わがままとかおねだりとか……反抗期だって全然なくて、周りのママ友さんたちからも『うちの子も見習ってほしいわ~』なんて言われたりして……」


 でもね……と母さんは続けた。


「そこはすごく自慢だったけど、やっぱり親としてはもっと遠慮しないで欲しいなって気持ちもあってね。ただ、それもこれも私が本当の母親じゃないから……だからガマンさせちゃってるんじゃないかって。……ううん。それどころかもしかしたらたっくんは私なんかが母親で本当は嫌だったんじゃないかって心配で……」

「そんなこと……」


 あるわけない。絶対にない。


「だからね、今日は本音を話してくれてうれしかった。ほんとに今、すっごくすっごくうれしい気持ちで胸がいっぱい。それでお母さん、良いこと思いついたの」

「良いこと……?」


 そして母さんは言った……後に伝説となるあのセリフを。







「ねぇたっくん、今からお母さんのおっぱい……チュパチュパしてみない?」



「…………………………は?」


 おい、なんか流れ変わったんだが?


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